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一章
26・微妙です
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神金の剣エクスカリバーは、入手しなくてもクリアは可能だけど、魔王戦で苦戦することになる。
そして、この剣は中ボスを倒して入手するのではなく、特定イベントをいくつかクリアすることで、手に入れる。
その最初のイベントが、アドラ王国建国祭。
建国千年を迎えたアドラ王国は、建国祭開幕式の際に歌う歌姫に選ばれた女性に、特別に神金で出来た杯を贈る。
これが剣の素材となる。
私たちは二十日間かけて西側諸国最東のアドラ王国に到着し、早速調査を開始した。
そして判ったのは、三週間後に建国千年祭の開幕式が行われること。
その二週間前に歌姫を決める選抜大会が行われ、神金の杯が歌姫に贈られるということ。
やっぱりゲームとは色々異なっている。
ゲームでは千年を迎えるのは来年だったのに、現実では一年早い。
そして、七日後に差し迫った歌姫大会の参加申し込みは、今日で終わりだという。
考えている時間のなかった私は、とりあえず参加申し込みをした。
「クレアちゃん、歌は得意なの?」
キャシーさんの質問に私は、
「歌うのは好きですけど、上手かどうかと聞かれれば、正直、微妙です」
前世ではカラオケによく行っていて、採点はかなり良かった。
でも今世では、この世界の歌は今一つ私の肌に合わないというのもあり、歌うときはいつも気分が乗り切れず、学園での歌の実技テストの成績は平凡だった。
「でも、考えはあります。私では普通に歌っては歌姫にはなれないでしょう。だから、挑戦的に行こうかと思います」
「どんな風に?」
「それは、大会当日のお楽しみということで」
その頃、リリア・カーティスは……
アドラ王国で建国祭が開かれるって聞いた。
それはいいの。
問題は歌姫に贈られる賞品よ。
なんでこんなに早く神金の杯が出てくるのよ?
おかしいじゃない。
これじゃエクスカリバーが手に入れられなくなっちゃう。
あれがないと魔王戦ですごく苦労するのよね。
とにかく急いでアドラ王国へ行かなくちゃ。
そしてわたしが歌姫になるのよ。
フフッ、みんなわたしの歌声に感動するわ。
だってわたしはヒロイン、リリア・カーティスなんだから、わたしの歌声を聞くだけで、みんな幸せになるのよ。
待ってて、みんな。
建国千年祭に相応しいわたしの歌声を聞かせてあげるからね。
リオン王子に、アドラ王国建国祭の歌姫になりたいとお願いしたリリア・カーティスは、婚約してから初めて王宮を出ることになった。
そして、アドラ王国への出立を皆で見送るようにと、民衆に知らされた。
それは抵抗軍にとってまたとない好機だった。
ヒロインに相応しい、豪奢な王族用の馬車に乗るわたしを、みんなが見送っている。
みんながわたしを祝福している。
みんな、期待しててね。
ヒロインのわたしの素晴らしい歌声をアドラ王国で聞かせてあげるわ。
聞いた人は感動して、涙まで流しちゃうかも。
あー、楽しみ。
私の護衛にはジルドが率いる騎士中隊が就いている。
他の人でもよかったんだけど、ジルドがどうしても自分にわたしを守らせてくれってお願いしてきたの。
ふふっ。
力は大切な者を守るためにあるって言ったのを、きちんと守ってるみたい。
「伏せろ!」
きゃっ!
なに?!
付き添いのジルドがわたしを突然、押し倒した。
「リリア・カーティス! 覚悟しろ!」
「この悪女め! 貴様が王子たちを誑かし傾国へと追いやったのだ!」
「のこのこ王宮から出たのが命取りだ!」
誰かがなにかを叫んでる。
「リリア様をお守りしろ!」
「引き返せ!」
「リリア様を王宮へ戻すんだ!」
護衛の騎士たちが叫んでる。
え?
ちょっと待ってよ!
なんで引き返すの!?
わたしアドラ王国へ行かなくちゃ。
歌姫になるのよ。
引き返したら歌姫になれないじゃない!
リリア・カーティスを襲撃した三名の抵抗軍はその場で切り捨てられた。
生け捕りにする指示を出す間がなく、そして抵抗軍は弓矢の他に、火薬まで所持していたため、それを使われればリリア・カーティスを守れないとの、現場の判断だった。
そして、ジルドを始めとした護衛の騎士たちのおかげで、リリア・カーティスは無事、王宮に戻ることができた。
しかし、これがきっかけでリリア・カーティスは、アドラ王国への道中の危険が大きいとの理由で、歌姫を決める大会に出場できなくなる。
なんで出場できないのよ?!
わたしが歌姫になれなくなっちゃったじゃない!
それにわたしの歌を聞けばみんなが幸せになるのよ!
わたしの歌声を聞くだけで幸せになるの!
それなのにどうして?!
わたしの身が危険だからってどういうことよ!?
どうしてわたしの命を狙うの!?
そんなのおかしいじゃない!
わたしはみんなを幸せにするために頑張っているのよ!
なんでそれがわからないの?!
「その通りだ、リリア。愚か者どもは君が頑張っているのを理解すらできないのだ。大丈夫、君を歌姫にするようアドラ王国と交渉しよう」
そう?
わかったわ、リオン。
さすが、貴方は頼りになるわ。
王宮に引き返すことしかできなかったジルドとは大違い。
ジルド・ハティアは控室に一人でいた。
己の不甲斐なさに、怒りで手を震わせながら。
力の使い方を分かっていなかった自分に、力の使い方を教えてくれたのは リリアだった。
力とは大切な者を守るためにあるのだと。
そう、大切な者を守るためならば、どんな力を使っても賞賛されるのだと。
守るためならば何をしても良いのだと。
だが この体たらくはなんだ。
「リリアを守ると誓ったのに、引き返すことしかできなかった。俺はリリアの期待を裏切ってしまった。だが、必ず汚名返上する。必ずだ。待っていてくれ、リリア」
そして、この剣は中ボスを倒して入手するのではなく、特定イベントをいくつかクリアすることで、手に入れる。
その最初のイベントが、アドラ王国建国祭。
建国千年を迎えたアドラ王国は、建国祭開幕式の際に歌う歌姫に選ばれた女性に、特別に神金で出来た杯を贈る。
これが剣の素材となる。
私たちは二十日間かけて西側諸国最東のアドラ王国に到着し、早速調査を開始した。
そして判ったのは、三週間後に建国千年祭の開幕式が行われること。
その二週間前に歌姫を決める選抜大会が行われ、神金の杯が歌姫に贈られるということ。
やっぱりゲームとは色々異なっている。
ゲームでは千年を迎えるのは来年だったのに、現実では一年早い。
そして、七日後に差し迫った歌姫大会の参加申し込みは、今日で終わりだという。
考えている時間のなかった私は、とりあえず参加申し込みをした。
「クレアちゃん、歌は得意なの?」
キャシーさんの質問に私は、
「歌うのは好きですけど、上手かどうかと聞かれれば、正直、微妙です」
前世ではカラオケによく行っていて、採点はかなり良かった。
でも今世では、この世界の歌は今一つ私の肌に合わないというのもあり、歌うときはいつも気分が乗り切れず、学園での歌の実技テストの成績は平凡だった。
「でも、考えはあります。私では普通に歌っては歌姫にはなれないでしょう。だから、挑戦的に行こうかと思います」
「どんな風に?」
「それは、大会当日のお楽しみということで」
その頃、リリア・カーティスは……
アドラ王国で建国祭が開かれるって聞いた。
それはいいの。
問題は歌姫に贈られる賞品よ。
なんでこんなに早く神金の杯が出てくるのよ?
おかしいじゃない。
これじゃエクスカリバーが手に入れられなくなっちゃう。
あれがないと魔王戦ですごく苦労するのよね。
とにかく急いでアドラ王国へ行かなくちゃ。
そしてわたしが歌姫になるのよ。
フフッ、みんなわたしの歌声に感動するわ。
だってわたしはヒロイン、リリア・カーティスなんだから、わたしの歌声を聞くだけで、みんな幸せになるのよ。
待ってて、みんな。
建国千年祭に相応しいわたしの歌声を聞かせてあげるからね。
リオン王子に、アドラ王国建国祭の歌姫になりたいとお願いしたリリア・カーティスは、婚約してから初めて王宮を出ることになった。
そして、アドラ王国への出立を皆で見送るようにと、民衆に知らされた。
それは抵抗軍にとってまたとない好機だった。
ヒロインに相応しい、豪奢な王族用の馬車に乗るわたしを、みんなが見送っている。
みんながわたしを祝福している。
みんな、期待しててね。
ヒロインのわたしの素晴らしい歌声をアドラ王国で聞かせてあげるわ。
聞いた人は感動して、涙まで流しちゃうかも。
あー、楽しみ。
私の護衛にはジルドが率いる騎士中隊が就いている。
他の人でもよかったんだけど、ジルドがどうしても自分にわたしを守らせてくれってお願いしてきたの。
ふふっ。
力は大切な者を守るためにあるって言ったのを、きちんと守ってるみたい。
「伏せろ!」
きゃっ!
なに?!
付き添いのジルドがわたしを突然、押し倒した。
「リリア・カーティス! 覚悟しろ!」
「この悪女め! 貴様が王子たちを誑かし傾国へと追いやったのだ!」
「のこのこ王宮から出たのが命取りだ!」
誰かがなにかを叫んでる。
「リリア様をお守りしろ!」
「引き返せ!」
「リリア様を王宮へ戻すんだ!」
護衛の騎士たちが叫んでる。
え?
ちょっと待ってよ!
なんで引き返すの!?
わたしアドラ王国へ行かなくちゃ。
歌姫になるのよ。
引き返したら歌姫になれないじゃない!
リリア・カーティスを襲撃した三名の抵抗軍はその場で切り捨てられた。
生け捕りにする指示を出す間がなく、そして抵抗軍は弓矢の他に、火薬まで所持していたため、それを使われればリリア・カーティスを守れないとの、現場の判断だった。
そして、ジルドを始めとした護衛の騎士たちのおかげで、リリア・カーティスは無事、王宮に戻ることができた。
しかし、これがきっかけでリリア・カーティスは、アドラ王国への道中の危険が大きいとの理由で、歌姫を決める大会に出場できなくなる。
なんで出場できないのよ?!
わたしが歌姫になれなくなっちゃったじゃない!
それにわたしの歌を聞けばみんなが幸せになるのよ!
わたしの歌声を聞くだけで幸せになるの!
それなのにどうして?!
わたしの身が危険だからってどういうことよ!?
どうしてわたしの命を狙うの!?
そんなのおかしいじゃない!
わたしはみんなを幸せにするために頑張っているのよ!
なんでそれがわからないの?!
「その通りだ、リリア。愚か者どもは君が頑張っているのを理解すらできないのだ。大丈夫、君を歌姫にするようアドラ王国と交渉しよう」
そう?
わかったわ、リオン。
さすが、貴方は頼りになるわ。
王宮に引き返すことしかできなかったジルドとは大違い。
ジルド・ハティアは控室に一人でいた。
己の不甲斐なさに、怒りで手を震わせながら。
力の使い方を分かっていなかった自分に、力の使い方を教えてくれたのは リリアだった。
力とは大切な者を守るためにあるのだと。
そう、大切な者を守るためならば、どんな力を使っても賞賛されるのだと。
守るためならば何をしても良いのだと。
だが この体たらくはなんだ。
「リリアを守ると誓ったのに、引き返すことしかできなかった。俺はリリアの期待を裏切ってしまった。だが、必ず汚名返上する。必ずだ。待っていてくれ、リリア」
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