悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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95・褐色美少年

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 事の発端は昨日のこと。
 俺が あのPS五を入手し、家に届いた直後だった。
 朝倉 海翔から電話がかかってきた。
「三十日って暇だよね」
 電話に出るなり海翔は断定してきたが、俺は否定した。
「暇じゃない。俺は新たなる冒険の旅に出発する」
「あ、もしかしてPS五の入手に成功したの?」
「その通り。そしてセルニアと共に冒険へと旅立つのだ」
「実は そのこと と関係してるんだけどね。
 三十日にゲーム大会が開かれるんだ。でね、僕が所属しているサークルも出場する予定だったんだけど、メンバーが三人も、ここ数年流行しているウィルスの濃厚接触者になったんだ。だから検査が終わるまで、人との接触はなるべく避けないといけなくて。
 このままだと、大会はチームが一つ欠落することになるんだよね。
 だから臨時でチーム編成して、穴埋めしようって事になったんだけど。
 どうかな、吉祥院さんも誘って、大会に出場してみない?」
「んー……そうだな」
 俺はしばらく考えてから、答える。
「とりあえず、セルニアに聞いてみる。セルニアが良かったら、俺も出場する」
「分かった。じゃあ、吉祥院さんに聞いてみて。お願いね」


 で、セルニアに早速 連絡を取ったところ、
「ぜひ 出場してみたいですわ」
 とのこと。
「そういうイベントには出たことがありませんの。とても興味がありますわ」
 セルニアはノリノリだった。


 そして海翔に返答したところ、ゲーム大会の機種は、PS五。
 大会での種目も発表済みで、俺はソフトを購入し、俺とセルニアはさっそく練習することとなった。
 そこに、湖瑠璃ちゃんが、なぜか変な誤解をして飛び込んできたのだった。


「おおぉぉ……凄いですわ。グラフィックが段違いです」
「いやぁ、ゲーム技術の進歩は凄いな。四の時も革命だと思ったけど、ゲームはどこまで進化していくのか、まるで想像が出来ない」
「コントローラーの振動がリアルですわ。より細かい振動になって、ゲームと連動しておりますわ」
 俺達はじっくりと最新技術によるゲームを堪能した。


 三時間ほどゲームに熱中していたのだが、そこにセルニアのスマフォが、ピピピ……とアラームが鳴り始めた。
「あら、もう こんな時間。すみませんが、ピアノの稽古の時間ですわ。いったん失礼させていただきます。一時間半ほどで戻ってきますので、それまで 湖瑠璃と遊んでいただけますか」
「年末なのに、稽古は欠かさないのか。凄いな、セルニアは」
「ゲームもピアノも、上達の秘訣は日々のたゆまぬ努力ですわ」


 そしてセルニアは、いったんピアノの稽古へ向かった。
「とりあえず、いったんゲームは休憩して、おやつにしようか」
 俺は大福まんじゅうと緑茶を持ってきた。
 俺と湖瑠璃ちゃん、そして晶さんと一緒に、お茶をしながらおしゃべりする。
「それにしても、お兄さま。いつになったらお姉さまと肉体関係に進展するのですか。私、妹として待ち遠しいです」
「うん、しようとはしてるんだけど、そのたびにお邪魔虫をするのは誰かな?」
「もう、見られただけで萎えてしまうなんて、お兄さまのへたれ。湖瑠璃を相手に練習しましょう。ごろにゃー」
 湖瑠璃ちゃんが俺にすり寄ってきた。
 ああ、可愛い。
 そこに晶さんが、
「相変わらず、湖瑠璃お嬢さまは甘えん坊でやすね」
「昔からこんな感じだったんですか」
「以外とさみしがり屋なのは昔からですが、しかし 見た目や雰囲気は違いやした。ご覧になりやすか?」
 晶さんはスマフォを取り出した。


 スマフォのフォトアルバムのアプリを開くと、そこには良く日焼けした、褐色美少年が写っていた。
 歳は七歳くらいだろうか。
 森林を背景に、虫取り網に虫かごを手にして、ピースサインをしている。
「あの、この褐色美少年、もしかしてなんですけど……」
「そのとおりでやす。湖瑠璃お嬢さまでやす」
 湖瑠璃ちゃんは頬を赤らめた。
「いやん、恥ずかしい」
「今と全然 違う」
「昔の湖瑠璃はやんちゃでしたので」
「他にもありやす」
 魚釣りをしている写真。
 海で泳いでいる写真。
 スイカを食べている写真。
 キャンプしている写真。
 湖瑠璃ちゃんだけではなく、権造さんや雪華さん。
 焔華さんの姿もあった。
 っていうか焔華さんと雪華さん、全然 歳取ってないように見えるんだけど、ホントに人間なんだろうか?
 とにかく、少年のような湖瑠璃ちゃんの写真が色々あった。
「湖瑠璃お嬢さまは、昔はおてんばでやした。一人で沖縄にスキューバダイビングをしに行ったり、北海道にジンギスカンを食べに行ったり、色々していやしたね」
「若気の至りです」


「麗華お嬢さまの写真もありやす」
 五歳、ピアノの演奏をしている写真。
「日本ピアノコンクール児童部門で優勝したときの写真でやす」
 七歳、ダンスの写真。
「世界ダンスコンクールで四位に入った時の写真でやすね」
 十歳、フェンシングのユニフォームにカップを手にした写真。
 両脇には権造さんと雪華さんの姿。
「日本フェンシング大会で優勝したときの記念撮影でやす」
 セルニアは昔から凄いんだな。
「これは中学校に入学したときの写真でやす」
 制服姿のセルニアの写真。
 湖瑠璃ちゃんは少し暗い顔になった。
「お姉さまにとっては、中学校時代のことは、あまり思い出したくないことなのかも知れません」
 そうだった。
 セルニアが腐女子だとばれて、みんな態度が変わり、そして高校進学は、松陽高校に変えたんだ。
 幼稚舎、小学時代の写真は、友達の姿が多く写っているが、しかし中学時代には二年生になってから一人の姿しかない。
 セルニアにとってはトラウマの時期。
 いつか向き合えるときが来ると良いのだけど。


 晶さんはスマフォを操作すると、一呼吸 置いた。
「これはお宝写真。幼稚舎時代の麗華お嬢さまの入浴シーンでやす」
 なんですと!?
 そこには、豪華な浴場でお風呂に入っているロリ女神の姿が映っていた。
「ロ、ロリータセルニア!」
「他にもありやすよ」
 次々と 一糸まとわぬ あられもないセルニアの写真が現れた。
「フォオオオオオ!」
 俺は雄叫びを上げる。
「俺は今、高畑くんの心を完璧に理解した。これなら超能力に覚醒するのも頷ける」
 湖瑠璃ちゃんはジトーとした眼で、
「湖瑠璃の時は全然 興奮してくださらなかったのに、どうしてお姉さまの時は興奮するのですか。そんなに湖瑠璃は魅力がないのですか?」
「うむ、もしかすると方向性の違いかも知れない。俺は和風美少女ではなく、西洋美少女に興奮するロリ魂の持ち主なのかも」


 色々見ていると、セルニアが戻ってきた。
「ただいま 戻りましたわ。あら、なにを見ているのですか?」
 晶さんが答える。
「お嬢さまがたの昔の写真を見せておりやした」
「あら、わたくしの昔の写真を見せているのですか。いつの頃ですか?」
 と、セルニアがスマフォをのぞき込むと、
「いにゃぁあああ! 晶さん! なにを見せているのですか!?」
「もちろん、麗華お嬢さまの裸体でやす」
「当然の如く言わないでください! ダメです! 見てはダメですわ! 見てはなりません!」
 俺は食い下がる。
「お願いだ セルニア! もう少しだけ! あともう少しだけセルニアのロリータ時代を拝見させてくれ!」
「ダメに決まっているでしょう!」


 しばらく騒動が続いたとか。
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