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15・無表情
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俺は猪鹿蝶さんにセルニアの部屋に案内された。
「ごきげんよう」
セルニアが笑顔で待っていた。
相変わらず値段が高そうな上品でおしゃれな私服がよく似合っていた。
猪鹿蝶さんは頭をぺこりと下げると、
「では、アタシは待機しておりやすので、なにかあればすぐにお呼びくださいやせ」
と退室した。
セルニアの部屋の大きさは三十畳くらいはありそうな広さだった。
俺の部屋の五倍はある。
中央にグランドピアノが鎮座され、窓際には天蓋付きベッド。
壁には大きな本棚があり、さまざまな本が規則正しく並べられていた。
教科書や参考書。小説にマンガ。ゲームソフトも。
でもBL系の本やグッズはなかった。
「家族には秘密にしてるから隠してるんだ」
「はい、そうですわ。特にお父様が厳しくて。マンガやゲームも正直良い顔をしておりませんの。オタク系のものは教育に悪いと思っているのですわ」
前世紀の遺物みたいな考えだな。
「お母様はまだ理解があるので、ある程度は認めてくださっているのですが、しかしBLまでは、さすがに理解してくださるとは……」
セルニアの家族か。
「家族は今日、家にはいるのか? 妹の湖瑠璃ちゃんには会ったけど、ご両親がいるなら挨拶しておかないと。
特にお父さんが そんな堅い人なら、なおさら挨拶しておいた方が良いと思う。俺なんて、どう見ても手塩に育てている愛娘に取り憑く害虫にしか思われないだろうし。
だから、ここは顔を合わせてハッキリと伝えるべきだ。
お父さん、娘さんを僕にください、と」
「にゃっ!? にゃにを?!」
セルニアが吃驚して変な声を出した。
「貴方は いきなりなにを言い出すのですか!?」
俺は慌てて、
「ご、ごめん。心の中で想像してたことが つい そのまま口に」
「まったく。順番というものを考えてくださいませ。まだ わたくしたちの仲は そこまで進んでおりませんわ」
「そ、そうだね」
……あれ?
進んだのならOKなのですか?
セルニアは取り繕うようにコホンと咳払いをすると、
「お母様は今朝、和食料理コンテストの審査員を務めるために京都へ。
お祖母様は三日前から、鷹狩りに北海道へ。
そしてお父様は昨日、ペンタゴンでの会議に出席するためにアメリカへ。
湖瑠璃 以外 みんな出かけておりますわ」
みんなセレブな感じで 出かけてるなと思ったけど、お父さんが引っかかった。
お父さんはペンタゴンへ?
ペンタゴン。アメリカ国防省。
貴女のお父様は何者ですか?
「そんなことより、今は勉強会ですわ。時間は限られているのです。早く始めますわよ」
そして勉強会が始まった。
「では 先ず、貴方の成績表を見せていただきますわ。持ってくるのを忘れてはいませんよね?」
セルニアは成績に合わせて教えるとのことで、今までの成績表を持ってくるようにと指示を出してきた。
「もちろん忘れてない」
俺は鞄から成績表を出してセルニアに渡す。
「まあ、貴方のことですから、いつも赤点ギリギリとかでしょうけれど。ですが、わたくしにかかれば すぐに成績優秀の優等生に……」
セルニアは俺の成績表を見ると、沈黙して表情を落とした。
「……」
完全に無表情だった。
俺は不安になり、
「どうしたの? そこまで悪くはないと思うんだけど」
「……いえ、その……悪くはないと言いますか。貴方、前回の成績、学年十位なのですけれども。っていうか、平均 五位ですわよ」
俺は苦笑いし、
「そうなんだ。ここのところ死の座礁ってテレビゲームにはまっててさ。しかもその前は仮面人格5にはまってて。ちょっとゲームのやり過ぎで成績が落ちてさ。ははは」
前世で一度高校生を卒業直前までやっていた。
ゲームで言うなれば、強くてニューゲーム。
だから前世の知識で余裕だろうと考えていたのがまずかった。
ちょっと勉強を疎かにして、成績が下がってしまったのだ。
「セルニアが呆れるのも無理はないけど、でもセルニアが教えてくれるから挽回 間違いなし。もしかすると、いつも二位の海翔に勝てるかも。あー、でもその前にいつも三位の大滝くん勝たないとな」
「……そう、意外と成績が良いのですね。なるほど」
セルニアは成績表を畳み、脇へ置いた。
そして キッと 俺に厳しい目を向ける。
「わたくしが考え違いをしておりました。やはり勉強は教わるのではなく、自分の力でやるべきですわ。人に教えて貰おうなどと言う甘い考えは捨てなくては。さあ、勉強を始めますわよ」
そしてセルニアは頭に、必勝と書いてあるハチマキを巻くと、猛然と勉強を始めた。
あれ?
「セルニア、どうしたの?」
「お黙りなさい。今は勉強の時間ですわよ。自分以外は全てライバル。人にかまっている余裕などありませんわ」
「……」
ボク、ライバル認定された?
そして黙々と勉強が進んだ。
「ごきげんよう」
セルニアが笑顔で待っていた。
相変わらず値段が高そうな上品でおしゃれな私服がよく似合っていた。
猪鹿蝶さんは頭をぺこりと下げると、
「では、アタシは待機しておりやすので、なにかあればすぐにお呼びくださいやせ」
と退室した。
セルニアの部屋の大きさは三十畳くらいはありそうな広さだった。
俺の部屋の五倍はある。
中央にグランドピアノが鎮座され、窓際には天蓋付きベッド。
壁には大きな本棚があり、さまざまな本が規則正しく並べられていた。
教科書や参考書。小説にマンガ。ゲームソフトも。
でもBL系の本やグッズはなかった。
「家族には秘密にしてるから隠してるんだ」
「はい、そうですわ。特にお父様が厳しくて。マンガやゲームも正直良い顔をしておりませんの。オタク系のものは教育に悪いと思っているのですわ」
前世紀の遺物みたいな考えだな。
「お母様はまだ理解があるので、ある程度は認めてくださっているのですが、しかしBLまでは、さすがに理解してくださるとは……」
セルニアの家族か。
「家族は今日、家にはいるのか? 妹の湖瑠璃ちゃんには会ったけど、ご両親がいるなら挨拶しておかないと。
特にお父さんが そんな堅い人なら、なおさら挨拶しておいた方が良いと思う。俺なんて、どう見ても手塩に育てている愛娘に取り憑く害虫にしか思われないだろうし。
だから、ここは顔を合わせてハッキリと伝えるべきだ。
お父さん、娘さんを僕にください、と」
「にゃっ!? にゃにを?!」
セルニアが吃驚して変な声を出した。
「貴方は いきなりなにを言い出すのですか!?」
俺は慌てて、
「ご、ごめん。心の中で想像してたことが つい そのまま口に」
「まったく。順番というものを考えてくださいませ。まだ わたくしたちの仲は そこまで進んでおりませんわ」
「そ、そうだね」
……あれ?
進んだのならOKなのですか?
セルニアは取り繕うようにコホンと咳払いをすると、
「お母様は今朝、和食料理コンテストの審査員を務めるために京都へ。
お祖母様は三日前から、鷹狩りに北海道へ。
そしてお父様は昨日、ペンタゴンでの会議に出席するためにアメリカへ。
湖瑠璃 以外 みんな出かけておりますわ」
みんなセレブな感じで 出かけてるなと思ったけど、お父さんが引っかかった。
お父さんはペンタゴンへ?
ペンタゴン。アメリカ国防省。
貴女のお父様は何者ですか?
「そんなことより、今は勉強会ですわ。時間は限られているのです。早く始めますわよ」
そして勉強会が始まった。
「では 先ず、貴方の成績表を見せていただきますわ。持ってくるのを忘れてはいませんよね?」
セルニアは成績に合わせて教えるとのことで、今までの成績表を持ってくるようにと指示を出してきた。
「もちろん忘れてない」
俺は鞄から成績表を出してセルニアに渡す。
「まあ、貴方のことですから、いつも赤点ギリギリとかでしょうけれど。ですが、わたくしにかかれば すぐに成績優秀の優等生に……」
セルニアは俺の成績表を見ると、沈黙して表情を落とした。
「……」
完全に無表情だった。
俺は不安になり、
「どうしたの? そこまで悪くはないと思うんだけど」
「……いえ、その……悪くはないと言いますか。貴方、前回の成績、学年十位なのですけれども。っていうか、平均 五位ですわよ」
俺は苦笑いし、
「そうなんだ。ここのところ死の座礁ってテレビゲームにはまっててさ。しかもその前は仮面人格5にはまってて。ちょっとゲームのやり過ぎで成績が落ちてさ。ははは」
前世で一度高校生を卒業直前までやっていた。
ゲームで言うなれば、強くてニューゲーム。
だから前世の知識で余裕だろうと考えていたのがまずかった。
ちょっと勉強を疎かにして、成績が下がってしまったのだ。
「セルニアが呆れるのも無理はないけど、でもセルニアが教えてくれるから挽回 間違いなし。もしかすると、いつも二位の海翔に勝てるかも。あー、でもその前にいつも三位の大滝くん勝たないとな」
「……そう、意外と成績が良いのですね。なるほど」
セルニアは成績表を畳み、脇へ置いた。
そして キッと 俺に厳しい目を向ける。
「わたくしが考え違いをしておりました。やはり勉強は教わるのではなく、自分の力でやるべきですわ。人に教えて貰おうなどと言う甘い考えは捨てなくては。さあ、勉強を始めますわよ」
そしてセルニアは頭に、必勝と書いてあるハチマキを巻くと、猛然と勉強を始めた。
あれ?
「セルニア、どうしたの?」
「お黙りなさい。今は勉強の時間ですわよ。自分以外は全てライバル。人にかまっている余裕などありませんわ」
「……」
ボク、ライバル認定された?
そして黙々と勉強が進んだ。
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