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一章
24・私の質問、無視した
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滅んだ古代都市ガラモの調査報告を終え、冒険者組合ラムール支部を出た私たちは、飲食店に入って食事を摂った。
携行食じゃない、調理したての温かい食事を堪能し、そして食後のお茶を飲んでいると、ラーズさまが質問してきた。
「さて、そろそろ教えてもらおうか」
「わかっています。神金の剣エクスカリバーは……」
「いや、そのことじゃない。その剣についても教えてもらうが、まずは君のことだ」
「私のこと?」
「ガラモで見せたあの現象のことだ。あの、君の体が発光した現象はなんだ? 君は体が光った後、強い魔法を突然 使えるようになった。それに白剣歯虎は君のことを聖女と言っていたが、それと関係あるのか?」
うーん、どうしよう。
正直、私も良く分かってないことの方が多いのよね。
というより、なにもわかっていない。
「最初に言っておきますが、私は聖女ではありません。女神から神託など受けておりませんし、なぜ白剣歯虎が私を聖女と呼んだのかもわかりません」
まずは断りを入れた。
「それから私の体が光ったことと、強い魔法が使えたことですが……」
私はその辺りのことは隠す必要はないと思ったので、全部話すことにした。
誰かの声が聞こえたこと。
その後、体の内部で何かが弾け、強い熱を感じたこと。
そして直感で強い魔法が使えるようになったのだと理解したこと。
「これだけです。あの声が誰なのかわかりませんし、私に力を与えてどうするつもりなのかもさっぱり」
「その声の主が女神と言う可能性は? 君はあの時に神託を受けたのだと、そういうことにはならないのか?」
「男性の声でした」
セルジオさまが、
「他の神の声かも知れませぬぞ。神は全部で十二柱、御座すのですからな」
「そうなると、どの神の声なのかという問題も出てきますが。それに、白剣歯虎が言っていたのは、女神ということでした」
この世界に神は十二柱いる。
一柱の神が世界の運行を一ヶ月間 担当し、それが終わると次の神へ渡す。
それが十二カ月繰り返され、それを一年とする。
そして、女神は二柱しか存在しない。
男性の声となると、どの神なのか。
そもそも、本当に神なのか。
もし神だとしても……
「神は神でも、邪神と言う可能性もありますね」
起源の竜が美徳を司る十二柱の神を創造したとき、その影として七柱の邪神が誕生した。
人を罪へと誘う七つの悪徳を司る存在。
ラーズさまが、
「いや、それだと魔王の世界制覇を防いでいる理由がわからない。人間の敵である魔王が崇拝する邪神が、人間に力を与えるのは、道理に敵っていないだろう」
「それもそうなんですけど……」
私って、悪役令嬢なんだよね、一応。
それと関係あるかもしれない。
ラーズさまたちには、頭がおかしいと思われるだろうから、とても言えないけど。
結局、どんなに頑張って考えたところで、答えは出ないので、保留と言うことになった。
そしてキャシーさんがラーズさまに、
「ところでその剣、使わないのでしたら アタシに貸していただけませんか?」
「構わない」
「やった! ありがとうございます、ラーズ様」
と、いうことになった。
速度重視で戦うキャシーさんが、敏捷力補正がかかる疾風の剣サイクロンを使うとなれば、正に鬼に金棒だ。
「さて、神金の剣エクスカリバーですが、これを入手するには手順が必要になります」
神金の剣エクスカリバーは、五百年前、魔王バルザックを封印した伝説の勇者シュナイダーが持っていた剣だ。
しかし、現在はその所在地は不明となっている。
そしてゲームではエクスカリバーを再現すると言う形で入手する。
それには、中ボスを倒すのではなく、特定イベントをいくつかクリアすることで手に入れる。
私は攻略本を読まない派だったから、入手に苦労しそうになったけど、ミサキチのネタバレトークで知ってしまった。
報復にアイアンクローを咬ましてやった。
でも、ミサキチのネタバレトークがなかったら今、神金の剣エクスカリバーを手に入れる方法が分からず、困ったことになっていただろう。
ゴメンね ミサキチ。
もし奇跡が起きて、もう一度 会うことがあったら謝るわ。
「まずはアドラ王国へ向かいましょう。来月には建国祭が行われますから」
「それは、剣を手に入れることと関係あるのか?」
「はい。アドラ王国建国祭では、開幕式の時、歌姫が国歌を歌うことになっています。
その歌姫は毎年、選抜大会によって決められます。そして、歌姫に選ばれた人には記念として毎年、異なる賞品が贈られるのですが、私の知っている通りなら、来年がアドラ王国建国千年目で、その歌姫に選ばれた人には特別に、神金でできた杯が贈られるはずでした」
神金。この世界で最も高価な金属と言われている、その名の通り、神の金。
前世のファンタジー作品でも有名だった。
とにかくきわめて貴重で、その価値は普通の金の百倍はするという。
戦士や騎士なら誰もが神金を素材とした武具を手にすることを夢見るが、その夢を叶えた者は伝説にしか語られない。
「その神金の杯が剣の素材となるのです。神金の杯を素材に、世界一と名高い鍛冶師ムドゥマに剣を打って貰えば、伝説の勇者シュナイダーが使ったエクスカリバーが再現されます。
ですが、魔王の動向が一年以上早いことを考えると、他のことも前倒しになっている可能性が高いのです。
つまり、神金の杯が贈られる建国千年祭は、今年なのかもしれないということです。ですので、とにかくアドラ王国へ向かって、調べてみなければなりません」
「今年の歌姫に神金の杯が贈られるとして、それをどうやって手に入れる?」
「……選抜大会に出場するしかないかと」
ゲームではそうやって入手していた。
そして それ以外、手に入れる方法が思いつかない。
セルジオさまが、
「であるならば、クレア嬢が出場するしかありませんな」
う、やっぱりそうなるか。
でも、私が公の舞台に出ると、リリア・カーティスやリオンたちに、生きていることを知られてしまう可能性があるから避けたいんだけど。
「キャシーさんは?」
「アタシ、音痴なのよ」
「ハニーの唯一の欠点である。しかし、そんな欠点があるところも、また魅力なのだよ」
ああ、惚気ですね。
「しかたありません。とにかく、アドラ王国へ向かいましょう。出場するかどうかは、その時に決めるということで」
今後の方針が決まり、私たちは飲食店を出ると、赤い上着の男性が待ち構えていた。
「お嬢さんがクレアだな。それにラーズ・セルヴィス・アスカルト。捜したぜ。ちょっと俺に付き合ってもらえるか」
年の頃は二十代前半。体躯は中肉中背。腰に太刀を佩いている。
癖のある赤い髪に、赤い瞳と、火の魔力の保有者に多い基本色をしている。
不敵な笑みを浮かべ、挑戦的な瞳をしている彼に、私は聞く。
「こんな暑い炎天下の中、私たちが出てくるまで 外で待っていたのですか?」
彼のその表情が動かなくなった。
笑みを形作ってはいるが、それは見た目だけで、明らかに中身がない。
「自己紹介が遅れたな。俺はスファル・ルティス・ドゥナト。一応、ドゥナト王国第一王位継承権を持っている。今は冒険者に身を窶して武者修行の旅だ」
私の質問、無視した。
ラーズさまが、
「君が、あのスファルなのか」
「そうだ、ラーズ。おまえなら俺のことを知っているよな」
どういう意味だろう?
セルジオさまが、私の内心の疑問に答えてくれる。
「スファル・ルティス・ドゥナト殿下は、アスカルト帝国武闘祭で太刀部門、小太刀部門の二つに六度出場し、その六度とも優勝を果たしている。
部門が違うのでラーズ殿下とスファル殿下は直接、戦ったことはないが、どちらが真の最強の剣士なのか議論の的になっておるのだよ」
そんな人がいたなんて知らなかった。
今迄 ゲームの事に集中していて、他のことに眼を向けていなかったことを実感した。
「ここじゃ人目がある。とりあえず、街外れまで来てもらえないか」
携行食じゃない、調理したての温かい食事を堪能し、そして食後のお茶を飲んでいると、ラーズさまが質問してきた。
「さて、そろそろ教えてもらおうか」
「わかっています。神金の剣エクスカリバーは……」
「いや、そのことじゃない。その剣についても教えてもらうが、まずは君のことだ」
「私のこと?」
「ガラモで見せたあの現象のことだ。あの、君の体が発光した現象はなんだ? 君は体が光った後、強い魔法を突然 使えるようになった。それに白剣歯虎は君のことを聖女と言っていたが、それと関係あるのか?」
うーん、どうしよう。
正直、私も良く分かってないことの方が多いのよね。
というより、なにもわかっていない。
「最初に言っておきますが、私は聖女ではありません。女神から神託など受けておりませんし、なぜ白剣歯虎が私を聖女と呼んだのかもわかりません」
まずは断りを入れた。
「それから私の体が光ったことと、強い魔法が使えたことですが……」
私はその辺りのことは隠す必要はないと思ったので、全部話すことにした。
誰かの声が聞こえたこと。
その後、体の内部で何かが弾け、強い熱を感じたこと。
そして直感で強い魔法が使えるようになったのだと理解したこと。
「これだけです。あの声が誰なのかわかりませんし、私に力を与えてどうするつもりなのかもさっぱり」
「その声の主が女神と言う可能性は? 君はあの時に神託を受けたのだと、そういうことにはならないのか?」
「男性の声でした」
セルジオさまが、
「他の神の声かも知れませぬぞ。神は全部で十二柱、御座すのですからな」
「そうなると、どの神の声なのかという問題も出てきますが。それに、白剣歯虎が言っていたのは、女神ということでした」
この世界に神は十二柱いる。
一柱の神が世界の運行を一ヶ月間 担当し、それが終わると次の神へ渡す。
それが十二カ月繰り返され、それを一年とする。
そして、女神は二柱しか存在しない。
男性の声となると、どの神なのか。
そもそも、本当に神なのか。
もし神だとしても……
「神は神でも、邪神と言う可能性もありますね」
起源の竜が美徳を司る十二柱の神を創造したとき、その影として七柱の邪神が誕生した。
人を罪へと誘う七つの悪徳を司る存在。
ラーズさまが、
「いや、それだと魔王の世界制覇を防いでいる理由がわからない。人間の敵である魔王が崇拝する邪神が、人間に力を与えるのは、道理に敵っていないだろう」
「それもそうなんですけど……」
私って、悪役令嬢なんだよね、一応。
それと関係あるかもしれない。
ラーズさまたちには、頭がおかしいと思われるだろうから、とても言えないけど。
結局、どんなに頑張って考えたところで、答えは出ないので、保留と言うことになった。
そしてキャシーさんがラーズさまに、
「ところでその剣、使わないのでしたら アタシに貸していただけませんか?」
「構わない」
「やった! ありがとうございます、ラーズ様」
と、いうことになった。
速度重視で戦うキャシーさんが、敏捷力補正がかかる疾風の剣サイクロンを使うとなれば、正に鬼に金棒だ。
「さて、神金の剣エクスカリバーですが、これを入手するには手順が必要になります」
神金の剣エクスカリバーは、五百年前、魔王バルザックを封印した伝説の勇者シュナイダーが持っていた剣だ。
しかし、現在はその所在地は不明となっている。
そしてゲームではエクスカリバーを再現すると言う形で入手する。
それには、中ボスを倒すのではなく、特定イベントをいくつかクリアすることで手に入れる。
私は攻略本を読まない派だったから、入手に苦労しそうになったけど、ミサキチのネタバレトークで知ってしまった。
報復にアイアンクローを咬ましてやった。
でも、ミサキチのネタバレトークがなかったら今、神金の剣エクスカリバーを手に入れる方法が分からず、困ったことになっていただろう。
ゴメンね ミサキチ。
もし奇跡が起きて、もう一度 会うことがあったら謝るわ。
「まずはアドラ王国へ向かいましょう。来月には建国祭が行われますから」
「それは、剣を手に入れることと関係あるのか?」
「はい。アドラ王国建国祭では、開幕式の時、歌姫が国歌を歌うことになっています。
その歌姫は毎年、選抜大会によって決められます。そして、歌姫に選ばれた人には記念として毎年、異なる賞品が贈られるのですが、私の知っている通りなら、来年がアドラ王国建国千年目で、その歌姫に選ばれた人には特別に、神金でできた杯が贈られるはずでした」
神金。この世界で最も高価な金属と言われている、その名の通り、神の金。
前世のファンタジー作品でも有名だった。
とにかくきわめて貴重で、その価値は普通の金の百倍はするという。
戦士や騎士なら誰もが神金を素材とした武具を手にすることを夢見るが、その夢を叶えた者は伝説にしか語られない。
「その神金の杯が剣の素材となるのです。神金の杯を素材に、世界一と名高い鍛冶師ムドゥマに剣を打って貰えば、伝説の勇者シュナイダーが使ったエクスカリバーが再現されます。
ですが、魔王の動向が一年以上早いことを考えると、他のことも前倒しになっている可能性が高いのです。
つまり、神金の杯が贈られる建国千年祭は、今年なのかもしれないということです。ですので、とにかくアドラ王国へ向かって、調べてみなければなりません」
「今年の歌姫に神金の杯が贈られるとして、それをどうやって手に入れる?」
「……選抜大会に出場するしかないかと」
ゲームではそうやって入手していた。
そして それ以外、手に入れる方法が思いつかない。
セルジオさまが、
「であるならば、クレア嬢が出場するしかありませんな」
う、やっぱりそうなるか。
でも、私が公の舞台に出ると、リリア・カーティスやリオンたちに、生きていることを知られてしまう可能性があるから避けたいんだけど。
「キャシーさんは?」
「アタシ、音痴なのよ」
「ハニーの唯一の欠点である。しかし、そんな欠点があるところも、また魅力なのだよ」
ああ、惚気ですね。
「しかたありません。とにかく、アドラ王国へ向かいましょう。出場するかどうかは、その時に決めるということで」
今後の方針が決まり、私たちは飲食店を出ると、赤い上着の男性が待ち構えていた。
「お嬢さんがクレアだな。それにラーズ・セルヴィス・アスカルト。捜したぜ。ちょっと俺に付き合ってもらえるか」
年の頃は二十代前半。体躯は中肉中背。腰に太刀を佩いている。
癖のある赤い髪に、赤い瞳と、火の魔力の保有者に多い基本色をしている。
不敵な笑みを浮かべ、挑戦的な瞳をしている彼に、私は聞く。
「こんな暑い炎天下の中、私たちが出てくるまで 外で待っていたのですか?」
彼のその表情が動かなくなった。
笑みを形作ってはいるが、それは見た目だけで、明らかに中身がない。
「自己紹介が遅れたな。俺はスファル・ルティス・ドゥナト。一応、ドゥナト王国第一王位継承権を持っている。今は冒険者に身を窶して武者修行の旅だ」
私の質問、無視した。
ラーズさまが、
「君が、あのスファルなのか」
「そうだ、ラーズ。おまえなら俺のことを知っているよな」
どういう意味だろう?
セルジオさまが、私の内心の疑問に答えてくれる。
「スファル・ルティス・ドゥナト殿下は、アスカルト帝国武闘祭で太刀部門、小太刀部門の二つに六度出場し、その六度とも優勝を果たしている。
部門が違うのでラーズ殿下とスファル殿下は直接、戦ったことはないが、どちらが真の最強の剣士なのか議論の的になっておるのだよ」
そんな人がいたなんて知らなかった。
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