悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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115・猿

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「けっこう並んでいますね」
「ああ、すごいな」
 原画展会場は真冬でありながら、奇妙な熱気と活気に溢れていた。
 以前 行った夏コミを思い出す。
 セルニアが簡単に解説してくれる。
「好きだからしょうがないは、テレビゲームで初めてBLを扱ったことでも有名なのですわ。そしてアニメ化になったことで、BLをメジャーにしたと言っても過言ではありませんわ」
 そんなに凄いのか。
 客の中には、女性だけではなく、男の姿も混じっている。
「腐男子という方々ですわ。本人は同性愛者ではないのですが、しかし なぜかBLが好きだという男の方も増えているそうです」
「なるほどね」
 そんなセルニアの説明を受けながら、壁に展示されている原画を見ていく。
 基本的に可愛らしい絵柄のせいか、違和感なく観ることができる。
 これが劇画調の、
「うほ、いい男」
「やらないか」
 的なものだったら、拒絶反応が凄まじいものだろうが。


 会場の片隅に、クイズのプリントが設置されていた。
 クイズに答えて、正解者には抽選で原画をプレゼント。
 セルニアの眼がギラリと輝いた。
「挑戦しますわ」
「がんばって」
 第一問。
 誠一と七瀬の探偵事務所の名前。
 第二問。
 第五話で素直が食べていたお菓子はなにか。
 第三問。
 十二話で祭が空にプレゼントした万年筆のブランド名は。
 こんなのよほど見ていないと答えられないだろう。
 しかしセルニアは、その全てをすらすらと書いていた。
「これで良し。完璧ですわ」
 抽選箱に紙を入れた。
 全問正解して、抽選で当たれば、原画が自宅に届く。
 結果は後にならなければ分からない。
「当たると良いな」
「ええ、当たると良いですわ」


 その後、再び原画をセルニアの解説を聞きながら見て回った。


 そして一時間後。
 一通り見て回り、俺達は旅館へ帰ることにした。
「あなたが誘ってくださった おかげでとても楽しかったですわ。こんなところで まさかこんなイベントがあったとは。教えていただき、本当に感謝いたしますわ」
 そう言ってぺこりと頭を下げた。
「俺も楽しかったよ、セルニア」
 俺達は帰り道に付く。
 俺はセルニアに言う。
「セルニア、寒いだろう」
「いえ、会場は暖房が効いていたので、それほど冷えてはいませんわ」
「でも、外は寒いから、すぐに体が冷えると思う」
 俺はマフラーをお互いに巻いた。
「これで温かくなった」
「そうですわね。こうすれば温かいですわね」
 マフラーを通じて心まで繋がっているような気がした。


「お兄さま、お帰りなさい」
 旅館の入り口にて、湖瑠璃ちゃんが迎えに来た。
「それで、どこへ行っていたのですか? 秘宝館へは行っていなかったようですが? しかも春樹さんの尾行にも気付いて、撒いてしまいますし。
 私にも、お姉さまと二人で ちょっと行ってくるから、後のことを頼むとだけしか伝えませんでしたし」
 少し怒っている感じの湖瑠璃ちゃんに、原画展に行ってきたことを簡単に説明する。
「なるほど。確かにそれは、お姉さまの秘密に関わるので、皆さんには言えませんね。
 でも、私たちには言ってくだされば良いのに」
 ふくれっ面の湖瑠璃ちゃんに、俺は、
「急で悪かった。でも、どうしてもセルニアと二人だけで行きたくて」
 セルニアも、
「ごめんなさい、セシリア。でも 一緒に過ごした思い出を作りたくて」
 似たような言い訳をした。
 湖瑠璃ちゃんの怒りはすぐに収まったようだ。
「わかりました。お姉さまと二人っきりの思い出をつくるよう促したのは、湖瑠璃ですし。お姉さまと二人だけになる目的も達成できたみたいですしね」
 そして湖瑠璃ちゃんはニマーとした笑みを浮かべた。
「それに、お姉さまの幸せそうな顔を見れば、何も言うことはありませんしね」
 湖瑠璃ちゃんは嬉しそうだった。


 さて、春樹さんがロビーのソファのところで落ち込んでいた。
「どうしたんですか、春樹さん?」
 晶さんが説明。
「自分の尾行を撒かれたのがショックのようでやす。現役時代は一度も失敗したことがない尾行を、撒いてしまうとは。
 若の能力も侮れやせん」
「蛇の暗号名は伊達ではないので」


 そこに、球竜 宮が来た。
「大丈夫だったの? 猿から荷物は取り戻せた?」
 猿から荷物?
 それは なんじゃらほい?
 宮は説明を続ける。
「急に居なくなってビックリしたけど、湖瑠璃ちゃんが言うには、お兄さまがぼーっと景色を眺めていたら、手荷物を猿にとられて追いかけていったとか。で、吉祥院さんもそれに続いて追いかけていって。
 で、結局どうなったの? 荷物は取り戻せたの?」
 フォローはそう言う説明でごまかしたのか。
「なんとか取り戻せた。猿のヤツ、中身をチェックして、食べ物が入ってないとみると、ジャイアントスイングで投げ捨てやがった」
「そうなんだ。無事に荷物が戻って良かったよ」


 そして、なぜか五十嵐と上永先生が、旅館の若女将に叱られていた。
 晶さんが説明する。
「五十嵐どのは女湯を覗こうとして怒られることに。
 上永先生は男湯に堂々と入ろうとして怒られることになりやした」
 この二人、なにしてんだ?
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