悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

文字の大きさ
上 下
34 / 168

34・球竜 宮

しおりを挟む
 コンクールは終了した。
 俺は今、コンクールの参加者や審査員などの、関係者 打ち上げパーティーに出席している。
 俺から遠く離れたセルニアの周囲には、様々な人が集まっている。
 ヒゲを蓄えた老紳士。
 頭の軽そうな若いチャラ男。
 南国蝶のような服の貴婦人。
 彼らの対応にセルニアは忙しそうだった。
 そして俺の隣には、吉祥院 父がいた。
 俺はなるべくお父さんを見ないようにしていたのだけど、そのガタイから発せられる威圧感は無視できなかった。
「ふん。まあ、この程度のコンクール、セルニアなら優勝できて当然だな。だが、よくやったと言っておこう」
 そう、セルニアは優勝した。
 俺はセルニアの曲を思い出す。
 凄かったの一言だった。
 その細い指は 盤上を 優雅に 軽やかに、それでいて 力強く舞い踊っていた。
 グランドピアノから発せられる音の旋律は、感動しかなかった。
 そして弾き終わったセルニアに、皆がスタンディングオベーション。
 万雷の拍手を、セルニアは堂々と、誇らしげに受けていた。
 そんなセルニアの姿に、俺と彼女は住む世界が違うと思った。


 お父さんがグラスをテーブルに置くと、
「では、私はこれで失礼する。大事な会議があるのでね」
「今日はお招きいただき、ありがとうございました」
「私が呼んだのではない。呼んだのはセルニアだ」
「そ、そうですか」
 余計なやぶ蛇だったみたい。
 そして吉祥院 父は俺の肩に手を置き、
「いずれ 君とは、ゆっくりと話をしたいものだな」
「……ハイ、ソウデスネ」


 こうして俺は お父さんから解放されたわけだが、セルニアは挨拶に忙しいし、湖瑠璃ちゃんもセルニアの妹と言うことで、それなりに人が集まっていて、つまり俺にかまっていられる暇がない。
 俺は ぼーっとしていても仕方ないので、テーブルに並べられた食事を遠慮なく食べることにした。
 そう、俺は大物ラッパー。
 こんなセレブでブルジョワな場所にも、Tシャツとハーフパンツで来て、空中浮遊ができるくらいに浮きまくるんだZE。
 こうなりゃ 開き直り、気分を盛り上げて 食いまくり、そして ひんしゅく 買いまくり。
 でも 気にしないYO。
 セレブどもなんざ ファックだZE。
「いやー、君 すごい図太い神経だね」
 俺がバクバク食べていると、楽譜を貸してくれた褐色美少女が話しかけてきた。
「いい、あううおあいえうええあいあおう」
「飲み込んでから喋って」
「ムシャムシャ ゴックン。
 君、楽譜を貸してありがとう」
「どういたしまして。それにしても、君って 何者? こんな場所に そんな格好で来るなんて」
「これは不可抗力なんだ。具体的に話すと、夏休みのひとときに ダラダラ映画を見てると、突然 家にメン・イン・ブラックが来て、強制拉致されて、ここに連れてこられた」
「アハハハ! 受けるー! でも ありえなーい!」
 信じてくれなかった。
「そういえば、まだ 自己紹介してなかったね。
 あたし、球竜きゅうりゅう みや。気軽に宮って呼んで。よろしくね」
「あれ? その名前。じゃあ 君、日本人なの」
「あたりまえじゃない。何人だと思ったの?」
「東南アジアの人だと思ってた」
「半分 当たってる。あたし、沖縄民なの」
「あぁー」
 俺は納得して、変な声がでた。
「確かに沖縄は東南アジアに近い。そして日本で最も太陽に愛された土地だから、日焼けしているのか」
「そういうこと」
 そして 宮は セルニアに眼を向けた。
「いやー、それにしても、吉祥院さん凄いよね。みんなからの人気もだけど、ピアノも」
「宮も凄かったよ」
 実はセルニアの後、宮の番だったのだ。
 面識があったから、注意して聞いていたので、記憶に残っている。
「ありがとう。でも、お世辞はいらない。吉祥院さんとの実力の差は、あたし自身一番よく分かっている」
 その言葉に、俺は それ以上 なにも言うことができなかった。
 確かに セルニアの後の宮の演奏は、どこか物足りなさを感じた。
 それが実力の差なのならば、宮が二位になったのも実力なのだろう。
「でも、いつか吉祥院さんを超えてみせる。今は無理だけど、一年後、二年後、もっと先かも知れないけど、いつか吉祥院さんよりも、みんなを感動させてみせる」
 球竜 宮のセルニアに向ける眼には、強い決意があった。
 セルニアにライバルが出現したと思った。
 そして 宮は、
「それじゃ、あたしも挨拶とかあるから、もう行くね」
「ああ。楽譜、ホントにありがとう。助かったよ」
「うん。じゃあ、バイバイ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...