悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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81・若さには

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 ……続き。


 そして 自己紹介と特技披露は、セルニアの番になった。
 セルニアもピアノだ。
 弾き始めたのは、誕生日にプレゼントしたオルゴールの曲。
 確か鬼殺の剣のエンディングテーマだった。
 オルゴールの曲を耳コピしたのか。
 さすがだ。
 みんなはうっとりとした表情で聞き入っていた。
 でも、俺は思う。
 なんか曲の雰囲気が違うような気がする。
 オルゴールの曲は心が温かくなるのに、今 セルニアが弾いているのは、どこか寂しげと言うか、悲しげな感じがする。
 どうして そんな風に聞こえるんだ?
 セルニアは以前、宮が音楽室で弾いたときの感想で、こんなことを言っていた。
 ピアノはその人の内面、その人の心情が色濃く出る物なのだと。
 つまり、セルニアは悲しんでいる?
 セルニアはどうしてこんなに悲しそうなんだ?
 どうして?


 セルニアの曲が終わり、次は朝倉 海翔の番だった。
 海翔はマジカルカード・さくらのオープニングソングを熱唱し始めた。
 アイドルのステージみたいな盛り上がりを見せ始めた。


 だが 俺は、海翔を見ていなかった。
 セルニアのことで頭がいっぱいだった。
 今まで感じていた違和感。
 セルニアは誤解していなかったんじゃない。
 完全に誤解している。
 俺が宮に手を出そうとしていたと思い込んでいる。
 でも、どうして なにも言わないんだ?
 なんで いつもと変わらないように振る舞っているんだ?
 あんなに悲しんでいるのに……
「悩んでおるな」
 不意に悟道校長が話しかけてきた。
「悟道校長。セルニアのことで なにか知っているんですか」
「実は昨日、君たちの事を偶然 見てしまってな。
 吉祥院くんは、君と球竜くんのことで誤解している。なぜ あんなことで誤解するのかは分からないが、誤解しているのは間違いない。
 しかし、今日の吉祥院くんの振るまいを見る限り、いつもと変わらないように見えただろう。
 それが 君には理解できないのではないか。
 なぜ 吉祥院くんは君になにも問いたださないのか」
「はい。セルニアは何も言いませんでした。だから 俺は、なんて切り出せば良いのかわからなくて、それで そのままに。
 でも、セルニアはどうして何も言わないんですか? あんなに動揺して、そして今もこんなに悲しんでいて。
 どうして俺に何も言わず、いつもと変わらないようにしていたんですか?」
「それはな、諦めだ」
「……諦め?」
「吉祥院くんは君のことを諦めたのだよ。君が自分から離れていくのだと諦めた。君と球竜くんが結ばれることになるのだと、諦めたのだ。
 君の全てを諦めた。
 だから いつもと変わらないようにしていたのだ。
 だから 君に何も言わなかったのだ」
「……そんな。そんな簡単に」
「人間の心は難しい。他人には大したことが無いと思っていても、当人には重大なことかもしれん。
 吉祥院くんがあの夜、君に差し入れをする。それは本人には、重要な何かであったのだろう」


 ……どうすればいい?


「……俺はどうすれば良い? セルニアがそこまで思い詰めていたなんて。
 悟道校長! 俺はセルニアになんて言えばいいんですか!?」
 俺はなにもわからず、ただ悟道校長に助けを求めた。
「さてなぁ。当人にも分からぬ事を、他人のわしがわかるはずもない」
「それは……その通りですけど……」
「実はな、わしも以前、吉祥院くんに告白をしたことがある」
「え? 悟道校長がセルニアに告白? 噂には聞いたことありますけど、でも ただの噂だと思っていました」
「ふっ。吉祥院くんの美しさに魅了され、年甲斐もなく色ぼけしてしまってのう。後妻になってくれぬかと告白してしまった。まあ、あっさり断られてしまったのだがな。
 しかし、君は吉祥院くんの心を射止めた。
 それは君の若さ故のものだ。
 年は取りたくないものだ。年を取ると、情熱を失う。汚いことに手を染めても、何も感じなくなってしまう。年と共に、大切な何かを失っていき、積極的に生きることの意欲をなくしていく。
 だが、君は違う。君は まだまだ若い。
 若者は、走り出してから、行き先を考える。
 若さには 敵わん」


 ……そうだ、考えている場合じゃない。
 すぐにでもセルニアと話をしないと。



「では、コンテストはこれで終了します。結果発表は票集計が終了次第、掲示板に貼りますので、みなさん注目していてください」


 俺は悟道校長に礼をする。
「ありがとうございました、悟道校長」
 そして俺は返事を待たずに、セルニアの所へ向かった。
 セルニアはステージを降りた所だった。
「セルニア、話がある」
 セルニアは俺に恐怖を見せた。
「いや、いやです。貴方とは話をしたくありません」
「待ってくれ。聞いてくれ」
「嫌です!」
 セルニアは人混みをかき分けて走り出した。
 俺はセルニアを追いかける。
 しかし、
「「「「「待ちたまえ」」」」」
 武闘派 五人衆が立ちはだかった。
「どういうことだね? 吉祥院さまは 明らかに 君と話をするの嫌がっている。
 以前 言ったはずだ。吉祥院さまを泣かせることがあれば どうなるか理解しているかと。
 どうやら分かっていなかったようだな。ならば我々も黙ってはいない」
「スミマセンでした!」
 俺は頭を下げた。
 五人衆は謝罪の勢いに押されたかのような表情。
「すみません、先輩。今回は完全に俺の失態です。セルニアを誤解させ悲しませてしまった。
 でも、誤解なんです! 本当に誤解なんです! ただの誤解にすぎないんです! 俺はセルニアに誤解されたままでいたくありません!
 お願いします! 通してください!」
「「「「……ぬう」」」」」
 五人衆はしばらくの沈黙の後、
「……良いだろう。吉祥院さまを再び笑顔にすることが出来れば、許してやろう」
 そして五人衆は道を空けた。
「ありがとうございます!」
 そして俺はセルニアを追った。


 セルニアは体育館を出て、もう その姿は見えない。
 でも、なんとか見つけ出して、誤解を解かないと。
 確かコスプレ喫茶のシフトじゃセルニアは接客のはずだ。
 いったん教室に戻ろう。


 俺は教室に戻ったが、しかしセルニアの姿はない。
 海翔はもう戻ってきているから、俺が早かったわけじゃない。
「どうしたの? なんか物凄く焦った顔してるけど」
「セルニアを見なかったか?」
「吉祥院さん? ミスコンの後は見てないけど。そろそろ吉祥院さんの時間なんだけど、遅れてるのかな」
「そうか……」
 セルニアがみんなに迷惑がかかることをするなんて、普段ならあり得ない。
 五十嵐 武士がニヤけづらで、
「おいおい、吉祥院さんとケンカでもしたか? ま、おまえと吉祥院さんが そんなに長く続くとは思っていなかったけど、ちょっと早すぎやしないか」
 そして高畑くんが、
「それより、そろそろ貴殿のシフトの時間でござる。準備に取りかかって貰わねば」
「それは、そうなんだが……」
 コスプレ喫茶なんてしてる場合じゃない。
 早くセルニアを見つけて誤解を解かないと。
 だが、サボると皆に迷惑がかかる。
 何考えてる!
 みんなの迷惑とか考えている場合か!
 セルニアの事が第一のはずだろ!
 五十嵐が俺の表情から察したのか、
「あー、マジでなんかあったのか?」
「実は そうだ」
「わかった。おまえのシフトは俺達がやっとくから、吉祥院さんのところへ行け」
「いいのか?」
「良いから 良いから。一つ貸しだぞ」
 海翔も、
「まあ、いつも荷物持ちしてもらってるしね。これくらいお安いご用だよ」
 高畑くんも、
「吉祥院殿と仲直りしたら、あの妹君を紹介してくだされ。それで手を打とうではござらんか」
「ありがとう、みんな」
 俺は三バカトリオに助けられ、セルニアを探しに向かうことが出来たのだった。


 続く……
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