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114・キャトられる
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温泉街の道は 日曜日と言うこともあり、たくさんの人で賑わっていた。
石畳の坂道には、多くの人が歩いているし、道脇に競うように並ぶ土産物屋の店先では、人々が足を止めて品物を眺めている。
多人数で騒いでいる女子大生グループから、一人で橋のたもとに寄りかかり、川を眺めているアンニュイな女の人まで、様々。
硫黄の匂いがする、白い湯気を上げる川や、独自の作りの建物などが見られ、いかにも温泉街と言った感じだった。
「風情があるね。いかにも温泉に来たって気分になるなー」
宮が体を伸ばしながら言う。
眞鳥さんも、
「そこはかとなく レトロな雰囲気がたまらないですね。都市部とは空気が違う感じです」
セルニアも、
「昔ながらの湯治場という感じですわ。江戸時代から続いているだけはありますわね」
湖瑠璃ちゃんが、
「あ、温泉の川でお猿さんが湯船に浸かっています」
三バカトリオはというと……
五十嵐は、
「お姉さん。俺と一緒に温泉に入らない」
「近寄らないで! 変態!」
ボカッ!
「ひでぶ!」
その辺の女子大生をナンパして、殴られた。
高畑くんは、
「そこの愛らしい女子小学生殿。お兄さんの種なしスプーン曲げをごらんあれ」
「あの、それホントに超能力なの?」
「そのとおりでござる」
「化け物だー!」
女子小学生にドロップキックを食らわされた。
海翔は、
「きみぃ、可愛いねぇ。男の子かい。おじさんと一緒に温泉に入らないかい」
その手の趣味のオッサンに声を掛けられ、
「うちの者になにかようでもありやすか」
晶さんにオッサンは睨まれ逃げ出して、助かっていた。
さて、俺はと言うと、湖瑠璃ちゃんが言っていたことを思いだしていた。
温泉旅行でセルニアと二人っきりの思い出を作る。
そうできれば良いんだけれど。
「元気がないようですが、どうされました?」
セルニアが声をかけてきた。
「なんでもない。朝飯 食べすぎて、血行が胃に集中してるせいか、どうも ボーッとして」
「そうでしたか。ふふ、朝食は美味しかったですわね。
今年で三年生になりますし、こうやって あなたと楽しい時間を過ごしたいですわ」
やっぱり、セルニアと二人で思い出を作りたいな。
俺達は できたて温泉タマゴを堪能し、口直しに温泉の源泉を飲んで健康アップ。
その後、お寺の境内から山と街の景色を眺める。
みんな雪化粧に彩られた光景を楽しんでいる。
セルニアは少し離れて一人になっているようだ。
これなら話しかけても問題ないな。
俺は思いきって、セルニアを誘うことにした。
「セルニア、実は昨日、旅館のロビーでこれを見つけたんだが」
ポケットから 折りたたんでおいたチラシを見せると、セルニアが目を見開いた。
「こ! これは! 地上波初のBLアニメ! あの伝説の 好きだからしょうがない! の原画展! こんな田舎の温泉地で開催するとは。気付きませんでしたわ」
思いっ切り食いついた。
「でも、みんなに知られると、セルニアの趣味がばれるだろ。だから今から二人っきりで行かないか」
「えっと、それは……」
セルニアは戸惑った。
「俺から 湖瑠璃ちゃんに連絡して、みんなにフォローしてもらうよう伝えれば、大丈夫だと思う」
「確かに そうかもしれませんが。でも、いきなり みんなと離れるのは、不自然では」
俺は勝負を仕掛けてみることにした。
湖瑠璃ちゃんに たきつけられたこともあったのかも知れない。
行くぞ。
「俺はセルニアと二人だけで行きたい。この温泉旅行で、セルニアと 忘れられない二人だけの思い出を作りたいんだ」
なんか言ってて、物凄い恥ずかしくなってきた。
セルニアは頬を赤らめて、
「わかりましたわ。そこまで言うのなら行きましょう。フォローはセシリアにお願いして、わたくしたち二人だけの思い出作りを」
よっしゃ!
こうして俺達はこっそりみんなから離れたのだった。
好きだからしょうがないの原画展をやることになったのは、この温泉街が、最終回後の特別回のモデルになったからだそうだ。
それで 少し縁の地を寄っていくことにした。
足湯。
「足だけが温かいというのは、なんだかコタツと似ていますわね」
「いわれてみればそうだな」
祠。
「狛犬はなんと鳴くのでしょうか? やはり犬ですから、ワンでしょうか?」
「狐が由来だから、コンとかかも」
そうやって進んで行くと、セルニアがくしゃみをした。
「くちゅん」
俺はマフラーを掛ける。
「これでは、あなたが冷えてしまいますわ。こういたしましょう」
セルニアは、俺の首にマフラーを掛けた。
一つのマフラーを二人で共有。
すると、二人の距離は接近。
密着状態と言っても過言ではない。
恋人同士の定番。
こんな高等テクニックを披露してくるとは。
「お母様から教わりました。男がマフラーを差し出してきたら、女は温もりを分け与えなくてはならないと」
頬を染めて説明するセルニア。
俺は感動に打ち震えていた。
そんな至福を感じていると、
ジー……
不意に背後から視線を感じた。
なんだ?
俺が振り向くと、電柱の所に雪だるまがいた。
正確には雪だるまの着ぐるみを着た、伊藤 春樹さんだった。
ハンディカメラを手にして、俺達を見ているが、自分の仮装に絶対の自信があるのか、まったく隠れる様子はない。
湖瑠璃ちゃんの差し金なのは間違いないだろう。
セルニアとの二人っきりの思い出を、湖瑠璃ちゃんに報告されたくないので、俺は巻くことにした。
「ああ! 温泉街ご当地キャラがUFOに拉致されている!」
俺が何もない空を指差して叫ぶと、春樹さんは驚愕の表情でそちらを向いて、UFOを探し始めた。
よし、今のうちに逃げよう。
しかしセルニアが、
「どこですの!? 温泉街ご当地キャラが キャトられる前に お助けせねばなりませんわ!」
セルニアまで騙されていた。
「ご当地キャラは大丈夫だから、早く行こう」
「しかし! 全国ご当地キャラ応援会員として見過ごせませんわ!」
そんなのに参加してたんだ。
「いいから いいから」
俺はセルニアを引っ張って原画展会場へ向かった。
春樹さんは追ってこなかった。
石畳の坂道には、多くの人が歩いているし、道脇に競うように並ぶ土産物屋の店先では、人々が足を止めて品物を眺めている。
多人数で騒いでいる女子大生グループから、一人で橋のたもとに寄りかかり、川を眺めているアンニュイな女の人まで、様々。
硫黄の匂いがする、白い湯気を上げる川や、独自の作りの建物などが見られ、いかにも温泉街と言った感じだった。
「風情があるね。いかにも温泉に来たって気分になるなー」
宮が体を伸ばしながら言う。
眞鳥さんも、
「そこはかとなく レトロな雰囲気がたまらないですね。都市部とは空気が違う感じです」
セルニアも、
「昔ながらの湯治場という感じですわ。江戸時代から続いているだけはありますわね」
湖瑠璃ちゃんが、
「あ、温泉の川でお猿さんが湯船に浸かっています」
三バカトリオはというと……
五十嵐は、
「お姉さん。俺と一緒に温泉に入らない」
「近寄らないで! 変態!」
ボカッ!
「ひでぶ!」
その辺の女子大生をナンパして、殴られた。
高畑くんは、
「そこの愛らしい女子小学生殿。お兄さんの種なしスプーン曲げをごらんあれ」
「あの、それホントに超能力なの?」
「そのとおりでござる」
「化け物だー!」
女子小学生にドロップキックを食らわされた。
海翔は、
「きみぃ、可愛いねぇ。男の子かい。おじさんと一緒に温泉に入らないかい」
その手の趣味のオッサンに声を掛けられ、
「うちの者になにかようでもありやすか」
晶さんにオッサンは睨まれ逃げ出して、助かっていた。
さて、俺はと言うと、湖瑠璃ちゃんが言っていたことを思いだしていた。
温泉旅行でセルニアと二人っきりの思い出を作る。
そうできれば良いんだけれど。
「元気がないようですが、どうされました?」
セルニアが声をかけてきた。
「なんでもない。朝飯 食べすぎて、血行が胃に集中してるせいか、どうも ボーッとして」
「そうでしたか。ふふ、朝食は美味しかったですわね。
今年で三年生になりますし、こうやって あなたと楽しい時間を過ごしたいですわ」
やっぱり、セルニアと二人で思い出を作りたいな。
俺達は できたて温泉タマゴを堪能し、口直しに温泉の源泉を飲んで健康アップ。
その後、お寺の境内から山と街の景色を眺める。
みんな雪化粧に彩られた光景を楽しんでいる。
セルニアは少し離れて一人になっているようだ。
これなら話しかけても問題ないな。
俺は思いきって、セルニアを誘うことにした。
「セルニア、実は昨日、旅館のロビーでこれを見つけたんだが」
ポケットから 折りたたんでおいたチラシを見せると、セルニアが目を見開いた。
「こ! これは! 地上波初のBLアニメ! あの伝説の 好きだからしょうがない! の原画展! こんな田舎の温泉地で開催するとは。気付きませんでしたわ」
思いっ切り食いついた。
「でも、みんなに知られると、セルニアの趣味がばれるだろ。だから今から二人っきりで行かないか」
「えっと、それは……」
セルニアは戸惑った。
「俺から 湖瑠璃ちゃんに連絡して、みんなにフォローしてもらうよう伝えれば、大丈夫だと思う」
「確かに そうかもしれませんが。でも、いきなり みんなと離れるのは、不自然では」
俺は勝負を仕掛けてみることにした。
湖瑠璃ちゃんに たきつけられたこともあったのかも知れない。
行くぞ。
「俺はセルニアと二人だけで行きたい。この温泉旅行で、セルニアと 忘れられない二人だけの思い出を作りたいんだ」
なんか言ってて、物凄い恥ずかしくなってきた。
セルニアは頬を赤らめて、
「わかりましたわ。そこまで言うのなら行きましょう。フォローはセシリアにお願いして、わたくしたち二人だけの思い出作りを」
よっしゃ!
こうして俺達はこっそりみんなから離れたのだった。
好きだからしょうがないの原画展をやることになったのは、この温泉街が、最終回後の特別回のモデルになったからだそうだ。
それで 少し縁の地を寄っていくことにした。
足湯。
「足だけが温かいというのは、なんだかコタツと似ていますわね」
「いわれてみればそうだな」
祠。
「狛犬はなんと鳴くのでしょうか? やはり犬ですから、ワンでしょうか?」
「狐が由来だから、コンとかかも」
そうやって進んで行くと、セルニアがくしゃみをした。
「くちゅん」
俺はマフラーを掛ける。
「これでは、あなたが冷えてしまいますわ。こういたしましょう」
セルニアは、俺の首にマフラーを掛けた。
一つのマフラーを二人で共有。
すると、二人の距離は接近。
密着状態と言っても過言ではない。
恋人同士の定番。
こんな高等テクニックを披露してくるとは。
「お母様から教わりました。男がマフラーを差し出してきたら、女は温もりを分け与えなくてはならないと」
頬を染めて説明するセルニア。
俺は感動に打ち震えていた。
そんな至福を感じていると、
ジー……
不意に背後から視線を感じた。
なんだ?
俺が振り向くと、電柱の所に雪だるまがいた。
正確には雪だるまの着ぐるみを着た、伊藤 春樹さんだった。
ハンディカメラを手にして、俺達を見ているが、自分の仮装に絶対の自信があるのか、まったく隠れる様子はない。
湖瑠璃ちゃんの差し金なのは間違いないだろう。
セルニアとの二人っきりの思い出を、湖瑠璃ちゃんに報告されたくないので、俺は巻くことにした。
「ああ! 温泉街ご当地キャラがUFOに拉致されている!」
俺が何もない空を指差して叫ぶと、春樹さんは驚愕の表情でそちらを向いて、UFOを探し始めた。
よし、今のうちに逃げよう。
しかしセルニアが、
「どこですの!? 温泉街ご当地キャラが キャトられる前に お助けせねばなりませんわ!」
セルニアまで騙されていた。
「ご当地キャラは大丈夫だから、早く行こう」
「しかし! 全国ご当地キャラ応援会員として見過ごせませんわ!」
そんなのに参加してたんだ。
「いいから いいから」
俺はセルニアを引っ張って原画展会場へ向かった。
春樹さんは追ってこなかった。
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