悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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113・バナナ

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 朝、目が覚める。
 布団の中で起きる。
 布団は暖かくて、布団は柔らかい。
 だけど 朝だ起きなくちゃ。
 布団から出て……


 さぶいー!
 さぶいー!
 さっぶ!!


 俺は即座に布団の中にリターン。
 ギロチン プリズン クラブの如き歌を歌いたくなるようなシチュエーション。
 なんとか ストーブを入れるんだ。
 俺は布団をかぶったまま、ストーブへ移動し、スイッチを入れた。
 灯油ファンヒーターが しばらくすれば作動し、部屋を暖めてくれる。
 俺は布団の中で待ちながら、周りを見渡した。
 三バカトリオが ひどい寝相で寝ている。
 そして 上永先生と玲が あられもない格好で寝ていた。
 昨日は夕方に到着した。
 そのまま 部屋に荷物を置いて、浴衣に着替えたら、早速 温泉に入り込んだ。
 山越えの疲労を癒やしてくれる、素晴らしい温泉だった。
 そして 晩ご飯は山の幸 満載のご馳走。
 お腹も膨れたし、さあ、明日の温泉三昧に備えて、朝までぐっすり寝ようとしたら……
 上永先生が、思春期の男子に、女体の神秘を教えてあげるとか言って、酒盛りしながらセクハラ慢性発言を連発し、玲がそれに乗じて、よければ筆下ろししてあげますよー とか言って、海翔に迫ったが、海翔は二次元に身も心も捧げているので、必死に抵抗してことなきことを得た。
 そんな感じの昨晩のことを思い出していると、ストーブが部屋を暖め始めた。
 俺は布団から出ると、浴衣にどてらを着込んで、寒さ対策をとった。


 現在、時刻は6時半。
 旅館が用意してくれる朝食にはまだ時間がある。
 しばらく旅館を見物していよう。
 みんなを起こさないよう、静かに部屋を出る。
 まだ朝も早いため、人は居ない。
 日本家屋の広い建物。
 総部屋数三十八。
 本館が重要文化財指定になっている四階建ての木造建築で、造りも豪華な物となっていた。
 目を引く景観で、至る所に手の込んだ装飾がされている。
 敷石が並べられた床には、砂利が敷き詰められているし、赤く塗られた壁には行燈がぶら下がっている。
 廊下の中央には、大きな杉の木で作られた通し柱があった。
 昔話の隔離世の屋敷に迷い込んだ気分になる。


 そんなどこか非日常的な光景に感嘆しつつ、廊下を歩いていると、
「あ、セルニア」
 庭に面した窓辺でガラス向こうを眺めている、浴衣姿のセルニアの姿があった。
「おはよう、セルニア」
「おはようございます。気持ちの良い朝ですわね」
「セルニアも、早起きだな」
「ええ、なんだか早く目が覚めてしまって。皆さんはまだお休みでしたので、起こさないよう、旅館をちょっと探検していました」
「俺も似たような感じだ」
「今日の雪見ができる露天風呂は楽しみですわね」
 俺は、昨日 ロビーで見かけたチラシのことを思い出した。
 昨日は、強制的にセクハラ宴会に突入したので、話す機会がなかったが、今は誰にも聞かれる心配はない。
「なあ、セルニア。実は昨日、ロビーで気になるチラシを見かけたんだけど……」


 そう切り出そうとして、


「おはよー」
「おはようございます」
 宮と眞鳥さんがやって来た。
「おはようございます。球竜さん。眞鳥さん」
「おはよう、二人とも」
 宮は朝から元気そうである。
 眞鳥さんが、
「吉祥院さんは早起きですね。早起きは三文の得です」
 宮が昨日の晩飯のことを言う。
「昨日は上永先生が大変だったね。野球拳しようとか言い出したり。男湯を調査しようとか言い出したり」
「二人はなにをしてたんですか?」
 俺が答える。
「早起きしたんで、旅館探検」
「なんかそういうことしたくなりますよね」
 そんな風に話をしていると、朝ご飯の時間になった。
「そろそろ 朝ご飯の時間だよ。もう行こうか」
 宮が切り出したので、俺達は朝食へ行こうとなった。
 そこで セルニアが思い出したように、
「ところで、先ほど なにか言いかけていませんでしたか」
「いや、大したことじゃないんだ」
 一応セルニアの秘密に関わることだ。
 宮や眞鳥さんの前では話せない。
 俺達は食卓へ向かった。


 囲炉裏を囲んだ食卓で、三人娘が声を上げる。
「わー、朝から 凄いご馳走ー」
「結構 量がありますね。食べきれるかな」
「やっぱり地の物が中心ですわね。美味しそうですわ」
 俺達の目の前には朝食とは思えないほど、豪勢に盛り付けられた料理があった。
 湖瑠璃ちゃんたちも嬉しそうな声を上げる。
「これは地元の漬物ですね。良い浸かり具合で美味しそうです」
「古き良き日本の伝統料理でやすね」
「詫び寂びやす」
 そして三バカトリオは
「天然温泉とバスタオルで隠した肌の見え具合」
 について語り合いながらお食事。
 玲と上永先生も
「おいしーですー」
「二日酔いに染み渡るぅーん」
 そんな雰囲気でみんな朝食を楽しんだ。


 球竜 宮が、
「さて、今日は みんなどこか行きたいところある?」
 セルニアが、
「わたくし、温泉タマゴ作りが体験できるという、茹でがまに行きたいですわ。
 できたて温泉タマゴ、美味しそうとは思いませんこと。
 他にも温泉の源泉がそのまま飲めるというのもありますわよ」
 眞鳥さんが賛成する。
「良いですね。温泉ならではって感じです」
 宮が、
「そうだね、良いと思う。君はどう? それでいいかな?」
 俺に聞いてきて、ふとチラシのことを思い出して、返答が咄嗟に出てこなかった、
「あー、そうだな」
「ん、なにかまずいの?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。俺もそれで良いと思う」
 玲と上永先生は、
「私たちはー、大人の時間を楽しみますー」
「とってもアダルティなタイムよぉーん」
 年長者は不参加。
 昨日 言っていた保護者とか監督はどうした。
 宮が、
「じゃあ、そんな感じで決定かな。各自 着替えたりして、一時間後にロビーに集合ってことで」


 さて、準備に取りかかろうとして、湖瑠璃ちゃんが話しかけてきた。
「お兄さま、少しお話があります」
 ロビーのソファにまで引っ張ってきた。
「お兄さま、単刀直入に言います。このままでよいのですか?」
「それはどういう意味でしょう?」
「言葉通りです。新幹線でも言いましたが、この温泉旅行、このまま のんびりとしたグループ旅行を楽しんで終わりなのですか。それで満足なのですか。
 お友達と わいわい楽しくやるのも良いですけれど、お姉さまとの甘くラブラブなメモリーを作りたいとは思わないのですか。
 連休なんてあっという間にすぎてしまいますよ」
「それは、確かにそうだけど……」
 みんなとの旅行とはいえ、セルニアと二人で特別な思い出が作れれば良いに決まっている
 例のアニメの原画展も、セルニアと二人で行ければ良いと思ったけど、宮たちがいるので、迂闊に誘えないし。
「お兄さまは消極的すぎます」
 湖瑠璃ちゃんがビシィッ! と指を差してきた。
「やる気満々なのに、ここぞと言うときに へたれてしまう情けなさをなんとかしなくてはなりません。
 女というのは 男に決めるときは決めてほしいものなのです。普段は甘えん坊のポメラニアンも、いざというときには暴れん坊番犬になってほしいのです。
 特に今日の温泉街巡りなんて、特大ビックチャンスです」
「その通りだけど、そう簡単に いけば苦労はしてないって」
「ですので、私が計画を考案しました」
「計画?」
「お姉さまとのラブラブメモリー計画です」
 うさんくさいこと この上なし。
「さあ、これが作戦計画書です。これを丸暗記してください」


 温泉街をみんなで散策していたけど、途中で俺とセルニアが横道にそれて二人っきりになる。
 その時、偶然 発見した温泉街の定番、秘宝館。
 性に対する好奇心と探究心の赴くまま、二人は誘われるように秘宝館へ。
 性の神秘を堪能した俺達は、そのまま すぐ近くにあったラブホテルへ突入。
「さあ、セルニア。遠足の定番、バナナを食べてくれ、俺の股間にあるバナナをセルニアの股間の口でぱっくりと」


 湖瑠璃ちゃんは自信満々で言った。
「完璧です」
「じゃあ、俺は準備があるからこれで」
「スルーしましたね」
「チャンスがあったやるから。チャンスがあったらね。多分ないだろうけど」
 無駄な時間を過ごしたと心底思った。
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