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一章

105・もう存在するだけで害悪よ

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 野盗の住処を出てから二週間後、わたしはオルドレン王国を脱出して、ドゥナト王国に来た。
 そしてゲームのシナリオ通り、冒険者組合に登録しようとしたんだけど……


 どうして登録できないのよ!?
「ですから、身元を証明できなければ登録はできません。もしくは、ランクC 以上の冒険者が保証人になって貰うかです」
 わたしを誰だと思っているの!?
 リリア・カーティスよ!
「誰であろうと、冒険者組合登録における規定は守られます。貴族でも、王族であったとしてもです」
 このブサイクな受付女、ホントに頭固いわね。
 しかたないわ。
 誰か保証人にさせましょ。
 ちょっと、みんな聞いて。
 誰かわたしの保証人にならせてあげる。
 わたしはリリア・カーティス。
 女神の神託を受けた聖女よ。
 保証人になったらお礼に勇者にしてあげるわ。
「聖女? おまえが?」
「こいつ、なに言ってんだ?」
「頭おかしいんじゃねえのか」
「目を合わせるな。関わり合いになると面倒だぞ」
「あっち行こうぜ」
 ちょっと! どこ行くのよ! 話を聞きなさいよ!
 保証人にならせてあげるって言ってるのよ!
 勇者になりたくないの!?
「あー、ちょっと君。私はここの支部長なんだが」
 あらオジさん、保証人になりたいのね。
 一番偉い人が保証人になれば、この頭の固いブサイクな受付女も素直になるでしょ。
 いいわよ、保証人にならせてあげる。
 じゃあ、早く手続きを済ませましょ。
「いや、そうじゃなくて」
 なによ?
「君の名前はリリア・カーティスなんだね?」
 そうよ。
 わたしは聖女リリア・カーティス。
「なるほど……」
 なに? その紙?
「手配書に描かれた人相も合っている……間違いないな。リリア・カーティス。おまえを逮捕する」
 え?
 ちょっと!?
 なにするの!?
 わたしを誰だと思ってるの!?
「リリア・カーティスだろ。
 おまえはオルドレン王国から周辺諸国に指名手配されているんだ。
 まったく、本名で冒険者になろうとするとは。連絡が来たときは信じられなかったが、噂以上の馬鹿女だな」
 いや!
 放して!
「大人しくしろ!」
 このっ。
 雷光電撃ライトニングボルト
「グアアア!」
 フンッ。
 聖女のわたしに乱暴するからよ。
「なんだ!?」
「なにごとだ!?」
「あの女! 支部長を!」
 だからなによ?
 聖女のわたしに乱暴したのよ。
 当然じゃない。
「こいつ!」
「捕まえろ!」
「魔法に気を付けろ!」
 聖女のわたしに逆らう気!?
 雷光放電ライトニングプラズマ
大地アース障壁ウォール!」
 ウソ!
 防がれた!
「光の上級魔法まで使うぞ!」
「取り囲め!」
音声遮断サイレント!」
 魔法が封じられた!
「今だ! 取り押さえろ!」
 いや!
「クソ! 逃げたぞ!」
「追え!」
「逃がすな!」
 なんで?
 なんで聖女のわたしがここでも追いかけられないといけないの?


 もう冒険者組合に登録なんてしなくていいわ。
 攻略本を読んでゲームの事は隅々まで知ってる。
 冒険者にならなくたって魔王も悪役令嬢も倒せるんだから。
 まずはあの悪役令嬢がどこまでゲームを進めたのか確認しないとね。
 クリスティーナ・アーネストは、どういう方法なのか分からないけど、ゲームのシナリオの進行を早送りしている。
 魔王が一年も早く復活したのも、悪役令嬢がなにかしたからに違いないわ。
 その方法を突き止めないと。
 そのためにノギー村にわたしは来た。
 ノギー村はゴブリンの集団に襲われるはずなんだけど……
「ゴブリン? いいや、あの時、村を占拠してたのは人狼ウェアウルフだべ。百人くらいの人狼部隊が村に陣取って、エライ目にあっただ。
 それをよ、冒険者の方々が救ってくださっただ。いやぁ、ありがたいことだべ。あの方々のおかげで、また平和に暮らせるんだからな」
 ゴブリンじゃなくて人狼?
 どういうこと?
 あの悪役令嬢、ゲームのシナリオを早く進めただけじゃなくて、内容まで変えたっていうの?
「でもなぁ、最近また悩みの種ができちまって」
 なに?
「村の近くにオークの一家が住みついちまっただ。それがよ、そのオークら、オラたちに話し合いに来て、なんも悪さしねぇからそこに住むのを許して欲しいって言ってきただ。
 なんでも三匹の竜に里を滅ぼされて、行く当てもなく家族で放浪してたとかって。
 でな、そこに住むの、オラたちがどうしても嫌だって言うなら、すぐ出て行って他の住処を探すっていうんだ。
 正直ちょっと可哀想だし、まあしばらくは様子を見ることにしたんだ」
 でも魔物だからいつなにするか分からないから困ってるのね。
 わかった。
 わたしが退治して上げる。
「へ? なにいってるだ? 下手につついて怒らせたらどうするだ」
 大丈夫よ。
 わたしは聖女よ。
 オークくらい簡単に退治できるわ。
 じゃあ、早速行ってくる。
「待て! 待つんだ! オークに手を出しちゃなんねえ!」


 いたいた。
 あれがオークね。
 うわ、キモ。
 なんてキモイの。
 キモデブオタクって感じ。
 放っておいたら絶対なにかするに違いないわ。
 いえ、もう存在するだけで害悪よ。
 数は十匹か。
 オークども! 聞きなさい!
 わたしは聖女リリア・カーティス! 
 村の人たちを怯えさせるおまえたち魔物の存在を女神は許さない!
 聖女であるわたしがおまえたちを退治してやる!
 雷光放電!
「「「ギャアアアアア!!!」」」
 五匹やっつけてやった。
 さあ、かかって来なさい。
「逃ゲロ! ミンナ逃ゲルンダ!」
 え?
 あれ?
 ちょっと?
 どこ行くのよ?


 残りの五匹に逃げられちゃった。
 でも、これであそこに住もうなんて思わないはず。
 ノギー村の人たちは安心安心。
 あー、わたしってばなんて良いことしたんだろ。
 早く村の人たちに教えてあげなくっちゃ。


 ノギー村の村長は、あのおかしな娘を探していた。
 魔物に村を占拠された時の事を聞いてきたり、オークを退治すると言いだしたり、終いには自分の事を聖女だとまで言い始めた。
 あんな若い娘が一人でオークを退治できるはずがない。
 村長は嫌な予感がしていた。
 あの娘は危険な雰囲気がある。
 あの娘が危険な目にあうのではなく、あの娘が周囲を危険に曝すような。
 なにかとんでもないことをしでかすような気がしてならない。
「村長ー!」
 村の若者が呼んで来た。
「どうした!?」
「村にもどってくだせえ! 大変なことになってるっぺ!」


 村長が村に戻ると、そこには憤怒の形相のオークが一匹と、地面に倒れ呻き声を上げている何人もの村人。
「こ、これは?」
 オークが村長にゆっくりと足を進める。
「貴様……ナゼダ? ナゼアンナコトヲシタ?」
「な、なんのことだ?」
「アノ女だ。アノ女ガイキナリ襲ッテキタ。五人モ殺サレタ。
 ナゼダ? 俺ハオマエタチニ約束シタ。危害ヲ加エル事ハシナイト。ソレデモアノ場所ニ俺タチガ住ムノガ嫌ナラバ、ハッキリソウ言ッテホシイト。ソノ時ハ俺タチハスグニ出テイクト。
 ソレナノニ、オマエタチハ俺タチヲ殺スコトヲ選ンダノカ。出テ行ケトスラ言ワズニ、問答無用デ殺ス事ニシタトイウノカ!」
「ま、待ってくれ。違うんだ。あの娘が勝手にやったことなんだ。オラたちは止めたんだ。それなのにあの娘はオラたちの話を聞かずにおまえたちを退治すると行ってしまったんだべ。オラたち、あの娘を止めようと探してた所だったんだ」
「ソレガ言イ訳ノツモリカ!」
 オークは雄叫びを上げた。
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