上 下
37 / 162
一章

37・必殺分身の術!

しおりを挟む
「スファル、治癒ヒーリングが使えたな?」
 ラーズの質問に、スファルは怪訝に答える。
「ああ、使えるけど」
「よし。セルジオ、石像兵の動きを君の力で止めてくれ」
「分かり申した」
「キャサリン、スファル。君たちはもう一体の相手をして動きを撹乱し、俺たちに近づけさせないようにしてほしい」
「分かった」
「分かりました」


 セルジオが石像兵の前に立つ。
 石像兵はそのセルジオに拳を繰り出すが、カウンターで石像兵の胸に大槌を叩きつける。
 亀裂が入ったが、完全に破壊するにはまだまだ至らない。
 そして石像兵は、自分の胸の破壊など気に留めず、大槌を掴み奪おうとした。
 セルジオは雄叫びを上げ、それに対抗する。
「ぬおおおおお! 石像兵などなんとするものぞ! 吾輩の筋肉をみせてくれるわ!」
 巨大魔熊ドゥップとも対等に渡り合った怪力で、セルジオは石像兵と均衡状態に持ちこんでみせた。
 そしてラーズが魔法を行使する。
武器魔法付与エンチャントウェポン!」
 右拳が闇色の光を放つ。
 武器魔法付与の魔法を自分の右拳に直接、掛けたのだ。
 そして、
「おおおっ!」
 その右拳で、セルジオが動きを封じている、石像兵の背中を殴りつけた。
 粉砕される石像兵。
「おお! なんつー荒技を」
 感心するスファル。
 しかし、
「ぐうっ」
 右拳を抑えて呻き声を上げるラーズ。
 キャサリンが、
「いけない。自分の魔力に耐えられなかったんだわ。スファル様、治癒ヒーリングを」
「後で良い! それよりセルジオ、もう一体を今の要領でやるぞ」
「しかし、ラーズ殿下。その拳では」
「まだ左が残っている」
「ぬう、分かり申した」
 セルジオは、スファルとキャサリンが相手をしていた、石像兵へ向かう。
 石像兵は接近したセルジオに掴みかかろうとするが、セルジオは大槌を捨ててその腕を先に掴む。
「ふんぬううう!」
 再び己の怪力を最大限に発揮するセルジオ。
「武器魔法付与!」
 ラーズは左拳に魔法をかける。
 跳躍して一気に間合いを詰め、石像兵の頭上から左拳を叩きつけようとした。
 しかし、
「ぬあ! しまった!」
 石像兵はセルジオを大きく振り、その反動でセルジオが掴んでいた手が外れ、そのままラーズに向けて投げ飛ばした。
 二人は空中でぶつかり、床に転がってしまう。
「ぐあっ」
 ラーズが左拳まで痛めてしまった。
 先の戦法はもう使えない。
 そして、そのラーズに向かって、石像兵は足を進める。


「このっ! 待ちやがれ!」
 スファルは石像兵の注意を引こうと、鏡水の剣シュピーゲルを逆手に持ち、石像兵に背中に突き立てる。
「へ?」
 刺さった。
 正直、注意を引くための攻撃で、表面で弾かれてしまうだろうと思っていたのだ。
 それが、いとも容易く突き刺さった。
 石像兵は、その攻撃に反応して、スファルめがけて裏拳を放つ。
「おわ!」
 屈んで回避するスファルは、手から太刀を放してしまう。
 間合いを取り、石像兵の動きに注意する。
 あれだけ簡単に刺さったってことは、斬ることもできるんじゃ。
 しかし、肝心の鏡水の剣シュピーゲルは、石像兵の背中に刺さったまま。
「キャサリン、石像兵の動きをかく乱してくれ」
「分かりました」
 キャサリンは石像兵の周囲を無作為ランダムに動き回る。
 元々素早い上、疾風の剣サイクロンの効果によって速度が上がったキャサリンの動きに付いて行けない石像兵。
 そして、スファルから石像兵の背後が見えた。
 疾走して太刀の柄を掴み、引きぬく。
 石像兵はスファルに右拳を繰り出す。
「チェイ!」
 気合いと共に、右腕を狙って太刀を斬り上げるスファル。
 石像兵の右腕が落ちた。
「やった!」
 斬れる。
 普通なら剣の方が折れてしまうだろう、石の塊を。
「なんつー切れ味だよ、コレ」
 あまりのことに感激してしまう。
「よっしゃ! いっくぞー! 必殺分身の術!」
 スファルは鏡水の剣シュピーゲルに魔力を注ぎ、分身体ドッペルゲンガーを創った。
 二人のスファルは、石像兵を切り裂き始める。
 腕を落とし、首を刎ね、足を切断し、腹を裂き、胸を斬る。
 次々と部位を斬られた石像兵は動くことができなくなり、その動きを止めた。
 そしてスファルは上段に構えると、一気に鏡水の剣シュピーゲルを振り下ろす。
 真っ二つ。
「よし!」
 スファルは石像兵が完全に動かなくなったのを確認すると、ラーズのところへ。
 セルジオの助けによって、立ち上がっていたラーズだが、両拳を痛みで震わせている。
「まったく、無茶しやがって」
「他に方法が思いつかなくてな。しかし、鏡水の剣シュピーゲルがあれほどの切れ味だとは」
「俺もビックリだ。まあ、今はそんなことより、ほら、手を出せ」
 ラーズが両手を出すと、スファルは治癒ヒーリングを掛け始めた。


 ラーズたちは四階へ上がった。
 四階は研究室の様だ。
 壁は本棚になっており、僅かな隙間さえなく本が並んでいる。
 大きなテーブルが二つあり、どれも無数の実験器具が無秩序に置かれている。
 書き物机が一つあり、書類が乱雑に散らばっている。
 部屋の中心に大きな鉄製の檻があり、中には拘束具があった。
 カーマイル・ロザボスイはここで不死の王ノーライフキングになるための実験を行っているのだろう。
 そして研究には実験体が必要になる。
 当然、実験には人間が使われることになるはずだ。
 カーマイルが吸血鬼になってから三百年。
 いったいどれだけ大勢の人間が実験に使われたのだろうか。
 五階へ続くと思われる、階段の扉は鍵がかかっていて開かない。
 研究室を調べ、五階に続く扉の鍵、あるいは一階の鍵がかかっている扉の鍵はないかと探し回るが、一向に見つからない。
「手詰まりだな。どうする?」
 スファルの問いに、ラーズは答えられなかった。
「それは俺の方こそ聞きたい。君の方がこういった経験は多いのだから」


 ドンッ!
 突然、上階から振動が伝わってきた。
「おい、今のって?」
 スファルの疑問にラーズは、
「まさか、クレアが五階にいるのか?!」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...