悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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65・白金の剣士

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 休み時間になって、球竜 宮が話しかけてきた。
「なんか、なし崩し的に文化祭委員になっちゃったね」
「上永先生の事は気にしない方が良い。いつもあんな感じだから」
「ハハハ……そうなんだ」
「まあ、なったものはしかたない。一緒に頑張ろう」
「そうだね。一緒にガンバロ」
 ふと、俺の背中から、誰かが裾を引っ張っていた。
 まさか、心霊現象?
 そんなわけはなく、セルニアだった。
「あの、球竜さんと なんだか親しげですが、お知り合いなのですか?」
「実はピアノコンクールの時に知り合ったんだ」
 俺がセルニアに答えると、宮がセルニアの気付いて驚きの声を上げた。
「って、吉祥院さん!? なんで 吉祥院さんまで?
 あ、なるほど、クラスメイトね。吉祥院さんも この学校だったんだ。ビックリー。てっきり お嬢さま学校に通ってると思ってたんだけど。
 だから 君、ロンドンに応援に来てたのか。クラスメイト代表だったわけね」
 俺がロンドンに来たことを、クラス代表だと思ったようだ。


 セルニアは淑女の礼を取ると、
「球竜 宮さん。わたくしも貴方のことは注目しておりましたわ。貴方のピアノの音色は元気の一言。太陽の如き輝きを放っている。
 貴方とお近づきになれて光栄ですわ」
「こちらこそ 光栄だよ。吉祥院さんのことは ずっと注目してた。優雅な音色を響かせる魂の高貴さを現しているって。
 改めて自己紹介するね。わたし、球竜 宮。よろしくね」
「わたくしは 吉祥院・セルニア・麗華。よろしくお願いします」


 そして セルニアは俺に、
「ところで、お二人は どのように お知り合いになったのでしょうか?」
「実はコンクールの時、楽譜を貸してくれたの、係の人じゃなくて、宮なんだ」
「まあ、そうでしたの」
「コンクールの時は集中して欲しくて、嘘 吐いた。ごめん」
「いえ、かまいません」
 そしてセルニアは改めて宮に礼を取る。
「貴方のおかげで助かりましたわ。本当にありがとうございます」
「いいって いいって」
「貴方は素晴らしい人格者なのですね。敵に塩を送るなど、中々出来ることではありません」
 宮は照れ始め、
「いやー、そこまで褒められると まんざらでもないなー。えへへへ」
 セルニアは手をポンと叩くと、
「そうですわ。お礼に わたくしが学校を案内しましょう」
「えー、吉祥院さんが学校案内してくれるのー。ありがとー」
 と言う感じで、話が弾んでいた。


 俺は拍子抜けした。
 セルニアと宮は、対立するどころか、完全に仲良くなっている。
 これなら大丈夫なんじゃないか。
 もちろん、まだ油断は出来ないけど。


 そして放課後、俺とセルニアで学校案内を始めた。
 まずは食堂。
 セルニアは素敵な笑顔で解説する。
「この食堂は とても美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまうのですわ」
「へー、そんなに美味しいんだ」
 セルニアは不自然なまでに素敵な笑顔で解説する。
「わたくしは そのせいで体重計に乗るのが怖くなるほどですわ」
「……へー、そうなんだ」
 セルニアはとにかく不自然なまでに素敵な笑顔で勧める。
「というわけで、球竜さんも ぜひ この食堂を利用してください」
「……吉祥院さん、なんか道連れにしようとしてない?」


 音楽室にて。
 宮はグランドピアノを観て感嘆の声を上げる。
「すごい、これ有名ピアノメーカーの作った、一台一千万はする奴じゃない」
 何気なく音楽室に置かれていたけど、そんなに凄い物だったのか。
「良ければ一曲 弾かれてみては」
「え? いいの? やるやる」
 セルニアの薦めで、宮は席に座ると、アップテンポな音楽を奏で始めた。
 なんとなくリズムに乗りたくなるような、常夏の楽園にいるような。
 セルニアが賞賛する。
「やはり素晴らしい。ピアノはその人の内面、その人の心情が色濃く出る物なのですわ。球竜さんは太陽のような人。それが現れていますわ」
 セルニアは宮のことを全面的に肯定しているかのよう。
 やっぱり、悪役令嬢になる気配などまるでない。


「ふー、久し振りに思いっきり弾けてスッキリしたー。ねえ、次は吉祥院さんが弾いてみて」
「わかりましたわ」
 セルニアが奏で始めると、音楽室はどこかの王族の宮殿に居るかのような雰囲気になる。
 宮はうっとりとした表情で、
「やっぱり、吉祥院さん、凄い。レベルの差を感じずにはいられない。
 でも、いつか超えてみせる。それに目標は身近にあった方が燃えるしね」
 と、宮は改めてライバル宣言したのだった。


 そして 宮は、チェスクラブの見学がしたいと言ってきた。
 チェスクラブの人たちは、松陽高校の女神であるセルニアが来て、なにやら感激している。
 さて、宮が なぜ チェスクラブに興味があるのかというと、
「実は趣味でチェスをやってるの」
 体を動かすことが好きそうな、元気いっぱいの宮にも、知的なゲームに興じる趣向があるのか。
 意外な一面という奴だ。
「本土の人と、ネットで遠隔対戦やってるの。相手は白金の剣士って人で、私は元気一番空手娘ってハンドルネームなんだけど」
 あれ?
 その名前、前にも聞いたことがあるような……
 セルニアが驚きの声を上げる。
「貴方が元気一番空手娘さんでしたの!?」
 宮はビックリして、
「うえ? なにが?」
「わたくしですわ! わたくしが白金の剣士ですわ!」
「ええぇー!? 吉祥院さんが白金の剣士!?」
 長年、顔も知らずに対戦してきた宿命の対戦者が、偶然にも出会った瞬間だった。


 チェスクラブの人たちは、何も言わずに、チェスを手早くセッティングすると、二人に椅子を勧めた。
「どうぞ、吉祥院さま」
「どうぞ、転入生どの」
 二人は無言で座ると、一言。
「「スピードチェスで」」


 今まで ネット対戦しかしてこなかった二人が、今 初めて、顔を合わせて対戦するのだった。
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