悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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100・同盟

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 俺達は決勝戦に進んだ。
 決勝に残ったのは三チーム。
 俺達以外は、優勝候補と言われるプロゲーマーチームと、そして鳳上 氷美チームだった。
 氷美は俺の前に来ると軽蔑の眼差しを向ける。
「あんたが勝ち上がってくるとはね。一体どんな卑劣な手を使ったのかしら」
「ゲーマーたる者、卑怯 汚いは当たり前。勝者こそが正義だ」
「ほざいてくれるわね。だったら、あんたを公衆の前で敗北させて、赤っ恥をかかせてあげるわ」
「うむ、その挑戦、受けて立とう」
 俺と氷美の間に火花が散った。


 藤守さんが、
「何やら因縁があるようですが、優勝候補のプロチームを差し置いて盛り上がっています」


 笹丘 修一郎がセルニアに自己アピールをしていた。
「麗華さーん、僕の知謀をお見せしちゃったりするからねー」
 セルニアは鋭い眼で答えた。
「その勝負、受けて立ちますわ」
 笹丘 修一郎は恐怖で体が竦み上がる。
「なんか 麗華さん 怖ーい」
 眞鳥 凪さんが、球竜 宮にお辞儀をする。
「お願いします」
「こちらこそ お願いします」
 そして 織田 一彦が朝倉 海翔に挨拶した。
「対戦 よろしくね、可愛い お兄さん」
「子供に可愛いって言われちゃった」
 とか言いつつ、まんざらでもなさそうな海翔だった。


 さて、藤守さんが決勝戦のゲームを発表した。
「決勝戦のゲームは、シミュレーション。アート・オブ・ウォーです。
 戦争を題材にした、陣地取りゲーム。
 舞台は多くのフィールドから選択可能ですが、今回の舞台は一つの大陸で行っていきます。
 歴史観は中世と言ったところ。土地開発や技術の発展による国力上昇など、様々な要素が絡んできます。みなさん知恵を絞ってください。
 また 気候の存在もあります。中央部は温暖ですが、北は寒冷。南は灼熱の砂漠。
 土地開発において、それらが大きく影響するでしょう。
 また、誰がどの土地に降りたのかは、公開しません。つまり匿名での戦いとなります。しかし、同じチームではヘッドセットでの会話が可能ですので、すぐに分かるでしょう。
 他のチームとはゲーム内でのチャットで会話が可能です。それにより、一時的な同盟を持ちかけることも可能。
 しかし、別のチームであることは変わりはない。裏切り当然の同盟です。それに乗るか、そるか、それはあなた次第。
 リアルタイムで時間を計り、終了時刻になった時点で、チームの領土合計を競います。
 それでは、スタートです」


 円形に近い一つの大陸に、それぞれ四人三組のチームが放たれた。
 俺は最も西の場所。
 気候は温暖で、土地開発がたやすい。
 これなら国力をすぐに上げることが出来るだろう。
 セルニアから通信。
「わたくしは東の中央部ですわ。温暖ですので、これなら土地開発がスムーズでしょう」
 宮から通信。
「私は東南。砂漠地帯でちょっと問題あるかも。でも、吉祥院さんと領土が隣り合ってるみたい。西と北西側に別チームが居るみたいだけど、北は侵略の心配しなくてもいいね」
 海翔から通信。
「僕は北東。寒冷な地域。南が吉祥院さんになるね。やっぱり、西と南西が敵だけど。つまり、僕たち三人は東に密集したんだね」
 あれ。
 ってことは、つまり 俺は……
「三人とも東って事は、俺、孤立無援ってことじゃ」
 地理的には周囲は完全に敵に囲まれている。
 セルニアが肯定する。
「そうなりますわね」
「やべぇ。これが他のチームにばれたら、総攻撃を受けるぞ」
 匿名での戦いは、周囲にどのチームが居るか分からない。
 だから 安易に戦争を仕掛ければ、他から攻撃される可能性がある。
 しかし、俺は援軍の期待が全く出来ない。
 これは、致命的な問題だ。
 海翔がフォローする。
「大丈夫。どの領土に降りたかは、匿名になっているから、すぐには ばれないよ」
「そうだな。とにかく、初めのうちは土地開発からだ。温暖な気候を利用して、精一杯 国力を上げておく。
 あとは 俺が囮になる形にすれば、三人が領土拡大して優勝狙えるかも」
 宮が指摘する。
「そうなると、君が どれだけ踏ん張れるかが鍵だね」
「そうだな。とにかく やれるだけやってみる」
 そして俺はふと思いつく。
「同盟の件だけど。しばらく 同盟は結ばない方が良いんじゃないか」
 このゲームでは国同士で同盟を結ぶことが出来る。
 すると、国同士で交易を行ったり、軍を領土内で移動できるようになる。
 それは国力を上げたり、戦争を行うなど、味方同士では有利になる。
 だが 俺は、その同盟を しばらく止めた方が良いと思ったのだ。
 セルニアが疑問の声。
「どうしてですの? 同盟を結べば国力を上げるのが有利になりますわ」
 宮も反対のよう。
「そうだよ。周囲が敵だって分かったんだから、このチャンスは逃す手はないと思う」
 しかし海翔は俺に賛成だった。
「僕は賛成。二人とも考えてみて。僕たちが同盟を結べば、他のチームのログに表示されるんだよ。
 そうなると、僕たちが どの領土にいるのか判明する。つまり手の内を知られるってわけ」
 宮が理解した声。
「あ、そうか。同盟を結ばなかったら、わたしたち 同じチームだって分からないんだ」
 セルニアが補足する。
「そうなると、他のチームは疑心暗鬼に近い状態になりますわね」
 俺は決を採る。
「じゃあ、しばらく結ばない方向で、みんな賛成だな。いずれは同盟を結ぶだろうけど、それはゲームが進んでからだ」
 俺達は当面の方向性を決めると、国力アップに専念し始めた。


 続く……
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