悪役令嬢は腐女子である

神泉灯

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17・ヤカンのように

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 ……続き。

 
 なんだ この状況?
 考えてみれば、今 二人っきりだ。
 二人っきりってことは、つまり二人っきりで、当たり前だけど二人っきりだ。
 二人っきりってことは当然、邪魔する者はいない。
 自習室の時の邪悪な妄想を実現することが可能だということだ。
 ……オッキしてしまった。
 ダメだ!
 セルニアをそんな卑劣な手で汚すなんてもってのほか!
 出来の悪い俺の頭から湧き出る煩悩よ!
 消え去れぇい!


 セルニアは瞳を潤ませて、そっと瞼を閉じると、少しだけ唇を差し出した。


 ……いいの?
 いいんですか?
 いたしてもいいんですか?!
 キスだけでは止まりませんよ。
 止まりませんのことよ!
 ……そうだ、止める必要などない。
 行けるところまで行くんだ。
 行けるところまで行って、事が終わったら、お父さまに頭を下げて言うんだ。
 娘さんを僕にください、と。
 前世の妹よ、
「俺は本日、男になる」


「ダメに決まっていやす」
 突然の背後からの声に振り返ると、猪鹿蝶さんと湖瑠璃がいた。
「おぅわ!」
「きゃぁ!」
 俺たちは吃驚して離れた。
「十六回ノックしても返事がなかったので、失礼ながら勝手に入らせていただきやした」
 そして湖瑠璃ちゃんが、
「まったく二人とも若いんですから」
 と呆れていた。
 俺はごまかすために、乾いた笑い。
「ははは、そうだね。いくらなんでも ダメに決まってるよね」
 猪鹿蝶さんは相変わらず鋭い眼光で、
「そうです。準備という物が必要でやす」
 と言うと、天蓋付きベッドの所へ行き、枕元にある小さな引き出しから ある物を取り出した。
 避妊具である。
 なんでそんな物があるの?
 俺の疑問をよそに、猪鹿蝶さんは避妊具を俺たちに差し出す。
「さあ、これをどうぞ。これを付ければ妊娠の心配はありやせん」
 俺は理解できずに、
「……あの、猪鹿蝶さん?」
「若い男が外出しで我慢できるわけないでやす。中出しするに決まっていやす。しかし、これを装着すれば安全。
 さあ、麗華お嬢様。これを付けてあげるのです。女が付けてあげることで興奮度も上げ上げでやす」
 セルニアはヤカンのように頭から蒸気を出し、
「わ!わ!わ! わたくしがつけるのですか!」
「そうです」
「そんなことしたら男の人のアレに触ることになりますわ!」
「そのとおりでやす」
「いや!いや!いや! ちょっとレベルが高いですわ! わたくしには いきなりそんなこと無理です!」
「何事も挑戦です。これを付けさせて、その方に大人の女にしていただくのでやす。
 この猪鹿蝶 晶。麗華お嬢様が大人の女になる瞬間を見届けさせていただきやす」
「「見届ける!?!」」
 俺とセルニアはハモった。
 そして俺は、
「猪鹿蝶さん! 見物するつもりなんですか!?」
「もちろんです」
 さらには湖瑠璃ちゃんまで、
「わたくしも 妹として お姉様の初体験を見学させていただきますわ」
 俺は首をブンブン振り、
「いや!いや!いや! 何言ってんスか! 二人とも!」
 そしてセルニアも、
「そうですわよ! しません! いたしませんわよ!」
 猪鹿蝶さんは怪訝に、
「しかし、さっき完全に突入しようとしていたではありやせんか」
「それは! その、雰囲気に流されてしまったというか なんというか……
 とにかくしません! いたしませんわ!」
「アタシたちに遠慮する必要はありやせん。さあ、どうぞ気になさらず」
「気にします! 気にしますわ!」
 俺もセルニアに合わせて、
「気にしますよ! 人に観られて興奮する趣味はないです!」
 猪鹿蝶さんは納得したのか、
「そうですか。わかりやした」
 湖瑠璃ちゃんはがっかりしたように、
「残念です。せっかくお姉様の初体験を観ることができると思ったのに」
 この二人、なんかズレまくってるぞ。


 この時のショックで、午前中に勉強したことは全て忘却してしまったことに気付いたのは、しばらくしてからだった。
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