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48・殺滅死
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「で、あるからして、夏季自宅講習の気分を引きずっとらんと、気持ちを切り替え、勉学にスポーツに励み、なおかつボランティアなど社会貢献精神を忘れず、そして一年半後に迫った受験の準備を万全に整え……」
学年主任の要領を得ない長々とした訓示を聞き流す。
「そもそも 最近の若もんはなっとらん。こういったことは日頃の努力が物を言うのだ。にもかかわらず、努力もせずに簡単に成功を手にしようと甘い考えを持っている者が非常に多い。
だから日本経済は衰退の一途を辿り、我が家の家計にまで及び、そして私の小遣いが五千円と言うことになるのだ。
五千円とはなんだ!? 子供の小遣いじゃあるまいし、あり得ないだろう。こんな額ではみんなと飲みに行くこともできないではないか。それも これも 貴様らがしっかりしないからだ!」
どんどん横道にそれていく。
見かねて他の先生が止めに入った。
「わかりましたから、あの、その辺で次に……」
「いや! 私にはまだ言ってやりたいことがあるのだ!」
「それは 次の飲み会にでも聞きますから」
「その 飲み会に行けないという話をしているのではないか!」
「あー もう。五人衆!」
「「「「「オスッ!」」」」」
松陽高校 武闘派 五人衆が呼ばれて、学園主任を力尽くで壇上から引きずり下ろす。
「は! 離せ! 私が どれほど苦労しているかを聞かせてやらねば!」
こうして学年主任は退場していった。
次、校長先生のお話。
松陽高校 達人代表、悟道校長。
年齢は初老。
細身だが鍛えられた体つきをしていて、古流剣術の師範の資格を持っているとか。
長い白髪を頭の後ろに束ねていて、落ち着いた色合いの袴装束は、悟りきった達人の侍そのもの。
高畑くんのようなロリコン侍とは格が違う。
雰囲気からしてただ者ではない。
穏やかで、優しげで、心安らぎ、それなのに一分の隙も無い。
その悟道校長が穏やかな声で語る。
「次は夏休みの間に活躍した生徒の表彰式に入る」
表彰状を手に名前を呼ぶ。
「神田 大輔くん。県 将棋大会 三位。一度、わしと手合わせしてみよう。
桜木 春香さん。全国 華道コンクール 銅賞受賞。今度、わしの部屋にも飾ってほしい。
川上 一郎くん。町内 相撲大会 優勝。一度、鍛錬法を教えてほしいものだ」
次々と表彰されていく。
夏休みの間 みんな頑張ってたんだな。
俺はというと、アンドロイドが家電製品並みに普及した近未来のデトロイトを冒険していた。
そして セルニアが呼ばれた。
「吉祥院・セルニア・麗華さん。日本フェンシング大会一位。世界マーシャルアーツ大会女子ジュニア部門三位。日本絵画展銀賞受賞。ロンドン国際クラシックピアノコンクール優勝。おめでとう」
「ありがとうございます」
数々の表彰を受け取る。
「そして これが、絵画展で銀賞に入った絵だ」
壇上に展示された大きめの絵。
抽象画だった。
絵画に疎い俺には いったい なんの表現をしているのか分からないが、セルニアなりの感性なのだろう。
悟道校長が簡単な解説をする。
「写実展で、このような抽象的で斬新な絵を発表されたことが評価されたそうだ」
セルニアは疑問符を浮かべていそうな表情で首を傾げる。
「そうなのですわ。おかしいですわね? わたくし精緻に花を描いたつもりだったのですが」
……
そういえば、セルニアって絵が下手だった。
たぶん、本人は心底 疑問に思っている。
「さて、ここで吉祥院さんにピアノを一曲弾いて貰いましょう」
セルニアは壇上のグランドピアノを弾き始めた。
細い指は穏やかで優雅に、それでいて力強く盤上を舞う。
その旋律は素晴らしく、みなが聞き入っていた。
曲が終わり、余韻に浸る静寂。
そしてセルニアが立ち上がり、一礼すると、拍手の嵐が起こった。
「ブラヴォー!」
「素敵ー!」
「結婚してくれー!」
様々な声が上がる中、ふと セルニアと俺は視線が合った。
セルニアは俺に微笑むと、控えめに俺に手を振った。
俺は ニヤけて手を軽く振り返した。
ああ、なんか いいなぁ、こういうの。
そこで、再び体育館が静寂に静まりかえった。
「なに あの男?」
「なんで 吉祥院さん、あの男に微笑んでるの?」
「あの男のニヤけづら、ムカつくぜ」
やべぇ。
全校生徒の前で セルニアとイチャついたも同然のことをしちまった。
「「「「「殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死殺滅死」」」」」
悟道校長が微笑ましそうに呟いた。
「ふっ。若さよのう」
学年主任の要領を得ない長々とした訓示を聞き流す。
「そもそも 最近の若もんはなっとらん。こういったことは日頃の努力が物を言うのだ。にもかかわらず、努力もせずに簡単に成功を手にしようと甘い考えを持っている者が非常に多い。
だから日本経済は衰退の一途を辿り、我が家の家計にまで及び、そして私の小遣いが五千円と言うことになるのだ。
五千円とはなんだ!? 子供の小遣いじゃあるまいし、あり得ないだろう。こんな額ではみんなと飲みに行くこともできないではないか。それも これも 貴様らがしっかりしないからだ!」
どんどん横道にそれていく。
見かねて他の先生が止めに入った。
「わかりましたから、あの、その辺で次に……」
「いや! 私にはまだ言ってやりたいことがあるのだ!」
「それは 次の飲み会にでも聞きますから」
「その 飲み会に行けないという話をしているのではないか!」
「あー もう。五人衆!」
「「「「「オスッ!」」」」」
松陽高校 武闘派 五人衆が呼ばれて、学園主任を力尽くで壇上から引きずり下ろす。
「は! 離せ! 私が どれほど苦労しているかを聞かせてやらねば!」
こうして学年主任は退場していった。
次、校長先生のお話。
松陽高校 達人代表、悟道校長。
年齢は初老。
細身だが鍛えられた体つきをしていて、古流剣術の師範の資格を持っているとか。
長い白髪を頭の後ろに束ねていて、落ち着いた色合いの袴装束は、悟りきった達人の侍そのもの。
高畑くんのようなロリコン侍とは格が違う。
雰囲気からしてただ者ではない。
穏やかで、優しげで、心安らぎ、それなのに一分の隙も無い。
その悟道校長が穏やかな声で語る。
「次は夏休みの間に活躍した生徒の表彰式に入る」
表彰状を手に名前を呼ぶ。
「神田 大輔くん。県 将棋大会 三位。一度、わしと手合わせしてみよう。
桜木 春香さん。全国 華道コンクール 銅賞受賞。今度、わしの部屋にも飾ってほしい。
川上 一郎くん。町内 相撲大会 優勝。一度、鍛錬法を教えてほしいものだ」
次々と表彰されていく。
夏休みの間 みんな頑張ってたんだな。
俺はというと、アンドロイドが家電製品並みに普及した近未来のデトロイトを冒険していた。
そして セルニアが呼ばれた。
「吉祥院・セルニア・麗華さん。日本フェンシング大会一位。世界マーシャルアーツ大会女子ジュニア部門三位。日本絵画展銀賞受賞。ロンドン国際クラシックピアノコンクール優勝。おめでとう」
「ありがとうございます」
数々の表彰を受け取る。
「そして これが、絵画展で銀賞に入った絵だ」
壇上に展示された大きめの絵。
抽象画だった。
絵画に疎い俺には いったい なんの表現をしているのか分からないが、セルニアなりの感性なのだろう。
悟道校長が簡単な解説をする。
「写実展で、このような抽象的で斬新な絵を発表されたことが評価されたそうだ」
セルニアは疑問符を浮かべていそうな表情で首を傾げる。
「そうなのですわ。おかしいですわね? わたくし精緻に花を描いたつもりだったのですが」
……
そういえば、セルニアって絵が下手だった。
たぶん、本人は心底 疑問に思っている。
「さて、ここで吉祥院さんにピアノを一曲弾いて貰いましょう」
セルニアは壇上のグランドピアノを弾き始めた。
細い指は穏やかで優雅に、それでいて力強く盤上を舞う。
その旋律は素晴らしく、みなが聞き入っていた。
曲が終わり、余韻に浸る静寂。
そしてセルニアが立ち上がり、一礼すると、拍手の嵐が起こった。
「ブラヴォー!」
「素敵ー!」
「結婚してくれー!」
様々な声が上がる中、ふと セルニアと俺は視線が合った。
セルニアは俺に微笑むと、控えめに俺に手を振った。
俺は ニヤけて手を軽く振り返した。
ああ、なんか いいなぁ、こういうの。
そこで、再び体育館が静寂に静まりかえった。
「なに あの男?」
「なんで 吉祥院さん、あの男に微笑んでるの?」
「あの男のニヤけづら、ムカつくぜ」
やべぇ。
全校生徒の前で セルニアとイチャついたも同然のことをしちまった。
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「ふっ。若さよのう」
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