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一章
99・必要なことなのです
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ランクAの近代の竜 三体を、こんな簡単に倒した。
竜殺しの威力のおかげだ。
そして同じくらい、ラーズさまの魔力の凄さ。
これが剣を使ったラーズさまの実力。
もしかして剣を使ったラーズさまは、ランクSSに匹敵するのでは。
自身の魔力に耐えられる剣を手に入れたラーズさまと一緒なら、魔王バルザックを止めることができると、私は確信した。
「さあ、太陽の花を採取しよう」
ラーズさまが竜殺しを鞘に納めて、私たちに促した。
三体の近代の竜を倒し、太陽の花を採取し終えた私たちは、黄竜王ツァホーヴさまの所へ、聖剣・竜殺しを返しに行った。
「そうか。倒したか」
少し残念そうなツァホーヴさま。
「申し訳ありません」
「いや、謝ることはない。命を落としたのは狼藉を働いた本人たちに原因がある」
顎の髭を撫でながら、そう言ってくださるツァホーヴさま。
「あの、一つだけ教えてください。魔王バルザックの目的はなんですか?
御隠居さまは自分で確かめろと言われましたが、魔王バルザックが人間である私たちに素直に話すとは思えません。目的を知らなければ対策を立てられないのです。
グレース火山の竜たちは、強い者が支配者になるだけだと言っていましたが、魔王バルザックも同じなのですか?」
「おまえさんたちはあの娘を止めるつもりなのか?」
「はい」
「そうか」
ツァホーヴさまはしばらく黙考し、やがて、
「魔物と人間の共存共栄のためと言っておったな」
魔物と人間の共存共栄のため。
「そのためには、人間を征服しなければならないと。あの娘は魔物と人間との平和のために戦争を起こす。明らかに間違っておるじゃろう」
「確かにそうですね」
平和を築きたいのなら和平を結ぶべきだ。
どうして、魔物と人間が共存共栄するために、戦争を起こす必要があるの?
「わしから言えるのはここまでじゃ。後は自分で確かめることじゃな。間違いを正すには、自分の目と耳で確かめ、考えなければならん」
「わかりました」
こうして竜殺しをツァホーヴさまに返却した。
一週間後、錬金術師ソラリスさまの屋敷に戻った私たちは、太陽の花を見せる。
「おお、ずいぶん採ってきたな。これなら余るくらいだ」
「では急いでください。武闘祭まであと三日しかありません」
「わかった」
そしてソラリスさまは早速、完全回復薬の調合に取り掛かり、私たちはソラリスさまの手伝いをした。
私たちにできることは簡単な作業だけだけど、必要な完全回復薬の量は多く、手はいくらあっても足りない。
不眠不休で私たちは調合し続けた。
そして武闘祭当日、完全回復薬の調合を終えた。
「こ、これで一応、言われた量は作ったぞ」
ソラリスさまは疲労回復の栄養飲料を飲んでいる。
ちなみに私は断った。
その飲み物の色が毒々しい紫だったので。
ラーズさまが現状の問題を指摘する。
「だが、今から出場者に飲ませて回る時間はないぞ。武闘祭が始まるのは一時間後だ。どうする?」
「ちょっと待ってろ」
ソラリスさまがそう言おうと、円筒形容器を持ってきた。
「それは?」
「薬剤噴霧機だ。こいつに完全回復薬を入れて、武闘会場で散布しろ。動物実験じゃ吸引させた場合でもある程度の効果はあった。凶暴化が完全に治まるわけじゃないが、正気を取り戻すくらいの効果はある。ちゃんと治すのは後回しでいいだろ」
「よし、わかった」
私たちは円筒形容器に完全回復薬を入れ、それをセルジオさまが背に担いだ。
「さあ、みんな、行こう!」
ストラウス大公爵はラーズたちと話をしてから、魔王とライザーの陰謀の証拠を掴むため奔走した。
そしてライザー直属の騎士隊から二人、白状させることができた。
二人はライザーの命令には従っていたが、その目的までは知らされていなかった。
しかし出場者の飲食物に盛っていた薬を所持しており、それをライザーから渡されたと証言させるところまでこぎつけた。
見返りとして、二人はなにも知らず、よって罪に問わないということにする。
薬の成分の分析は、出資している錬金術師ソラリスにさせた。
ラーズたちがすでに一度ソラリスにさせたことだったため、分析するのは早かった。
二人の騎士の証言と、薬を証拠として、皇帝に報告しなければならない。
武闘祭まで時間がない。
悠長に面会の約束を取り付ける時間もない。
無礼を承知で皇帝の自室に押し掛けた。
「いったい何用だ? いくらストラウス大公爵といえど、無礼であろう」
「申し訳ありません、皇帝陛下。しかし至急お伝えしなければならないことがあるのです。でなければ手遅れになるかもしれません。本当に時間がないのです」
「何事だ?」
ストラウス大公爵は事の次第を説明した。
円形闘技場の主賓席でライザーは、出場者の様子に満足していた。
眼下の闘技場に並ぶ出場者は皆 殺気立っており、きっかけ一つで理性を失い殺し合う寸前まで興奮している。
最後の仕上げの毒霧を吸引させれば、それは現実となる。
ライザーの背後に控えている、ローブを羽織った二人。
その二人の手の者が、その毒薬を撒く。
自分の直属の騎士隊は自分の周りに置いてあるので、毒を吸引することはない。
ライザーの右には母である皇后。左には婚約者のリコレッティが座っている。
リコレッティが体を微かに振るわせている。
戦いを見るのが怖いのだ。
「ライザーさま。やはりわたくし、観戦は遠慮いたします」
リコレッティは消え入りそうな声で言うが、
「駄目だ。ここにいろ」
ライザーは無下にして命令する。
それに対し皇后は困った顔で、
「ライザー、リコがこういうことを見るのが苦手なのは知っているでしょう。婚約者を怖がらせてはいけませんよ」
「母上、必要なことなのです。今日の武闘祭はリコに見せなければなりません」
母に対し、どこか横柄に言うライザー。
「それより、ラーズがどこにいるのか知りませんか?」
「いえ、あの子は私には何も言っていないわ」
「リコ、おまえはなにか知らないか?」
「いいえ、知りません」
リコレッティは震える声で答える。
ラーズが武闘祭で陰謀が起こると言っていたことをリコレッティは忘れてなどいない。
父であるストラウス大公爵も、今日は闘技場に近付くなと言われた。
だが今日になってライザーが、必ず武闘祭の観戦に来るよう、命令してきた。
リコレッティは逆らえず、来るしかなかった。
ライザーはラーズの姿の無いことに嘲笑する。
「ふん。ラーズめ、逃げたか」
いない者は仕方がない。
できればこの場で断罪しておきたかったのだが、出場者を殺し合わせるだけで良しとしよう。
事が終わった後で、闇の魔力を持つラーズが犯人であると、光の魔力を持つ自分が言えば、愚民どもは簡単に信じるはずだ。
その後は指名手配にでもすれば良い。
運営委員の一人がライザーに耳打ちした。
「ライザーさま、開会宣言を」
「わかった」
ライザーは立ち上がる。
「出場者諸君。今日は良く参加してくれた。その力、技、存分に奮え!」
「「「UOOOOO!!!」」」
出場者たちが一斉に雄たけびを上げる。
それは獣のそれに似ており、観客は恐怖すら感じた。
「ではこれより、アスカルト帝国武闘祭を開催する!」
「「「「「GUOOOOO!!!!!」」」」」
そしてライザーは一言、背後のローブを羽織った二人に指示を出した。
「やれ」
観客席からローブを羽織った十二人の何者かが、闘技場に瓶を投げ込んだ。
瓶は地面に叩きつけられて粉々に砕け散り、中身の液体が地面に撒かれると、急速に気化し、毒霧となって闘技場を満たす。
「なんだ?」
「あれは?」
「なにがおきた?!」
観客から動揺の声。
そして毒霧が晴れた時、そこには出場者全員が、誰かれ構わず掴みかかり殴り合い、木製の武器を力任せに叩きつけ合っている光景が繰り広げられていた。
皇后は驚愕する。
「これはいったい!? ライザー! なにがおきたのです!?」
「これで良いのですよ、母上。これは、私がアスカルト帝国の皇帝ではなく、全人類の皇帝となるために必要なことなのです」
ライザーは歓喜の表情で、出場者たちが殺し合うのを見ていた。
竜殺しの威力のおかげだ。
そして同じくらい、ラーズさまの魔力の凄さ。
これが剣を使ったラーズさまの実力。
もしかして剣を使ったラーズさまは、ランクSSに匹敵するのでは。
自身の魔力に耐えられる剣を手に入れたラーズさまと一緒なら、魔王バルザックを止めることができると、私は確信した。
「さあ、太陽の花を採取しよう」
ラーズさまが竜殺しを鞘に納めて、私たちに促した。
三体の近代の竜を倒し、太陽の花を採取し終えた私たちは、黄竜王ツァホーヴさまの所へ、聖剣・竜殺しを返しに行った。
「そうか。倒したか」
少し残念そうなツァホーヴさま。
「申し訳ありません」
「いや、謝ることはない。命を落としたのは狼藉を働いた本人たちに原因がある」
顎の髭を撫でながら、そう言ってくださるツァホーヴさま。
「あの、一つだけ教えてください。魔王バルザックの目的はなんですか?
御隠居さまは自分で確かめろと言われましたが、魔王バルザックが人間である私たちに素直に話すとは思えません。目的を知らなければ対策を立てられないのです。
グレース火山の竜たちは、強い者が支配者になるだけだと言っていましたが、魔王バルザックも同じなのですか?」
「おまえさんたちはあの娘を止めるつもりなのか?」
「はい」
「そうか」
ツァホーヴさまはしばらく黙考し、やがて、
「魔物と人間の共存共栄のためと言っておったな」
魔物と人間の共存共栄のため。
「そのためには、人間を征服しなければならないと。あの娘は魔物と人間との平和のために戦争を起こす。明らかに間違っておるじゃろう」
「確かにそうですね」
平和を築きたいのなら和平を結ぶべきだ。
どうして、魔物と人間が共存共栄するために、戦争を起こす必要があるの?
「わしから言えるのはここまでじゃ。後は自分で確かめることじゃな。間違いを正すには、自分の目と耳で確かめ、考えなければならん」
「わかりました」
こうして竜殺しをツァホーヴさまに返却した。
一週間後、錬金術師ソラリスさまの屋敷に戻った私たちは、太陽の花を見せる。
「おお、ずいぶん採ってきたな。これなら余るくらいだ」
「では急いでください。武闘祭まであと三日しかありません」
「わかった」
そしてソラリスさまは早速、完全回復薬の調合に取り掛かり、私たちはソラリスさまの手伝いをした。
私たちにできることは簡単な作業だけだけど、必要な完全回復薬の量は多く、手はいくらあっても足りない。
不眠不休で私たちは調合し続けた。
そして武闘祭当日、完全回復薬の調合を終えた。
「こ、これで一応、言われた量は作ったぞ」
ソラリスさまは疲労回復の栄養飲料を飲んでいる。
ちなみに私は断った。
その飲み物の色が毒々しい紫だったので。
ラーズさまが現状の問題を指摘する。
「だが、今から出場者に飲ませて回る時間はないぞ。武闘祭が始まるのは一時間後だ。どうする?」
「ちょっと待ってろ」
ソラリスさまがそう言おうと、円筒形容器を持ってきた。
「それは?」
「薬剤噴霧機だ。こいつに完全回復薬を入れて、武闘会場で散布しろ。動物実験じゃ吸引させた場合でもある程度の効果はあった。凶暴化が完全に治まるわけじゃないが、正気を取り戻すくらいの効果はある。ちゃんと治すのは後回しでいいだろ」
「よし、わかった」
私たちは円筒形容器に完全回復薬を入れ、それをセルジオさまが背に担いだ。
「さあ、みんな、行こう!」
ストラウス大公爵はラーズたちと話をしてから、魔王とライザーの陰謀の証拠を掴むため奔走した。
そしてライザー直属の騎士隊から二人、白状させることができた。
二人はライザーの命令には従っていたが、その目的までは知らされていなかった。
しかし出場者の飲食物に盛っていた薬を所持しており、それをライザーから渡されたと証言させるところまでこぎつけた。
見返りとして、二人はなにも知らず、よって罪に問わないということにする。
薬の成分の分析は、出資している錬金術師ソラリスにさせた。
ラーズたちがすでに一度ソラリスにさせたことだったため、分析するのは早かった。
二人の騎士の証言と、薬を証拠として、皇帝に報告しなければならない。
武闘祭まで時間がない。
悠長に面会の約束を取り付ける時間もない。
無礼を承知で皇帝の自室に押し掛けた。
「いったい何用だ? いくらストラウス大公爵といえど、無礼であろう」
「申し訳ありません、皇帝陛下。しかし至急お伝えしなければならないことがあるのです。でなければ手遅れになるかもしれません。本当に時間がないのです」
「何事だ?」
ストラウス大公爵は事の次第を説明した。
円形闘技場の主賓席でライザーは、出場者の様子に満足していた。
眼下の闘技場に並ぶ出場者は皆 殺気立っており、きっかけ一つで理性を失い殺し合う寸前まで興奮している。
最後の仕上げの毒霧を吸引させれば、それは現実となる。
ライザーの背後に控えている、ローブを羽織った二人。
その二人の手の者が、その毒薬を撒く。
自分の直属の騎士隊は自分の周りに置いてあるので、毒を吸引することはない。
ライザーの右には母である皇后。左には婚約者のリコレッティが座っている。
リコレッティが体を微かに振るわせている。
戦いを見るのが怖いのだ。
「ライザーさま。やはりわたくし、観戦は遠慮いたします」
リコレッティは消え入りそうな声で言うが、
「駄目だ。ここにいろ」
ライザーは無下にして命令する。
それに対し皇后は困った顔で、
「ライザー、リコがこういうことを見るのが苦手なのは知っているでしょう。婚約者を怖がらせてはいけませんよ」
「母上、必要なことなのです。今日の武闘祭はリコに見せなければなりません」
母に対し、どこか横柄に言うライザー。
「それより、ラーズがどこにいるのか知りませんか?」
「いえ、あの子は私には何も言っていないわ」
「リコ、おまえはなにか知らないか?」
「いいえ、知りません」
リコレッティは震える声で答える。
ラーズが武闘祭で陰謀が起こると言っていたことをリコレッティは忘れてなどいない。
父であるストラウス大公爵も、今日は闘技場に近付くなと言われた。
だが今日になってライザーが、必ず武闘祭の観戦に来るよう、命令してきた。
リコレッティは逆らえず、来るしかなかった。
ライザーはラーズの姿の無いことに嘲笑する。
「ふん。ラーズめ、逃げたか」
いない者は仕方がない。
できればこの場で断罪しておきたかったのだが、出場者を殺し合わせるだけで良しとしよう。
事が終わった後で、闇の魔力を持つラーズが犯人であると、光の魔力を持つ自分が言えば、愚民どもは簡単に信じるはずだ。
その後は指名手配にでもすれば良い。
運営委員の一人がライザーに耳打ちした。
「ライザーさま、開会宣言を」
「わかった」
ライザーは立ち上がる。
「出場者諸君。今日は良く参加してくれた。その力、技、存分に奮え!」
「「「UOOOOO!!!」」」
出場者たちが一斉に雄たけびを上げる。
それは獣のそれに似ており、観客は恐怖すら感じた。
「ではこれより、アスカルト帝国武闘祭を開催する!」
「「「「「GUOOOOO!!!!!」」」」」
そしてライザーは一言、背後のローブを羽織った二人に指示を出した。
「やれ」
観客席からローブを羽織った十二人の何者かが、闘技場に瓶を投げ込んだ。
瓶は地面に叩きつけられて粉々に砕け散り、中身の液体が地面に撒かれると、急速に気化し、毒霧となって闘技場を満たす。
「なんだ?」
「あれは?」
「なにがおきた?!」
観客から動揺の声。
そして毒霧が晴れた時、そこには出場者全員が、誰かれ構わず掴みかかり殴り合い、木製の武器を力任せに叩きつけ合っている光景が繰り広げられていた。
皇后は驚愕する。
「これはいったい!? ライザー! なにがおきたのです!?」
「これで良いのですよ、母上。これは、私がアスカルト帝国の皇帝ではなく、全人類の皇帝となるために必要なことなのです」
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