悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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30・大物ラッパー

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 そして俺は現在、ロンドンのロイヤル アルバート ホールにいる。
 レンガ造りの歴史を感じさせる重厚な雰囲気の建物。
 普段は一般客にも公開されているそうだが、今 周りにいるのはブルジョワでセレブな人たちばかり。
 オーダーメイドのスーツやタキシードでビシッと決めた紳士や、ハイソなドレスに身を包んだレディばかり。
 そんな中、Tシャツにハーフパンツの俺は浮いていた。
 空中浮遊ができるくらいに浮きまくりまくっていた。
 ここに来るまでの飛行機でも、ファーストクラスの席だったから、こんな感じだった。
 周囲の人も俺に怪訝な眼を向けてくる。
 普通なら身体を最小単位に縮小して目立たないようにしているだろう。
 しかし、春樹さんからただ者ではないとの評価を受けた俺は違う。
 目立たないようにするどころか、堂々と特等席に座り、ふんぞり返って 脚組までしちゃっているのだ。
 もう ここまで来たら開き直るしかない。
 気分は、底辺から成り上がった大物ラッパーで行く。
 注文したシャンパン(ノンアルコール)を片手に鼻歌まで歌っちゃう。
「ヘイ ヨウ。俺とラップで勝負だゼ」 
 湖瑠璃ちゃんがクスクスと、
「お兄さま、馴染みすぎです」
 春樹さんは感心したように、
「さすがは麗華お嬢さまが見込んだ方。適応が早い」
 春樹さんは特等席の後方で立ったまま、俺の大物っぷりに感心していた。
 そこで俺は気付いた。
 予約席は三つある。
 座っているのは俺と湖瑠璃ちゃんだけ。
 春樹さんは後ろで なぜか立ったまま。
「あの、春樹さんは座らないんですか?」
「執事たるものが主人と同じ席に座ることなどあり得ません」
「でも、席が一つ空いてますけど。あ、セルニアもここに来るんですか?」
 湖瑠璃ちゃんが答える。
「いえ、お姉さまは控え室で待機しています」
「じゃあ、この席は空席?」
「そこは お父さまの席です」


 ……


「……今、誰の席って言った?」
「だから お父さまの席と言いました」
 ……お父さま?
 湖瑠璃ちゃんの言うお父さまって、つまり湖瑠璃ちゃんの父親で、ってことはセルニアのお父さまってことだ。
 たしかマンガやゲームに批判的で、前時代的な感覚の厳格な父親とかなんとかって聞いてたんだけど。
「つまり、湖瑠璃ちゃんとセルニアのお父さんがここに来るってこと?」
 湖瑠璃ちゃんは怪訝に、
「そう言っているではありませんか」
 ……これ、ヤバイんじゃ。
 厳格な父親なら、手塩にかけて育てている娘にまとわりつくゴミ虫に どんな対応をするか。
 そして そのゴミ虫は俺だ。
 大物ラッパーを気取ってふんぞり返ってる場合じゃない。
 今のうちになにか対策を考えないと。
 しかし、
「セシリア、もう来ていたのか」
 後ろから重厚感たっぷりの威圧的な声が聞こえた。
 振り返ると、そこには黒スーツに身を包んだ、年齢をまるで感じさせない、ガタイの良い壮年の男性。 
 どう見てもマフィアのボスにしか見えない。
 そして その男性は、視線だけで人が殺せるのではないかと思うほどの鋭い眼を俺に向けた。
「君が話に聞いていた、セルニアの学友か。
 初めまして。私はセルニアとセシリアの父。
 吉祥院 権造だ」
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