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一章

113・もう二度と会えないと分かっていて

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「聞いて聞いてー。あたし、ドキラブ学園 とうとう全キャラ攻略したのよ」
「へー」
 また、ミサキチのネタバレトークが始まった。
 でも 今回は気にならない。
 なぜなら 私は、ドキラブ学園を二度とやらないと決めたからだ。
 あんなクソゲーに時間を費やす暇はない。
 私はモンスターをハンティングしたり、ゾンビをヘッドショットしたり、悪魔をズバババッサリと斬ったり、敵兵を背後からこっそり忍び寄って絞めて尋問したりしたいんだ。
 だからミサキチがドキラブ学園の話をしても全然気にならない。
「勿論、おまけキャラのラーズも攻略したよ。逆ハーレムも達成」
「そうなんだー」
「女の夢だよねー。イケメンに囲まれてちやほやされて暮らすのー」
「そうだねー」
「それでさー、今 ドキラブ学園の続編、製作してるんだって」
「は? ゲーム会社、潰れたんじゃなかったっけ? ドキラブ学園のグッズ全然売れなくて」
「そうなんだよねー。ゲーム自体は宣伝で売れたけど、内容のほうはゲーマーから酷評で、それでグッズ販売、大外れしたんだよねー」
「って言うか、そもそもコンセプトからしてダメなんだと思うけど。
 犯罪の原因になるゲームを規制しようとか言ってる団体が、ゲーム自体に反対しているのではありません。その証拠に道徳的で人格を豊かにするゲームを販売します、とか言って、会社設立して作ったけど、出来上がった高尚で模範的なゲームはみごとなクソゲーだった、と。
 宣伝でそれなりに売れたけど、ネットじゃみんな酷評してたし。高評価したのって、団体の加盟者とか支持者とか、そういう人だけだし」
「まー、あたしもそう思うけどさー」
「なに言ってんのよ? あんた全キャラクリアしたんでしょ」
「いやー、買ったからクリアしないと勿体無いと思って。でも、アレ外れだわ。イケメンとイチャイチャするだけで、話になんの捻りも盛り上がりなかった。凄い展開あるんじゃないかって期待してたのに、山なし落ちなし意味なしの三連コンボ」
「あんた、よく我慢してやれたわね。私、リオン王子攻略した時点でギブアップ。真実の純粋な愛ですよー、みたいな甘ったるい感じで、なんか感動を押し付けてるだけだったから」
「アハハハ、ホントだよねー」
「で、そのクソゲーの続編、どうやって作ってるの? 団体が会社、新しく立ち上げて作ってるの?」
「ううん。他の会社が権利買い取って、続編作ることにしたんだって」
「その会社、ずいぶん大きな賭けに出たもんね。あんなクソゲーの続編作ったって、当たるわけないのに」
「いや、それがさ、続編はジャンル変更するらしいよ」
「ジャンル変更?」
「アクションRPGだって」
「おお、アクション」
「アンタ、好きだよねー」
「で、どんな感じなの?」
「もうネットで宣伝映像 流れてたけど、良い感じだったよ。魔物狩人好きのアンタにはピッタリかも」
「ふーむ。一応やってみるか」
「でね、続編は ヒロインが女神の神託を受けて魔王討伐の旅に出るんだけど、仲間は前作の攻略キャラ全員でね」
「いや、黙れ。ゲームで直接 見るから」
「それで仲間同士の魔法を合成する合成魔法ってバトルシステムがあってさ」
「だから黙れっつってんだろ!」
「イタタタ! ごめんなさい! 黙る! だからアイアンクローはやめて!」


 カナワ神国に向かう途中の宿場町。
 私は朝食の席で、今朝の夢を思い出していた。
 夢は普通、目が覚めるとすぐに忘れてしまうものなのに、なんだかやけにハッキリと憶えている。
 ミサキチは私と一緒の大学に合格して、部屋も近くの所を借りた。
 大学でも一緒に遊べると、あの子も私も喜んでいた。
 私が前世で死ぬ前、新作ゲームを一緒にやる約束していた。
 ミサキチ、時間になっても来ない私を待ち続けたんだろうか?
「クレア、どうしたんだ?」
 ラーズさまが私を少し心配そうな表情で聞いてきた。
「あ、いえ。友人の事を思い出していまして」
「友人。学園の友人か?」
 違うけど、そういうことにしておこう。
 似たようなものだし。
「ええ、同じ学校の友人です。ミサキチはどうしたんだろうなって、考えていまして」
「ミサキチ?」
「はい。私は彼女をそう呼んでいました。あの子、口が軽いところがあるから、上手くやれているのか心配で」
 ゲームでもなんでも、自分の得た知識をひけらかすようなところがあって、それでみんなからは鬱陶しがられて、友達が少なかった。
 私が死んだ後、ミサキチは大学で友達ができただろうか?
 就職してちゃんと働けただろうか?
 彼氏はつくれただろうか?
 結婚は?
 子供は?
 あの子、ちょっと頼りないからな。
 もしかすると、なんでもペラペラ喋るのは、自分に自信がなくて、それで自分は色んな事を知っている人間なのだと、自分自身にそう思わせるためだったのかも?
 でも、自分に自信が持てないのは、私も同じだった。
 ゲームで敵を倒す時の爽快感は、そのためだったのかもしれない。
 ゲームで強敵を倒した時、ザコを次々と倒して行く時、自分が強いのだと思えて楽しかった。
 友達と一緒にやれば、もっと楽しい。
 ミサキチという友達がいれば。
「ミサキチに会いたいな」
「会えるさ。生きていれば、いつかまた」
 会えないのですよ、ラーズさま。
 なぜなら、私はあの世界で死んだのだから。
 でもそれは、ラーズさまにも誰にも言えない。
 だから私は同意して、ラーズさまの言葉を繰り返すだけ。
「そうですね。生きていれば、いつかまた」
 もう二度と会えないと分かっていて。


 えい!
「グギャア!」
 子鬼ゴブリンを一匹仕留めた。
 アハハハ!
 子鬼ゴブリンってホント弱いわね。
「ヒィイイイ! ニンゲンダー!」
「ニゲロ! ニゲルンダ!」
「コロサレルー!」
 待ちなさーい!
 逃がさないわよー!
「グゲェエ!」
 また一匹仕留めた。
 この調子でどんどんヤッツけていくわよ!


 三十分ほどでゴブリンの村を全滅してやった。
 あー、わたしってばなんていいことしたんだろ。
 さ、近くの村に教えてあげなくっちゃ。


 と、いうわけで、近くに住んでいたゴブリンはわたしが退治してあげたわ。
「おお、ありがたい」
「助かりました」
「お名前を教えていただけませんか」
 わたしはリリア・カーティス。
 女神の神託を受けた聖女よ。
「なんと、聖女様でしたか」
 そうよ。
「ゴブリンを退治していただいたお礼がしたいのですが、なにか私たちにできることはありませんか?」
 一つあるわ。
「それはなんでしょう?」
 わたしね、あなたたちの力が欲しいの。
「力? しかし私どものはただの村人。魔物と戦うことなどできません」
 大丈夫よ。
 この剣に刺さって貰うだけだから。
「……え?」


「うわぁあああ!」
「逃げろ! 逃げろぉおお!」
「悪魔だ! あいつは悪魔だぁあ!」
 光の矢エネルギーボルト。光の矢。光の矢。
 魔法で足を攻撃して、動けなくした村人に、破滅の剣ベルゼブブを刺して力を吸収する。
 思った通りだわ。
 人間の力も吸収できる。
 どんどん行くわよ!
 アハハハ!
 アハハハ!
 アハハハハハ!


 リリア・カーティスはこうして、魔物の集落や人間の村を襲い続け、手当たりしだい力を吸収した。
 人間も魔物も関係なく。


 凄い。
 わたしこんなにレベルアップした。
 達人級の魔法も使える。
 冒険者組合の規定ならランクA、いいえ、Sになってる。
 よーし、かなりレベルアップしたし、今度は強めの敵を狙うわよ。
 強い魔物や人間からなら、力をもっとたくさん吸収できるはず。
 でも、誰をやればいいんだろう?
 四天王とかメインの魔物は、悪役令嬢がラーズを騙して倒させちゃっただろうし。
 ……そうだ。ここからはちょっと遠いけど、あそこへ行こう。
 あの竜はゲームじゃ戦うわけじゃなかったから、クリスティーナが倒そうなんて思いつくわけないわ。
 今もあそこにいるはず。
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