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87・キャラ変わってる
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執事の仕事は大変だった。
家事手伝い程度と聞いていたから 高をくくっていたが、氷見の性格は難があり、その分 苛烈。
ハッキリ言えば、パワハラで訴えられても おかしくないんじゃないかって言うくらいだった。
一日目。
朝食に パンとベーコンエッグにオレンジジュースという定番を作って出したら
「日本食が食べたい。焼き鮭定食を作りなさい」
と 言いだした。
「いや、もう完成してるんだけど」
「いいから 作り直しなさい。わたしは古き良き日本の朝食が食べたい気分なの」
「でも、材料がないんだけど」
「買ってきなさい。今すぐ!」
「あー もう! 分かったよ!」
こうして朝からコンビニへ買い出しに走って朝食を作り直し。
二日目。
「乗馬がやりたいわ。あそこの威勢の良い馬を連れてきなさい。連れてこれなかったらクビにするから」
「あのー、世紀末覇者が乗りそうな鼻息の荒い巨大な黒馬なんだけど。あんなのに近づいただけで蹴り殺されそうな感じで」
「いいから連れてきなさい。出来なかったらクビ。報酬はなし」
「わかったよ!」
そして、恐る恐る馬に近づいたら、ベロベロ 顔を舐め回された。
「なんだこいつ?! 俺を食べる前に味見をしてるのか?!」
「あら、あんた 懐かれたわね。マンガで良くある人間以外にはモテるってやつかしら?」
「こいつ、雌なの?」
「そうよ。種付けでもする?」
「しねーよ!」
三日目。
夜、疲れて寝ようとしたところ、
「寝る前に沖縄産牛乳が飲みたい」
「冷蔵庫には北海道産しかなかったんだけど」
「買ってきなさい」
「もう 夜遅くなんだが」
「だから なに? 買ってきなさい。走って」
「ちくしょー! 分かったよ!」
と、眠いのに買い出しに行かされたり。
四日目、俺は疲労と寝不足で登校すると、球竜 宮が話しかけてきた。
「なんか 疲れた顔してるけど、どうしたの?」
「ちょっと臨時のバイトをしていて、そのせいで」
「ふーん。それって 吉祥院さん関係なの?」
「ああ、まあな」
宮は少し驚いた表情をすると、次に拗ねたように口をとがらした。
「ちぇ、ホントにそうなんだ」
「なにが?」
「なんでもない」
なんだろう?
五日目。
雨が降っていた夜のこと。
氷美は、ピカピカに輝いた等身大仏像を眺めながら 瞑想をしたいとか言い出して、俺は仏像をワックスで磨いていた。
「あんたも よくやるわよね。みんな三日も持たなかったのに。なんで そんな頑張るの? 吉祥院先輩と関係してるの?」
「クリスマスプレゼントを買いたくてな」
「なるほどね。愛しの吉祥院先輩の為に頑張ってるわけか。じゃあ、なおさら愛の試練を与えなくちゃね」
「なぜにそうなる」
「ところでさ、あんた わたしのことどう思ってるの?」
「ツンデレ」
「誰がツンデレよ!? あんたクビにするわよ!」
その時だった、外で稲光と共に轟音が鳴った。
「ニギャアアア!」
氷美は悲鳴を上げて俺に抱きついてきた。
「……おまえ、雷が苦手なのか?」
「そ そ そ そんな分けないでしょ! これは あんたの為なんだからね! あんたが怖がるといけないから抱きしめてあげてるのよ! だから わたしから離れちゃダメなんだからね!」
「身も心もツンデレだ」
「だから 誰がツンデレよ!」
再び雷。
「ヒギャアアア!」
と、ますます強く抱きついてきた。
氷美って、ちっこくて細いのに、柔らかい感触するな。
ところで、強気ツンデレはお尻の穴が弱いというのが、年齢詐称してネット販売で手に入れたエロゲーの定番なのだが、その話は本当なのだろうか?
そんなことを考えながら 氷美へ眼を向けると、氷美は思いっきり叫んだ。
「何 その眼!? 今 あんた変なこと考えてるでしょ!」
「ハッハッハッ、何を言っているんだい? ボクは ただ、君のことが結構 可愛いなぁと思っただけさ」
「なんか キャラ変わってるわよ! 変なことしたら ただじゃ置かないんだからね!!」
三度目の雷。
「イギャアアア! でも 離れないで! 離れたら ただじゃ置かないからね!」
ホント ツンデレだなぁ。
六日目。
松陽高校から鳳上館へ向かう途中のことだった。
道路の脇に、吉祥院家のリムジンが止まっていた。
ウィンカーが開き、ひょっこり顔を出したのは、
「お兄さま」
予想通り湖瑠璃ちゃんだった。
「乗ってください。鳳上館まで送ります」
「ありがとう、湖瑠璃ちゃん。実は歩くのもしんどかったんだ」
俺が乗るとリムジンが発車する。
「お兄さま、アルバイト 無理をなさらないでくださいな」
「わかってる。あと二日間だけだから」
答えてから、俺は遅まきながら気付く。
「あれ、俺が鳳上館でアルバイトしてること知ってるの?」
「知っています。お姉さまがアルバイトをして、お兄さまにクリスマスプレゼントを買ってあげようとしていると知ったのですから、当然 お兄さまもなにかするだろうと思っていました。それで、ここ忙しそうにしているお兄さまの話を聞いて、伊藤さんに調べさせたのです。
でも、まさか 鳳上家で執事をするとは。そんなことなら 湖瑠璃に言ってくだされば良かったのに。湖瑠璃 専属執事にしてあげました」
「いや、そういう人の好意に甘えるやり方はダメだ。それじゃ誠意がないから」
「うふふ、お兄さまらしいですね。でも 気をつけてください。今、鳳上家では問題が起きていますから」
「問題?」
「鳳上家当主が、一月前 百八歳の大往生を成されたのです。当然 問題になるのは跡取りです。誰が鳳上の家を継ぐか、今 親族会議が行われているのですよ。そして、有力候補の一人が、鳳上 氷美さんです。ハッキリ言えば、骨肉の争いをしている最中にいると言うことですね。
お兄さまを臨時で執事に雇ったのも、その辺りのことが関係しています。内部の人間は信用できないので、外部から雇ったということです。
そして 後継者が決定するのが、明日。お兄さまのアルバイトが終わる日です」
「なるほど、そんな事情があったとはな」
「鳳上家は吉祥院家とも縁が深い仲。私たちにとっても人ごとではありません。お兄さま、十分気をつけてください」
「わかったよ、湖瑠璃ちゃん。忠告ありがとう」
家事手伝い程度と聞いていたから 高をくくっていたが、氷見の性格は難があり、その分 苛烈。
ハッキリ言えば、パワハラで訴えられても おかしくないんじゃないかって言うくらいだった。
一日目。
朝食に パンとベーコンエッグにオレンジジュースという定番を作って出したら
「日本食が食べたい。焼き鮭定食を作りなさい」
と 言いだした。
「いや、もう完成してるんだけど」
「いいから 作り直しなさい。わたしは古き良き日本の朝食が食べたい気分なの」
「でも、材料がないんだけど」
「買ってきなさい。今すぐ!」
「あー もう! 分かったよ!」
こうして朝からコンビニへ買い出しに走って朝食を作り直し。
二日目。
「乗馬がやりたいわ。あそこの威勢の良い馬を連れてきなさい。連れてこれなかったらクビにするから」
「あのー、世紀末覇者が乗りそうな鼻息の荒い巨大な黒馬なんだけど。あんなのに近づいただけで蹴り殺されそうな感じで」
「いいから連れてきなさい。出来なかったらクビ。報酬はなし」
「わかったよ!」
そして、恐る恐る馬に近づいたら、ベロベロ 顔を舐め回された。
「なんだこいつ?! 俺を食べる前に味見をしてるのか?!」
「あら、あんた 懐かれたわね。マンガで良くある人間以外にはモテるってやつかしら?」
「こいつ、雌なの?」
「そうよ。種付けでもする?」
「しねーよ!」
三日目。
夜、疲れて寝ようとしたところ、
「寝る前に沖縄産牛乳が飲みたい」
「冷蔵庫には北海道産しかなかったんだけど」
「買ってきなさい」
「もう 夜遅くなんだが」
「だから なに? 買ってきなさい。走って」
「ちくしょー! 分かったよ!」
と、眠いのに買い出しに行かされたり。
四日目、俺は疲労と寝不足で登校すると、球竜 宮が話しかけてきた。
「なんか 疲れた顔してるけど、どうしたの?」
「ちょっと臨時のバイトをしていて、そのせいで」
「ふーん。それって 吉祥院さん関係なの?」
「ああ、まあな」
宮は少し驚いた表情をすると、次に拗ねたように口をとがらした。
「ちぇ、ホントにそうなんだ」
「なにが?」
「なんでもない」
なんだろう?
五日目。
雨が降っていた夜のこと。
氷美は、ピカピカに輝いた等身大仏像を眺めながら 瞑想をしたいとか言い出して、俺は仏像をワックスで磨いていた。
「あんたも よくやるわよね。みんな三日も持たなかったのに。なんで そんな頑張るの? 吉祥院先輩と関係してるの?」
「クリスマスプレゼントを買いたくてな」
「なるほどね。愛しの吉祥院先輩の為に頑張ってるわけか。じゃあ、なおさら愛の試練を与えなくちゃね」
「なぜにそうなる」
「ところでさ、あんた わたしのことどう思ってるの?」
「ツンデレ」
「誰がツンデレよ!? あんたクビにするわよ!」
その時だった、外で稲光と共に轟音が鳴った。
「ニギャアアア!」
氷美は悲鳴を上げて俺に抱きついてきた。
「……おまえ、雷が苦手なのか?」
「そ そ そ そんな分けないでしょ! これは あんたの為なんだからね! あんたが怖がるといけないから抱きしめてあげてるのよ! だから わたしから離れちゃダメなんだからね!」
「身も心もツンデレだ」
「だから 誰がツンデレよ!」
再び雷。
「ヒギャアアア!」
と、ますます強く抱きついてきた。
氷美って、ちっこくて細いのに、柔らかい感触するな。
ところで、強気ツンデレはお尻の穴が弱いというのが、年齢詐称してネット販売で手に入れたエロゲーの定番なのだが、その話は本当なのだろうか?
そんなことを考えながら 氷美へ眼を向けると、氷美は思いっきり叫んだ。
「何 その眼!? 今 あんた変なこと考えてるでしょ!」
「ハッハッハッ、何を言っているんだい? ボクは ただ、君のことが結構 可愛いなぁと思っただけさ」
「なんか キャラ変わってるわよ! 変なことしたら ただじゃ置かないんだからね!!」
三度目の雷。
「イギャアアア! でも 離れないで! 離れたら ただじゃ置かないからね!」
ホント ツンデレだなぁ。
六日目。
松陽高校から鳳上館へ向かう途中のことだった。
道路の脇に、吉祥院家のリムジンが止まっていた。
ウィンカーが開き、ひょっこり顔を出したのは、
「お兄さま」
予想通り湖瑠璃ちゃんだった。
「乗ってください。鳳上館まで送ります」
「ありがとう、湖瑠璃ちゃん。実は歩くのもしんどかったんだ」
俺が乗るとリムジンが発車する。
「お兄さま、アルバイト 無理をなさらないでくださいな」
「わかってる。あと二日間だけだから」
答えてから、俺は遅まきながら気付く。
「あれ、俺が鳳上館でアルバイトしてること知ってるの?」
「知っています。お姉さまがアルバイトをして、お兄さまにクリスマスプレゼントを買ってあげようとしていると知ったのですから、当然 お兄さまもなにかするだろうと思っていました。それで、ここ忙しそうにしているお兄さまの話を聞いて、伊藤さんに調べさせたのです。
でも、まさか 鳳上家で執事をするとは。そんなことなら 湖瑠璃に言ってくだされば良かったのに。湖瑠璃 専属執事にしてあげました」
「いや、そういう人の好意に甘えるやり方はダメだ。それじゃ誠意がないから」
「うふふ、お兄さまらしいですね。でも 気をつけてください。今、鳳上家では問題が起きていますから」
「問題?」
「鳳上家当主が、一月前 百八歳の大往生を成されたのです。当然 問題になるのは跡取りです。誰が鳳上の家を継ぐか、今 親族会議が行われているのですよ。そして、有力候補の一人が、鳳上 氷美さんです。ハッキリ言えば、骨肉の争いをしている最中にいると言うことですね。
お兄さまを臨時で執事に雇ったのも、その辺りのことが関係しています。内部の人間は信用できないので、外部から雇ったということです。
そして 後継者が決定するのが、明日。お兄さまのアルバイトが終わる日です」
「なるほど、そんな事情があったとはな」
「鳳上家は吉祥院家とも縁が深い仲。私たちにとっても人ごとではありません。お兄さま、十分気をつけてください」
「わかったよ、湖瑠璃ちゃん。忠告ありがとう」
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