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1・ツッコミどころが多い
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悪役令嬢は腐女子である。
いきなりこんなことを言い出したら、みんなは間違いなく、
「おまえ とうとう脳が……オゥ・ノウ」
と、言うと思う。
と いうか、そもそも、
「悪役令嬢ってなんだ?」
と 質問されるかもしれない。
だからその説明をしよう。
まず、俺は転生者だ。
つまり前世の記憶がある。
この時点で、
「君は非常に疲れているようだ。ゆっくり休みたまえ」
と、言われるのは間違いない。
だが、突っ込むのはまだ早い。
転生した俺が生まれたこの世界は、なんと乙女ゲームの世界だ。
女性向け恋愛シミュレーションゲームの世界。
俺はその中にいる。
こう説明したら きっと、
「人生に嫌なことがあったんだね。大丈夫。これからきっと良いことがあるから」
と 言われることだろう。
でも 俺は人生に嫌なことがあったわけじゃないし、疲れているわけでもないし、ましてや脳がオゥ・ノウになったわけでもないんだ。
ただ事実を説明しているだけだ。
自分でもツッコミどころが多いのは理解しているが、どうか最後まで説明を聞いて欲しい。
先ず、前世の俺のことについて話そう。
前世の俺も結構 幸せだったと思う。
スポーツジムの経営者である父。
女子プロレスラーの母。
二人の才能を受け継いだ運動神経抜群の妹。
完全に肉体派な家族で、そんな家庭で育った俺も、スポーツマンで運動神経は良く、体も結構 筋肉が付いている方で、健康そのものだった。
俺も家族もそう信じて疑わなかった。
だが、高校卒業を目前にした、二学期が始まった直後のことだった。
俺は突然 意識を失い倒れ、そのまま救急車で病院に運ばれた。
そして両親が呼ばれて、医者が俺の診断結果を説明した。
余命半年。
治療法はない。
高校に通うことはできなくなり、入院生活が始まった。
クラスメイトはよくお見舞いに来てくれた。
担任や校長先生も励ましに来てくれた。
最後まで望みを捨てるなと。
だけど、自分の体のことは自分がよくわかっていた。
急速に衰えていく体。
俺の残り時間は確実に少なくなっていった。
だけど俺は弱音を吐かなかった。
それは妹の存在。
いつも俺を慕ってくれた天真爛漫な妹に、弱気な自分を見せたくなかった。
だから約束した。
お兄ちゃんは必ず元気になると。
それが嘘になってしまうのだとわかっていて、そう約束した。
そして最後の時を迎えた。
両親と妹がお見舞いに来ていた時、俺は呼吸ができなくなり、しかし苦しみを感じず、そして自分の心臓の鼓動が止まったのを感じた。
ごめんな。
お兄ちゃん、やっぱり約束を守れなかったよ。
という前世の記憶を、高校に入学する一ヶ月前に脈絡もなく思い出した。
正直 戸惑った。
だけど、深く考えてもしかたがない。
俺は、文字通り生まれ変わった新しい自分の人生を生きていこう。
今度は健康診断を欠かさずに受けて。
ただ、自分の通うことになる高校の名前が引っかかった。
松陽高校というのだが、どこかで聞いた覚えがあった。
今世じゃない。
前世で。
それに街の名前。地名。施設名。
全て前世の記憶に引っかかる。
そして高校に入学して、教室で自己紹介が行われた時のことだ。
彼女は誰よりも大きな声で名乗った。
「わたくしは 吉祥院・セルニア・麗華。
祖父は旧華族出身。
祖母はイギリス名門貴族出身。
庶民に手を差し伸べるのは高貴なる者の義務。
困ったことがあれば いつでもわたくしを頼ってもよろしくてよ」
乙女ゲームの悪役令嬢じゃん!
前世の妹は俺によく乙女ゲームをやらせた。
強制的に。
乙女ゲームで乙女心を勉強しろとうるさくてプレイしたのだが、男の俺に乙女ゲームなんてやらせるなよ。
だけど妹は、攻略対象はもちろん、隠しキャラも攻略するまで許してくれなかった。
俺は泣きながらプレイしていた。
まあ それはともかく、吉祥院・セルニア・麗華は、その乙女ゲームの一つに登場するキャラだ。
役割は悪役令嬢。
乙女ゲームによくいる、主人公たちの恋の障害として、物語を大いに盛り上げる悪役令嬢。
それが吉祥院・セルニア・麗華だ。
俺はこの世界が乙女ゲームの世界ではないかと疑った。
そして、他の攻略対象や脇役など、他のキャラクターが実在するのかも調べた。
結果、彼らは実在した。
そして気付いた。
自分も乙女ゲームに登場するキャラだと。
果たして 自分の その役割は!?
主人公のクラスメイト男子生徒その1。
イラストがあるだけの、名前もないただのモブ。
……ああ、うん。
そうだよね。
ゲームで活躍するとか、ヒロインとラブラブな関係になるのを期待したわけじゃないんだ。
でもさ、本当になにもないってわかると、がっくりくるよね。
ともかく、吉祥院・セルニア・麗華は悪役令嬢だ。
そしてゲームが始まるのは二年生になってから。
ヒロインが転校してきてから、各攻略対象との恋愛ストーリーが始まる。
そして悪役令嬢はヒロインのことを快く思わず、様々ないじめなどを行い、そして最後は断罪される。
吉祥院本家にもその話は伝わり、吉祥院・セルニア・麗華は家の判断で自主退学となり、実家に謹慎処分となる。
いわゆる破滅だ。
この世界の彼女の未来も同じことになるのだろうか?
だから俺は、彼女にそれとなく注意するようになった。
そしてゲームの記憶だけではわからなかった、彼女のことを調べた。
最初に外見について説明しよう。
背中まで伸ばされたさらさらのプラチナブロンドは、悪役令嬢らしく縦ロールを巻いている。
少し垂れ気味の眼には澄んだ蒼の瞳。
意志の強さを表すかのようなつり上がった眉。
凜とした雰囲気も相まって、街を歩けば、すれちがった男の百人中百人が振り返ることは確実。
多分 女性でも振り返る。
入学当初に二年 三年が自主的に、つまり教師の許可を得ずに勝手に行った新入生対象人気投票で、二位に選ばれたくらいだから。
うん。
ここで首を傾げた人が たくさんいると思う。
そうなんだ。
吉祥院・セルニア・麗華は人気投票で、二位になった。
一位ではない。
二位だ。
なぜ二位なのか、その説明は後でする。
ともかく、二位とは言えその魅力は計り知れない。
この一年の間に告白して玉砕した数は三桁を超す。
ちなみにその中には女子が三割で、教師、校長まで入っているという。
秘密の会員制ファンクラブが結成されているという噂もあるけれど、真偽のほどは定かではない。
これだけなら、まだ珍しくないと言えるかもしれない。
どんな学校にも必ず一人はいるアイドル的存在。
全国を探せば同じような奴が何百人も見つかるだろう。
だが吉祥院・セルニア・麗華のすごさは外見だけじゃないんだ。
頭脳明晰。
一年前、入学してすぐに行われた実力テストでは、全教科満点という驚異の得点を出し、二位以下に大差をつけての学年トップという離れ業をやった。
それ以来、今に至るまでトップをキープし続けている。
凡人とは根本的に頭のできが違う。
そしてピアノ。
その腕はプロ級で、CDも出している。
俺も購入して聞いたけれど、アマチュアレベルとは比べものにならなかった。
運動神経抜群。
フェンシグ ジュニア部門の日本大会で何度も優勝していて、さらにマーシャルアーツのインストラクターの資格を持っているなど、スポーツ面でも秀でている。
経済力と家柄
実家が代々続く世界的貿易商で、政治の世界にも顔が利く家柄だとか。
吉祥院・セルニア・麗華は、天は二物を与えずということわざにケンカを売ってるじゃねーかと思うほどの存在だ。
彼女は誇り高く、常にトップを目指す努力気質で、そしてなにより実力がある。
だけど、彼女は確かにプライドが高いけれど、けして いじめなどするような人間には見えなかった。
冗談の一つも言わないクラスの委員長も、吉祥院さんには だらしなく目尻を下げ、女子たちも妬みのない純粋な尊敬の眼差しを送っている。
しっかりとした大人びた性格で、誰に対しても分け隔てなく穏やかに接する。
容姿端麗、頭脳明晰、成績優秀、品行方正、運動神経抜群。
完璧なお嬢様。
それが なぜ悪役令嬢になるのだろうか?
謎が解決されないまま、一年が過ぎ、俺たちが二年生になったある日、俺は偶然 彼女の秘密を知った。
それは、彼女が腐女子だと言うことだった。
いきなりこんなことを言い出したら、みんなは間違いなく、
「おまえ とうとう脳が……オゥ・ノウ」
と、言うと思う。
と いうか、そもそも、
「悪役令嬢ってなんだ?」
と 質問されるかもしれない。
だからその説明をしよう。
まず、俺は転生者だ。
つまり前世の記憶がある。
この時点で、
「君は非常に疲れているようだ。ゆっくり休みたまえ」
と、言われるのは間違いない。
だが、突っ込むのはまだ早い。
転生した俺が生まれたこの世界は、なんと乙女ゲームの世界だ。
女性向け恋愛シミュレーションゲームの世界。
俺はその中にいる。
こう説明したら きっと、
「人生に嫌なことがあったんだね。大丈夫。これからきっと良いことがあるから」
と 言われることだろう。
でも 俺は人生に嫌なことがあったわけじゃないし、疲れているわけでもないし、ましてや脳がオゥ・ノウになったわけでもないんだ。
ただ事実を説明しているだけだ。
自分でもツッコミどころが多いのは理解しているが、どうか最後まで説明を聞いて欲しい。
先ず、前世の俺のことについて話そう。
前世の俺も結構 幸せだったと思う。
スポーツジムの経営者である父。
女子プロレスラーの母。
二人の才能を受け継いだ運動神経抜群の妹。
完全に肉体派な家族で、そんな家庭で育った俺も、スポーツマンで運動神経は良く、体も結構 筋肉が付いている方で、健康そのものだった。
俺も家族もそう信じて疑わなかった。
だが、高校卒業を目前にした、二学期が始まった直後のことだった。
俺は突然 意識を失い倒れ、そのまま救急車で病院に運ばれた。
そして両親が呼ばれて、医者が俺の診断結果を説明した。
余命半年。
治療法はない。
高校に通うことはできなくなり、入院生活が始まった。
クラスメイトはよくお見舞いに来てくれた。
担任や校長先生も励ましに来てくれた。
最後まで望みを捨てるなと。
だけど、自分の体のことは自分がよくわかっていた。
急速に衰えていく体。
俺の残り時間は確実に少なくなっていった。
だけど俺は弱音を吐かなかった。
それは妹の存在。
いつも俺を慕ってくれた天真爛漫な妹に、弱気な自分を見せたくなかった。
だから約束した。
お兄ちゃんは必ず元気になると。
それが嘘になってしまうのだとわかっていて、そう約束した。
そして最後の時を迎えた。
両親と妹がお見舞いに来ていた時、俺は呼吸ができなくなり、しかし苦しみを感じず、そして自分の心臓の鼓動が止まったのを感じた。
ごめんな。
お兄ちゃん、やっぱり約束を守れなかったよ。
という前世の記憶を、高校に入学する一ヶ月前に脈絡もなく思い出した。
正直 戸惑った。
だけど、深く考えてもしかたがない。
俺は、文字通り生まれ変わった新しい自分の人生を生きていこう。
今度は健康診断を欠かさずに受けて。
ただ、自分の通うことになる高校の名前が引っかかった。
松陽高校というのだが、どこかで聞いた覚えがあった。
今世じゃない。
前世で。
それに街の名前。地名。施設名。
全て前世の記憶に引っかかる。
そして高校に入学して、教室で自己紹介が行われた時のことだ。
彼女は誰よりも大きな声で名乗った。
「わたくしは 吉祥院・セルニア・麗華。
祖父は旧華族出身。
祖母はイギリス名門貴族出身。
庶民に手を差し伸べるのは高貴なる者の義務。
困ったことがあれば いつでもわたくしを頼ってもよろしくてよ」
乙女ゲームの悪役令嬢じゃん!
前世の妹は俺によく乙女ゲームをやらせた。
強制的に。
乙女ゲームで乙女心を勉強しろとうるさくてプレイしたのだが、男の俺に乙女ゲームなんてやらせるなよ。
だけど妹は、攻略対象はもちろん、隠しキャラも攻略するまで許してくれなかった。
俺は泣きながらプレイしていた。
まあ それはともかく、吉祥院・セルニア・麗華は、その乙女ゲームの一つに登場するキャラだ。
役割は悪役令嬢。
乙女ゲームによくいる、主人公たちの恋の障害として、物語を大いに盛り上げる悪役令嬢。
それが吉祥院・セルニア・麗華だ。
俺はこの世界が乙女ゲームの世界ではないかと疑った。
そして、他の攻略対象や脇役など、他のキャラクターが実在するのかも調べた。
結果、彼らは実在した。
そして気付いた。
自分も乙女ゲームに登場するキャラだと。
果たして 自分の その役割は!?
主人公のクラスメイト男子生徒その1。
イラストがあるだけの、名前もないただのモブ。
……ああ、うん。
そうだよね。
ゲームで活躍するとか、ヒロインとラブラブな関係になるのを期待したわけじゃないんだ。
でもさ、本当になにもないってわかると、がっくりくるよね。
ともかく、吉祥院・セルニア・麗華は悪役令嬢だ。
そしてゲームが始まるのは二年生になってから。
ヒロインが転校してきてから、各攻略対象との恋愛ストーリーが始まる。
そして悪役令嬢はヒロインのことを快く思わず、様々ないじめなどを行い、そして最後は断罪される。
吉祥院本家にもその話は伝わり、吉祥院・セルニア・麗華は家の判断で自主退学となり、実家に謹慎処分となる。
いわゆる破滅だ。
この世界の彼女の未来も同じことになるのだろうか?
だから俺は、彼女にそれとなく注意するようになった。
そしてゲームの記憶だけではわからなかった、彼女のことを調べた。
最初に外見について説明しよう。
背中まで伸ばされたさらさらのプラチナブロンドは、悪役令嬢らしく縦ロールを巻いている。
少し垂れ気味の眼には澄んだ蒼の瞳。
意志の強さを表すかのようなつり上がった眉。
凜とした雰囲気も相まって、街を歩けば、すれちがった男の百人中百人が振り返ることは確実。
多分 女性でも振り返る。
入学当初に二年 三年が自主的に、つまり教師の許可を得ずに勝手に行った新入生対象人気投票で、二位に選ばれたくらいだから。
うん。
ここで首を傾げた人が たくさんいると思う。
そうなんだ。
吉祥院・セルニア・麗華は人気投票で、二位になった。
一位ではない。
二位だ。
なぜ二位なのか、その説明は後でする。
ともかく、二位とは言えその魅力は計り知れない。
この一年の間に告白して玉砕した数は三桁を超す。
ちなみにその中には女子が三割で、教師、校長まで入っているという。
秘密の会員制ファンクラブが結成されているという噂もあるけれど、真偽のほどは定かではない。
これだけなら、まだ珍しくないと言えるかもしれない。
どんな学校にも必ず一人はいるアイドル的存在。
全国を探せば同じような奴が何百人も見つかるだろう。
だが吉祥院・セルニア・麗華のすごさは外見だけじゃないんだ。
頭脳明晰。
一年前、入学してすぐに行われた実力テストでは、全教科満点という驚異の得点を出し、二位以下に大差をつけての学年トップという離れ業をやった。
それ以来、今に至るまでトップをキープし続けている。
凡人とは根本的に頭のできが違う。
そしてピアノ。
その腕はプロ級で、CDも出している。
俺も購入して聞いたけれど、アマチュアレベルとは比べものにならなかった。
運動神経抜群。
フェンシグ ジュニア部門の日本大会で何度も優勝していて、さらにマーシャルアーツのインストラクターの資格を持っているなど、スポーツ面でも秀でている。
経済力と家柄
実家が代々続く世界的貿易商で、政治の世界にも顔が利く家柄だとか。
吉祥院・セルニア・麗華は、天は二物を与えずということわざにケンカを売ってるじゃねーかと思うほどの存在だ。
彼女は誇り高く、常にトップを目指す努力気質で、そしてなにより実力がある。
だけど、彼女は確かにプライドが高いけれど、けして いじめなどするような人間には見えなかった。
冗談の一つも言わないクラスの委員長も、吉祥院さんには だらしなく目尻を下げ、女子たちも妬みのない純粋な尊敬の眼差しを送っている。
しっかりとした大人びた性格で、誰に対しても分け隔てなく穏やかに接する。
容姿端麗、頭脳明晰、成績優秀、品行方正、運動神経抜群。
完璧なお嬢様。
それが なぜ悪役令嬢になるのだろうか?
謎が解決されないまま、一年が過ぎ、俺たちが二年生になったある日、俺は偶然 彼女の秘密を知った。
それは、彼女が腐女子だと言うことだった。
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