悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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85・動かないマンガ家

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 ……続き。


 そして俺達はメイド喫茶に到着した。
 晶さんと春樹さんは店の外で待機。
「さすがにアタシたちまで一緒だとバレてしまうので」
「どうかアッシらの分も、麗華お嬢さまの奮闘ぶりを、しかと見届けてくださいやせ」
 で 俺と湖瑠璃ちゃんは店に入った。
「いらっしゃいませ。ご主人様、お嬢さま」
 特攻服の俺達に、まったく動じることなく、受付のメイドさんは対応した。
 さすがはプロのメイド喫茶のメイドさん。
 本職のメイドとはわけが違う。
 普通 逆だと思うけど。
 しかし、勢いで来てしまったけど、果たして本当にこんな変装でごまかせるのだろうか?


 俺達は席に座ると、
「メイドの指名はございますか?」
「吉祥院・セルニア・麗華さんで」
 湖瑠璃ちゃんはセルニアを指名した。
「ちょっと、湖瑠璃ちゃん」
 俺は小声で、
「いくら何でも本人呼ぶのはまずいだろ」
「大丈夫ですよ、お兄さま。お姉さまは鈍いので気付きません」
「いくら何でも気付くって」
 そしてセルニアが来ると、
「いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢さま。ご注文はお決まりですか?」
 気付いていなかった。
「えっと、その、なんというか……メイドさん。俺達のことでなにか気付く事ってあるかな?」
 セルニアは素敵な笑顔で答えた。
「素敵なコスプレですわ。まるで 誰かに正体がばれると困るので、全力で おかしな方向のコスプレで ごまかそうとして 全然ごまかせてないかのような 全身全霊 不自然なまでの似合わなさですが、しかし それが逆に とても良くお似合いですわ」
 セルニアは気付いているのに、まったく気付いていなかった。
「オムライスと紅茶で」
 俺はそれ以上 気にするのは止めて、普通に注文することにした。
 そして湖瑠璃ちゃんも、
「わたしも同じ物を」
「かしこまりましたわ」


 しかし、セルニアのメイド姿。
 実に良い。
 まるで、良家のお嬢さまが、家が没落したのでメイドとして働くことになり、そして ご主人さまに色々 あんなことや こんなことや そんなことを 要求され、しかし セルニアは 俺という ご主人様に対し 以外とその気で、イヤン ご主人さまのエロス人とかなんとか グフフフ……
「お兄さま、イヤらしいこと考えていますね」
「ち! 違う! そんな 邪な煩悩溢れることなんて これっぽっちも考えてない!」
「顔に出てますから」


 とかしている内に、セルニアがオムライスと紅茶を運んできた。
「では、ケチャップでイラストを描かせていただきますわ」
 セルニアは何かを描き始めた。
 完成したのは、人を主食にしていそうな虎の絵だった。
 口から滴るケチャップが血のようで実にリアルだった。
「可愛い子ネコの完成ですわ」
 子ネコだったんだね。
「魔法をかけさせていただきますわ。おいしくなーれ、きゅん。美味しくなる魔法をかけましたわ。では ごゆっくり。ご主人様、お嬢さま」
 そしてセルニアは他の客に呼ばれて行った。
 セルニアはテキパキと仕事をこなしており、まるで問題はなさそうだった。
「お姉さまは大丈夫そうですね。これなら安心です」
「そうだな」
 そういえば、ここ最近、俺はセルニアのダメなところばかり見えていたから忘れかけてたけど、セルニアって学校じゃ完璧超人って言われるほどだった。
 これくらいの仕事、簡単なのかも知れない。


 そして俺はセルニアが魔法をかけたオムライスを堪能した。
 食べ終わった頃、店内にアナウンスが流れた。
「これより本日のイベント。じゃんけん大会を行いたいと思います。
 優勝者は、本日入ったばかりの新人メイド、麗華ちゃんとのツーショット写真を撮ります。なお、麗華ちゃんは二十日までの臨時アルバイト。ですので、麗華ちゃんとの写真は今日が最初で最後のチャンス。みなさん、張り切ってくださいね」
 メイド姿のセルニアとのツーショット写真。
 しかも、今日が最初で最後のチャンス。
「フォオオオオオ!!」
 俺は気合いを入れた。
 他の男に撮らせる物か!
「お兄さま、気合いが入りすぎです」
 湖瑠璃ちゃんが呆れていた。


「では みなさん、いきますよー。じゃーんけーん、ぽい。
 グーです。こちらはグーを出しました。チョキの方は座ってください。グーの方とパーの方は残ってください」
 よっしゃ!
 俺はグー。
 引き分けでセーフ。
「では 二回戦目いきまーす。じゃーんけーん、ぽい。
 チョキです。パーの方は座ってください。チョキの方とグーの方は残ってください」
 よっしゃぁ!
 俺は二度目もグー。
 今度は勝った!
「うーん、けっこう残っていますね。では三回目からは厳しくしましょう。引き分けでも負けとします。いいですかー。残るのは勝った方だけです。わかりましたねー」
 っく!
 引き分けでもダメになったか。
 これはいよいよ厳しくなる。
 しかし! 俺はメイドのセルニアとのツーショットを撮るんだ!
「では いきますよー。じゃーんけーん、ぽい」
 俺はチョキ。
 向こうは……
「パーです。こちらはパーを出しました。チョキの方だけ残ってください」
 よっしゃあぁああ!
 残ったのは俺と、いかにもなオタク青年が一人。
 残り二人となった。
「残ったのはお二人だけですねー。では、直接対決していただきましょう。お二人ともステージに上がっていただけますか」
 俺は肩をいからせながらステージに上がり、もう一人のオタク青年に全力のガン飛ばしをする。
「な、なんというか、走り屋の方は気合いの入りかたが違いますね。さすがは特攻です。
 さあ、オタク青年のご主人様、大丈夫ですか」
「だだだ、だいじょうブデブ。セルニアたんとの写真のタメなら、これくらい平気デブ」
 この野郎!
 俺のセルニアを名前で呼びやがった!
 勝つ!
 何が何でも勝つ!
「では 行きますよー。準備は良いですかー。じゃーんけーん、ぽい」
「うぉおおおおお!!」
 俺の心は動かないマンガ家の如き!
 開け!
 天国の扉!
「チョキだ!」
「はーい、超気合いの入った特攻の方はチョキですねー。オタク青年さんは……パーです。特攻の方の勝ちでーす」
「いぃよっしゃあああああ!!」


 ギャラリーは戦慄に震えていた。
「この気迫。特攻のコスプレじゃない。本物だ」
「本物の走り屋がなんでメイド喫茶に」
「マジこえぇぇ」
 そして湖瑠璃ちゃんは呆れていた。
「お兄さま、ちょっと気合い入れすぎです。お姉さまが絡むと時々人が変わりますね」


 そしてメイドのセルニアとのツーショットを撮ったのだった。
 この写真はアルバムに挟んで永久保存だな。
 セルニアと少しお話しすることになった。
「本日はありがとうございます。とても楽しんでいただけてなによりですわ」
「いやぁ、俺も楽しかったよ」
「なんだか貴方とは初対面だとは思えませんわ。まるで毎日学校で会っているかのような親近感がありますわ」
「ホントそうだね」
 なんで ここまで気付いているのに 気付いていないんだろう。
 それはともかく俺は気になっていたことを聞いてみる。
「あのさ、差し支えなかったら、教えて欲しいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「臨時アルバイトって聞いたけど、どうしてアルバイトをしようと思ったの?」
「実はわたくしの大切な人にクリスマスプレゼントを贈ろうと思いまして」
「クリスマスプレゼント?」
「はい。お小遣いは貰っているのですが、しかし その人には、わたくしが自分の力で手に入れたお金で贈りたいのです」
「……そうなんだ」
「はい。だからこのメイドの仕事をやり遂げますわ」
「わかった。頑張って」
「ありがとうございます」


 俺はメイド喫茶を後にして思う。
 俺はクリスマスをセルニアと一緒に過ごすことは考えていても、プレゼントのことを全く考えていなかった。
 そう言えば、誕生日の時もそうだった。
 俺は思いやりが足りない。
 セルニアは自分の力でプレゼントを購入しようとしている。
 俺もなにかしないと。
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