悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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25・カタカナ

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 次の日の昼休みのことだった。
 俺が弁当を広げると、セルニアが話しかけてきた。
「良ければ一緒にお昼ご飯を食べませんか?」
「もちろんOK」
 俺は0.58秒で答えた。
 三バカトリオと食べるより、セルニアと一緒の昼食を選ぶのは当然 当然 当たり前ー!
 松陽高校チャラ男代表 五十嵐が、
「裏切り者ー!」
 とか叫んでいたが、俺は全力で無視。
 そして俺とセルニアは一緒にお昼ご飯。
 その時だった。
「吉祥院さん。ちょっとよろしいかしら?」
 上級生の女子三人組が教室に入ってきて、セルニアに話しかけてきた。
 この三人組は松陽高校の女子の中で、特に一目置かれている。
 三人とも企業の会長や、会社の社長の令嬢で、成績優秀、品行方正、容姿端麗と典型的なお嬢様。
 セルニアほどではないけど、松陽高校の生徒から人気がある。
 その三人から声をかけられて、セルニアは起立する。
「なんでしょう? 先輩がた」
 リーダー格の先輩が、
「そんなかしこまらなくても良いわ。
 ただ、貴女に応援すると伝えたくて」
「応援ですか?」
 先輩たちは暖かい微笑みで、
「ええ、あなたと彼氏を応援すると」
 セルニアの顔が瞬間的に真っ赤になる。
「か! れ! し!」
 そしてもじもじと、
「そそそそそ、そういうわけではありませんの。でも、そう見えるのはしかたないかもしれませんが、しかしそう見えることを否定するわけでもなく、そういう関係にいつかはなってつまりその……」
 と、沈黙。
 なんかそんな反応されると、こっちまで恥ずかしくなるんだけど。
 先輩たちは微笑ましそうに、
「初々しいわね。でも好ましいわよ。ウフフフ」
 そして先輩は改めて、
「他の人たちは、貴女たちの関係に批判的だけど、わたくしたちは貴女に親しい人ができたのは良いことだと思うの。
 貴女は今まで他の人たちと、どこか距離があったから」
 それは否定できない。
 セルニアは松陽高校で女神のように崇拝され、高嶺の花とされてきた。
 ラブレターや告白は三桁を超えるが、じっさい成功すると思っていた奴はほとんどいないだろう。
「だから、貴女たちが親しくなったことで問題が起きたら、わたしたちに相談して欲しいの。問題解決に協力するわ」
「ありがとうございます」
 セルニアがぺこりと頭を下げ、続いて俺も頭を下げる。
「ありがとうございます」
 五人衆みたいな奴らばかりじゃなく、こんな風に俺たちが親しくなったことを喜ぶ人もいる。
 セルニアのことを親身に心配してくれている人もいるんだ。
 案外セルニアが腐女子だって知られても大丈夫なんじゃないか。
 そんな気がしてきた。


 その時だった。
 教室にBL大好き二人組女子が入ってきた。
「イヤー、このカップリングは萌えますね」
「そうですな。アカヒロのカップリングが王道でしょう」
 なにやら そんなBLの話をしていたのだが、それを聞いた先輩たちが眉根を潜めた。
「汚らわしい。神聖な学園でなんて話をしているのかしら」
 あれ?
 先輩たちはセルニアに、
「貴女もそう思うでしょう。男同士なんて不潔ですわ。そんな物を楽しむなんて、頭がおかしいですわ」
 これ、ヤバい感じだ。
 完璧にBLも腐女子も偏見で見ていている。
 でも、迂闊に言い返せない。
 言い返せばセルニアが腐女子だって事が知られてしまう。
 俺は恐る恐るセルニアの方向を見ると、セルニアは表情が固まっていた。
「ソ、ソウデスワネ。センパイ」
 喋りがカタカナになっている。
「吉祥院さん。あんなものに関わってはダメよ。品位を疑われますから」
「ハイ。ソウデスネ」
「では、わたしたちはこれで失礼しますね。彼氏とゆっくり昼食を楽しんでください」
「アリガトウゴザイマス」
 そして先輩たちは去って行った。


 俺はセルニアに、
「大丈夫?」
「ダイジョウブデスワ」
 全然 大丈夫じゃない。


 セルニアは その日はずっとカタカナで話し続け、クラスメイトからロボットダンスの習い事を始めたのかと思われた。
 そして 次の日、セルニアは学校を休んだ。


 俺は昼休みになると、セルニアに電話した。
 でも 出たのは湖瑠璃ちゃん。
「お兄さま。お姉さまに何をしたのですか?」
 明らかに非難している声音。
「いや、俺じゃない。俺は何もしてない」
「でも お姉さま昨日からずっと塞ぎ込んでいます。食事も満足に食べていませんし。部屋にこもってピアノを延々と、ベートベンの悲愴・第二楽章やショパンの別れの曲や遺作などをずっと弾き続けています」
 タイトルだけでイメージが分かる曲だな。
「他にもラヴェルの亡き王女のためのパヴァーニュや、グリーグのオーゼの死など」
「わかった、わかったから。とにかく学校が終わったらすぐそっちへ行く。その時に事情を話す」
「わかりました」
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