悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

文字の大きさ
上 下
84 / 168

84・奇妙な人生2

しおりを挟む
 十二月の最初の金曜日だった。
 近づいてくる冬休みに、みんなはどんな風に過ごすかという話で盛り上がっていた。
 スキーに行こうとか、旅行に行こうとか、愛しの彼女に告白して、寒い冬を暖かい青春の一ページにするとか。
 そんな浮き足だった雰囲気の中、俺とセルニアの距離は確実に近づいていた。
 お互いの気持ちを確かめ合ったせいか、授業中でも登下校の時でも、ふとしたことで目が合うようになったり。
「今日も一緒に帰ろうか」
「はい、そうですわね」
 今日も今日とて一緒に下校。


 で、取り巻き三人組から、
「あの男、また吉祥院さまと」
「帰りまでつきまといやがってますぅ」
「……殺ってしまいましょう」
 なにやら殺意の視線を感じるが、しかし セルニアと気持ちの通じ合った俺に怖い物などない。
 超絶美少女のセルニアとラブラブ下校なのだ!
 その至高の喜びに比べれば 刃の視線などなにものともするものぞ!
 はーっはっはっは!


 さて、そんな十二月なわけだが、十二月と言えばクリスマス。
 聖なる夜だ。
 気持ちの通じ合った仲として、クリスマスは絶対に一緒に過ごしたい。
 そして!
 そのまま聖なる夜を 性なる夜に!
 今度こそ邪魔者を入れたりせず!
 と いうわけで、セルニアにクリスマスの日の予定を聞こうと思ったときだった。
 セルニアの方が先に話をしてきた。
「実はクリスマスなのですけど」
 来た!
 セルニアの方から話題を振ってきた。
 これは もう クリスマスを一晩 一緒に過ごそうと言う話に違いない。
 いや もう これは間違いないのである!
「実はクリスマスまで、あまり会えないと思いますの」
 ……え?
「クリスマスまであまり会えない?」
「そうですわ。実はちょっと忙しくなりますので」
「どうして?」
「実は、日曜日からアルバイトをすることに決めたのですわ」


「アルバイト?」
「はい、アルバイトです」
「えっと、どうしてアルバイトを?」
「その、ちょっと欲しいものがありまして」
 そういえば、吉祥院家は教育方針で、小遣いは普通だったとか。
 ってことはアルバイトしないと買えないくらいの物。
「わかった。クリスマスまでなんだな?」
「はい、クリスマスまでですわ。クリスマスになれば、いつも通り一緒に過ごせます」
「わかった。ところで、アルバイトって なんの仕事をやるつもりなの?」


「メイド喫茶ですわ」


 ……
「……メイド喫茶?」
「はい。文化祭の時に接客業に目覚めてしまいまして。それとコスプレの楽しさも。それでメイド喫茶に」
「そうなんだ」
 メイド付きのお嬢さまがメイド喫茶でメイドをする。
 落語のお題にでもなりそうな話だった。
「とにかく、俺はセルニアがやりたいことを応援するよ」
「ありがとうございます」


 そして次の日曜日。
 セルニアはアルバイト初日。
 俺は家で、奇妙な人生2にて念動力に目覚めた弟を兄の立場から導いていたが、しかしまったく集中できなかった。
 原因は当然セルニア。
 生粋のお嬢さまがアルバイトなど本当に出来るのだろうか?
 心配で心配で集中できやしない。
 見に行きたい。
 しかし、セルニアの仕事の邪魔になる。
 あぁー、でも 気になる。


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴った。
 俺は応対に出ると、
「お兄さま、お久しぶりです」
 学園祭 以来の湖瑠璃ちゃんだった。
 そして付き人に、猪鹿蝶 晶さんと伊藤 春樹さん。
「相変わらず家でダラダラしていますね。お姉さまのことが気にならないのですか?」
「めっちゃ気になってるよ。そのせいで弟を導く兄の務めが疎かになって気まずいことになってるくらいなんだから」
「はい、何を言っているのかサッパリ分かりませんが、大体の想像は付きます。
 ゲームなんかしていないで、お姉さまの様子を見に行きましょう」
「ダメだよ、そんなことしちゃ。セルニアは一大決心してアルバイトを始めたんだ。邪魔になるようなことをしちゃいけない」
「分かっています。だから客としていくのです」
「俺達が行く時点で邪魔になるって」
「もちろん、そのまま行くのではありません。変装していきます」
「変装?」
 伊藤 春樹さんが手にするスポーツバックから服やヘアスプレーなどを取り出した。
 走り屋の特攻服である。
「……春樹さん、それは なんスか?」
「変装服でやす。これで若と湖瑠璃お嬢さまは走り屋に変装するのでやす。
 大丈夫でやす。若は以外と似合いそうな感じがしやすから」
「……色々ツッコミたいですが、きりが無いので止めときます」


 で、晶さんと春樹さんが、俺と湖瑠璃ちゃんの髪型を整えたり、メイクをしたりして、走り屋の格好をしたのだった。
 晶さんが褒める。
「若、湖瑠璃お嬢さま、実によく似合っていやす。アタシが走り屋をしていた頃のことを思い出しやす」
 湖瑠璃ちゃんは床に走り屋がよくやる座り方をして、粋がる。
「アタイは湖瑠璃。ケンカ上等、なめんなよ。そこんとこ夜路死苦」
「うん、めっちゃ可愛い」
 俺が感想を言うと、湖瑠璃ちゃんはテレテレする。
「いやーん、湖瑠璃はワルになっても可愛いんですか? 自分の可愛らしさが憎いです」
 とか言っちゃったりしている。
 可愛いなぁ もう。


 続く……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...