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三章・いきなりですが冒険編

なにをしておるんじゃ?

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 北極大陸では、魔王との戦いで吹き飛ばされた、中隊長さんと兄貴が歩いていた。
 二人ともダメージはあるものの無事だった。
 しかし、戦闘の場からも、そして船のある場所からもかなり離れてしまった。
 しかも天候が悪化してきて方向まで分からなくなってきてしまう。
「吹雪いてきたな」
「まずいでござる。このままでは凍死してしまうでござる。いったんかまくらを造って吹雪をやり過ごした方が良いかも知れないでござる」
 そして二人はかまくらを造り始めたのだけど、 
「早く造るぞ。愛しの彼女と結ばれるまで、俺は死ぬわけにはいかん」
「それは拙者もでござる。愛しのマイシスターと結ばれるまで死ぬわけには参らぬ」
「なにをいっている? 貴様と彼女が結ばれることはない。なぜなら彼女は俺と結ばれるからだ」
「ふっ、今世になってから想い始めた貴殿と拙者を一緒にしてもらっては困るでござる。拙者たちの愛は前世から続いているのでござるよ。当然 結ばれるのは拙者でござる故、貴殿はマイシスターが拙者のを咥えているのを想像しながら自家発電にいそしむでござる」
「このゲスめ。というか、そもそも貴様と彼女は兄妹だろう。彼女は近親相姦する変態ではないぞ」
「愛に血のつながりは関係ないでござるよ。デュフフフ」
「気持ち悪い笑い方をするな! ええい! こうなったらここで決着をつけようではないか! 彼女と結ばれるのはどちらか!」
「望むところでござる! 貴殿ばかりホッペにチュッをしてもらいおって! 羨ましすぎて憤慨しておったでござるよ!」
「いざ!」
「尋常に!」
「「勝負!!」」
 と言う感じで、こんな時に二人は喧嘩を始めた。


 それを大魔宮殿の監視用水晶で見ていたのは妖術将軍だった。
「あやつら なにをしておるんじゃ?」
 敵地のど真ん中で勇者と竜戦士が喧嘩を始めたのだ。
 そりゃ呆気にとられる。
 しかし妖術将軍はほくそ笑み。
「これはチャンスじゃ。勇者と竜戦士を始末すれば、大魔王さまが喜ばれる。フヒヒヒ。
 魔王さまや隠密将軍より先に、破邪の戦士を二人も始末すれば、手柄は全てわしのものじゃ。アヒャヒャヒャ!」
 そして妖術将軍は五人の部下を連れて二人のところへ向かった。


「「ぜー、ぜー」」
 二人の喧嘩は息切れで一時中断していた。
「き、貴様、まだ諦めないのか」
「き、貴殿こそ、マイシスターから手を引くでござるよ」
 そこに隠密将軍と五人の部下の姿が。
「アヒャヒャヒャ! 仲間割れとは見苦しいのう。しかし思わぬ形で勇者と竜戦士の首を取れそうじゃ」
「貴様は妖術将軍!」
「見つかってしまったでござるか」
「見つかって当たり前じゃわい。さぁて、なにか言い残すことはあるか?」
 二人は沈黙。
「では、わしの奥義を見せてやる!」
 妖術将軍は部下達から魔力を供給させると、自分に集約し、物凄い大きさの魔法弾を形成した。
 他者の魔力を合成する魔法。
 合成魔法。
 魔王との戦いや、見苦しい喧嘩で疲弊していた二人には、為す術もない。
「くたばれぇえい!」
 次の瞬間、魔法弾がはじけて消えた。
「なんだ!?」
「なにがおきたでござるか?!」
 兄貴と中隊長さんはなにもしていない。
 妖術将軍もうろたえて、
「な、なにが起きたのじゃ!?」
 妖術将軍と二人の間には、五体の鬼の姿をした魔物がいた。
 妖術将軍はあと もうちょっとで手柄が入ったのに、それを邪魔されたことに憤慨する。
「貴様ら! 何者じゃ?!」
 中隊長さんと兄貴は怪訝に、
「妖術将軍も知らないのか」
「助けてくれたようでござるが」
 鬼の姿をした魔物の一体、獣を思わせる鬼が、妖術将軍に一瞬で間合いを詰めると、手刀を首筋に入れた。
「アヒッ」
 変な声を上げて気絶する妖術将軍を、鬼は肩に担ぐ。
「貴殿らはいったい何者でござるか?」
 兄貴の問いかけに、魔物たちは答えた。
「獣鬼」
「魔鬼」
「竜鬼」
「戦鬼」
「闘鬼」
 そして彼らはその力を少し解放した。
「なっ!?」
 兄貴と中隊長さんは動揺した。
 その力は造魔の力。
 そして同時に、兄貴たちと同じ破邪の力だったからだ。
「なぜ造魔が拙者たちと同じ力を持っているでござるか!?」
 獣鬼が、
「一々説明してやる義理はない。だが、魔王様から伝言だ。次こそ決着を付ける。いいな、ちゃんと伝えたぜ」
 そして彼らは妖術将軍を連れて大魔宮殿へ姿を消し、妖術将軍の配下も逃げるようにちりぢりに退散した。


「いったい何者なんだ?」
「わからぬでござる」


 しばらくして捜索隊が二人を見つけ、北の国へ帰還した。
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