悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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73・止めろー!

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 文化祭もあと三日。
 準備はほとんどできあがっていた。
 俺は教室を一通り見回ることにした。
 まずはコスプレのチェック。
 海翔が力説する。
「僕の渾身作だよ! マジカルカード・さくらちゃんの女悪役を全て網羅! 原作に忠実でありながら リスペクトを醸し出した アレンジに仕立て上げ なおかつ作品への愛を表現する……」
 俺は聞き流して次へ行くことにした。
 宮の厨房のチェック。
「完璧。見てよ このファンタジックな感じの厨房。いやー、我ながら会心作だ」
 自信を持っている通り、かなりの力作だ。
 これならお客さんの目も満足するに違いない。
 そしてセルニアのコーヒー。
「完璧ですわ。みなさん今ならコーヒー検定に合格しますわね」
 コーヒーメーカーからは良い香りが漂ってきた。
 スーパーで買ってきた豆とは思えないほどの上品な香りだ。
「よろしければ、紅茶はいかがですか? コーヒーの次は紅茶の指導をするのですが、その見本に」
「ああ、頼むよ。セルニアの紅茶は疲れが取れそうだ」
「ふふふ。ではアールグレイとアッサム、どちらがよろしいですか?」
「バットマンの方で」
「アッサムですね。わかりましたわ」


 その時だった。
 俺の電話が鳴った。
 見ると、姉の玲から。
「玲、どうした?」
「お願いー、すぐに帰ってきてー。大変なことになったのー」
「え? 大変なこと? わかった」
 セルニアが怪訝に、
「玲さんに なにかあったのですか?」
「そうみたいだ。俺は今日の所は上がって家に帰ってみる」
「わかりましたわ」
「お茶は また今度」


 そして家に帰ってみると、姉がテレビの前でブルーレイプレーヤーを前に泣いていた。
「録画予約が消えちゃったー。お願いー。なんとかしてー」
 玲は信じられないほどの機械音痴だ。
「録画予約って、鬼殺の剣の録画のことか? 俺がセッティングしただろ」
「それがー、ちょっと別の番組も録画したくてー、マニュアル見ながらしたのにー、全部おかしくなっちゃったのー」
「ああ、わかった わかった」
 こんなことでセルニアのお茶が台無しに。
 シクシク。


 そして次の日、セルニアと今度こそ話をしようと意気込んでいたのだが、なにぶん学園祭まであと二日。
 そんな余裕などまるで無かった。
 とにかく忙しく、くたくた になりながら家に帰ったのだった。
 俺が部屋に鞄を置いて、晩飯の仕度をしようとすると、


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴った。
「はーい、どなたですかー」
「わたしです」
 湖瑠璃ちゃんの声だった。
 ドアを開ければ、湖瑠璃ちゃんの他に、晶さんと、アンドロイドの沙由理さんも。
「三人揃って どうしたの?」
「どうしたの ではありません。お兄さま、最近 お姉さまとお話も出来ていないではありませんか。お姉さま、寂しそうにしていますよ」
「いや、それは、学園祭の準備で忙しくて」
「言い訳 無用です。このままでは、お兄さまが わたしの 義兄さまになる日が訪れなくなってしまうかと、危惧して参上した次第です。というわけで、上がらせていただきます」
「アタシも失礼しやす」
「お邪魔します」
 と 三人は了承も得ずに上がってきた。
 そして 俺の部屋に到着すると、湖瑠璃ちゃんは、
「さて、では 早速 エロ本を探しましょう。晶さん、お兄さまを捕まえておいてください」
「わかりやした」
「ちょーっ! 湖瑠璃ちゃん! 止めて! お願いだから 止めて! 止めろー!」


 で、発見された。


「まあまあ、こんな特殊な趣味まで。中々 楽しそうですね」
 俺の秘蔵のコレクションは 三人にじっくり見られてしまった。
 シクシク。
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