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三章・いきなりですが冒険編

ぶん殴ってやりたい

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 わたしたちは試練の聖殿がある聖王国に到着した。
 そして聖王国を治める 聖姫さまが、聖王城にてわたしたちを出迎えてくれた。
「聖女さま、ようこそおいでくださいました」
 聖姫さまは わたしと同じ年齢の美少女だった。
 清楚系美少女といった感じ。
 なんか、聖姫さまのほうが聖女にふさわしいような気が。
 あのロリ女神、人選 間違えてない?
 それはともかく、聖姫さまは わたしが来たのを普通に喜んでいるようなのだけど、問題は周囲の人たち。
 大臣たちや騎士たちなど、なんか私に向ける視線が蔑んでいるというか、ハッキリ言って軽蔑の視線なのだ。
 なんで わたし、いきなり こんな目で見られてるの?
 大臣の一人が、わたしに嫌らしい軽蔑の眼差しで、
「聖女さまは なんでも王子に慰め者にされていたらしいですな。そんな穢れた体でよく表を出歩けますな。その顔の皮の厚さは、さすが聖女さまと言ったところですかな」
 まったく遠回しになっていない皮肉を繰り出してきた。
 そして周りの人たちからも、
「穢されたことを恥じていないのか。どんな神経をしているんだ」
「女神はなにか人間違いをされたのだ。こんな女が聖女など」
「こんな女など聖女にふさわしくない。聖姫さまこそふさわしい」
 物凄い皮肉を通り越して侮蔑の言葉が。
 そうだった。
 なんか 今まで気を遣ってくれる人ばっかりだったから忘れてたけど、この世界、穢された女って、被害者の方が軽蔑されちゃうような、前時代的な世界だった。
 なんか、嘘が やばいことになりそうな気配が。
 ど、どうしよう?
「おやめなさい!」
 聖姫さまが周囲の人たちを一喝すると、一瞬で静かになる。
「聖女さまへの無礼はわたしが許しません」
 そして聖姫さまは わたしに、
「申し訳ありません、聖女さま。
 この国は清らかなる者が尊重される傾向にあり、有り体に言えば処女信仰があるのです。ですので非処女、とくに未婚者の非処女への差別的偏見が強くて。
 どうか、この者たちの無礼をお許しください」
 と いって頭を下げてきた。
「い、いえ、いいんです。その、まあ、そういうこともあるかなーとは思ってましたし」
 なんか わたしのほうが謝りたくなってしまう。
 聖姫さまの方が聖女にふさわしいのは同感だし。
 卒業式の時の話、全部 大嘘だし。
 それにしても、大嘘ぶっこくときに非難される覚悟はしてたはずなんだけど、いざそれをされると、処女厨ってドン引きもんね。
 なんで男って処女にこだわるのかしら?
 中隊長さんもやっぱり気にしてるのかな?


 GISYAAAAA!!
 突然 その場に魔物が十体出現した。
 ハッキリ言って雑魚だけど、いきなりの出現に大臣さんたちとかがうろたえてパニック状態に。
「魔物だ! どこから侵入した!?」
「騎士よ! 早く倒せ!」
「聖姫さまを守るのだ!」
 騎士たちが戦おうとしているけど、非戦闘員が邪魔になって上手く戦えないでいる。
「中隊長さん!」
 わたしは中隊長さんに聖女の力を使い、中隊長さんは竜戦士に。
 続いて兄貴も雷電白虎に。
 二人が戦い、魔物はすぐに殲滅した。
 そして みんなも落ち着いたみたい。
 だけど、こんな所にまで魔物が出現するなんて。
 周囲からヒソヒソと話し声が。
「やらせだ。聖女を語る女がなにか仕掛けたんだ」
「ああ、聖女というのは嘘だ。聖女だと信じさせるために仕組んだ罠だ」
「聖姫さまを危険にさらすとは。ここで斬り捨てるべきだ」
 って、助けてあげたのに、感謝しないどころか、非難してる。
 処女厨ってここまでひねくれてるの。


「人間というのは身勝手なものですね。守ってくれたというのに、穢された身だというだけで偏見の目で見るのですから」
 唐突になんか意味ありげなセリフが聞こえて来た。
 声の方向を見ると、執事の姿をした人物がいた。
 でも、眼がおかしい。
 白い部分がなくて、全部 真っ黒。
 人間じゃない。
 魔物でもない。
 悪魔だ。
 神によって地獄に封印された堕天使。
 なんでこんな奴がこんな所に。
「私は大魔王様の執事を務める者。以後、お見知りおきを」
 聖姫さまが鋭い眼光を執事に向ける。
「大魔王は悪魔を召喚しているというのですか」
「ご安心ください。大魔王様に仕える悪魔は、私 一人。他の悪魔が現れることはありません」
「悪魔は代償によって働く。おまえはなにを代償としたのです?」
「それは大魔王様との契約上 教えられません。守秘義務がありますから」
 大魔王は悪魔と契約したってこと。
 そんなこと、下手したら魂を奪われて地獄に落とされるのに。
「私が今日 ここに伺ったのは、噂の聖女さまに会うため。そう、貴女に」
 悪魔はわたしに視線を向けた。
 その ねっとりとした視線に、わたしは怖気が走る。
 こいつ、セクハラ親父の同類だ。
 気持ち悪くて鳥肌が立ってしまった。
 ぶん殴ってやりたい。
 執事はいやらしい笑みを浮かべて、
「思った通りだ。貴女は素晴らしい。実に素晴らしい魂だ。欲しくてたまりません」
「って、わたしの魂を狙ってるの!?」
「おっと、脅かしてしまいましたね。ご安心を。今日の所は挨拶に参っただけ。貴女の力を見るために、魔物を使いましたが。
 本日は これでおいとまさせていただきます。では、近日中に また お会いしましょう」
 すると、執事の悪魔の姿が影に消えた。
 聖姫さまが険しい表情で、
「なんて恐ろしい。とても危険な悪魔です」
 わたしは同意する。
「そうですね。なんか、ぶん殴りたくなります」
 聖姫さまが虚を突かれたように、
「え? 殴る、ですか?」
「殴ってやりたくなりませんでした? なんか気持ち悪くて」
 聖姫さまはポカンとした表情だったけど、やがて微笑みを浮かべた。
「なぜ女神が貴女を聖女としたのか、分かったような気がします」
「どういう意味ですか?」
「いえ、いいんです。
 それより、試練の聖殿へ案内します。付いてきてください」
 聖姫さまは話を変えて、試練の聖殿へ案内するという。
 なんなんだろう?


 特にオチもなく続く……
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