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番外編
ノーガンズ
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わたしは変な汗が噴き出ていた。
「これ、どうすんの?」
みんな同じ思いの中、最初に動いたのは、役者さんだった。
「しかたねぇ。どうやら俺の正体を明かすときが来たようだな」
そして前に出ると、名乗りを上げる。
「俺は表向きは売れない役者。だが 本業は、殺し屋 ノーガンズ」
キラーゲージは鼻で笑う。
「そんな殺し屋など聞いたことがないぞ」
「だろうな。同業者にも正体を隠してきたからな。だから教えてやる。俺の名の由来を。
俺はな、銃がなくても弾が撃てるんだよ」
殺し屋さんが、こいつ なに言ってんだ といった顔。
役者さんは街灯に向けて手を銃のような形にした。
「バーン!」
街灯が割れた。
まるで本当に弾丸が命中したかのように。
殺し屋さんはギョッとする。
役者さんは続けて、事務員さん男に向けて、
「バーン!」
事務員さん男は、
「うっ!」
と 血飛沫を上げて倒れた。
事務員さん女が悲鳴を上げる。
「なにするんですか?!」
役者さんは続けて彼女に、
「バーンッ!」
事務員さん女は、
「うっ!」
と声を上げて倒れた。
役者さん恐ろしい眼で告げる。
「俺の技を知ったからには生かしておくわけにはいかねぇ」
わたしは叫ぶ。
「貴方! 始めからそのつもりで!」
「バーン!」
わたしは胸に衝撃を受けて倒れた。
役者さんは大きな看板に両手を構えた。
「ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!」
看板が穴だらけになった。
そして そのまま両手を殺し屋に構え、睨みを効かせた。
「次はおめぇが蜂の巣になる番だぜ」
殺し屋さんは息をのむと、全力で撤退した。
事情を知らない下っ端ヤクザさんが、尻餅ついてへたり込んでいた。
「ど、どうなってるんだ?」
「カーット!」
どこからか聞こえた声で、役者さんの態度がコロッと変わった。
「お疲れーっす」
事務員さんたちも何事もなかったかのように立ち上がり、
「お疲れです」
「お疲れ様です」
わたしも立ち上がって、
「うまく ごまかせましたね」
下っ端ヤクザさんは そこでようやく理解した。
「あっ、今の、芝居の仕込みを利用したアドリブだったんですか」
役者さんは当然のように、
「当たり前じゃない。鉄砲もないのに弾が撃てるわけないでしょ。いやー、仕込みが無駄にならなくて良かったよ」
そこにマネージャーさんが駆け寄ってきた。
「いやー! 今の良かったよ! 最っ高の演技だった!」
「ホント? いや、俺もね、今回のことで、役者として一皮むけたって感じがするんだよね」
「僕、早速 次の仕事とってくるよ! 今度こそブレイク間違い無しだ!」
「よし! 俺も挨拶回りに行ってくる!」
と二人は行ってしまった。
そして撮影スタッフの人たちが手早く片付けを行い、三分もしないうちに、辺りは静けさが戻った。
「じゃあ、わたしたちも帰りましょうか」
わたしは事務員さんたちに言って帰宅。
下っ端ヤクザさんを残して。
「……えぇー」
下っ端ヤクザさんが なぜか変な疑念の声を上げていた。
数日後、新しい仕事が入った役者さんは、撮影所にて台本片手にわたしと話をしていた。
「取材させていただき ありがとうございます。おかげで良い話が描けそうです」
「そいつはよかった。俺もあんたの取材を受けられて良かったよ。良い仕事も入ったしな」
今日で役者さんの取材は終了。
これで役者さんとはお別れだ。
でも、またいつか会えるだろう。
撮影スタッフさんが来た。
「もうすぐ撮影始まります。準備、お願いします」
「わかりました」
「頑張ってください」
「一芝居やってくる」
おわり
わたしは編集者さんに取材の結果報告を終えた。
「それで、役者さんはその後ブレイクしたわけですね」
「ダメだった」
「……は?」
「結局、その仕事でも演技が評価されずに、いつもどおり脇役ばかりの仕事しか来てないって。
この前、居酒屋で、俺は結局ダメ役者なんだ とか言って、飲んだくれているのを見かけました」
「それ、どこがいい話なんですか?」
「組長さんと愛人さんが結ばれたじゃないですか。これをマンガに書けば大ヒット間違いなしですよ」
編集者さんはなぜか頭を抱えて叫んだ。
「どいつもこいつも全然成長してねえじゃねえか!」
おしまい
「これ、どうすんの?」
みんな同じ思いの中、最初に動いたのは、役者さんだった。
「しかたねぇ。どうやら俺の正体を明かすときが来たようだな」
そして前に出ると、名乗りを上げる。
「俺は表向きは売れない役者。だが 本業は、殺し屋 ノーガンズ」
キラーゲージは鼻で笑う。
「そんな殺し屋など聞いたことがないぞ」
「だろうな。同業者にも正体を隠してきたからな。だから教えてやる。俺の名の由来を。
俺はな、銃がなくても弾が撃てるんだよ」
殺し屋さんが、こいつ なに言ってんだ といった顔。
役者さんは街灯に向けて手を銃のような形にした。
「バーン!」
街灯が割れた。
まるで本当に弾丸が命中したかのように。
殺し屋さんはギョッとする。
役者さんは続けて、事務員さん男に向けて、
「バーン!」
事務員さん男は、
「うっ!」
と 血飛沫を上げて倒れた。
事務員さん女が悲鳴を上げる。
「なにするんですか?!」
役者さんは続けて彼女に、
「バーンッ!」
事務員さん女は、
「うっ!」
と声を上げて倒れた。
役者さん恐ろしい眼で告げる。
「俺の技を知ったからには生かしておくわけにはいかねぇ」
わたしは叫ぶ。
「貴方! 始めからそのつもりで!」
「バーン!」
わたしは胸に衝撃を受けて倒れた。
役者さんは大きな看板に両手を構えた。
「ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!」
看板が穴だらけになった。
そして そのまま両手を殺し屋に構え、睨みを効かせた。
「次はおめぇが蜂の巣になる番だぜ」
殺し屋さんは息をのむと、全力で撤退した。
事情を知らない下っ端ヤクザさんが、尻餅ついてへたり込んでいた。
「ど、どうなってるんだ?」
「カーット!」
どこからか聞こえた声で、役者さんの態度がコロッと変わった。
「お疲れーっす」
事務員さんたちも何事もなかったかのように立ち上がり、
「お疲れです」
「お疲れ様です」
わたしも立ち上がって、
「うまく ごまかせましたね」
下っ端ヤクザさんは そこでようやく理解した。
「あっ、今の、芝居の仕込みを利用したアドリブだったんですか」
役者さんは当然のように、
「当たり前じゃない。鉄砲もないのに弾が撃てるわけないでしょ。いやー、仕込みが無駄にならなくて良かったよ」
そこにマネージャーさんが駆け寄ってきた。
「いやー! 今の良かったよ! 最っ高の演技だった!」
「ホント? いや、俺もね、今回のことで、役者として一皮むけたって感じがするんだよね」
「僕、早速 次の仕事とってくるよ! 今度こそブレイク間違い無しだ!」
「よし! 俺も挨拶回りに行ってくる!」
と二人は行ってしまった。
そして撮影スタッフの人たちが手早く片付けを行い、三分もしないうちに、辺りは静けさが戻った。
「じゃあ、わたしたちも帰りましょうか」
わたしは事務員さんたちに言って帰宅。
下っ端ヤクザさんを残して。
「……えぇー」
下っ端ヤクザさんが なぜか変な疑念の声を上げていた。
数日後、新しい仕事が入った役者さんは、撮影所にて台本片手にわたしと話をしていた。
「取材させていただき ありがとうございます。おかげで良い話が描けそうです」
「そいつはよかった。俺もあんたの取材を受けられて良かったよ。良い仕事も入ったしな」
今日で役者さんの取材は終了。
これで役者さんとはお別れだ。
でも、またいつか会えるだろう。
撮影スタッフさんが来た。
「もうすぐ撮影始まります。準備、お願いします」
「わかりました」
「頑張ってください」
「一芝居やってくる」
おわり
わたしは編集者さんに取材の結果報告を終えた。
「それで、役者さんはその後ブレイクしたわけですね」
「ダメだった」
「……は?」
「結局、その仕事でも演技が評価されずに、いつもどおり脇役ばかりの仕事しか来てないって。
この前、居酒屋で、俺は結局ダメ役者なんだ とか言って、飲んだくれているのを見かけました」
「それ、どこがいい話なんですか?」
「組長さんと愛人さんが結ばれたじゃないですか。これをマンガに書けば大ヒット間違いなしですよ」
編集者さんはなぜか頭を抱えて叫んだ。
「どいつもこいつも全然成長してねえじゃねえか!」
おしまい
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