悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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116・卓球温泉

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 俺達は 温泉につかって体を温め、そして豪勢な晩飯を食べ、それぞれの部屋に戻ろうと旅館の通路を歩いて時のこと。
 湖瑠璃ちゃんが、
「みなさん、あそこにあるのは 卓球場ではありませんか」
 そこには 四つの卓球台が並べられていた。
「映画で見たことはありますが、こういう旅館には本当に卓球台が設備されているのですね。すごいです。
 みなさん、せっかくなのでやっていきませんか。時間もありますし、温泉と言えば卓球です。卓球温泉です」
 上永先生が賛成してきた。
「先生 さんせぇい。浴衣でピンポン。そしてポロリ。
 卓球温泉のルールは知ってるぅ?
 1・ペアは必ず男女で組まなくてはならない。
 2・浴衣は膝上までたくし上げなければならない。
 3・かいた汗はパートナーが拭いてあげる。
 4・浴衣が着崩れても直してはいけない。
 5・女の子の懐に入ったピンポンは、男の子がとらなきゃならない。
 6・ピンポンが場外に飛んでいったら、女の子のギャラリーが胸でキャッチしなくてはならない
 以上よぉん」
 なんだ、そのイニシャルエーブイの如きルールは。
 湖瑠璃ちゃんが ぐっと拳を握った。
「さすがです、上永先生。分かっていらっしゃる」
 なにが?
 宮が、
「ルールはともかく、卓球するのはオッケー」
 セルニアも、
「わたくし、卓球するのは初めてですわ」
 眞鳥さんも、
「浴衣で卓球って、日本的で風情がありますね」
 玲も、
「私のー、腕前をー、披露して見せましょうー」


 三バカトリオは、
「俺達はパス。食い過ぎて動けねー」
「僕たちは審判をやるよ」
「まあ、拙者たちのことは気にせず楽しんでくだされ」


 こうして プチ卓球大会が始まった。


 セルニアは卓球は初めてと言うことで、ラケットの持ち方で苦戦していた。、
「ラケットの持ち方はこうでしょうか?」
 俺が それを見て指摘する。
「それ フェンシグの持ち方じゃないか?」
「以外と難しいですわね」
「こう、太い鉛筆を持つ要領で、こんな感じで持つんだが」
「なるほど、こうですわね」
 俺がセルニアに教えていると、宮がなんともいえない表情で俺達を見ていた。
「どうした、宮。調子悪そうな顔だぞ」
「ううん、なんでもない。作戦 考えてただけ」
「そうか」


 さて、とりあえずシングルで練習を初めて見ることにした。
 湖瑠璃ちゃんとセルニアが対戦。
 湖瑠璃ちゃんが 全力スマッシュ。
「とりゃー!」
 思いっ切り場外。
 で、上永先生が自分から胸でキャッチし、
「いやぁーん。玉が私の胸元に入っちゃったぁん。誰か取ってぇん」
 俺は冷静にツッコミを入れる。
「今、全力で自分から受けに行きましたよね」
 セルニアは丁寧にサーブ。
「こんな感じですわね。中々楽しいですわ」
 そこに上永先生が、
「白っぽい玉が女の子の体をかき回してるぅん」
「ナチュラルにセクハラ発言するの止めてください」


 湖瑠璃ちゃんとセルニアは引き続き練習を続けた。
「お姉さま、とう」
「お返しですわ、えい」
「こう返してきましたか。たー」
「えいや。負けませんわよ」
 仲睦まじい姉妹だなぁ。
 ああ、目の保養。


 二人とも最初は辿々しかったが、運動神経に優れている。
 基本的な動きはすぐにマスターした。
 湖瑠璃ちゃんは上機嫌で、
「これで私は卓球温泉マスターです。十五分で これだけ上達するなんて、私はきっと天才ですのね。もう、お兄さまには負けませんよ」
「ふっふっふっ、それは分からないぞ。
 実は 俺は、中学時代 卓球部だったのだ。補欠だったとかは この際おいといて、とにかく卓球経験はある。セルニアと湖瑠璃ちゃんの二人が、いかに才能を持っていても、初心者には負けない」
 俺のゲーマーとしての勝負魂に火が付いた。
 セルニアも なにやら刺激を受けたらしく、
「では、あなたにダブルスで勝負を申し込みますわ」
「そうきたか」
「わたくしとセシリアのペアと、あなたと誰かのペアで勝負しましょう」
 宮が手を上げた。
「じゃあ、あたしがペアになる」
 俺のペアに立候補した。
「吉祥院さん、卓球で勝負だよ」
 そして 眞鳥さんが、
「じゃあ 私は、審判をやりますね」


 セルニア&湖瑠璃ちゃんチーム 対 俺と宮チーム。
 試合開始!


 序盤はそれなりの接戦だった。
「宮! そこだ!」
「えいやっ!」
 宮が抜群の動きでラケットを振る。
「お姉さま! お願いします!」
「お任せなさい!」
 勢いのある玉をセルニアが打ち返す。
 そんな感じの互角の戦い。
 湖瑠璃ちゃんも上手いが、それでも卓球経験者の俺では簡単に対処できるレベルだった。
 問題だったのは、ダブルスの場合に適用されるという、卓球温泉ルールだった。
 上永先生が強制するのだ。
「ほらほらぁん。球竜さぁん、ペアの汗を拭いてあげなさぁい」
「うえぇ! あたしが!」
「さあ、湖瑠璃ちゃんの浴衣に入った球を捕るのよぉん」
「あん、お兄さま、くすぐったいです」
「吉祥院さぁん、場外の玉は胸元でキャッチするのよぉん」
「いや それ どうやりますの!?」
「はいはぁい、浴衣の着崩れを治すのはルール違反よぉおん」
 桃色アクション満載でゲームに全然集中できなかった。


 五十嵐が泣いていた。
「すばらしい。俺は温泉に来て良かった」
 高畑くんも泣いていた。
「浴衣ロリータの着崩れ。なんと愛らしい」
 そして海翔の浴衣にピンポンが入って、上永先生が、
「私がとってあげるわよぉん」
 と襲いかかられ、
「いやぁー、汚されるぅー」
 とか泣いていた。


 試合も終盤にさしかかった頃、セルニアが、
「ジャンピングサーブですわ!」
 突如 覚醒して見事な腕前を披露し始めた。
「サイドワインダーショット!」
「スクリューサーブ!」
「シルヴァーサーベル!」
 それまでまだ拙さが目立つ動きが、突如として鋭いラケット裁きでガンガン攻めてくる。
 これは負けていられないと俺も応戦したが……


 十分後。
 眞鳥さんが ゲームセットの笛を吹いた。
「そこまで。セットカウント3-1で吉祥院姉妹の勝利」
 くやしいが完敗である。
 運動神経の良いセルニアがコツを掴み、湖瑠璃ちゃんも 短時間で予想以上に上達したのが、俺達の敗因だった。
「いやー、燃えましたわ。卓球がこれほどまでに熱い競技だったとわ」
 俺も同感だった。
「そうなんだよな。中学の時にはまった理由がこれなんだ」
 そして宮が、
「あたし 喉渇いたからなにか飲むけど、みんなはどうする?」
「それは良いですわね。わたくしも行きますわ」
 と言う感じで、みんなは水分補給へ。
「俺は もう一度温泉に入ってくる。汗を流したい」
「わかりましたわ」
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