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76・まずいことに
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松陽祭当日。
俺は重い足取りで登校した。
昨日の誤解をどうやって解けば良いのか、良い案が浮かばないままなのだ。
湖瑠璃ちゃんの計画と全く同じシチュエーションに遭遇したのだ。
間違いなく、宮にやろうとしていたと思われてしまった。
なんとか誤解を解かないと。
とにかく話を聞いて貰おう。
そう思って、教室のドアを開けると、そこにはセルニアがいた。
「ごきげんよう」
セルニアは普段と変わらない明るい笑顔。
「今日は待ちに待った松陽祭ですわ。張り切っていきましょうね」
「え? ああ、うん」
セルニアの様子がいつもと変わらない。
いや、むしろ松陽祭を楽しみにしていつもりよりテンションが高いくらいだ。
「あの、セルニア、大丈夫なのか?」
「なにがですの?」
「え? いや、なにがって?」
「わたくしはいつもと変わりませんわ。おかしな事を聞きますのね」
と、クスクス笑ったのだった。
誤解していたわけじゃないのか?
俺は機を失い、説明できずにいると、
「「「吉祥院さま」」」
取り巻き三人組がやって来た。
「おはようございます、吉祥院さま」
「松陽祭にふさわしい青空ですねぇ」
「……吉祥院さまのように綺麗です」
セルニアは三人組に笑顔で答える。
「ごきげんよう、みなさん」
そして三人組は、
「ちょっと、あんた邪魔」
「どきなさいよぉ」
「……キエロ」
俺をゴミ虫のように押しのけたのだった。
でもって、そのまま続けてセルニアに、
「松陽コンテストのこと聞きました」
「吉祥院さまなら今度こそ一位ですぅ」
「……優勝当然」
セルニアは困ったような表情で、
「ですが、朝倉 海翔さんという強敵がおりますので、そう簡単に優勝できないと思いますわ。それに、今年は球竜 宮さんもおられますし」
そう言いつつも、まんざらではなさそう。
セルニアはいつもと変わらなかった。
昨日のアレは俺の思い込みだった?
なにも誤解していないのか?
拍子抜けしていると、宮が話しかけてきた。
「おはよー。昨日の誤解は解けた?」
「ああ、おはよう。でも、誤解も何も、そもそも誤解なんてしてなかったみたいだ」
そうとしか思えない。
「え、そうなの? じゃあ、吉祥院さん以外とそうでもなかったってことかな?」
「なにが?」
「なんでもない」
宮はハッキリとは言わなかった。
そこに、上永先生が教室に入ってきた。
「さぁーん、みんなぁ。今日は待ちに待った松陽祭よぉーん。おかしなテンションになってあんなことやこんなことやそんなことをやっちゃったりしちゃったりしないでねぇーん」
思うんだが、上永先生っていつも変な薬でも決めてるんじゃないだろうか。
そしてホームルームは終わり、準備も整った。
グラウンドで花火が上がり、大きな爆音が鳴る。
松陽祭開催だ。
学校中ハイテンションだ。
「やれるだけのことはやったし、後はお客さんが来るのを待つだけだね」
宮もハイテンション。
そしてコスプレしたクラスメイトも変な方向でハイテンション。
男装した女子たちは、
「いやー、イケメーン。このまま男になってー」
「きゃー、どうしよー。素敵ー」
「ねえねえ、私たち付き合わない?」
お互い感想を言い合い、なにやら目覚めそうになっている。
そして女装した男子たちは、
「俺、綺麗だ」
「ああ、可愛い」
「俺は美しい」
鏡に映る自分の姿にうっとりしている。
俺は宮に言う。
「なんつーか、これは人生的にまずいことになるんじゃないだろうか?」
「ハハハ、たぶん大丈夫。っていうか、君も似合ってるよ」
「お世辞でもありがとう。そう言う宮も似合ってる」
宮は中世貴族の服を着ている。
セルニアは男装の騎士。
三人組が賞賛する。
「素敵です、吉祥院さま」
「似合いまくりですぅ」
「……素晴らしいです」
セルニアはにっこりと微笑む。
「ありがとうございます」
……あれ?
なんか、セルニアの微笑みが不自然な感じがした。
俺は気になって声をかけたかったが、しかし三人に阻まれ近寄ることも出来ない。
「いらっしゃいませ」
そうしている内に、最初のお客さんが入ってきた。
まあ、同じ教室にいるんだし、なんとかなるだろう。
後夜祭にはフォークダンスの約束もあるし。
その時にでも話をしておけば良いか。
俺は軽く流して、接客のことを考え始めたのだった。
続く……
俺は重い足取りで登校した。
昨日の誤解をどうやって解けば良いのか、良い案が浮かばないままなのだ。
湖瑠璃ちゃんの計画と全く同じシチュエーションに遭遇したのだ。
間違いなく、宮にやろうとしていたと思われてしまった。
なんとか誤解を解かないと。
とにかく話を聞いて貰おう。
そう思って、教室のドアを開けると、そこにはセルニアがいた。
「ごきげんよう」
セルニアは普段と変わらない明るい笑顔。
「今日は待ちに待った松陽祭ですわ。張り切っていきましょうね」
「え? ああ、うん」
セルニアの様子がいつもと変わらない。
いや、むしろ松陽祭を楽しみにしていつもりよりテンションが高いくらいだ。
「あの、セルニア、大丈夫なのか?」
「なにがですの?」
「え? いや、なにがって?」
「わたくしはいつもと変わりませんわ。おかしな事を聞きますのね」
と、クスクス笑ったのだった。
誤解していたわけじゃないのか?
俺は機を失い、説明できずにいると、
「「「吉祥院さま」」」
取り巻き三人組がやって来た。
「おはようございます、吉祥院さま」
「松陽祭にふさわしい青空ですねぇ」
「……吉祥院さまのように綺麗です」
セルニアは三人組に笑顔で答える。
「ごきげんよう、みなさん」
そして三人組は、
「ちょっと、あんた邪魔」
「どきなさいよぉ」
「……キエロ」
俺をゴミ虫のように押しのけたのだった。
でもって、そのまま続けてセルニアに、
「松陽コンテストのこと聞きました」
「吉祥院さまなら今度こそ一位ですぅ」
「……優勝当然」
セルニアは困ったような表情で、
「ですが、朝倉 海翔さんという強敵がおりますので、そう簡単に優勝できないと思いますわ。それに、今年は球竜 宮さんもおられますし」
そう言いつつも、まんざらではなさそう。
セルニアはいつもと変わらなかった。
昨日のアレは俺の思い込みだった?
なにも誤解していないのか?
拍子抜けしていると、宮が話しかけてきた。
「おはよー。昨日の誤解は解けた?」
「ああ、おはよう。でも、誤解も何も、そもそも誤解なんてしてなかったみたいだ」
そうとしか思えない。
「え、そうなの? じゃあ、吉祥院さん以外とそうでもなかったってことかな?」
「なにが?」
「なんでもない」
宮はハッキリとは言わなかった。
そこに、上永先生が教室に入ってきた。
「さぁーん、みんなぁ。今日は待ちに待った松陽祭よぉーん。おかしなテンションになってあんなことやこんなことやそんなことをやっちゃったりしちゃったりしないでねぇーん」
思うんだが、上永先生っていつも変な薬でも決めてるんじゃないだろうか。
そしてホームルームは終わり、準備も整った。
グラウンドで花火が上がり、大きな爆音が鳴る。
松陽祭開催だ。
学校中ハイテンションだ。
「やれるだけのことはやったし、後はお客さんが来るのを待つだけだね」
宮もハイテンション。
そしてコスプレしたクラスメイトも変な方向でハイテンション。
男装した女子たちは、
「いやー、イケメーン。このまま男になってー」
「きゃー、どうしよー。素敵ー」
「ねえねえ、私たち付き合わない?」
お互い感想を言い合い、なにやら目覚めそうになっている。
そして女装した男子たちは、
「俺、綺麗だ」
「ああ、可愛い」
「俺は美しい」
鏡に映る自分の姿にうっとりしている。
俺は宮に言う。
「なんつーか、これは人生的にまずいことになるんじゃないだろうか?」
「ハハハ、たぶん大丈夫。っていうか、君も似合ってるよ」
「お世辞でもありがとう。そう言う宮も似合ってる」
宮は中世貴族の服を着ている。
セルニアは男装の騎士。
三人組が賞賛する。
「素敵です、吉祥院さま」
「似合いまくりですぅ」
「……素晴らしいです」
セルニアはにっこりと微笑む。
「ありがとうございます」
……あれ?
なんか、セルニアの微笑みが不自然な感じがした。
俺は気になって声をかけたかったが、しかし三人に阻まれ近寄ることも出来ない。
「いらっしゃいませ」
そうしている内に、最初のお客さんが入ってきた。
まあ、同じ教室にいるんだし、なんとかなるだろう。
後夜祭にはフォークダンスの約束もあるし。
その時にでも話をしておけば良いか。
俺は軽く流して、接客のことを考え始めたのだった。
続く……
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