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一章
64・絶対に許すもんですか
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わたしは馬車に揺られながら、ルーク・アーネストの事を考える。
思い出すだけで はらわたが煮え返る。
なにがアーネスト侯爵家の後継者としての責任と義務があるよ。
両親の期待が重いって、侯爵家の後継者の責務が重いって、いつも言ってたじゃない。
それなのに、いまさら爵位を取るっていうの。
それに婚約者ってどういうことよ。
誰が救ってやったと思ってるの。
この わたしよ。
ヒロイン、リリア・カーティスが救ってやったのよ。
その恩を忘れて他の女に愛を捧げるですって。
許せない。
そんなの許さない。
絶対に許すもんですか。
僕は学園の休日に、久しぶりに実家の館に帰った。
父さんと母さんに挨拶して、学園の話をする。
父さんも母さんも僕の成績が上がっていると聞いて嬉しそうだ。
でも、どこかよそよそしいような感じがする。
今日に始まったことじゃない。
姉さんの処刑日から、こんな感じだ。
聞きたいことがあるのに、聞き出せずにいるような。
きっと僕が姉さんの処刑に賛同したことだ。
二人は僕が姉さんを理由もなく処刑に賛同したと思っている。
だけど、それは違う。
理由はある。
姉さんは処刑されるだけの事をしたんだ。
聞かれればきちんと説明することができる。
「ねえ、父さん、母さん。僕になにか聞きたいことがあるんじゃない?」
「いや、なにもないぞ。強いて言うなら学園生活のことくらいだ」
「私もよ。学園でのこと、もっと聞かせて」
「そう。わかった」
父さんも母さんも、問題から目を逸らしている。
今までもきっとそうだったんだ。
問題に向き合わず、曖昧な態度で誤魔化す。
だから姉さんはあんなふうになってしまった。
きちんと教育していれば、姉さんはリリアを殺そうとしなかったかもしれないのに。
もしかすると、僕まで姉さんのようになっていたかもしれない。
でも、僕はリリアに救われた。
リリアに救われた人生を、僕は生き続けるんだ。
僕は両親に学園生活の報告を終えて、自室に向かった。
自室に到着して、扉を開けて中に入ると、そこには先客がいた。
リオン殿下とジルド先輩だ。
「お久しぶりです、二人とも。こんなところにいるなんて、どうしたんですか? 父さんも母さんもなにも言ってませんでした。どうして教えてくれなかったのかな? なにかあったんですか?」
僕の質問に、ジルド先輩が拳骨で答えた。
「グッ!」
突然 鼻柱を殴りつけられて、ツーンと変な感覚がし、ボタボタと鼻血が出る。
「な、なにをするんですか? 僕が一体なにをしたというんですか?」
ジルド先輩が憤怒の顔で、
「貴様は違うと思っていたが、俺の見込み違いだった。やはり貴様はあの女の弟だ」
「ど、どういう意味ですか?」
リオン殿下が侮蔑の表情で、
「惚けおって。そういうところもあの女と同じだ」
「一体なにを?」
「この部屋でこれらを見つけたぞ!」
僕の足元に数冊の本を投げつけてきた。
「禁止された悪書だ! なぜ貴様がこれらを持っているか説明してもらうぞ! もっとも見当は付いているがな!」
禁止された悪書?!
そんなの僕は持っていない。
「違います! これは僕の物じゃない! 何かの間違いです!」
「ではなぜ貴様の部屋にそれがある!」
「それは……それは、誰かが仕組んだんです! きっと僕を陥れるために、こんな悪書を僕の部屋に置いたに違いありません!」
「ふん。やはり惚け通すつもりのようだな。いいだろう。取調室でじっくり白状させてやる」
「待ってください! 僕の話しを聞いてください!」
「ああ、聞いてやるとも。取調室でな。兵士よ!」
扉から四人の兵士が入ってきて、僕を取り押さえた。
「待って! お願い! 話を聞いて! ジルド先輩! リオン殿下!」
裁判が行われている。
僕は取り調べの間、何日経ったのか分からなくなるほど一睡もさせて貰えず、頭がうまく働かない。
体も顔も、殴られ続けて、感覚は麻痺している。
リリアの雇用体制改革で検事になれた人が、裁判長や傍聴人とかの前で、起訴内容とか、そういうのを読み上げてる。
「ルーク・アーネストが所持していたのは、審査委員会が悪書と判断し禁止したものです。
口に出すのも憚られる内容で、高貴な身分の気高い女性に暴力をふるい、下劣な性欲の捌け口にし、蹂躙すると言ったものです。極めて危険な悪書と言えましょう。
また、何度も読み返した痕跡があることから、重度に耽溺していた事は間違いありません」
「ルーク・アーネスト。これらの事を認めますか?」
裁判長が僕に質問してきたみたい。
答えないと。
ちゃんと否定しないと。
「……あ……ち、違います……それは……僕のじゃない……僕はそんな物……読んだこと……ありません……」
「みなさん! お聞きになりましたか?! これだけの証拠を提示されても、白を切り惚け通せばまだ罪を免れると考えているのです! 彼がまるで反省していないということがこの発言で明らかです!」
検事が大声でみんなに言っている。
違うんだ。
「ち……違う。僕は……本当に……」
「それだけではありません! 彼の顔をご覧ください! 彼は取り調べのさい自分で自分の顔を殴るといった異常な行動を取っていた! これは取り調べで不当な暴力が振るわれたと虚言を吐くためなのです! 彼は罪を免れるためならなんでもする!」
違う。
これはジルド先輩がしたことなんだ。
止めてって何度も言ったのに、僕が白状するまで続けてやるって。
「僕は……そんなこと……これは……ジルド……」
「彼は危険な悪書を耽溺していた! そしてその内容からオルドレン王国で最も高貴なる女性、リオン王子の婚約者、リリア・カーティス様に性的暴行を加える計画を立てていた事は明白であり、その残虐性から更生は不可能と判断するしかありません!
また、先に処刑が執行された極悪人、クリスティーナ・アーネストと共謀し、リリア様を毒殺しようとした合理的な疑いがある!
以上の事から処刑を言い渡すべきです!」
「……ち……違う……僕は……そんなこと……考えたことなんて……ない……本当なんだ……信じてよ……みんな……信じて……リリア……」
思い出すだけで はらわたが煮え返る。
なにがアーネスト侯爵家の後継者としての責任と義務があるよ。
両親の期待が重いって、侯爵家の後継者の責務が重いって、いつも言ってたじゃない。
それなのに、いまさら爵位を取るっていうの。
それに婚約者ってどういうことよ。
誰が救ってやったと思ってるの。
この わたしよ。
ヒロイン、リリア・カーティスが救ってやったのよ。
その恩を忘れて他の女に愛を捧げるですって。
許せない。
そんなの許さない。
絶対に許すもんですか。
僕は学園の休日に、久しぶりに実家の館に帰った。
父さんと母さんに挨拶して、学園の話をする。
父さんも母さんも僕の成績が上がっていると聞いて嬉しそうだ。
でも、どこかよそよそしいような感じがする。
今日に始まったことじゃない。
姉さんの処刑日から、こんな感じだ。
聞きたいことがあるのに、聞き出せずにいるような。
きっと僕が姉さんの処刑に賛同したことだ。
二人は僕が姉さんを理由もなく処刑に賛同したと思っている。
だけど、それは違う。
理由はある。
姉さんは処刑されるだけの事をしたんだ。
聞かれればきちんと説明することができる。
「ねえ、父さん、母さん。僕になにか聞きたいことがあるんじゃない?」
「いや、なにもないぞ。強いて言うなら学園生活のことくらいだ」
「私もよ。学園でのこと、もっと聞かせて」
「そう。わかった」
父さんも母さんも、問題から目を逸らしている。
今までもきっとそうだったんだ。
問題に向き合わず、曖昧な態度で誤魔化す。
だから姉さんはあんなふうになってしまった。
きちんと教育していれば、姉さんはリリアを殺そうとしなかったかもしれないのに。
もしかすると、僕まで姉さんのようになっていたかもしれない。
でも、僕はリリアに救われた。
リリアに救われた人生を、僕は生き続けるんだ。
僕は両親に学園生活の報告を終えて、自室に向かった。
自室に到着して、扉を開けて中に入ると、そこには先客がいた。
リオン殿下とジルド先輩だ。
「お久しぶりです、二人とも。こんなところにいるなんて、どうしたんですか? 父さんも母さんもなにも言ってませんでした。どうして教えてくれなかったのかな? なにかあったんですか?」
僕の質問に、ジルド先輩が拳骨で答えた。
「グッ!」
突然 鼻柱を殴りつけられて、ツーンと変な感覚がし、ボタボタと鼻血が出る。
「な、なにをするんですか? 僕が一体なにをしたというんですか?」
ジルド先輩が憤怒の顔で、
「貴様は違うと思っていたが、俺の見込み違いだった。やはり貴様はあの女の弟だ」
「ど、どういう意味ですか?」
リオン殿下が侮蔑の表情で、
「惚けおって。そういうところもあの女と同じだ」
「一体なにを?」
「この部屋でこれらを見つけたぞ!」
僕の足元に数冊の本を投げつけてきた。
「禁止された悪書だ! なぜ貴様がこれらを持っているか説明してもらうぞ! もっとも見当は付いているがな!」
禁止された悪書?!
そんなの僕は持っていない。
「違います! これは僕の物じゃない! 何かの間違いです!」
「ではなぜ貴様の部屋にそれがある!」
「それは……それは、誰かが仕組んだんです! きっと僕を陥れるために、こんな悪書を僕の部屋に置いたに違いありません!」
「ふん。やはり惚け通すつもりのようだな。いいだろう。取調室でじっくり白状させてやる」
「待ってください! 僕の話しを聞いてください!」
「ああ、聞いてやるとも。取調室でな。兵士よ!」
扉から四人の兵士が入ってきて、僕を取り押さえた。
「待って! お願い! 話を聞いて! ジルド先輩! リオン殿下!」
裁判が行われている。
僕は取り調べの間、何日経ったのか分からなくなるほど一睡もさせて貰えず、頭がうまく働かない。
体も顔も、殴られ続けて、感覚は麻痺している。
リリアの雇用体制改革で検事になれた人が、裁判長や傍聴人とかの前で、起訴内容とか、そういうのを読み上げてる。
「ルーク・アーネストが所持していたのは、審査委員会が悪書と判断し禁止したものです。
口に出すのも憚られる内容で、高貴な身分の気高い女性に暴力をふるい、下劣な性欲の捌け口にし、蹂躙すると言ったものです。極めて危険な悪書と言えましょう。
また、何度も読み返した痕跡があることから、重度に耽溺していた事は間違いありません」
「ルーク・アーネスト。これらの事を認めますか?」
裁判長が僕に質問してきたみたい。
答えないと。
ちゃんと否定しないと。
「……あ……ち、違います……それは……僕のじゃない……僕はそんな物……読んだこと……ありません……」
「みなさん! お聞きになりましたか?! これだけの証拠を提示されても、白を切り惚け通せばまだ罪を免れると考えているのです! 彼がまるで反省していないということがこの発言で明らかです!」
検事が大声でみんなに言っている。
違うんだ。
「ち……違う。僕は……本当に……」
「それだけではありません! 彼の顔をご覧ください! 彼は取り調べのさい自分で自分の顔を殴るといった異常な行動を取っていた! これは取り調べで不当な暴力が振るわれたと虚言を吐くためなのです! 彼は罪を免れるためならなんでもする!」
違う。
これはジルド先輩がしたことなんだ。
止めてって何度も言ったのに、僕が白状するまで続けてやるって。
「僕は……そんなこと……これは……ジルド……」
「彼は危険な悪書を耽溺していた! そしてその内容からオルドレン王国で最も高貴なる女性、リオン王子の婚約者、リリア・カーティス様に性的暴行を加える計画を立てていた事は明白であり、その残虐性から更生は不可能と判断するしかありません!
また、先に処刑が執行された極悪人、クリスティーナ・アーネストと共謀し、リリア様を毒殺しようとした合理的な疑いがある!
以上の事から処刑を言い渡すべきです!」
「……ち……違う……僕は……そんなこと……考えたことなんて……ない……本当なんだ……信じてよ……みんな……信じて……リリア……」
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