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一章

125・……あ!

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 スファルは必死で思考を巡らせていた。
 考えろ。
 考えろ!
 この竜人に勝つ方法。
 なにか手はないのか?!
 同じランクのフェニックスと戦った時は勝てた。
 それはクレアとラーズがいたから。
 ランクSSのフェニックスに勝てたのは五人がかりだったからだ。
 だが、二人は今 バルザックを相手に手が一杯で、こっちに回る余裕などないのは明らか。
 今の三人で戦うしかない。
 さあ、どうする?
 ヴィラハドラと剣を合わせてみて理解できるのは、正攻法は通用しないということだ。
 なにか奇襲や搦め手を考えなければ。
 だが、生半可な手は通用しないだろう。
 戦法を根本的に変えなければ。
 分析しろ。
 自分たちの戦力。
 相手の戦力。
 ダメだ。
 今の自分たちの戦力じゃこの竜人には勝てない。
 根本的に戦力が足りない。
 発想を変えなければ。
 発想を変えるんだ。
 戦力の大きさではなく、性質を変えるのはどうだ?
 性質をどのように変える?
 そもそも、自分たちの戦力の性質とはなんだ?
 セルジオ。大柄な体躯と筋肉による力で圧倒する。
 キャサリン。筋肉による速度に、疾風の剣サイクロンの敏捷力補正で、さらに速度を上げている。
 俺。刀技と分身体。あとは、一直線ならキャサリンやラーズより速いことか。
 これをどう変える?
 どうやって変える?
 ……あ!


 ヴィラハドラは二人の聖堂テンプル騎士ナイトの攻撃を、難なく防いでいた。
 女の攻撃は、速度こそかなりのものだが、剣筋は読みやすく、刀で受けるのは造作無かった。
 時折フェイントを織り交ぜてやれば、簡単に翻弄できる。
 おそらく、今までその速度に頼っていたため、技の修練を疎かにしていたのだろう。
 才能の煌めきは感じるが、鍛錬していないのでは意味がない。
 そして、似たようなことが男の聖堂騎士にも言える。
 人間とは思えぬ筋力によって剛剣を繰り出す。
 宝玉によって力を増幅していなければ、受け止めることができなかったに違いない。
 だが今の自分の状態ならば、押し返すことさえ可能。
 しかも、男の攻撃は力任せで単調。
 もし、この筋力に技が加わっていれば、恐ろしい敵となっていただろう。
 しかし、それは仮定の話であり、今のこの男の技が未熟であることには変わりない。
 そして、自分の左腕を切り落としたことのある、スファルという小僧。
 技は自分に匹敵する。
 それに、鏡水の剣シュピーゲルを手にしてから、短い期間で分身体を二つ作りだした才能。
 しかも強力な魔法を行使し、それを分身体と同時に繰り出すと言う、自分でさえできなかったことを成し遂げた。
 侮ることなどできない人間だ。
 しかし、宝玉によって力を増幅した今の自分の状態ならば、慢心による油断さえしなければ、勝利は揺るがないだろう。
 できれば、宝玉の力に頼らずに勝負をしたかったものだが、しかし自分の矜持などのために、魔王様の理想が脅かされてはならない。
 全力を持ってこの者たちを斬る。


 スファルという小僧が女の聖堂騎士の側に移動した。
「二人ともいったん間合いを取れ!」
 仕切り直しでもするつもりか。
 そして小僧と女聖堂騎士が距離を取り、正面に。
 男の聖堂騎士は、自分から向かって右側の方に位置している。
 小僧は、分身体は通用しないと考えたのか、今はそれを消している。
「行くぞ!」
 小僧が叫ぶと同時に、女聖堂騎士と一緒に正面から突っ込んできた。
 なにを考えている?
 小僧はやや右側へ。
 女聖堂騎士はやや左側へ。
 男の聖堂騎士は後ろへ回った。
 多方向同時攻撃。
 そんな単純な手が通用すると思っているのか?
 いや、油断するな。
 これ以上、手を打たせては思わぬ敗北を喫するかもしれない。
 今、この瞬間、この者たちを斬る!
「ハァッ!」
 女聖堂騎士が太刀の間合いに入る寸前その姿が二つになった!
「なんだと!?」
 分身体《ドッペルゲンガー》!
 二人の女聖堂騎士が左右に分かれて、左右二つの太刀を鏡水の剣シュピーゲルで受け止めると、その腕に手と足を絡ませて腕拉ぎを極めた。
 自由になる腕は右側に一本。
「チェイ!」
 小僧が閃光のように一直線に疾走して、その右腕を切り落とした。
 アスカルト帝国武闘祭の時に左腕を切り落とした速さに、疾風の剣サイクロンの敏捷力補正が加わり、それは目に見ることさえできない速さ。
 魔法の剣を交換し、その特性による能力を互いに入れ替えたのか。
「小癪な!」
 尾で小僧を打ち据えようとしたが、その前に男の聖堂騎士が尻尾に腕を回し、動きを封じた。
「うおおお!」
「グウウウ!」
 尾が引きちぎられるかと思うほどの剛腕。
 なんという筋肉だ!
武器魔法付与エンチャントウェポン!」
 小僧が自分の右足に魔法をかけた。
 そして自分に向かって跳躍する。
 高さから頭部を狙っている。
 あれを受ければただではすまない!
 この位置では自分まで巻き込むことになってしまうが、氷結地獄を使う!
 魔王様のためならばこの身一つ惜しくはない!
「氷結……」
音声遮断サイレント!」
 女聖堂騎士に魔法を封じられた!
 小僧が空中で一回転し、右足を腰まで引く。
「テメェはこれで寝ていやがれ!」


 スファルの一直線に伸ばした右蹴りが、ヴィラハドラの延髄に命中した。
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