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一章
1・思えば短い人生でした
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思えば短い人生でした。
平凡な両親の間に生まれ、平凡な家庭に育ち、平凡な高校に進学して、ちょっと変わったことと言えば、ゲームが好きだったことくらい。
つまり 私はゲームオタクだったこと。
特筆すべきことと言えばそれぐらいで、後はなんの取り柄もない人間だった。
それでも 運良く第一志望だった大学に一発合格し、一人暮らしを始めた。
そんな矢先のことだった。
新作ゲームを購入し、オタク友達のミサキチと一緒にそれをプレイする約束だったので、彼女の部屋へ向かっていた。
そして、横断歩道の信号が青に変わったのを、ちゃんと確認してから渡っていた私に向かって、猛スピードで自動車が突っ込んできた。
強い衝撃と共に宙を舞う自分の体。
浮遊感と共に始まる落下と、急速に迫る地面。
そしてブラックアウト。
その後どうなったのかは 考えなくてもわかる。
死んだ。
というか、それ以外考えられない。
痛みを感じる暇もなかったのだと思う。
実際、苦痛の記憶はない。
不幸中の幸いだと思う。
さて、死んだ人間がどうして、こんな風に話をすることができるのかという問題がある。
答えは簡単。
転生したからです、はい。
魔法や魔物が存在するファンタジーな世界に。
そんな世界の国々の一つ、オルドレン王国。
その国の貴族の一つ、アーネスト侯爵家の第一子にして長女、クリスティーナ・アーネスト。
それが今の私だ。
十四歳の誕生日に、封建社会の貴族らしく、親の意思によって、こんな若さで婚約者が決まったことを告げられた。
もちろん 私の意思など介在しない 政略婚約。
貴族社会とはそういうものだ。
そして、そのお相手が、リオン・ウィルヘルム・オルドレン。
つまり、オルドレン王国の王太子だと聞かされた時、私の頭にとんでもない激痛が走った。
あまりの痛みに意識が遠のき、両親の前で倒れたことは覚えている。
それからの記憶はないが、一週間ベッドでうなされていたそうだ。
そしてベッドの上で目を覚ました私は、自分が前世の記憶を思い出していることに愕然とした。
頭の激痛の原因は、たぶん前世を思い出したことで脳に過負荷がかかったからのだと思う。
でも、それは些細な事だ。
問題は、私の婚約者が誰なのか。
そして今の私が誰なのかだ。
婚約者。リオン・ウィルヘルム・オルドレン。
私は侯爵家令嬢クリスティーナ・アーネスト。
前世でやった事のある乙女ゲーム、〈ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス・恋する乙女と運命の王子〉の、キャラクターの名前じゃん。
乙女ゲーム。
正確には、女性向け恋愛シミュレーションゲーム。
ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス・恋する乙女と運命の王子。
通称ドキラブ学園。
主人公であるヒロイン、カーティス男爵の第三子にして庶子、リリア・カーティスはオルドレン魔法学園に入学。
そこで出会う四人の攻略対象と恋愛を育み、選択肢を正しく選べば、卒業式の時には大団円。
つまり、私はゲームの世界に転生したことになる。
どういうこと?
どうしてゲームの世界が実在しているのよ?
落ちつけ、私。
名前が偶然一致しただけかもしれない。
この世界が本当にゲームの世界なのか、今世の記憶を思い出して確かめるのよ。
私は この世界に生まれてからの十四年間の記憶と、前世の記憶を照合した。
全部一致する。
攻略対象などは全員この世界に存在する人間の名前、特徴、評判などと一致。
国名や地名、施設名なども記憶にある限り、全部存在する。
間違いない。
ドキラブ学園の世界だ。
本当にいったいどういうこと?
多元宇宙?
SFとかで良くある、もしもあの時、違う選択をしていたらの世界。
理論上、無限に存在するというのが、SFで良くある設定だ。
いえ、多元宇宙が存在すること自体は別にいいのよ。
生まれ変わりを身を持って体験しているのだから、それくらいは許容範囲。
でも、どうしてゲームの世界が現実に存在するの?
だってドキラブ学園はただのゲーム。
つまりフィクション。
作り話なんだから。
それがどうして?
私はいくら考えても分からなかった。
いや、仮説ならいくつか立てることはできた。
しかし、それを証明する方法はない。
それに最大の問題は、私がリリア・カーティスじゃないことだ。
私の今世での名前はクリスティーナ・アーネスト。
ヒロインの恋路の障害になる、悪役令嬢だってことじゃない。
まずい。
これは非常にまずい。
嫌な汗が全身から噴き出す。
クリスティーナはリオン王子の婚約者だが、リオンルートだけではなく、全ての攻略対象においてとにかく邪魔をする悪役令嬢。
リオン王子の時は、自分の婚約者を奪われてなるものかと、ひたすら邪魔をする。
公衆の面前で嫌味ったらしく罵倒するのはまだ良い方で、階段から突き落としたり、ベランダからヒロインを目掛けて植木鉢を落としたり、最後は抹殺するため毒を盛ろうと暗殺者を送るなど、自分の婚約者に付きまとう女は物理的な手段で排除しようとするという、完全にヤンデレ。
他の三人の攻略対象の場合は、実は詳しくは知らない。
実は私は、ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス・恋する乙女と運命の王子を、リオンルートしかクリアしていない。
リオン王子とのエンディングを見た時点で、私はそれ以上ゲームをする気が失せてしまった。
余りにもご都合主義な展開に甘ったるい恋愛脳に付いていけなかったのだ。
前評判が良いと、オタク友達のミサキチが言っていたので、買ってみてプレイしたけど、一人クリアすれば十分だった。
私の好みはどちらか言えばとアクション寄りだった。
魔物狩人が好きだった。
生物災害や悪魔も泣きだすのが好きだった。
他には金属の歯車も。
とにかく私の肌には合わなかった。
幸い、ミサキチの悪意の無いネタバレトークで大まかな内容は知っている。
ミサキチは自分の得た知識をひけらかす癖があり、ゲームの先を聞いてもいないのにペラペラと良く喋っていた。
おかげでヒロインが他の三人の攻略対象を狙った場合の行動も大まかにわかる。
ありがとう、ミサキチ。
あなたのネタバレトークにぶち切れていつもアイアンクローしてたこと謝るわ。
ともかくクリスティーナは、リオン王子の時ほどではないが、下位貴族である男爵の庶子が、上位貴族の子息である攻略対象と仲良くしているのが気に食わず、とにかく邪魔をするらしい。
結果、修道院送り、国外追放、投獄など、とにかく破滅を迎える。
ちなみにリオン王子とのエンディングを迎えた場合、処刑。
ダメじゃん。
平凡な両親の間に生まれ、平凡な家庭に育ち、平凡な高校に進学して、ちょっと変わったことと言えば、ゲームが好きだったことくらい。
つまり 私はゲームオタクだったこと。
特筆すべきことと言えばそれぐらいで、後はなんの取り柄もない人間だった。
それでも 運良く第一志望だった大学に一発合格し、一人暮らしを始めた。
そんな矢先のことだった。
新作ゲームを購入し、オタク友達のミサキチと一緒にそれをプレイする約束だったので、彼女の部屋へ向かっていた。
そして、横断歩道の信号が青に変わったのを、ちゃんと確認してから渡っていた私に向かって、猛スピードで自動車が突っ込んできた。
強い衝撃と共に宙を舞う自分の体。
浮遊感と共に始まる落下と、急速に迫る地面。
そしてブラックアウト。
その後どうなったのかは 考えなくてもわかる。
死んだ。
というか、それ以外考えられない。
痛みを感じる暇もなかったのだと思う。
実際、苦痛の記憶はない。
不幸中の幸いだと思う。
さて、死んだ人間がどうして、こんな風に話をすることができるのかという問題がある。
答えは簡単。
転生したからです、はい。
魔法や魔物が存在するファンタジーな世界に。
そんな世界の国々の一つ、オルドレン王国。
その国の貴族の一つ、アーネスト侯爵家の第一子にして長女、クリスティーナ・アーネスト。
それが今の私だ。
十四歳の誕生日に、封建社会の貴族らしく、親の意思によって、こんな若さで婚約者が決まったことを告げられた。
もちろん 私の意思など介在しない 政略婚約。
貴族社会とはそういうものだ。
そして、そのお相手が、リオン・ウィルヘルム・オルドレン。
つまり、オルドレン王国の王太子だと聞かされた時、私の頭にとんでもない激痛が走った。
あまりの痛みに意識が遠のき、両親の前で倒れたことは覚えている。
それからの記憶はないが、一週間ベッドでうなされていたそうだ。
そしてベッドの上で目を覚ました私は、自分が前世の記憶を思い出していることに愕然とした。
頭の激痛の原因は、たぶん前世を思い出したことで脳に過負荷がかかったからのだと思う。
でも、それは些細な事だ。
問題は、私の婚約者が誰なのか。
そして今の私が誰なのかだ。
婚約者。リオン・ウィルヘルム・オルドレン。
私は侯爵家令嬢クリスティーナ・アーネスト。
前世でやった事のある乙女ゲーム、〈ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス・恋する乙女と運命の王子〉の、キャラクターの名前じゃん。
乙女ゲーム。
正確には、女性向け恋愛シミュレーションゲーム。
ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス・恋する乙女と運命の王子。
通称ドキラブ学園。
主人公であるヒロイン、カーティス男爵の第三子にして庶子、リリア・カーティスはオルドレン魔法学園に入学。
そこで出会う四人の攻略対象と恋愛を育み、選択肢を正しく選べば、卒業式の時には大団円。
つまり、私はゲームの世界に転生したことになる。
どういうこと?
どうしてゲームの世界が実在しているのよ?
落ちつけ、私。
名前が偶然一致しただけかもしれない。
この世界が本当にゲームの世界なのか、今世の記憶を思い出して確かめるのよ。
私は この世界に生まれてからの十四年間の記憶と、前世の記憶を照合した。
全部一致する。
攻略対象などは全員この世界に存在する人間の名前、特徴、評判などと一致。
国名や地名、施設名なども記憶にある限り、全部存在する。
間違いない。
ドキラブ学園の世界だ。
本当にいったいどういうこと?
多元宇宙?
SFとかで良くある、もしもあの時、違う選択をしていたらの世界。
理論上、無限に存在するというのが、SFで良くある設定だ。
いえ、多元宇宙が存在すること自体は別にいいのよ。
生まれ変わりを身を持って体験しているのだから、それくらいは許容範囲。
でも、どうしてゲームの世界が現実に存在するの?
だってドキラブ学園はただのゲーム。
つまりフィクション。
作り話なんだから。
それがどうして?
私はいくら考えても分からなかった。
いや、仮説ならいくつか立てることはできた。
しかし、それを証明する方法はない。
それに最大の問題は、私がリリア・カーティスじゃないことだ。
私の今世での名前はクリスティーナ・アーネスト。
ヒロインの恋路の障害になる、悪役令嬢だってことじゃない。
まずい。
これは非常にまずい。
嫌な汗が全身から噴き出す。
クリスティーナはリオン王子の婚約者だが、リオンルートだけではなく、全ての攻略対象においてとにかく邪魔をする悪役令嬢。
リオン王子の時は、自分の婚約者を奪われてなるものかと、ひたすら邪魔をする。
公衆の面前で嫌味ったらしく罵倒するのはまだ良い方で、階段から突き落としたり、ベランダからヒロインを目掛けて植木鉢を落としたり、最後は抹殺するため毒を盛ろうと暗殺者を送るなど、自分の婚約者に付きまとう女は物理的な手段で排除しようとするという、完全にヤンデレ。
他の三人の攻略対象の場合は、実は詳しくは知らない。
実は私は、ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス・恋する乙女と運命の王子を、リオンルートしかクリアしていない。
リオン王子とのエンディングを見た時点で、私はそれ以上ゲームをする気が失せてしまった。
余りにもご都合主義な展開に甘ったるい恋愛脳に付いていけなかったのだ。
前評判が良いと、オタク友達のミサキチが言っていたので、買ってみてプレイしたけど、一人クリアすれば十分だった。
私の好みはどちらか言えばとアクション寄りだった。
魔物狩人が好きだった。
生物災害や悪魔も泣きだすのが好きだった。
他には金属の歯車も。
とにかく私の肌には合わなかった。
幸い、ミサキチの悪意の無いネタバレトークで大まかな内容は知っている。
ミサキチは自分の得た知識をひけらかす癖があり、ゲームの先を聞いてもいないのにペラペラと良く喋っていた。
おかげでヒロインが他の三人の攻略対象を狙った場合の行動も大まかにわかる。
ありがとう、ミサキチ。
あなたのネタバレトークにぶち切れていつもアイアンクローしてたこと謝るわ。
ともかくクリスティーナは、リオン王子の時ほどではないが、下位貴族である男爵の庶子が、上位貴族の子息である攻略対象と仲良くしているのが気に食わず、とにかく邪魔をするらしい。
結果、修道院送り、国外追放、投獄など、とにかく破滅を迎える。
ちなみにリオン王子とのエンディングを迎えた場合、処刑。
ダメじゃん。
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