悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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77・ヤの付く職業

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 俺達のコスプレ喫茶は、時間と共に客が少しずつ増えてきた。
「魅惑のグランベリーパイ、お願いしまーす」
「森の恵みのアップルパフェ、入りまーす」
「妖精のバナナクリームホットケーキ、出来たぞー」
 みんな良い感じで客をさばいている。
 文化祭って感じだ。


 客たちは男女逆のコスプレに様々な意見。
「いやーん、男の子 可愛いー」
「イケメンが女装すると素敵よねー」
「君ぃ、おじさんと連絡先を交換しないかね」
 男子のコスプレは良い感じ。
 良すぎる気もするが。


 そして女子のコスプレは。
「きゃー、宝塚みたーい」
「わたしの彼氏になってくれないかしらー」
「あなたぁ、おばさんと連絡先交換しない」
 こちらも良い評判。


 そんな客の反応の中、セルニアの評価は、
「「「はぁーん」」」
 語尾にハートマークでも付いていそうなため息。
 男装コスプレが似合いすぎて、客たちが目覚めてしまっていた。
 セルニアは客たちの熱い視線を受けながら、
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
 と 接客している。
 いつもと変わらない笑顔で。
 本当にいつもと変わらない。
 昨日のアレは、やっぱり俺の思い込みで、誤解なんて無かったのだろうか?
 そうとしか思えないけど、違和感が拭えない。
 確かめたいけど、今は忙しくて きちんと話が出来ない。
 だが、フォークダンスの約束をしている。
 その時に必ず確認しておこう。


 お昼になり、客足が少なくなってきた。
 たぶん、ちゃんとした昼飯を食べるために、お好み焼き屋とかの所へ行っているのだろう。
 そして セルニアも、
「わたくしも休憩に入りますわ。それで、戻ってくる時間なのですけれど……」
「わかってる。ミスコンに出場するから遅れるんだろ」
「ええ、その間、お願いしますわ」


 そして少し落ち着いてきたのだが、クラスメイトが急にざわつき始めた。
「おい、あれって……」
「ああ、間違いない」
「ヤの付く職業だ」
 なんですと!?
 学校に本職の人が入ってきたのか?
 そう、学園祭といってもテキ屋なのは変わりない。
 みかじめ料を払えと脅しに来たのか!
 ど ど ど、どうしよう?
 どうすればいいんだー!?
「あのヤの隣にいるのは情婦か?」
「雪女みたいに綺麗だな。さすが本職の女」
「反対にいるのは子供だけど」
「可愛い着物美少女だ。ヤは子供も色にしてるのか」
 その組み合わせ、めちゃくちゃ心当たりあるんですけど。
 見ると、やっぱり吉祥院 親子だった。
 クラスメイトたちは、本職の人だと思って近づかないけど、接客しないわけにはいかない。
「あー、みんな。俺が注文取りに行く」
 クラスメイトたちはざわめく。
「お、おまえ、なんて命知らずな」
「吉祥院さまに手を出すだけはある」
「よし、華々しく散ってこい」
 盛大な勘違いをされながら、俺は注文を取りに行った。


「いらっしゃいませ」
 権造さんは俺を睨み、
「遅いぞ。こういう店は早さが重要。注文一つ取りに来るのにいつまでかかっている。……ぬ、貴様か」
「はい、俺です」
 そしてセルリア・雪華さんが艶やかな笑みで、
「うふふふ、女装もなかなか似合っていますよ」
「どうも」
 そしてセシリア・湖瑠璃ちゃんが、
「お兄さま、遊びに来ました」
「いらっしゃい、湖瑠璃ちゃん」
 権造さんは、
「貴様が委員を務めているとは聞いていたが、こうもだらしない店とはな。これは一度 経営学を教えてやらんといかん。次の機会にみっちり教練してやろう」
「ハハハ……ありがとうざいます」


「それで、お姉さまはどうしていますか?」
 湖瑠璃ちゃんの質問に俺は、
「今は休憩中。ミスコンに出場するから遅れてくる」
「そうですか。まあ、あとでじっくりお姉さまのコスプレを見せて貰いましょう。
 お兄さまは、休憩はいつからですか?」
「次のシフトだから、もうすぐ」
「なら、学校を案内してください。湖瑠璃もいつかはこの学校に来るのですから、見学に」
「俺は良いけど」
 俺は雪華さんたちに眼を向け、
「お母さまたちはどうするんですか?」
「わたくしたちはここで、セルニアが指導したコーヒーを堪能させて貰います」
 そして権造さんも、
「おまえたちだけで行ってこい」
「わかりました。では、しばらく湖瑠璃ちゃんを任されます」


 こうして、湖瑠璃ちゃんを学校案内することになった。
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