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47・アバンチュール
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怒濤の夏休みが終わった。
久し振りの教室でクラスメイトたちが夏休みのことを話している。
海はどうだったとか、山でのキャンプの話とか。
男子も女子も恋人ができたと騒ぎ、一部は宿題を移させてくれと騒いでいる。
そんな夏休みが終わった後の教室の朝の風景。
俺は三バカトリオと一緒だった。
松陽高校チャラ男代表 五十嵐 武士が自慢げに語る。
「俺はなぁ、海でぇ、ついに百人切りを達成してやったぜぇ。どうだぁ、俺がおまえらに女の扱い方ってもんを教えてやるぜぇ」
嘘だな。
この雰囲気で、振られたのが百人目だというのが分かる。
そして松陽高校ロリコン代表 高畑くんが何やら嘆いていた。
「夏休みは実家の田舎に帰省していたのでござるが、そこの親戚の子が未だに懐いてくれないのでござる」
「ロリコンだって見抜かれたからだろ」
と 俺が言うと、
「いや、男の子でござる。拙者、ロリコンでござるがショタコンではござらん。しかしながら、親戚の年下の男の子に、お兄ちゃんと 慕われることに密かな憧れがあるのでござる」
「それ、ショタの気があるんだと思うぞ」
俺が突っ込むが、高畑くんは気にせずに、
「こうなれば、奥の手にして諸刃の剣。種なしスプーン曲げを見せるときか」
「止めとけ。それをやったら二度と会ってくれなくなるから」
そして松陽高校オタク代表 朝倉 海翔が俺に、
「コミケは楽しかった?」
と聞いてきて、驚いた。
「なんで知ってる!?」
「僕もコミケに行ってたからに決まってるじゃないか。一緒にいるところを見かけたんだよ。僕に付き合ってくれないと思ったら、そういうことだったんだね。言ってくれれば良いのに」
ハッキリとは言わないが、セリフから察するに、セルニアと一緒にいたのも目撃している。
「あー、海翔。俺たちがどのサークルに行ったかは……」
「そこまでは見てないけど。お邪魔虫になったりしちゃ悪いから、話しかけないでおいたんだけど。僕も購入する物 たくさんあったし」
「そうか。じゃあ、俺たちがコミケに行ったことはだな……」
「わかってるよ。秘密にしてあげる。ファンクラブがどうするかわからないしね」
どうやら秘密は守ってくれるようだ。
教室にセルニアが入ってきた。
「ごきげんよう」
「おはよう、セルニア」
夏休みじゃセルニアと色々あった。
メン・イン・ブラックに拉致されてロンドンでセルニアのピアノコンクール。
セルニア、異世界の王女さまのように綺麗だった。
そういえば、褐色美少女の球竜 宮。
今頃 何してるだろう?
コミケ前には、伊藤 春樹さんと猪鹿蝶 晶を追跡するミッション。
意外な事実が判明したのだった。
そして夏コミ。
さらにセルニアの家出にお泊まり会。
翌日にはお父さんの襲撃。
セルニアと湖瑠璃ちゃんのお母さん、雪華さんとのファーストコンタクト。
そして俺はセルニアと小学生時代に、すでに出会っていたことに関して、全身全霊で秘密にする。
なお セルニアの部屋にお邪魔したその日、吉祥院 権造さんと雪華さんとお話をした。
セルニアが俺に伝える。
「お父さまが また貴方に来て欲しそうですわ」
あの日、吉祥院 権造さんは ブランデーを片手に、男の哲学を語り、素手でヒグマを倒した武勇伝などを語って聞かせた。
「貴様は中々見所がある。これからも指導してやろう」
断固拒否の構えをとりたかったが、そんなことしようもんなら、クマ殺しが炸裂する。
「お母様もお父様も、なにかあったら貴方を呼びなさいと言っておられました。貴方のことをとても気に入られたようですわ」
俺は権造さんから逃れられないらしい。
「そうそう、今日のお昼ですが……」
セルニアが俺に何かを伝えようとした時、セルニアを崇拝する三人娘が間に入ってきた。
以前、セルニアが音楽室でピアノを弾いていたときに、聞き入っていた取り巻きである。
「きゃー、吉祥院さまー。お久しぶりですー」
「ロンドンでピアノコンクールがあったって聞きました」
「……お元気そうで何よりです……」
俺とセルニアの間に入ると、
「ちょっと あんた邪魔!」
「グボォッ」
肘を入れて俺を押しのけた。
「それでー、ピアノコンクールはどうでした?」
「吉祥院様なら優勝して当然です」
「……ぶっちぎりで優勝……」
そういえば、セルニアってこういうポジションだった。
松陽高校の女神。
ファンクラブの人数は三桁。
俺はセルニアの庶民的な面を知ったから、親近感が沸いて忘れかけていたけど、超が付くほどの高嶺の花と扱われていたんだった。
それに引き換え俺は、花にまとわりつくゴミ虫。
排除対象として扱われている。
シクシク……
「それにしてもー、吉祥院様、夏休み前より綺麗になった感じがします」
「そうですね。前よりも美しさに磨きがかかった感じです」
「……キレイです。吉祥院様……」
「そ、そんなことは……」
返答に困るセルニア。
「もしかしてー、夏休みの間に何かあったんですか?」
「人生を変えちゃう一夏の経験」
「……アバンチュール……」
「って そんなことあるわけないですよねー」
セルニアは俺のほうを ちらっと見ると、
「その、あったといえば、あったと言えるかも知れませんわ」
クラスの視線が一斉に集まった。
セルニアはモジモジしながら、
「楽しかったこと。緊張したこと。苦しかったこと。新しい世界を知ったこと。初めての経験。
でも、詳しいことは秘密ですわ」
と、俺のほうをまた ちらっと見たのだった。
……
うん、間違ってない。
間違ってないけど、思いっきり誤解される言い方です それ。
「「「…………」」」
クラスに沈黙が流れた。
そして次の瞬間、取り巻き三人が俺に刃の視線を向けた。
「「「殺殺殺ッッッ」」」
逃げよう。
俺は全力逃走の態勢に入ると、上永先生が入ってきた。
「ちょっとぉ、なんの騒ぎぃ。ホームルームの時間よぉ。席についてぇ」
「ホームルームは俺抜きでやってください。俺は ほとぼりが冷めるまで夏休みを延長しますから」
「わけの分からないこと言ってないでぇ、席に着きなさぁい」
三人娘は上永先生を見ると静かになった、
「今は上永先生に免じて見逃しましょう」
「しかし、次はありません」
「……暗殺リスト トップ……」
俺は夏休み明け早々、命の危険にさらされることになった。
「さぁーて、みんな 夏休みの間は元気にしてたぁーん。先生は元気だったわよぉーん。美味しい物 たぁっくさん食べてたのぉーん」
そう、俺の家でな。
上永先生、マジで夏休みの間、俺の家に居座りやがった。
ダメ人間にもほどがあるだろ。
「ホームルームが終わったらぁ、体育館で全校集会があるわよぉーん。イヤミな学年主任の ありがたいとか言ってるけど 社会に出ても全く役に立たない 訓示とか 延々と聞かされるからぁ、今のうちに覚悟しておいてねぇーん」
上永先生、学年主任のこときらいなんだな。
続く……
久し振りの教室でクラスメイトたちが夏休みのことを話している。
海はどうだったとか、山でのキャンプの話とか。
男子も女子も恋人ができたと騒ぎ、一部は宿題を移させてくれと騒いでいる。
そんな夏休みが終わった後の教室の朝の風景。
俺は三バカトリオと一緒だった。
松陽高校チャラ男代表 五十嵐 武士が自慢げに語る。
「俺はなぁ、海でぇ、ついに百人切りを達成してやったぜぇ。どうだぁ、俺がおまえらに女の扱い方ってもんを教えてやるぜぇ」
嘘だな。
この雰囲気で、振られたのが百人目だというのが分かる。
そして松陽高校ロリコン代表 高畑くんが何やら嘆いていた。
「夏休みは実家の田舎に帰省していたのでござるが、そこの親戚の子が未だに懐いてくれないのでござる」
「ロリコンだって見抜かれたからだろ」
と 俺が言うと、
「いや、男の子でござる。拙者、ロリコンでござるがショタコンではござらん。しかしながら、親戚の年下の男の子に、お兄ちゃんと 慕われることに密かな憧れがあるのでござる」
「それ、ショタの気があるんだと思うぞ」
俺が突っ込むが、高畑くんは気にせずに、
「こうなれば、奥の手にして諸刃の剣。種なしスプーン曲げを見せるときか」
「止めとけ。それをやったら二度と会ってくれなくなるから」
そして松陽高校オタク代表 朝倉 海翔が俺に、
「コミケは楽しかった?」
と聞いてきて、驚いた。
「なんで知ってる!?」
「僕もコミケに行ってたからに決まってるじゃないか。一緒にいるところを見かけたんだよ。僕に付き合ってくれないと思ったら、そういうことだったんだね。言ってくれれば良いのに」
ハッキリとは言わないが、セリフから察するに、セルニアと一緒にいたのも目撃している。
「あー、海翔。俺たちがどのサークルに行ったかは……」
「そこまでは見てないけど。お邪魔虫になったりしちゃ悪いから、話しかけないでおいたんだけど。僕も購入する物 たくさんあったし」
「そうか。じゃあ、俺たちがコミケに行ったことはだな……」
「わかってるよ。秘密にしてあげる。ファンクラブがどうするかわからないしね」
どうやら秘密は守ってくれるようだ。
教室にセルニアが入ってきた。
「ごきげんよう」
「おはよう、セルニア」
夏休みじゃセルニアと色々あった。
メン・イン・ブラックに拉致されてロンドンでセルニアのピアノコンクール。
セルニア、異世界の王女さまのように綺麗だった。
そういえば、褐色美少女の球竜 宮。
今頃 何してるだろう?
コミケ前には、伊藤 春樹さんと猪鹿蝶 晶を追跡するミッション。
意外な事実が判明したのだった。
そして夏コミ。
さらにセルニアの家出にお泊まり会。
翌日にはお父さんの襲撃。
セルニアと湖瑠璃ちゃんのお母さん、雪華さんとのファーストコンタクト。
そして俺はセルニアと小学生時代に、すでに出会っていたことに関して、全身全霊で秘密にする。
なお セルニアの部屋にお邪魔したその日、吉祥院 権造さんと雪華さんとお話をした。
セルニアが俺に伝える。
「お父さまが また貴方に来て欲しそうですわ」
あの日、吉祥院 権造さんは ブランデーを片手に、男の哲学を語り、素手でヒグマを倒した武勇伝などを語って聞かせた。
「貴様は中々見所がある。これからも指導してやろう」
断固拒否の構えをとりたかったが、そんなことしようもんなら、クマ殺しが炸裂する。
「お母様もお父様も、なにかあったら貴方を呼びなさいと言っておられました。貴方のことをとても気に入られたようですわ」
俺は権造さんから逃れられないらしい。
「そうそう、今日のお昼ですが……」
セルニアが俺に何かを伝えようとした時、セルニアを崇拝する三人娘が間に入ってきた。
以前、セルニアが音楽室でピアノを弾いていたときに、聞き入っていた取り巻きである。
「きゃー、吉祥院さまー。お久しぶりですー」
「ロンドンでピアノコンクールがあったって聞きました」
「……お元気そうで何よりです……」
俺とセルニアの間に入ると、
「ちょっと あんた邪魔!」
「グボォッ」
肘を入れて俺を押しのけた。
「それでー、ピアノコンクールはどうでした?」
「吉祥院様なら優勝して当然です」
「……ぶっちぎりで優勝……」
そういえば、セルニアってこういうポジションだった。
松陽高校の女神。
ファンクラブの人数は三桁。
俺はセルニアの庶民的な面を知ったから、親近感が沸いて忘れかけていたけど、超が付くほどの高嶺の花と扱われていたんだった。
それに引き換え俺は、花にまとわりつくゴミ虫。
排除対象として扱われている。
シクシク……
「それにしてもー、吉祥院様、夏休み前より綺麗になった感じがします」
「そうですね。前よりも美しさに磨きがかかった感じです」
「……キレイです。吉祥院様……」
「そ、そんなことは……」
返答に困るセルニア。
「もしかしてー、夏休みの間に何かあったんですか?」
「人生を変えちゃう一夏の経験」
「……アバンチュール……」
「って そんなことあるわけないですよねー」
セルニアは俺のほうを ちらっと見ると、
「その、あったといえば、あったと言えるかも知れませんわ」
クラスの視線が一斉に集まった。
セルニアはモジモジしながら、
「楽しかったこと。緊張したこと。苦しかったこと。新しい世界を知ったこと。初めての経験。
でも、詳しいことは秘密ですわ」
と、俺のほうをまた ちらっと見たのだった。
……
うん、間違ってない。
間違ってないけど、思いっきり誤解される言い方です それ。
「「「…………」」」
クラスに沈黙が流れた。
そして次の瞬間、取り巻き三人が俺に刃の視線を向けた。
「「「殺殺殺ッッッ」」」
逃げよう。
俺は全力逃走の態勢に入ると、上永先生が入ってきた。
「ちょっとぉ、なんの騒ぎぃ。ホームルームの時間よぉ。席についてぇ」
「ホームルームは俺抜きでやってください。俺は ほとぼりが冷めるまで夏休みを延長しますから」
「わけの分からないこと言ってないでぇ、席に着きなさぁい」
三人娘は上永先生を見ると静かになった、
「今は上永先生に免じて見逃しましょう」
「しかし、次はありません」
「……暗殺リスト トップ……」
俺は夏休み明け早々、命の危険にさらされることになった。
「さぁーて、みんな 夏休みの間は元気にしてたぁーん。先生は元気だったわよぉーん。美味しい物 たぁっくさん食べてたのぉーん」
そう、俺の家でな。
上永先生、マジで夏休みの間、俺の家に居座りやがった。
ダメ人間にもほどがあるだろ。
「ホームルームが終わったらぁ、体育館で全校集会があるわよぉーん。イヤミな学年主任の ありがたいとか言ってるけど 社会に出ても全く役に立たない 訓示とか 延々と聞かされるからぁ、今のうちに覚悟しておいてねぇーん」
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