悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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39・B級グルメ

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 次の日、セルニアは伊藤 春樹さんと猪鹿蝶 晶さんを部屋に呼んだ。
 俺と湖瑠璃ちゃんもいる。
「休日なのに呼んだりしてすみません。しかし、どうしても お話ししなければならない、大切なことがあるのですわ」
 セルニアは真剣な表情で、そう切り出した。
「アタシらに大切な話ですか?」
「それはなんでやしょう」
 二人にセルニアは告げる。
「単刀直入に言います。お二人は、結婚するべきだと思います」
「アッシらが結婚ですか?」
 春樹さんが首を傾げ、続いて猪鹿蝶さんも、
「それは なぜでやしょうか?」
「実は昨日、わたくしたちは お二人のことを尾行していました」
 春樹さん当然のように、
「ええ、それは気付いておりやした」
「え?」
 セルニアが疑問符で返すと、続けて猪鹿蝶さんも、
「トランシーバー片手に、なにやら金属の歯車ごっこをしておられやした」
 完全にバレていた。
 この二人は何者なんだ?
 数々のスニーキングミッションを完遂した俺の尾行を見破るとは。
 いや、その疑問は後回し。
 今は二人の幸せの話だ。
「それで、アッシらを尾行していたことと、結婚がどう繋がるのでやしょう?」
 セシリアは気を取り直して、
「わたくしたちは、お二人の入った店の傾向から推理し、ある結論に達しました。
 あなたたちに子供ができたと。子宝を授かったのだと。
 ぬいぐるみショップ。ペットショップ。そして ベビー&マタニティ グッズ ショップ。とどめに ブライダルショップ。
 全て赤ちゃんと結婚に関わるお店です。
 あなたたち二人に子宝が授かり、結婚を考えた。
 しかし わたくしは、あなたたちは このままでは結婚しないだろうと考えました」
 その理由を、セルニアが説明すると、二人は納得した様子。
「そうでやしたか。そこまでアタシらのことを思ってくださっていたのでやすか」
「アッシら共々、感無量の思いでやす」
 そして湖瑠璃ちゃんが、
「わたしも二人は結婚するべきだと思います。吉祥院家のために子供を手放すなんていけません。子供のために幸せになってください」
「俺もそう思います。二人が自分たちの幸せを犠牲にしても、吉祥院家の誰も喜んだりしません」
 猪鹿蝶さんは涙ぐみ、
「みなさんの想い。この 猪鹿蝶 晶、しかと感じ取っていやす。
 しかし……しかしながら」
 春樹さんと猪鹿蝶さんは同時に言った。


「「全部 誤解でやす」」


「「「え???」」」
 セルニアは少し動揺して、
「あ、あの、誤解とはどういうことですか?」
 春樹さんが答える。
「あれらの店は、猪鹿蝶組員の一人ができちゃった婚することになったので、それでその手伝いをしていたのでやす」
「生まれてくる赤ちゃんの情緒教育に、どのペットが良いか、下見をしたり」
「頼まれたベビー用品を買ったり」
「結婚式のプランカタログを貰いに行ったりなど」
 ……
 って ことは、全部 俺たちの早とちり。
 俺は変な笑いが出てきた。
「ハハハ……なんだ、そうだったんですか。
 じゃあ、あの ウサギの ぬいぐるみも、赤ちゃんへのプレゼントなんですね」
 春樹さんが当然の答えた。
「あれはアッシの趣味でやす」
「え?!」
「アッシは動物が好きなのでやすが、アパートはペット禁止でやして。それで ぬいぐるみで 心慰めているのでやす」
 何一つ疑問に思うことなどないと言わんばかりの、平然とした表情で、強面の春樹さんは自分の趣味を暴露した。
「そ、そうなんですか」
 ……
 いや、人の趣味をとやかく考えるのはよそう。
 続けて春樹さんは、
「そもそも、アッシは 童貞でやす」
「えぇ?!」
 続いて猪鹿蝶さんも
「アタシも処女でやす」
「「「うぇえ!?!」」」
 春樹さんは、
「そういうのは結婚してからと心に決めていやす」
 猪鹿蝶さんも、
「アタシも生涯の伴侶に捧げると心に決めていやす」
「そうなんですか。じゃあ、昨日のあれはデートではないんですね」
「そのとおりでやす」
「じゃあ、今まで、プラネタリウムに行ったり、美術館や映画とか、水族館とかは、一体なんのために行っていたんですか?」
「あれは、お嬢さまがたに お勧めしようと思っていた、娯楽スポットでやす」
「休日を利用して下見をしておりやした」
 休みの日まで働いているのか。
 どこまで吉祥院家に尽くしているんだ。
「ちなみに、今日も お嬢さまにお勧めの観光スポットを巡りに、藤姫神社に行く予定でやす。あそこに並ぶ屋台のB級グルメは絶品だと聞きやして」
 セルニアはなんとも言えない表情で、
「そうなんですか。報告を楽しみにしています」


 こうして、おかしな誤解は解けたのだった。
 そして、伊藤 春樹さんと猪鹿蝶 晶さんは このまま街へお出かけに行くことに。
 俺たちは見送りに。
「では お嬢さま、行って参ります」
「アッシらが、屋台の味を確かめてまいりやす」
「はい、行ってらっしゃいませ」
 とセルニアが言うと、
 春樹さんと猪鹿蝶さんは、手をつないだ。
「ハッハッハッ。晶ちゃん、お嬢さまたちったら うっかりさんだね」
 と爽やかな笑顔になった。
 バックにバラの華の幻覚が見えるほどの、どこかの国の王子さまのような爽やかスマイルだった。
 そして猪鹿蝶さんも、バックがキラキラ輝くほどの、ピュアピュアスマイルになった。
「そうだね、春くん。わたしたちデートなんてしてないのに。ウフフ。おかしくなっちゃう」
「じゃあ、お出かけに行こうか。晶ちゃん」
「はーい、行きましょ。春くん」
「ハッハッハッ」
「ルンルンルン」
「ハッハッハッ」
「ルンルンルン」
 二人は手を繋いだまま街へと姿を消した。
 最後辺りはスキップしていた。


「「「……」」」


 俺たちはセルニアの部屋に戻ると、しばらくお茶をしながら無言でいた。
 一時間ほどして、俺はセルニアと湖瑠璃ちゃんに言った。
「結局 付き合ってるじゃん」


 教訓。
 人のプライベートを詮索してはいけない。
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