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16・よっしゃ
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十二時になり、俺たちは お昼休憩&お昼ご飯を取ることにした。
セルニアが内線電話で猪鹿蝶さんに連絡した。
「吉祥院家のお昼ご飯か。きっと美味しいご馳走なんだろうな。楽しみだなー」
「ふふふ。楽しみにしてください」
「猪鹿蝶さんが来るまで、セルニアの部屋を見させてもらってもいい?」
「よろしいですわよ。と言っても、広いだけで 基本的に普通だと思いますわよ」
セルニアの普通の感覚は絶対間違っていると思った。
さて、部屋に入った時に最初に目に付いた、グランドピアノ、天蓋付きベッド、大きな本棚。
他の物は、テーブルは三つ。
俺たちが勉強していた大きなテーブルに、セルニアが普段使っているであろう勉強机。
後は小さなテーブルが窓際にチョコンと置かれ、チェス盤がそのままになっていた。
チェス駒の位置が乱雑になっている。
誰かと遠隔対戦でもしているのか?
本棚には様々な本やゲームの他に、小物が置かれている。
アンティークドール。
ガラスや陶器の置物。
可愛らしいぬいぐるみも。
俺はふと疑問に思った。
「なあ、BL本はどこに隠してるんだ? 掃除とかは基本的に猪鹿蝶さんがやってるんだろ。だったら簡単に見つかる場所じゃないよな」
ベッドの下とかは論外だ。
エロ本の隠し場所の定番だが、そんな所 母親に即行で発見される。
あと辞書のケースに隠すというのもすぐにバレる。
もし バレていないと思っていたら、それは母の優しさだ。
見て見ぬ振りをしてくれている。
そういう生温い優しさは返って傷つくんだ。
シクシク。
「BL物はここに隠していますの」
セルニアが本棚の一画を引くと、扉のように開き、裏に隠し棚があった。
俺はちょっと感動してしまった。
「おおぉ。古いスパイ映画の仕掛けみたい」
「うふふふ。わたくしもこの仕掛け、ちょっと好きですの」
BL本はそれほどたくさんあるわけではなく、十数冊ほど。
全部同じ作者だった。
「本当に作者のファンなんだな」
「ええ、この方の本は全て入手しましたわ。いくつかは手に入れるのが困難な物も在りました。
そして現在では入手不可能となっているのが、このマンガです」
ブックカバーが掛けられた本を取り出した。
「この本は、この作者が同人誌時代に出された最初の一冊。今では絶版となり、その希少性からファンも手放さない。今では入手できない一冊。
そして この本は、わたくしがBLの道に入るきっかけとなった本なのですわ」
「例の男の子に読ませて貰った本か」
「あの時、あの人はわたくしにプレゼントしてくださったのです。わたくしがとても喜んでいたので、わたくしが持っているのが一番良いと言って。
それからずっと大切にしています。そう、わたくしの大切な思い出でもありますの」
懐かしそうに説明するセルニアの瞳には、かすかに恋心が見えていた。
俺はかすかな嫉妬と共に、納得もしていた。
まあ、そうだよな。
良い思い出なんだから、そんな気持ちにもなるよな。
俺は静かに聞く。
「その男の子とは、その後 会うことはあったの?」
「いいえ。あの時、電話を持たずに飛び出してしまいましたから、連絡先を交換することはありませんでした。
しばらくの間 公園に通ってみたのですけど、会うことはできませんでした。
それに、このマンガは姉に頼まれて買ったとのことですから、おそらく遠くから来られたのでしょう」
「……なら、もう会うことはできないわけか」
「……そういうことになりますわ」
「……そうか」
よっしゃ!
って ことはライバルにはなりえない。
俺のほうが有利!
名も知らない男よ!
テメェは超美少女のセルニアとはもう会えないんだ!
つまり おまえは過去の男だ!
ヤーイ!ヤーイ!
さて、俺はさりげなく何気なく 話をスムーズに切り替える。
「いやぁ、このマンガの物語はとても素晴らしいなぁ。人生とは何かを深く考えさせられるよ」
「そんな内容ではイチミリたりともありませんし、まるで話を全力で方向転換させようとしているようですが、まあ わたくしの気のせいですわね」
やべぇ。
究極的に自然にしたはずなのに 気付かれてしまったけど、セルニアは気付いていないのでセーフ。
落ち着け俺。
この本をきちんと読むんだ。
その上で話をなんとか俺の方向へ……
「……あれ?」
なんかデジャブが。
俺の呟きにセルニアが怪訝に、
「どうされました?」
「このマンガ、前にも読んだことがあるような気がする」
「え? 前に読んだことがあるのですか?」
「いや、そんなはずないんだけど。俺がBLマンガを読んだのって、この前の持ち物検査の時が初めてだし。
でも、なんか記憶に引っかかる」
セルニアが本をのぞき込んできた。
「記憶に引っかかるのですの?」
俺も本をのぞき込む。
「そうなんだ。なんか覚えがあるんだよな。でも 思い出せない」
「どの辺りに覚えがあるのでしょう?」
「どの辺っていうか、全体的に……」
と お互い顔を向け合って、そして その距離が十センチに満たないことに気付いた。
お互いの顔が至近距離。
つまり瞳と瞳も至近距離。
でもって唇と唇も至近距離。
「う……」
「ふぁ……」
お互い赤面し見つめ合ってしまった。
いきなり良い雰囲気になってしまったんだけど、ここからどうすればいいの?
続く……
セルニアが内線電話で猪鹿蝶さんに連絡した。
「吉祥院家のお昼ご飯か。きっと美味しいご馳走なんだろうな。楽しみだなー」
「ふふふ。楽しみにしてください」
「猪鹿蝶さんが来るまで、セルニアの部屋を見させてもらってもいい?」
「よろしいですわよ。と言っても、広いだけで 基本的に普通だと思いますわよ」
セルニアの普通の感覚は絶対間違っていると思った。
さて、部屋に入った時に最初に目に付いた、グランドピアノ、天蓋付きベッド、大きな本棚。
他の物は、テーブルは三つ。
俺たちが勉強していた大きなテーブルに、セルニアが普段使っているであろう勉強机。
後は小さなテーブルが窓際にチョコンと置かれ、チェス盤がそのままになっていた。
チェス駒の位置が乱雑になっている。
誰かと遠隔対戦でもしているのか?
本棚には様々な本やゲームの他に、小物が置かれている。
アンティークドール。
ガラスや陶器の置物。
可愛らしいぬいぐるみも。
俺はふと疑問に思った。
「なあ、BL本はどこに隠してるんだ? 掃除とかは基本的に猪鹿蝶さんがやってるんだろ。だったら簡単に見つかる場所じゃないよな」
ベッドの下とかは論外だ。
エロ本の隠し場所の定番だが、そんな所 母親に即行で発見される。
あと辞書のケースに隠すというのもすぐにバレる。
もし バレていないと思っていたら、それは母の優しさだ。
見て見ぬ振りをしてくれている。
そういう生温い優しさは返って傷つくんだ。
シクシク。
「BL物はここに隠していますの」
セルニアが本棚の一画を引くと、扉のように開き、裏に隠し棚があった。
俺はちょっと感動してしまった。
「おおぉ。古いスパイ映画の仕掛けみたい」
「うふふふ。わたくしもこの仕掛け、ちょっと好きですの」
BL本はそれほどたくさんあるわけではなく、十数冊ほど。
全部同じ作者だった。
「本当に作者のファンなんだな」
「ええ、この方の本は全て入手しましたわ。いくつかは手に入れるのが困難な物も在りました。
そして現在では入手不可能となっているのが、このマンガです」
ブックカバーが掛けられた本を取り出した。
「この本は、この作者が同人誌時代に出された最初の一冊。今では絶版となり、その希少性からファンも手放さない。今では入手できない一冊。
そして この本は、わたくしがBLの道に入るきっかけとなった本なのですわ」
「例の男の子に読ませて貰った本か」
「あの時、あの人はわたくしにプレゼントしてくださったのです。わたくしがとても喜んでいたので、わたくしが持っているのが一番良いと言って。
それからずっと大切にしています。そう、わたくしの大切な思い出でもありますの」
懐かしそうに説明するセルニアの瞳には、かすかに恋心が見えていた。
俺はかすかな嫉妬と共に、納得もしていた。
まあ、そうだよな。
良い思い出なんだから、そんな気持ちにもなるよな。
俺は静かに聞く。
「その男の子とは、その後 会うことはあったの?」
「いいえ。あの時、電話を持たずに飛び出してしまいましたから、連絡先を交換することはありませんでした。
しばらくの間 公園に通ってみたのですけど、会うことはできませんでした。
それに、このマンガは姉に頼まれて買ったとのことですから、おそらく遠くから来られたのでしょう」
「……なら、もう会うことはできないわけか」
「……そういうことになりますわ」
「……そうか」
よっしゃ!
って ことはライバルにはなりえない。
俺のほうが有利!
名も知らない男よ!
テメェは超美少女のセルニアとはもう会えないんだ!
つまり おまえは過去の男だ!
ヤーイ!ヤーイ!
さて、俺はさりげなく何気なく 話をスムーズに切り替える。
「いやぁ、このマンガの物語はとても素晴らしいなぁ。人生とは何かを深く考えさせられるよ」
「そんな内容ではイチミリたりともありませんし、まるで話を全力で方向転換させようとしているようですが、まあ わたくしの気のせいですわね」
やべぇ。
究極的に自然にしたはずなのに 気付かれてしまったけど、セルニアは気付いていないのでセーフ。
落ち着け俺。
この本をきちんと読むんだ。
その上で話をなんとか俺の方向へ……
「……あれ?」
なんかデジャブが。
俺の呟きにセルニアが怪訝に、
「どうされました?」
「このマンガ、前にも読んだことがあるような気がする」
「え? 前に読んだことがあるのですか?」
「いや、そんなはずないんだけど。俺がBLマンガを読んだのって、この前の持ち物検査の時が初めてだし。
でも、なんか記憶に引っかかる」
セルニアが本をのぞき込んできた。
「記憶に引っかかるのですの?」
俺も本をのぞき込む。
「そうなんだ。なんか覚えがあるんだよな。でも 思い出せない」
「どの辺りに覚えがあるのでしょう?」
「どの辺っていうか、全体的に……」
と お互い顔を向け合って、そして その距離が十センチに満たないことに気付いた。
お互いの顔が至近距離。
つまり瞳と瞳も至近距離。
でもって唇と唇も至近距離。
「う……」
「ふぁ……」
お互い赤面し見つめ合ってしまった。
いきなり良い雰囲気になってしまったんだけど、ここからどうすればいいの?
続く……
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