悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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106・あけおめ

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「「「5! 4! 3! 2! 1!!」」」


「「「「「ハッピーニューイヤー!!!」」」


 年が明けた。
 クラスのみんなも、そして神社に来ている人たちも、みんなが周りに新年の挨拶をする。
「明けましておめでとうございます」
「今年もよろしく」
 俺もみんなに挨拶。
「あけおめ」
「あけおめー」
 そしてセルニアに挨拶しに行こうとして、
「近づかないで」
「あっちいってくださいですぅ」
「……目障り」
 取り巻き三人組の妨害によって、あえなく玉砕。
「今年も私たちだけに笑顔を振りまいてくださいね」
 どうやら今回のイベントは、ホントに同じ新年の空気を吸うことしか出来ないようだ。


 しかたないので、俺は初詣へ。
 心の中で俺はお祈りする。
 こんなことに負けたりせず、セルニアとの仲が進展しますように。
 隣で三バカトリオが、
「ナンパが成功しますように」
「ロリータに囲まれますように」
「さくらちゃんがリアルに降臨しますように」
 それぞれ頭の弱いお祈りをしていた。


 そして俺の隣で宮が、なにやら長いことお祈りしていた。
 ずいぶん熱心に祈っているけど、なにをお願いしているんだろう。
 そして参拝が終わると、眞鳥さんが宮に聞く。
「球竜さん、ずいぶん念入りにお祈りしてたけど、どんなことお願いしたの?」
「えっと、それはー……」
 宮はごまかすような笑顔で、
「秘密」
 ホントに宮は何をお願いしたんだろう?


 その後、宮と眞鳥さんは、
「クラスの女子でカラオケに行くんだけど、君も来る?」
 俺は速攻で拒否した。
「パスで。女子だらけの所に男子が一人は、むしろ地獄」
「あはははー。じゃあ、女子だけで行ってくるね」
 海翔たちは、
「この後、ファミレスでしゃべくりするけど、来る?」
「どうせ 二次元美少女と ナンパと ロリータについてだろ」
「当然じゃないか」
「パスで」
 他の男子も、もう眠すぎるので 家に帰ってベッドへダイブというのがほとんど。
 俺も家に帰って、新たな冒険の扉を見つけるために、新春ゲームセールでもチェックすることにした。


 そして帰路についたときだった。
「待ってください」
 セルニアが追いかけてきた。
「どうした? あの三人組にオールナイトカフェに誘われたんじゃ」
「それなら、断ってきましたわ」
 断った?
 セルニアは俺に聞く。
「これからの予定はなにかありますか?」
「いや、ゲームぐらいしかないけど」
「それなら 初日の出を見に行きませんこと。この山の展望台から見える初日の出は絶景と評判ですのよ」
「ああ、それなら聞いたことがある。そうだな、ゲームの景色より、リアルの初日の出を見に行こうか」


 俺達は屋台が並ぶ道を進んでいった。
「ふふふ、こういう店は初めてですわ」
 セレブでブルジョワなセルニアにとっては、こういう店は新鮮に映るらしく、好奇心に目を輝かせていた。
 そこに、正月だというのに 魔女の格好をした女子が声をかけてきた。
「そこの素敵なカップルさん。おまちください」
 陰気な眼をした魔女っ子に、俺は見覚えがあった。
 学園祭で、オカルト研究会が占い店をやっていたが、その時の人だ。
「君、なにしてるの?」
「今日は新年恒例 部活動の出張占いです。グレイシー呪術によって製作された、この箱の中に入っている紙に、今年の運勢が書かれています。お一つ どうですか?」
 そういえば、神社でおみくじやるの忘れてた。
「セルニア、どうする?」
「やってみましょう」
 魔女っ子は箱を差し出した。
「さあ、手を入れて一つ取り出してください」
 俺とセルニアはそれぞれ一枚紙を取った。
 セルニアは、
「まあ、大吉ですわ」
「吉祥院さま、今年は極上の運勢ですよ」
 そして俺は、
「大凶」
「今年は最凶の運勢になりますね」
「っていうか、今じゃ おみくじに大凶は入れないって聞いたのに、オカルト研じゃ入れてんのかよ」
「まあ まあ。大丈夫です。二人 揃えば 吉となります」
「フォローなってねえ」
 そしてオカルト研の女子は手を振りながら去って行った。
「それでは 良いお年をー」
 なんだったんだ。


 オカルト研の女子が去ると、次は 帽子にメガネ、コートの女の子が話しかけてきた。
「そこの お二人さん、ちょっと助けて」
 俺達の体を遮蔽物のようにスニーキングした。
「君、なに? 隠密潜入の最中?」
「ちょっと人から隠れてて」
「なるほど借金取りか」
「違うわよ」
 しばらく俺達の体に隠れていたが、十秒ほどして出てきた。
「まったく水原さんはしつこいんだから」
   なんの話だろう?
「それじゃ、二人とも、ありがとうね」
 と去って行ってしまった。


 スニーキングミッションの最中の女の子が去ると、続いて つり上がったメガネ、いわゆるインテリメガネをかけた、いかにもキャリアウーマンといった感じの女性が声をかけてきた。
「すみません。そこの安産祈願お稲荷の隣にいる お二人さん。今ここに、帽子にメガネとコートの女の子が来ませんでしたか?」
「それなら あっちへ行きました」
 俺は先ほどの女の子が逃げた方向とは全く別方向を示した。
「ありがとうございます。まったく、これから収録なのに、困った子ね」
 そう言いながら俺が示した方へ行こうとして、しかし不意にセルニアに話しかけた。
「ところで 貴女、名前を教えていただけないかしら」
「え、吉祥院ですけど」
「これ私の名刺です。よければ、あとで連絡して貰えないかしら。連絡だけでも良いから」
 そして俺が教えた嘘の方向へ追いかけていった。
 名刺には、水原 睦月と書かれていた。
「なんなのでしょうか?」
「なんなんだろう」
 さっぱり分からなかったが、
「まあ、これ以上 俺達に関わることはなさそうだし、展望台へ行こう」
「そうですわね」


 そして 屋台などは だんだんなくなってきて、そして木々が生い茂る道に入った。
 灯りだけが転々と並んでいて、薄暗い。
 夏なら肝試しにちょうど良さそうな雰囲気なのだが、今はむしろ真逆。
「やぁん、こんなところでぇ」
「別に良いだろ。ちょっとだけだって」
「ああぁん、そこぉ」
「ほーら、もうすぐ入るぞ」
 これは、完全にアレをしている声。
 しかも一人じゃない。
 あちこちから聞こえてくる。
 俺は股間が大変なことになってしまった。
 落ち着け、俺。
 こんな冬の寒空の下で、セルニアを凍えさせるわけにはいかない。
 で、でも、お願いすれば、ちょっとだけ……
 俺はそう思いながらセルニアに眼を向けると、セルニアはモジモジしながら、
「あ、あの、わたくし 着物の着付けが 一人では出来ませんの。ですので、今回は、その……」
「そ、そうか。じゃあ、しかたないな。早く通り抜けてしまおうか」
「そうですわね。早く通り抜けてしまいましょう」
 俺達は足早に進んで行くと、とある男同士の声が聞こえて来た。
「ねえ、お兄さん、俺、興奮してきちゃったぁ」
「じゃあ、お兄さんが沈めてあげよう」
「ああん、お兄さん おっきくなってるぅ」
「そう言う君もカチンカチンじゃないか」
 リアルBL!
 セルニアの眼の腐敗度が一瞬でゾンビに達した。
「わたくし、ちょっとだけ覗いてきますわ」
「ダメだよ、セルニア。早く展望台へ行こう」
「ちょっとだけですから」
「ダメだって」
「先っぽだけ、先っぽだけです、先っぽだけですわ」
「セルニアー!」


 俺はセルニアの腕を掴んで退散した。
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