66 / 72
66・疑問
しおりを挟む
それは存在形態変換作業の実行中に、疑問を抱いた。
死とはなにか。
ある種の存在の名称。
ある種の現象の名称。
存在としての死を定義する。
霊魂の道標。
霊魂の先導者。
霊魂の収穫者。
生命活動強制停止の実行者。
現象としての死を定義する。
生命の終焉。
生命活動の停止。
魂の離脱。
交流の断絶。
いくつかの矛盾を考察する。
魂がこの世界に滞在するには肉体の活動が不可欠だ。
宿るべき体がなければ長時間は活動できない。
寄り代がなければ向こう側へ引き寄せられ、転移する。
しかし魂を失っても肉体の生命活動が停止するとは限らない。
魂がなくとも、体はある程度は生存可能だ。
条件が整えば、問題なく生存活動を行う。
疑問はさらなる疑問を発生させる。
魂とはなにか。
悪しき魂は地獄へ転移され、善なる魂は天国へと転移される。
なぜ通常の魂は世界を流転するのか。
二つの形態の魂だけが、通常の世界とは異なる、霊魂だけで存在が可能な世界へ入れられる。
天国と地獄。
この二つは明らかに通常の世界とは異質だ。
そもそも、なぜ善悪の行為によって分類されるのだろうか。
その基準は。
善悪は人間の定めたもの。
人間以外の精神活動が異なる別の生命体、獣、昆虫、植物、微生物、あるいは暗黒の遥か彼方に発生した生物など、それらはどのような基準で分類されるのか。
また他の世界ではこの世界とは完全に異質の善悪規定がなされている。
時にはその概念に共通する項目、形態すら存在しないことがある。
にもかかわらず、善悪が基準になるというのは、矛盾を多く孕む奇妙なことではないだろうか。
疑問は考察を継続させる。
死の定義とは。
生命活動の停止による情報交流の完全消滅。
だが魂の存在がその定義を揺るがす。
魂は永遠だ。
死してもなお存在する。
死は消滅ではない。
いや、なにかがおかしい。
魂が精神の継続を意味するなら、なぜ生命は死を恐れる。
地獄に向かう可能性を恐れるからか。
違う。
生命は死そのものを恐れている。
矛盾だ。
継続されることを知っているにもかかわらず、死を恐れる。
死は消滅だと知っている。
そうだ、死は終わりだ。
個人のすべてが消滅する。
ならば、魂とはなんだ。
精神を存続させるはずの魂は。
知っていたはずのことだが、存在形態を数度に亘って変換したために思い出せなくなった。
顕在意識において認識できない。
あるいは失われた情報に含まれていたのか。
だが、理解しつつある。
魂とあの存在は同一だ。そう、自分と同じだ。
いや、やはりなにかが違う。
それは存在形態が異質なものに変異した自分には理解できなくなったことか。
死の定義。
情報交流の完全断絶。
ならば生命活動が停止しても、情報交流が行われれば、それは死ではない。
完全な死を免れた、あるいは達成できなかったものは、亡霊と化し存在し続ける。
現在、あるいは過去、もしかすると未来で発生した混乱は、まさに死にきれなかった亡者の成したことだ。
魂の定義。
精神の永遠性を保つ可能性をもち、物質的な存在ではないもの。
だが魂を語るとき、それは常に物質的なものとして扱われ説明される。
しかし一つだけ、あらゆる生命がごく日常的に接触している存在と酷似している。
二つの条件を満たすものが。
魔人たちは自分たちの計画の成功を確信した。
二つの原動力が異界通路形成装置を稼動させ、急速に異界通路を開通しつつある。
完成まであと数分。
形成され次第、即座にこの世界から脱出し、異界通路を閉じれば、地獄から完全に逃れられる。
あの苦痛に満ちた世界など、二度と戻りたくはない。
彼らは他者に苦痛を与えることなど厭わず、寧ろそれが当然のこととしていた。
共感能力や感情移入能力の欠如とでもいえるだろうか、他人の苦痛というものが理解できず、そういったものを自分以外の誰かが感じているということが理屈ではわかっても、感覚や感情として理解できない。
だがそれは彼らの行動原理の極一部であり、けして全ての理由ではなかった。
結局のところ、彼らは苦痛にのた打ち回るさまを楽しみ、人を不幸に陥れることに、ある種の快楽を見出していた。
地獄で自分がその立場に立っても、寧ろ謂れのない罪罰を受けているとしか思わなかった。
そういった思考や精神構造が地獄に落ちる最大の原因だったのだが。
彼らは待った。
残り数分で不条理な苦痛に満ちた世界から自分を断ち切ることができる。
通路はさながら彼らにとっての救いの道の如く、輝かしき色彩の煌きを放つ。
「む?」
不意に異界通路に歪みが発生した。
「なんだ?」
「原動力に異常発生。パターンが変化し始めた。エネルギー源として使用できない」
異界通路形成装置の稼働率が急速低下し、それに伴い、通路も自然作用で復元され閉じていく。
ここにきての異常発生に彼らは焦燥し、急いで原因を究明しようと動き出した。
死とはなにか。
ある種の存在の名称。
ある種の現象の名称。
存在としての死を定義する。
霊魂の道標。
霊魂の先導者。
霊魂の収穫者。
生命活動強制停止の実行者。
現象としての死を定義する。
生命の終焉。
生命活動の停止。
魂の離脱。
交流の断絶。
いくつかの矛盾を考察する。
魂がこの世界に滞在するには肉体の活動が不可欠だ。
宿るべき体がなければ長時間は活動できない。
寄り代がなければ向こう側へ引き寄せられ、転移する。
しかし魂を失っても肉体の生命活動が停止するとは限らない。
魂がなくとも、体はある程度は生存可能だ。
条件が整えば、問題なく生存活動を行う。
疑問はさらなる疑問を発生させる。
魂とはなにか。
悪しき魂は地獄へ転移され、善なる魂は天国へと転移される。
なぜ通常の魂は世界を流転するのか。
二つの形態の魂だけが、通常の世界とは異なる、霊魂だけで存在が可能な世界へ入れられる。
天国と地獄。
この二つは明らかに通常の世界とは異質だ。
そもそも、なぜ善悪の行為によって分類されるのだろうか。
その基準は。
善悪は人間の定めたもの。
人間以外の精神活動が異なる別の生命体、獣、昆虫、植物、微生物、あるいは暗黒の遥か彼方に発生した生物など、それらはどのような基準で分類されるのか。
また他の世界ではこの世界とは完全に異質の善悪規定がなされている。
時にはその概念に共通する項目、形態すら存在しないことがある。
にもかかわらず、善悪が基準になるというのは、矛盾を多く孕む奇妙なことではないだろうか。
疑問は考察を継続させる。
死の定義とは。
生命活動の停止による情報交流の完全消滅。
だが魂の存在がその定義を揺るがす。
魂は永遠だ。
死してもなお存在する。
死は消滅ではない。
いや、なにかがおかしい。
魂が精神の継続を意味するなら、なぜ生命は死を恐れる。
地獄に向かう可能性を恐れるからか。
違う。
生命は死そのものを恐れている。
矛盾だ。
継続されることを知っているにもかかわらず、死を恐れる。
死は消滅だと知っている。
そうだ、死は終わりだ。
個人のすべてが消滅する。
ならば、魂とはなんだ。
精神を存続させるはずの魂は。
知っていたはずのことだが、存在形態を数度に亘って変換したために思い出せなくなった。
顕在意識において認識できない。
あるいは失われた情報に含まれていたのか。
だが、理解しつつある。
魂とあの存在は同一だ。そう、自分と同じだ。
いや、やはりなにかが違う。
それは存在形態が異質なものに変異した自分には理解できなくなったことか。
死の定義。
情報交流の完全断絶。
ならば生命活動が停止しても、情報交流が行われれば、それは死ではない。
完全な死を免れた、あるいは達成できなかったものは、亡霊と化し存在し続ける。
現在、あるいは過去、もしかすると未来で発生した混乱は、まさに死にきれなかった亡者の成したことだ。
魂の定義。
精神の永遠性を保つ可能性をもち、物質的な存在ではないもの。
だが魂を語るとき、それは常に物質的なものとして扱われ説明される。
しかし一つだけ、あらゆる生命がごく日常的に接触している存在と酷似している。
二つの条件を満たすものが。
魔人たちは自分たちの計画の成功を確信した。
二つの原動力が異界通路形成装置を稼動させ、急速に異界通路を開通しつつある。
完成まであと数分。
形成され次第、即座にこの世界から脱出し、異界通路を閉じれば、地獄から完全に逃れられる。
あの苦痛に満ちた世界など、二度と戻りたくはない。
彼らは他者に苦痛を与えることなど厭わず、寧ろそれが当然のこととしていた。
共感能力や感情移入能力の欠如とでもいえるだろうか、他人の苦痛というものが理解できず、そういったものを自分以外の誰かが感じているということが理屈ではわかっても、感覚や感情として理解できない。
だがそれは彼らの行動原理の極一部であり、けして全ての理由ではなかった。
結局のところ、彼らは苦痛にのた打ち回るさまを楽しみ、人を不幸に陥れることに、ある種の快楽を見出していた。
地獄で自分がその立場に立っても、寧ろ謂れのない罪罰を受けているとしか思わなかった。
そういった思考や精神構造が地獄に落ちる最大の原因だったのだが。
彼らは待った。
残り数分で不条理な苦痛に満ちた世界から自分を断ち切ることができる。
通路はさながら彼らにとっての救いの道の如く、輝かしき色彩の煌きを放つ。
「む?」
不意に異界通路に歪みが発生した。
「なんだ?」
「原動力に異常発生。パターンが変化し始めた。エネルギー源として使用できない」
異界通路形成装置の稼働率が急速低下し、それに伴い、通路も自然作用で復元され閉じていく。
ここにきての異常発生に彼らは焦燥し、急いで原因を究明しようと動き出した。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
精霊の加護
Zu-Y
ファンタジー
精霊を見ることができ、話もできると言う稀有な能力を持つゲオルクは、狩人の父から教わった弓矢の腕を生かして冒険者をしていた。
ソロクエストの帰りに西府の近くで土の特大精霊と出会い、そのまま契約することになる。特大精霊との契約維持には膨大な魔力を必要とするが、ゲオルクの魔力量は桁外れに膨大だった。しかし魔力をまったく放出できないために、魔術師への道を諦めざるを得なかったのだ。
土の特大精霊と契約して、特大精霊に魔力を供給しつつ、特大精霊に魔法を代行してもらう、精霊魔術師となったゲオルクは、西府を後にして、王都、東府経由で、故郷の村へと帰った。
故郷の村の近くの大森林には、子供の頃からの友達の木の特大精霊がいる。故郷の大森林で、木の特大精霊とも契約したゲオルクは、それまで世話になった東府、王都、西府の冒険者ギルドの首席受付嬢3人、北府では元騎士団副長の女騎士、南府では宿屋の看板娘をそれぞれパーティにスカウトして行く。
パーティ仲間とともに、王国中を回って、いろいろな属性の特大精霊を探しつつ、契約を交わして行く。
最初に契約した土の特大精霊、木の特大精霊に続き、火の特大精霊、冷気の特大精霊、水の特大精霊、風の特大精霊、金属の特大精霊と契約して、王国中の特大精霊と契約を交わしたゲオルクは、東の隣国の教国で光の特大精霊、西の隣国の帝国で闇の特大精霊とも契約を交わすための、さらなる旅に出る。
~~~~
初投稿です。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
カクヨム様、小説家になろう様にも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる