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三章・いきなりですが冒険編

頭痛が痛い

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 わたしたちは南の王国に急いだが、
「出場受付は終了しました」
「「「えー!?!」」」
 間に合わなかった。
 わたしは受付のおじさんに、
「なんとかなりませんか? わたしたち 一応 聖女一行なんですけど」
 受付のおじさんは困ったように、
「それは存じておりますが、聖女さまといえど、規則を破るわけには……」
「そうですよね。すいません」
 わたしはおとなしく引き下がるしかなかった。
 中隊長さんが、
「しかたがない。せめて観戦していこう。出場者の中に、新しく仲間になってもらえそうな、秘めた力を持った者がいるかも知れない」
「そうですね」
 正直期待はしていなかったけど、少しの可能性に望みをかけて見に行くことにした。


 本戦トーナメントに出場するのは八人。
 三百人以上の出場者の中から、戦い抜いた者だけがトーナメントに出場できる。
 その八人が騎士などに取り立てられるのは確実だろう。
 そして予選会場を見に行くと、ちょうど予選の最後の戦いが行われようとしていた。
「両者、武台へ」
 審判が促すと選手二人が上がる。
 一人は修行僧のような格好の中年の男性。
 ストイックな感じが素敵。
 そして もう一人は、
「って、姫騎士さん?!」
 そう、王子のいる修道院に行ったはずの姫騎士さんだった。
 姫騎士さんも わたしたちに気付き、
「おお、聖女たちではないか。おまえたちも来ていたのか」
 周囲がどよめく。
「聖女だと?」
「あの聖女か?」
「勇者たちと共に大魔王討伐の旅をしているという聖女がいるのか?」
 なんか周囲の注目を浴びてしまっている。
 審判が、
「皆さん、お静かにお願いします」
 会場が静かになるのを見計らって、審判は、
「では、最終試合。始め!」


 戦いが始まると同時に 姫騎士さんは、
「オォオオオ!」
 戦乙女の力を解放した。
「うぇええ?!」
 わたしは変な声を上げてしまった。
 姫騎士さん、聖女の力もなしに戦乙女になったんだもん。
 そして姫騎士さんは素手で修行僧に突進、拳や蹴りを繰り出した。
 修行僧はなんとか戦おうとしていたけど、基本スペックからして違う。
 戦乙女の力に為す術もなく圧倒され、十秒を過ぎたところで敗北。
 本戦へ進んだのは、姫騎士さんだった。


 予選が終わって、わたしたちは姫騎士さんと話をした。
「戦乙女の力を自由に使えるようになったのでな。腕試しに出場したのだ」
「っていうか、なぜに試練を受けずして戦乙女の力が使えるようになったんですか?」
「おそらく、おまえの話が真実だと知ったからだろう。修道院でじっくり見学させて貰った。
 グフフフ……私の目に もう迷いはない。世界は真実の愛で満ちている。グヘヘヘ……」
 うん。
 眼が澱みきってるもんね。
 もう、嘘だとかどうでもよくなってるんだ。
「そしたら なんか 戦乙女の力が使えるようになっていた」
 心が腐りきって 戦乙女の力が発動できるようになったわけかよ。
「そんなことで真の戦乙女になるなんて。頭痛が痛い」


 さて、わたしたちがなぜ武闘大会に来たのか、姫騎士さんに説明した。
「なるほど、そうだったのか。力を二重に使うと、そうなってしまうのか。解決するには、強い武器を手に入れなければならないと。
 わかった。私はこのまま本戦に出場する。なに、戦乙女の力ならば優勝は確実だろう。ドラゴンスレイヤーを手に入れたも同然だと思ってくれ」
 姫騎士さんは請け負った。
 確かに、普通の人が破邪の力を持った人間に勝てるとは思えない。
 ドラゴンスレイヤーを手に入れるのは問題なさそうだった。


 そして次の日。
 本戦トーナメント開始。
 コロシアムで出場者たちが並んでいる。
 聖騎士。
 闇騎士。
 格闘家。
 武道家。
 大力士。
 魔術師。
 鞭打使。
 姫騎士。
 合計八人が戦う。


 わたしたちは南の王に招かれて貴賓席へ。
 王さまは、少しふくよかな感じの初老の人で、おひげの似合う、人の良さそうな感じの人だった。
 王としての威厳は今一つだけど、優しい人柄と政治手腕が評価され、国民から人気があるとか。
「いやぁ、噂の聖女さまに会えるとは、光栄の至りですな。ハッハッハッ」
「わたしこそ、お会いできて光栄です」
「たいしたおもてなしは出来ませんが、今日は大魔王軍に挑む強者たちの戦いをご覧になられてください」
「そうさせていただきます」
 さて、この大会は南の王さまが発案したものではないそうだ。
「宰相の発案なのですよ。
 大魔王軍に対抗するために、戦力増強をはかる必要がある。我が国は平和が長く続いておりましたから、軍隊は強いとは言えませんからな。
 しかし、民衆から兵士を急募するにしても、訓練などは到底間に合わないだろう。
 そこで、武闘大会を開き、強い者を集めようと。私は これは良い考えだと、すぐに賛成し、こうして武闘大会を開いたわけです。
 参加者を集めるために、我が王国の宝剣の一つ、ドラゴンスレイヤーを使うことにしました。
 しかし、その甲斐はあった。集まった者はとても強い者たちばかり。予選落ちした者も兵士に勧誘しております。
 本戦トーナメントに出場した者たちは、もちろん騎士に取り立てます。あれほどの強さ。実に素晴らしい。
 いやあ、宰相は良い考えを思いついてくれました」
 そこに、宰相さんが現れた。
「ヒッヒッヒッ。お褒めにあずかり、恐悦至極に存じます」
 この人が宰相さんか。
 宰相さんは歳を召した小柄な老人で、貪欲そうないやらしい目つきの、あからさまなまでに怪しすぎる、見るからに敵側のスパイとか、敵に寝返ってるとか、敵が本物の宰相さんとすり替わったとか、そんな感じの人だと思った。
 っていうか、あからさまに妖術将軍とクリソツなんだけど。
「まさかとは思いますが、あなた 妖術将軍ではありませんよね?」
「ギクッ。ハハハ……なにをおっしゃるのじゃ。そんなわけがありませんぞ」
「そうですよね。そんなわけがありませんよね。本物の宰相さんと妖術将軍が入れ替わってるなんて考えちゃいました。わたしったら なに考えてるのかしら。いくらなんでもそんなわけないのに。すみません、変なこと言っちゃって」
「そうですぞ。疑われるなど心外ですじゃ」
「いやー、ホントごめんなさい、疑ったりして。
 そうですよね。魔界一 知謀に長けていると自称している妖術将軍が、こんなわかりやすい、しかも 一度 使った方法を、二回も使う訳ありませんよね」
「そ、その通りですじゃ」
「ホントそうですよね。強い人間を一カ所に集めて、まとめて始末するとか。あるいは洗脳とか、魔物に改造するとかで、大魔王軍の先兵にするとか、まさか そんな コテコテのベッタベタな 頭が悪いを通り越して脳みそに虫が沸いてるんじゃないかってこと考えるわけないですよね」
「このドグサレ女がぁあああ! 黙っておれば好き放題言いおってぇえええ!」


 宰相の正体はホントに妖術将軍だった。


 悪友は眉間を押さえて、
「大魔王って、なんでそいつを将軍にしたのかしら?」
「知らない」


 なぜ妖術将軍は将軍になったのか?
 新しい伏線。
 果てしない謎。
 この伏線の謎が解ける日は来るのだろうか!?
 来るわけねー。
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