悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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59・うきゅーん

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 猪鹿蝶 晶さんがパーティーを進行させる。
「プログラム一番。プレゼント贈呈を行います。整理券をお取りになり、席でお待ちください」
 セルニアに直接プレゼントを渡そうとする人は五百人くらい。
「お姉さまに気に入られたいという方は多いので」
 俺も整理券を受け取ったが、番号は四百八十番。
 のんびり待つか。
 湖瑠璃ちゃんが少し意地悪な笑みで、
「うふふふ。私が少し細工するように言って、お兄さまの順番を後にしました」
「なんで また そんなことを?」
「大勢の人からプレゼントを受け取る場合、始めの人より、後の人のほうが印象に残りやすいんですよ。つまり、お姉さまに好印象を持たれやすいと言うことです。
 お兄さまのために一肌脱いだのですよ。感謝してくださいね」
「わかったよ、湖瑠璃ちゃん。ありがとう」
 俺は湖瑠璃ちゃんの頭をなでなでした。
「うきゅーん」
 湖瑠璃ちゃんは変な声を上げて、嬉しそうな笑顔で撫でられていた。
 その変な声になんとなく前世の妹を思い出した。
 あいつも頭を撫でると変な声を出したものだった。
 女の子って、頭を撫でるとみんな変な声を出す物なのだろうか。
 そんなことを思った。


 さて、豪華な椅子に座るセルニアに、まるで王女に仕える家臣のように贈り物をする人たち。
「グッチの新作バッグです。お出かけのさいのお洒落に最適ですよ」
「ロイヤルオークの新作腕時計です。ベゼルにダイアモンドを敷き詰めております」
「キングパールのネックレスです。ドレスにマッチするかと」 
「ロールスロイスの特別仕様車です。お出かけにお使いください」
「クルーザーです。海でのバカンスにどうぞ」
「セスナ機です。空の旅は素敵ですよ」
「アルプスに別荘を用意しました。ロングバケーションにどうぞ」
 一人のキザったらしい若い男が鼻で笑った。
「そんな貧相なプレゼントでは麗華さんに失礼ですよ。僕からは中東の油田を用意しました。従業員五百名をオプションとして着けています」
 セルニアはそれら全てに笑顔で受け取っていた。
「みなさん、ありがとうございます」


 プレゼントはどれも凄まじいが、セルニアの反応はあきらかに事務的。
 笑顔ではあるが、それが作り物であると分かる。
「方向性を間違えてるって、俺でも分かるな。セルニアは金をかけた物をプレゼントしても喜ばない。心のこもった物を喜ぶ」
 湖瑠璃ちゃんは
「さすがはお兄さま。お姉さまの心をわかってますね」


 で、長いこと待って自分の番。
 階段を上がると、雪華さんが笑顔で挨拶してくれた。
「よく来てくださったわね。歓迎するわ」
 そしてお父さんが、俺に握手を求めてきた。
「ふん。よく来たな。歓迎しよう」
「ど、どうも」
 俺が握手に応じると、その手には異様に力が込められていた。
 うん、予想は付いてたけど、けっこうイタいです。


 そして周囲が、握手をしている俺たちを見ると、ザワザワとしだした。
「あの男は何者だ? 会長が自ら握手を求めたぞ」
「雪華氏も気に入っているようだ」
「いったいどこの企業の者だ? 見たことがない」
「なにかのプロジェクトを売り込むつもか?」
「今すぐ調査しろ」
 なにか全力で誤解されているけど、まあ放っておこう。
 俺は大物ラッパー。
 細かいことは気にしない。
 気になるのは、お父さんの握力です。
 マジでイタイ。


 最初に湖瑠璃ちゃんがプレゼントを渡す。
「お姉さま、誕生日 おめでとうございます」
「ありがとう、セシリア」
 リボンが付けられたパッケージを見てセルニアの瞳は喜色に満ちる。
「まあ、これは 鬼殺の剣の主人公の限定版フィギア。もう入手不可能と言われていたのに。さすがは わたくしの妹ですわ」


 周囲はまたもやザワザワと騒ぎ出す。
「なんだ? 湖瑠璃さまはなにをプレゼントされたんだ?」
「人形のようだが?」
「貴重なアンティークドールか?」
「やはり、妹さま。麗華さまの心を知り尽くしておられる」
「将をいるには馬から。湖瑠璃さまから取り入るべきだったか」


 周りがやはり誤解しているけど、まあ とにかくどうでも良いので放っておこう。
 そして次は俺。
「セルニア、誕生日おめでとう」
 俺がセルニアとミドルネームで呼ぶと、周囲がどよめき立った。
「あの男は本当に何者なんだ? 麗華さまをミドルネームで呼んだぞ」
 ああ、そう言えば、吉祥院家では ミドルネームで呼ぶのは、特別な人間だけだったんだ。
 なんか物凄い注目されてるけど、とにかくプレゼントを渡そう。
「これ、プレゼント」
「ありがとうございます」
 俺は小さな箱に入った、ピアノを模したオルゴールを渡す。
「ありがとうございます。貴方らしい、素敵な贈り物ですわ」
 セルニアの笑顔は、今までとは違う、本当の喜びの笑顔だった。


 油田をプレゼントした優男が愕然としていた。
「なぜだ? どうして あんな冴えない男がプレゼントした、あんな物で、麗華さんは喜んでいるんだ?」
 まあ、理解できないだろうな。


 そして、俺たちの次が、藤守竜一だった。
 人気若手俳優、藤守竜一はセルニアに何をプレゼントするんだろう?
「麗華さん、誕生日 おめでとう」
「ありがとうございます」
「これが俺からのプレゼント」
 藤守竜一は一枚の色紙をセルニアに渡した。
 それを見ると、セルニアは思いっきり声を上げた。
「んまぁあああああー!!」
 会場はセルニアの その声にビックリする。
 なんだ?
 藤守竜一はセルニアに何をプレゼントしたんだ?
「こ、こ、これは!? 鬼殺の剣 原作者 イラスト入りサイン色紙!」
「俺、脇役だけど、鬼殺の剣のアニメで声優もやってさ。その時、原作者に挨拶してね。それで、麗華さんの誕生日も近いし、プレゼントにサインはどうかなーって思って、先生にお願いしたんだ。快く承諾してくれたよ」
「わ!わ!わ! わたくしの名前も書いてありますわ! 先生がわたくしのためにイラストをー! 藤守さん! ありがとうございます! ありがとうございますですわー!! オホホ! オホホホ! オーッホッホッホッホッホ!」


 セルニアのあまりの喜びっぷりに、事情を知らない周囲のみんなは、ポカーンとしていた。


「湖瑠璃ちゃん、プレゼントって、後に貰った方が印象に残りやすいとかって言ってたよね」
「……はい、言いました」
「あの様子じゃ、俺のプレゼント、完璧に忘れてるね」
「なんというか、申し訳ありません」
「いや、湖瑠璃ちゃんのせいじゃないから。ハハハ……」


 そんな感じで、プレゼント贈呈は終わった。
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