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番外編

マトリックス風

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 対抗組織であるギャングのボスは、組長さんが伝説の殺し屋を雇ったという情報をキャッチし、いったん姿を消した。
 浮気相手と疑われていることは知らなかったが、しかし自分を狙っているのは間違いない。
 だが、いつまでも隠れているつもりなど無かった。
 ヤられる前にヤる。
 ということで、若い衆を七人送ってきたのだった。


 ヤクザの事務所にて、みんな食事が終わって まったり気分のときに、彼らは襲撃してきた。
「タマとりに来たぞオォラ!」
「なんじゃワレェ!」
「やんのかコラァ!」
 さっきまでの穏やかな雰囲気など一瞬で消え、大乱闘が始まった。
 若頭さんは威勢良く殴りつけ、幹部さんも戦っている。
 組長さんは椅子に座ったまま事の推移を見ていて、そして下っ端ヤクザさんは青ざめていた。
「どうしよー? これ絶対ばれるよ」
 いくらなんでもここまでやったら、役者さんに真実が分かる。
 当然 組長さんも殺し屋の正体が役者だと知ることになる。
 そうなれば自分は責任を取らされ、クビチョンパ。
 下っ端ヤクザさんは恐る恐る役者さんを見ると、予想とは裏腹、役者さんは目を輝かせていた。
「すげぇ。みんな なんて凄い演技をしてるんだ。
 まるで、本物のヤクザみたいだ!」
「えー?」
 下っ端ヤクザさんは疑念の声。
 役者さんは気付かずに、
「こうしちゃいられねぇ。おれも演ってやるぜ!」
 そして役者さんは乱闘に飛び込んだ。


 編集者さんは わたしに聞いてきた。
「それで、あなたは気付かなかったんですか?」
「役者って みんな凄いんだなと思いながら、ソファに座ってました」
「あなたも大概ですね」


 役者さんはかっこつけながら、
「おらよ」
 軽く体をいなして一人を転がし、
「ハッ」
 軽やかにステップを踏んで手刀を首に当てたり。
 でも演技のつもりだから 大したダメージになっていなかった。
 ギャングの人は からかわれていると思ったのか、激情し、
「テメェ! 舐めてんのか!?」
 と 勢い込んで役者さんにかかってくるが、役者さんは鮮やかなアクションで回避していた。


 ギャングの一人が拳銃を取り出し、組長さんに向けた。
「死にさらせぇー!」
 役者さんはそれを見て、大きなガラスの灰皿を投げつけた。
 発砲する寸前 腕に命中し、銃声が鳴った。
 組長さんのすぐ横の壁に命中し、穴が空いた。
 役者さんは拳銃を持っているギャングにかっこつけて言った。
「おい、俺に撃ってみやがれ」


 組長さんは慄然とする。
「なんという男だ。死を恐れておらん」


 若頭さんは尊敬の眼差し。
「これが伝説の殺し屋の生き様か」


 わたしは呑気に、
「やっぱり役者さんって、撮影に入ると違うんだなー」


 ギャングは激情して叫ぶ。
「舐めやがって!」
 銃が発砲された。
 役者さんは右に体を移動させて弾を回避した。
「なにぃ!?」
 ギャングは続けて二発目を発砲。
 役者さんは左へ体をステップして、再び回避。
「また だと!」
 ギャングは残りの弾を連続して発砲したが、役者さんは後ろへ思いっ切り仰け反って、マトリックス風に回避した。
 もちろん特撮はないから動きはかなりアレだったけど。
 でも、弾丸を全て回避したのだった。
「こいつ! 弾をよけやがったぞ!」
「ダメだ! 勝ち目がねぇ!」
「逃げろ!」


 ギャングの襲撃団はみんな撤退した。
 役者さんはかっこつける。
「口ほどにもねぇ連中だ」
 そこに 幹部さんが質問する。
「どうして殺さなかった?」
「俺は無駄な殺しはしない主義なんだよ」


 下っ端ヤクザさんが青い顔をしていた。
「ますます大変なことになっちゃってるよー」
 愛人さんが肘でつついて、
「あんた、これどうするの?」
「どうしよう?」
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