悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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104・変態ゴキブリ

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 十一時。
 クラスメイトが全員集合したところで、藤姫神社へ向かう。
 屋台などの露店が並ぶ、山頂にある神社への道を、俺達 三十人以上のクラスメイトたちが、五 六人のグループに分かれて進む。
 俺達の教室以外の人々は、同じく年越し&初詣へ向かう人々らしい。
 藤姫神社はこの街では一番大きな神社だから、参拝客も一番多い。


 さて、俺と同じグループは、球竜 宮と眞鳥 凪さん。
 俺達の少し後ろで、三バカトリオが、着物美人の素晴らしさについて語り合っていた。
 五十嵐 武士はリアルの着物美人の素晴らしさについて語る。
「やっぱり着物美人の素晴らしさは、うなじだ。全て着物で隠されているのに、首筋だけが見えているのがたまらないんだぜ。そして 脱がせるときは やはり下から。厚い布を はだけさせ、そこから見えるのは熱く白い肌の太もも。きめ細かい肌触りが男心を刺激させ……」
 高畑くんは、ロリ魂を炸裂させる。
「小学生の着物姿には、清楚なる美しさに、幼さ故の可愛らしさが同居し、それは至高の美を生み出すのでござる。それは超能力という人間を超越した領域にまで達する、究極の愛の源であり……」
 そして朝倉 海翔が二次元着物美少女について語る。
「正月にさくらちゃんと ともえちゃんと あかねちゃんがお参りに行ったときに、悪の女幹部のヴァイオレットとローズマリーが実は同じ神社に参拝に来てたんだけど、お互い正体を知らないからまったく気付かなくて、凄い仲良くなっちゃって、いっしょにお参りしてさー。でね、さくらちゃんたちは打倒 悪の帝国とかお願いして、で 女幹部は打倒 魔法少女をお祈りしててー……」
 なんか三人ともまったく話が噛み合ってないんだが。


 宮が独り言のように、
「ここの神社、繁盛してるんだね」
 眞鳥さんが簡単に説明する。
「ここの地区じゃ 一番大きな神社だから。参拝客も一番多いの。この山の展望台から初日の出を観ると、一年を幸せに過ごせるっていう言い伝えがあるとか」
「へー、じゃあ 初日の出はそこで見ようかな。あ、でも天気はどうなんだろ? ちょっとスマフォでチェックしてみる」


 セルニアたちの周りには、セルニアは取り巻き三人組。
「吉祥院さまは、神様になんてお祈りするんですか?」
「なに言ってるんですかぁ。吉祥院さまが女神ですぅ」
「……お祈りなど不要」
 まるでセルニアを守護者のようにがっちり囲んでいる。
 さらによく見ると、周囲の人だかりに混じって、別のクラスの吉祥院親衛隊のハチマキをした奴らの姿が、あちらこちらに見られた。
 まあ そんなわけで、セルニアに狼藉を働く者が出現したら、即座に袋だたきにされること間違いなし。
 これでは、セルニアとお話しする隙がない。
 できれば一緒に参拝したいんだけどな。


 宮が周囲の屋台をチェックしている。
「お参りが終わったら、色々覗いていこー」
 たこ焼きにお好み焼き。
 イカ焼きにリンゴ飴。
 射的があったが、あれって至近距離で撃っても倒れないんだよな。
 お参りが終わったら、セルニアと色々遊んでいきたいんだけど、なにぶん取り巻きが邪魔で近づくことすら出来ない。
 これ、今回のイベント中ずっと続くんだろうか?
「あ、サーターアンダギーだ」
 宮がサーターアンダギーの屋台を見つけると、大きな袋をまとめて買った。
「みんなー、わたしが奢ってあげるー」
 海翔たちがそれを受け取る。
「ありがとー、球竜さん」
 そして順番にお礼を言いながら宮から受け取り、眞鳥さんの番で彼女は不意に気付いた。
「あ、その指輪、素敵」
 宮の左手の薬指に、俺がクリスマスの前にプレゼントした指輪がはめられていた。
 眞鳥さんは宮に聞く。
「誰かからのプレゼント? 左の薬指って事は、そういう意味?」
「いや、それはー、そのー」
 と目が泳ぎ出す宮。
 眞鳥さんは好奇心で目を輝かせて、
「ねえ、教えてよ。誰からもらったの?」
「ひ、秘密ー」
「えー」
「代わりに 今度 美味しいスイーツのお店教えるから」
「わかった。あんまりしつこく聞くのもアレだしね」
 どうして俺がプレゼントしたって答えなかったんだろう?
 俺が疑問に思っていると、宮はそれに気付いたのか、小声で短く説明する。
「みんなに言うと、変な噂になるかと思ってさ」
 考えてみれば、女子に指輪を贈るって、そう言う意味に受け取られるかも知れないな。
 付け加えるように宮は、
「それに、この指輪は、二人だけの秘密にしておきたかったし」
 その点は、俺には上手く理解できなかった。


 俺達は神社の広場に到着した。
 宮は眞鳥さんと話をし、三バカトリオは まだ着物美人の素晴らしさについて語り合っている。
 俺は、セルニアに話しかけようとしたが、取り巻き三人組が、
「吉祥院先輩の振り袖姿に欲情しないで」
「近づかないでくださいですぅ、変質者」
「……変態ゴキブリ」
 言葉の銃弾で蜂の巣にされて、失敗に終わるのだった。
 セルニアはさすがに取りなそうとする。
「いえ、あの、みなさん。この方はそんな人ではありませんわよ。一応」
 微妙に信頼されていないような気がする。
 取り巻き三人組はセルニアの腕を引っ張り、
「さ、あっちへ行きましょう、吉祥院さま」
「こんな男に見られるだけで汚されてしまいますよ」
「……妊娠させられます」
 セルニアは三人組に連れてかれた。
 そこに親衛隊が来た。
「見ただろう、吉祥院さまは みんなの女神なんだ」
「おまえ如きが独占して良い存在じゃない」
「わかったら、今日の所はおとなしくしていろ」
 こういう時は武闘派五人衆に助けを求めたいのだけど、先輩たちはいない。
 ゲーム大会での幸せとは打って変わって、今はなんだか不幸。
 今日のイベントは、セルニアと同じ空気を吸うことしか出来ないのではなかろうか。
 そんな想いから、俺は神社の狐の石像に、
「人生って大変ですよね」
 と話しかけることにした。
 狐像が、
「まあ、くよくよするな」
 と答えてくれたような気がした。


 続く……
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