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44・少年の異変
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保管所の扉を開けて外に出た、三人の光の戦士は、しかし同時に訪れた異変に戸惑った。
突然周囲の景色が歪み、分裂し、別の光景が割り込んでくる。
「なんだ?!」
ゴードの叫び声に応えたのはサリシュタール。
「動かないで! 大規模な変動が発生しているわ!」
サリシュタールは空中に杖で弧を描くと、三人を収容する大きさの、独立した時空領域を確保した。
「この外に出ないで! この領域が破られたら時空歪曲と精神世界の侵食に巻き込まれるわ!」
既に精神の実体化に遭遇している二人は、言葉に従い動きを止めた。
サリシュタールの説明や忠告は概ね正しいことが多い。
周辺の建物が崩壊するが、しかし建造物が崩れる音とは全く関係や関連性のない、凄まじい音が響く。
下手な音楽家の協奏曲以上の不協和音に全員が耳を閉ざす。
どれぐらいの時間が経過しただろうか不意に音が途切れ、景色の歪みも終焉した。
彼らは周辺を見渡して、静寂の訪れの意味を理解した。
それは、最初の揺らぎからどれだけの時間が経過しただろうか、再び揺らぎの発生を感知した。
事前に確保した自由行動範囲を使用して、設定した座標を基に揺らぎの発生点を算出する。
彼方であり、此方であるその場所は、自分の行動を封じる結果となった原因と同地点だった。
任務はまだ達成可能だ。
そして発生している揺らぎを利用すれば、牢獄からの突破も不可能ではない。
その存在は全残力を注ぎ込んで脱出を図った。
「教授!」
歪曲の彼方に吹き飛ばされた教授に向かってマリアンヌは叫んだが、応答が帰ってくる筈がなく、それどころか異変が収拾し静まる気配は一向にない。
空と地の境目が認識できず、今の自分がどんな状態なのか把握することさえ困難になってきた。
「オットー!」
少年の手を掴もうとマリアンヌは手を伸ばした。
しかしそこにいるオットーの体に触れた筈なのに、それは実体がないように手応えなく通過した。
「マリアンヌ!」
オットーが叫んだ瞬間、その姿が消えた。
「オットー!」
マリアンヌの叫びと同時に、唐突に異変は終り静寂が訪れた。
極彩色の光の乱舞が消え、視界が闇に包まれた。
いや、完全な闇ではない。
かすかに光がある。
目が慣れてくるにつれて、大きな通路の中に自分がいつの間にか立っているのに気がついた。
地下通路だろうか、天井に点在する四角い空気穴や出入り口から陽光が薄らと差し込んでいる。
壁は古びて罅が入り、汚物の跡と落書きが残されている。
床は地下水が漏れているのか、中心部の溝に汚臭のする小さな流水があり、水溝の真ん中になぜか僧侶の石像が一つ鎮守されている。
周りの景色は先程までいた筈の古城とは全く違っていた。
ここはいったいどこなのだろうか。
魔王殿の地下だろうか。先ほどの異変でどこかに移動してしまったらしいが、どこへ転移したのだろうか。
しかし疑問は些細な事項として霧散し、マリアンヌは泣き出したくなる時の特有の衝動を感じた。
目の前にいたはずのオットーの姿がない。
この可能性は皆無ではなかった。
教授は既に説明していたのだ、もしかすると失敗するかもしれない、その時は覚悟しておけと。
だがそんな説明など今の自分になんの役にも立たない。
あれだけ苦労と努力が水の泡と消え、友達がいなくなってしまった。
ただ泣き出したい衝動に駆られ、それはとても魅力的な誘惑だった。
なにもかも忘れて泣いてしまえば良い。
幽閉の塔で閉じ込められていた時、最後には孤独感に屈してしまったように。
しかしマリアンヌは拳を握り締め、落ち込んでゆく自分を鼓舞しようと叫ぶ。
「しっかりしなさい! マリアンヌ!!」
自分の両頬を二回叩いた。
ここで弱気の虫に取り付かれては駄目だ。
逆境に陥った時こそ、自分の持てる力の全てを使って、困難に立ち向かわなければいけないのだ。
そう、自分は始めからそうするべきだったのだ。
魔王殿に来る以前から、諦めず、自虐に逃げず、前を向いて進むべきだったのだ。
だから、ここで同じ過ちを犯してはいけない。
「良し」
腹の底に溜まっている悪い気を吐き出すように声を出すと、改めて周囲を見渡した。
地下道の中だろう、中央の大きな溝に流れる水は少ないが、水道の一種だ。
もしかすると下水なのかもしれないが、現在は使用されていないようだ。
マリアンヌは溝内に降りて、中央に一つ設置されている石像に近寄った。
魔物ではない、普通の石像だ。
僧侶の服に、手には聖典らしき物を持ち、頭には十字模様が描かれた布を被っている。
これと同じ物をどこかで見た記憶がある。
マリアンヌは該当する記憶を思い出す前に、後方に気配を感じて振り返った。
地下道の突き当たりに、牢屋があり、そこに誰かが入っている。
小さな子供だ。
白い髪にそれ以上に白い肌。
赤い瞳が輝いているような気がした。
「オットー!」
その姿にマリアンヌは歓喜した。
消えたオットーは思っていたよりも近くの場所に飛ばされていたのだ。
マリアンヌは少年に向かって走った。
どうして牢屋に閉じ込められているのか、鍵をどうやって開けるか、それは後で考えれば良い。
今はただ無事を喜びたい。
しかし近づくにつれ、不審が湧き上がり、牢を目前にして立ち止まる。
オットーが何事もなかったように鉄格子の向こう側に立っている。
だがマリアンヌに向ける目に喜びの色はなく、親しい人に向けるものでもなく、まるで初対面の人に無関心の時に向ける目だった。
「オットー?」
マリアンヌは不安を覚えて名を告げる。
だがオットーはマリアンヌと同じように怪訝な表情を返した。
「どうしましたの? オットー」
少年は鉄格子の扉を、始めから鍵がかかっていなかったのか、無造作に開けると牢屋から出た。
そしてすぐ側にあった梯子を上り始めた。地上に出るつもりなのだろうか。
「あ!? オットー、待ってください」
少年はマリアンヌの懇願を無視して、そのまま上がっていってしまった。
頭上の蓋が開かれ陽光が降り注ぎ、その中へと少年の姿は消える。
いったいオットーはどうしたというのだろうか。
魔王殿の中を一人で動き回るなんて危険だというのに。
もし魔物と遭遇したらどうする気なのだ。
いや、精神世界の侵食度によっては、通常の亡者や、彼らに殺された魂たちも危険な存在だ。
追いかけようと梯子に手をかけたマリアンヌは、一つの可能性に気付いた。
この梯子を上って行ったのは、本当にオットーなのだろうか。
魔物が自分を誘き寄せるための罠ではないだろうか。
だが、ここにいつまでも動かないでいるわけには行かない。
行動しなければ。
マリアンヌは意を決して梯子を上がり始めた。
地上に出ると、日の光が目を刺激する。
やがて順応して周囲が見え始めてきたが、しかし少女は状況を上手く飲み込めなかった。
地下通路の上は、普通の町だった。
市場だろうか、屋台が立ち並び、簡易式の屋根が立てられ、その下には様々な商品が売られている。
果物、野菜、肉類などの食料品から、花瓶、鍋、杯などの日用品。
アクセサリーや小物、宝石類も並べている所がある。
店の人は勿論普通の人間で、訪れる客に愛想の良い笑顔を振り撒いて、あれこれと品々を勧める。
賑やかで活気のある市場の一角だ。
「どうなっていますの?」
まさか、あの異変で魔王殿から遥か遠方の地へ飛ばされ、それが偶然どこかの町だったのだろうか。
自分は魔王殿の脱出に成功したのだろうか。
そんな都合の良い話があるのだろうか。
茫然と立ち尽くしていたマリアンヌは、人ごみの中から姿を現したオットーに気が付いた。
少年はマリアンヌに向かって走って来たかと思いきや、しかし少女には目もくれずに脇を通過してしまった。
「オットー!」
見失ってはいけない。
マリアンヌは即座に少年の後を追跡した。
市場は縦横無尽に構成されており迷路のようで、人数も多く、もし見失えば再び発見することは不可能だっただろう。
しかしマリアンヌは子供の頃から足にだけは自信があった。
いつもゲームでは同年代の子供には手加減されて、勝敗の時の実感がなかったが、しかし徒競走だけは本気で挑まれても、負けない自信があった。
そして彼女の考えは正しく、引き離されていたオットーとの距離は縮まっていく。
人ごみを縫うように二人は走る。
しかし追いかけっこのように楽しいものではなく、マリアンヌは懸命に走った。
やがて活気ある市場を離れ、閑寂とした住宅街に辿り着いた。
荒れ果てたその様子は貧民窟であることを伺わせる。
オットーは川の堤防の梯子を降り、川岸を走り、石階段を上がって、そして川岸に密集している家の一つに入った。
「オットー?」
あの行動の意味が全くわからない。
誘き寄せているにしては妙だし、だが振り切ろうとしているわけでもない。
まるでマリアンヌのことなど気にかけず、ただ急いで家に帰ったようだ。
マリアンヌはその家の扉の前に立つ。
木造の古い家だ。
立地条件のこともあるのだろうが、損傷が酷く、まるであばら家だ。
だが民草の中にはこういった貧しい暮らしを余儀なくされている者も多いと聞く。
直接関わったことはないが、知識としてはサリシュタール先生から教わった。
魔物の罠か否か、その扉を開けるべきかどうか、マリアンヌは逡巡したが、しかし意を決して開いた。
そして怒鳴り声が轟いた。
「帰ってくるのが遅いぞ! ゲオルギウス!」
突然周囲の景色が歪み、分裂し、別の光景が割り込んでくる。
「なんだ?!」
ゴードの叫び声に応えたのはサリシュタール。
「動かないで! 大規模な変動が発生しているわ!」
サリシュタールは空中に杖で弧を描くと、三人を収容する大きさの、独立した時空領域を確保した。
「この外に出ないで! この領域が破られたら時空歪曲と精神世界の侵食に巻き込まれるわ!」
既に精神の実体化に遭遇している二人は、言葉に従い動きを止めた。
サリシュタールの説明や忠告は概ね正しいことが多い。
周辺の建物が崩壊するが、しかし建造物が崩れる音とは全く関係や関連性のない、凄まじい音が響く。
下手な音楽家の協奏曲以上の不協和音に全員が耳を閉ざす。
どれぐらいの時間が経過しただろうか不意に音が途切れ、景色の歪みも終焉した。
彼らは周辺を見渡して、静寂の訪れの意味を理解した。
それは、最初の揺らぎからどれだけの時間が経過しただろうか、再び揺らぎの発生を感知した。
事前に確保した自由行動範囲を使用して、設定した座標を基に揺らぎの発生点を算出する。
彼方であり、此方であるその場所は、自分の行動を封じる結果となった原因と同地点だった。
任務はまだ達成可能だ。
そして発生している揺らぎを利用すれば、牢獄からの突破も不可能ではない。
その存在は全残力を注ぎ込んで脱出を図った。
「教授!」
歪曲の彼方に吹き飛ばされた教授に向かってマリアンヌは叫んだが、応答が帰ってくる筈がなく、それどころか異変が収拾し静まる気配は一向にない。
空と地の境目が認識できず、今の自分がどんな状態なのか把握することさえ困難になってきた。
「オットー!」
少年の手を掴もうとマリアンヌは手を伸ばした。
しかしそこにいるオットーの体に触れた筈なのに、それは実体がないように手応えなく通過した。
「マリアンヌ!」
オットーが叫んだ瞬間、その姿が消えた。
「オットー!」
マリアンヌの叫びと同時に、唐突に異変は終り静寂が訪れた。
極彩色の光の乱舞が消え、視界が闇に包まれた。
いや、完全な闇ではない。
かすかに光がある。
目が慣れてくるにつれて、大きな通路の中に自分がいつの間にか立っているのに気がついた。
地下通路だろうか、天井に点在する四角い空気穴や出入り口から陽光が薄らと差し込んでいる。
壁は古びて罅が入り、汚物の跡と落書きが残されている。
床は地下水が漏れているのか、中心部の溝に汚臭のする小さな流水があり、水溝の真ん中になぜか僧侶の石像が一つ鎮守されている。
周りの景色は先程までいた筈の古城とは全く違っていた。
ここはいったいどこなのだろうか。
魔王殿の地下だろうか。先ほどの異変でどこかに移動してしまったらしいが、どこへ転移したのだろうか。
しかし疑問は些細な事項として霧散し、マリアンヌは泣き出したくなる時の特有の衝動を感じた。
目の前にいたはずのオットーの姿がない。
この可能性は皆無ではなかった。
教授は既に説明していたのだ、もしかすると失敗するかもしれない、その時は覚悟しておけと。
だがそんな説明など今の自分になんの役にも立たない。
あれだけ苦労と努力が水の泡と消え、友達がいなくなってしまった。
ただ泣き出したい衝動に駆られ、それはとても魅力的な誘惑だった。
なにもかも忘れて泣いてしまえば良い。
幽閉の塔で閉じ込められていた時、最後には孤独感に屈してしまったように。
しかしマリアンヌは拳を握り締め、落ち込んでゆく自分を鼓舞しようと叫ぶ。
「しっかりしなさい! マリアンヌ!!」
自分の両頬を二回叩いた。
ここで弱気の虫に取り付かれては駄目だ。
逆境に陥った時こそ、自分の持てる力の全てを使って、困難に立ち向かわなければいけないのだ。
そう、自分は始めからそうするべきだったのだ。
魔王殿に来る以前から、諦めず、自虐に逃げず、前を向いて進むべきだったのだ。
だから、ここで同じ過ちを犯してはいけない。
「良し」
腹の底に溜まっている悪い気を吐き出すように声を出すと、改めて周囲を見渡した。
地下道の中だろう、中央の大きな溝に流れる水は少ないが、水道の一種だ。
もしかすると下水なのかもしれないが、現在は使用されていないようだ。
マリアンヌは溝内に降りて、中央に一つ設置されている石像に近寄った。
魔物ではない、普通の石像だ。
僧侶の服に、手には聖典らしき物を持ち、頭には十字模様が描かれた布を被っている。
これと同じ物をどこかで見た記憶がある。
マリアンヌは該当する記憶を思い出す前に、後方に気配を感じて振り返った。
地下道の突き当たりに、牢屋があり、そこに誰かが入っている。
小さな子供だ。
白い髪にそれ以上に白い肌。
赤い瞳が輝いているような気がした。
「オットー!」
その姿にマリアンヌは歓喜した。
消えたオットーは思っていたよりも近くの場所に飛ばされていたのだ。
マリアンヌは少年に向かって走った。
どうして牢屋に閉じ込められているのか、鍵をどうやって開けるか、それは後で考えれば良い。
今はただ無事を喜びたい。
しかし近づくにつれ、不審が湧き上がり、牢を目前にして立ち止まる。
オットーが何事もなかったように鉄格子の向こう側に立っている。
だがマリアンヌに向ける目に喜びの色はなく、親しい人に向けるものでもなく、まるで初対面の人に無関心の時に向ける目だった。
「オットー?」
マリアンヌは不安を覚えて名を告げる。
だがオットーはマリアンヌと同じように怪訝な表情を返した。
「どうしましたの? オットー」
少年は鉄格子の扉を、始めから鍵がかかっていなかったのか、無造作に開けると牢屋から出た。
そしてすぐ側にあった梯子を上り始めた。地上に出るつもりなのだろうか。
「あ!? オットー、待ってください」
少年はマリアンヌの懇願を無視して、そのまま上がっていってしまった。
頭上の蓋が開かれ陽光が降り注ぎ、その中へと少年の姿は消える。
いったいオットーはどうしたというのだろうか。
魔王殿の中を一人で動き回るなんて危険だというのに。
もし魔物と遭遇したらどうする気なのだ。
いや、精神世界の侵食度によっては、通常の亡者や、彼らに殺された魂たちも危険な存在だ。
追いかけようと梯子に手をかけたマリアンヌは、一つの可能性に気付いた。
この梯子を上って行ったのは、本当にオットーなのだろうか。
魔物が自分を誘き寄せるための罠ではないだろうか。
だが、ここにいつまでも動かないでいるわけには行かない。
行動しなければ。
マリアンヌは意を決して梯子を上がり始めた。
地上に出ると、日の光が目を刺激する。
やがて順応して周囲が見え始めてきたが、しかし少女は状況を上手く飲み込めなかった。
地下通路の上は、普通の町だった。
市場だろうか、屋台が立ち並び、簡易式の屋根が立てられ、その下には様々な商品が売られている。
果物、野菜、肉類などの食料品から、花瓶、鍋、杯などの日用品。
アクセサリーや小物、宝石類も並べている所がある。
店の人は勿論普通の人間で、訪れる客に愛想の良い笑顔を振り撒いて、あれこれと品々を勧める。
賑やかで活気のある市場の一角だ。
「どうなっていますの?」
まさか、あの異変で魔王殿から遥か遠方の地へ飛ばされ、それが偶然どこかの町だったのだろうか。
自分は魔王殿の脱出に成功したのだろうか。
そんな都合の良い話があるのだろうか。
茫然と立ち尽くしていたマリアンヌは、人ごみの中から姿を現したオットーに気が付いた。
少年はマリアンヌに向かって走って来たかと思いきや、しかし少女には目もくれずに脇を通過してしまった。
「オットー!」
見失ってはいけない。
マリアンヌは即座に少年の後を追跡した。
市場は縦横無尽に構成されており迷路のようで、人数も多く、もし見失えば再び発見することは不可能だっただろう。
しかしマリアンヌは子供の頃から足にだけは自信があった。
いつもゲームでは同年代の子供には手加減されて、勝敗の時の実感がなかったが、しかし徒競走だけは本気で挑まれても、負けない自信があった。
そして彼女の考えは正しく、引き離されていたオットーとの距離は縮まっていく。
人ごみを縫うように二人は走る。
しかし追いかけっこのように楽しいものではなく、マリアンヌは懸命に走った。
やがて活気ある市場を離れ、閑寂とした住宅街に辿り着いた。
荒れ果てたその様子は貧民窟であることを伺わせる。
オットーは川の堤防の梯子を降り、川岸を走り、石階段を上がって、そして川岸に密集している家の一つに入った。
「オットー?」
あの行動の意味が全くわからない。
誘き寄せているにしては妙だし、だが振り切ろうとしているわけでもない。
まるでマリアンヌのことなど気にかけず、ただ急いで家に帰ったようだ。
マリアンヌはその家の扉の前に立つ。
木造の古い家だ。
立地条件のこともあるのだろうが、損傷が酷く、まるであばら家だ。
だが民草の中にはこういった貧しい暮らしを余儀なくされている者も多いと聞く。
直接関わったことはないが、知識としてはサリシュタール先生から教わった。
魔物の罠か否か、その扉を開けるべきかどうか、マリアンヌは逡巡したが、しかし意を決して開いた。
そして怒鳴り声が轟いた。
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