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三章・いきなりですが冒険編

遠ざかってる

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 大魔王の本拠地、大魔宮殿でのことだった。
 魔王が大魔王に呼ばれた。
 魔王は魔兵将くんの自爆攻撃でも生き延びていたのだ。
 万が一のことを考えて、妖術将軍に緊急逃走魔法道具を作らせておいて、それを使って自爆攻撃からギリギリ逃げることが出来たのだ。
 だけど、賢者の国での作戦は大失敗。
 大魔王に呼ばれたのは、ハッキリ言えば、そのことに対する叱責だった。


 隠密将軍と執事が大魔王の玉座の間にいた。
 そして薄い仕切りの向こう側にいる、玉座に座る大魔王。
 仕切りに写る影が見えるだけで、その姿は隠れている。
 魔王は片膝を突いて頭を垂れる。
「だ、大魔王様。参上いたしました」
 脂汗が滲み出ている魔王に、大魔王はハスキーで女性的な声で告げる。
「魔王。おまえの数々の失態、私はどのように責任を取らせるか、考えていた」
 恐怖している魔王に、大魔王は淡々と告げる。
「私が最初に命じた、聖女たちを始末しろとの任務を遂行せず、おまえは聖女の言葉に惑わされ、引き返した。
 おまえの部下にした精霊将軍と魔兵将軍は裏切り、聖女に付いた。
 さらに、賢者の国では将軍たちを結集させた作戦の失敗。そして おまえ自身、魔兵将軍に敗北」
 魔王は体が恐怖で震える。
「しかし、私は寛大であるつもりだ。おまえの汚名を返上し、名誉挽回するチャンスを与えよう。
 改めて 聖女一行の始末を命ずる。次の謁見の時までに命令を果たすのだ。
 それまで、エッチはお預けだ。
 そして、もし失敗したならば、私の愛を失うことになる」
 やはり!
 魔王は愕然とした。
 俺はもう大魔王様でなければ満足できぬ体になってしまったというのに。
 自分で一人寂しくシコシコするなど耐えられぬ!
 こうなれば 手段を選んでおれぬ。
 大魔王様の愛を取り戻すために、俺はどんな手段も使おう。
 魔王は そう決意したのだった。
 なんのための決意してんだよ こいつ。


 その魔王の様子を、執事がなにやら意味ありげな含み笑いで見ていた。
 そして隠密将軍に、
「フフフ。見物ですね。魔王はどうやって聖女たちを始末するでしょうか?」
 隠密将軍の表情は、ドクロの仮面に隠されて窺い知れなかった。


 大魔宮殿でそんなやりとりがあった頃、聖殿にて中隊長さんは、破邪の力を得る試練に挑もうとしていた。
 魔兵将くんとお父さんが、外でなにやら分析器とかをセッティング。
「外から中隊長さんの試練をサポートします。
 それだけじゃありません。上手くいけば、破邪の力を分析して、炉歩徒に応用 活用できるかも知れません」
 ともかく、戦力が増えるかも知れないのは良いことだった。
 だけど、試練を受けている間、中隊長さんは戦力から完全に外れる。
 魔兵将くん親子もサポートで戦えない。
 戦力は勇者の童貞オタク兄貴と精霊将軍。
 竜騎将軍はなんとかなったけど、他の将軍が攻めてきたら、ちょっと問題かも知れない。
「というわけで、オッサンは外で見張りをしていてください」
 敵を先に発見できたら、なんとかなるかもしれない。
「あの、僕はまともに戦えないです」
「なにかあったら大声出してください。あとは逃げて良いですから。あなたには もう それぐらいのことしか期待してません」
「シクシク。ひどいです」
 泣いているオッサンは無視して、わたしはこれから試練に挑む中隊長さんのところへ。
「中隊長さん。頑張ってください」
 中隊長さんは爽やかなイケメンスマイルで、
「ああ。俺は必ず試練を乗り越えると君に約束する」
「では、勇気の出るおまじないです。
 ホッペにチュッ」
「素晴らしいおまじないだ。勇気がわいてくる」
 感激する中隊長さん。
 そしてうっさい兄貴が、
「フォオオオ! マイシスター!」
 やっぱり うっさかった。


 こうして中隊長さんは試練に挑んだ。


 そして 試練の間、外で見張りをしていたオッサンなんだけど。
「シクシク。どうしてです? なんだか童貞卒業からどんどん遠ざかってるような気がしますです」
 なんか嘆いていた。
 っていうか、今までの自分を振り返っておいて、なぜに童貞卒業できると思っているのか。
「童貞卒業したいのか?」
 と、唐突に聞いてきたのは、いつの間にかすぐ側にいた姫騎士さんだった。
 オッサンはビックリして、
「ひ、姫騎士さま? どうしてここに? どこかへなにかを確認しに行ったのではないですか? というか いつの間に?」
「用が済んだから試練の聖殿に来ただけだ。そしておまえが気付かなかっただけだ」
「そ、そうですか」
「ところで、童貞卒業したいとか言ってなかったか?」
「聞いてたですか?」
「バッチリとな」
「もしかして、エロ本みたいな展開で、筆下ろししてくれるとかですか?」
 オッサンの淡い期待が雑ざった冗談に、姫騎士さんは 妖艶な笑みを浮かべた。
「いいぞ」
「え?」
「私が筆下ろししてやろう」
 オッサンはスケベ心丸出しの表情で興奮し始めた。
「ホ、ホントですか?」
「フフフ。実は私、前からおまえのことが ちょっとイイなー、なんて」
「そ、そうだったんですか」
「そうだ。メタボの体も、脂ぎったバーコードハゲも、私の変態欲求をくすぐるというかなんかそんな感じの」
「ひ、姫騎士さまが そんなアブノーマルな人だったなんて。か、感激です」
「では、まずはキスから行こうか」
 姫騎士さんは感激しているオッサンの首に腕を回した。
「ああぁ……ホントの ホントで ホントに夢にまで見た童貞卒業が……」
 チクッ。
 オッサンは首筋に針が刺さった痛みを感じた。
「……あの、なぜに針を刺したですか?」
「フヒヒヒ。もちろん おまえさんに死んで貰うためじゃ」
 姫騎士さんがオッサンから離れると、ボウンッ という音と共に煙が上がり、正体が現れた。
 もちろん妖術将軍だった。
「色仕掛けで隙を作り、毒針をさす。古典的で気持ち悪かったが、効果はあったわい。
 相変わらず わしの知恵がさえとるのう」
 体から力が急速に抜けていくオッサンは言った。
「ああぁ、どうして 僕は こんな わかりやすい罠に引っかかってしまったです」
「わかりやすいとか言うな! 見抜けなかったくせに!」
 そこに魔王が現れた。
「よくやった、妖術将軍。これで聖女どもに奇襲を仕掛けられる」
「ヒヒヒ。約束通り、大魔王様に報告してくだされ。聖女を倒した功績は、わしの策があってのことじゃと」
「わかっている。それくらい どうということはない」
 オッサンが弱々しく、
「ま、魔王さん。貴方って こんな卑怯な手段を使うタイプじゃなかったです。なぜに急に?」
 魔王は険しい表情で、
「大魔王様の愛を取り戻すためならば、俺はどんな手段も使う。たとえ卑怯で卑劣な手段であってもだ」
「つまり、失敗続きのお仕置きにヤラせてくれなくなって、たまっているので見境がなくなってるとか そんな感じですか?」
「黙れ! 貴様と話しているとイライラしてくる。毒で死ぬ前に、俺が引導を渡してやろう」
 魔王は腕から小剣を生やして、オッサンに向けた。


 オッサン大ピンチで続く。
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