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三章・いきなりですが冒険編

愛を感じますわ

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 わたしたちは みんな無言で魔王城から離れ、一番近い小さな街に入り、宿を取った。
 とにかく疲れていた わたしたちは、無言のままベッドに入り、眠りへと落ちた。
 そして、わたしの夢の中に、ロリ女神が現れた。
「女神さま、久しぶりッス。最近 出てこなかったッスけど、なにしてたッスか?」
「なぜに口調を変えているのかは大体 見当は付くが、それはさておき 地上に出現するのは結構 大変なのだぞ。だから そう頻繁にお告げができるわけではないのだ」
「そうッスか。ところでビューティーホーでエレガントでセレブでロイヤルでなんかそんな感じの女神さまにお願いがあるッス」
「ダメだ」
「まだなにも言ってないッスよ」
「言わなくてもわかる。見当は付いていると言っただろう。逃げるなよ」
 わたしは口調を戻して、
「いや、あの、逃げるとは言ってませんけど。でも せめて フォローはして欲しいなって感じで」
「フォローもなにも、大魔王討伐が危険だと言うことはわかりきったことだろう」
「だって この小説、ラブコメとは名ばかりの基本的に下ネタ中心のギャグばっかりだったので、そういうのは無しの方向なのかなって」
「メタ発言は読者から嫌われるぞ」
「嫌われるっていうか、前回のラストでいきなり雰囲気が変わったから、そりゃメタ発言もしますよ。実際のところ、あの 二人どうなったんですか? 死んだんですか? ホントに死んじゃったんですか?」
「安心しろ。死んだと思っていたキャラが実は生きていたというのはよくある話だろう」
「そーですよねー。死ぬわけないですよねー。読み終わった後 なにも残らない くだらなさのオンパレードな小説で死人が出るわけないですよねー」
「まあ、実際のところ 死んだのか 生きてるのか どーなのか 知らんが」
「どっちなの!? ねえ! どっちなの!?」
「とにかく、逃げたら陵辱されたのが大嘘だったというのを世界中にばらすからな」
「前から思ってましたけど、ホントにあなた女神なんですか? 黒いんですけど。お腹の中がマックロクロスケなんですけど。多分末期ガンですよ」
「なにをどー言おうともフォローはなしだ」」
 夢の中でもロリ女神は冷たかった。



 憂鬱な気分で朝食を取っていると、中隊長さんが心配そうに話しかけてきた。
「あの二人のことを考えているのかい?」
 魔兵将くん親子のことだ。
「そうです」
「きっと生きているなどという気休めは言わない。だが、彼らの犠牲を無駄にしないためにも、俺たちは前へ進まなくては」
 わたしは全力で前に進みたくないですけれども、バカ正直に言うわけにはいかなかったので、
「そうですね」
 当たり障りのない返事をしておいた。
 姫騎士さんと中隊長さんがヒソヒソと、
「そうとう堪えているようだな」
「しかたがない。とうとう犠牲者が出てしまったのだから」
「責任を感じているのだな」
「彼女は優しいからな」
 なんかよく聞こえないけれども、わたしは自分の身の心配で心が一杯だった。
 わたし無事に旅を終わらせられるだろうか?
 ああ、逃げたい。
 プルルルルル……
 そんな時、わたしの携帯電話が鳴った。
 わたしは携帯電話に出ると、悪友だった。
「あ、もしもし。冒険者組合からの連絡よ。賢者の国へ向かってちょうだい」
「賢者の国って、あの賢姫さまの国?」
 賢者の国と賢姫さまの細かい説明については、二章の 「キャラがかぶってる」から「正座」までを読み返してください。
 悪友は説明を続けて、
「なんかね、賢者の国が大魔王軍の獣戦士軍団の攻撃を受けてるんだって。それで急いで向かって欲しいのよ」
 獣戦士軍団。
 ってことは、獣士将軍が率いる軍団。
 行ったらシリアスな展開で命の危険が。
 しかし、逃げたら大嘘を世界中にばらされる。
 わたしは渋々 賢者の国へ向かった。


 その賢者の国の宮殿にて。
 賢姫さま率いる兵士たちが、獣士将軍と戦っていた。
 兵士たちは苦戦していた。
「こいつ 強いぞ!」
「ダメだ! 歯が立たん!」
「怯むな! 一斉にかかれ!」
 無数の兵士たちが、一人の獣士将軍に戦いを挑むが、しかし、
「おぉおうらぁあああ!!」
 獣士将軍はアッサリすぎるほど兵士たちを簡単に蹴散らす。
 ザコ ここに極まれり。
 兵士さんたちを片付けると、獣士将軍は賢姫さまに近づく。
「へっへっへっ。おまえが賢姫か。なかなかいい女じゃねぇか。俺の女にしてたっぷり可愛がってやるぜ。嬉しいだろぉ。強い男に抱かれるんだからなぁ」
 賢姫さまは不愉快に顔をゆがめる。
「ふん。貴方のような男に抱かれて喜ぶ女などいません。真に強い男とは、勇者様のような方を言うのです」
「ゲラゲラゲラゲラゲラ!
 その勇者様なら死んじまったぜ!」
「嘘おっしゃい!」
「本当だ! 俺が殺してやったんだからな! 魔王城の円形闘技場にいる勇者どもを、ブレスの一斉攻撃で焼き殺してやった!!」
 賢姫さまは顔を青くし、
「嘘です。勇者さまが死ぬはずありません!」
「そう思いたきゃ、そう思ってな。だが、勇者は助けに来ない。死んじまったんだからな!
 ゲラゲラゲラゲラゲラ!」


 そこに勇者が飛び出してきた。
「拙者! 参上!」
 マスクド走り屋サンダーキング(英語と日本語を逆にしてみてください)みたいな登場の仕方をした兄貴に、賢姫さまは大喜び。
「勇者さま! わたくしの豚奴隷になりに来てくださったのですね!」
「拙者、いきなり腹痛が起きたので、後は中隊長殿たちに任せるでござる」
 わたしは兄貴の襟首を掴んで、
「逃げるんじゃないわよ。戦いなさい」


 獣士将軍は忌々しげに、
「ちぃっ。死んでなかったのか。しぶとい連中だ」
 中隊長さんと姫騎士さんは剣を構える。
「魔兵将軍たちの敵を討たせて貰う!」
「父と息子を殺した罪、私が裁いてやる!」
 そしてわたしは二人に聖女の力を使った。
「破ぁあああ!」
「おぉおおお!」
 竜戦士と戦乙女の力を発揮した二人。
「豚奴隷にはなりたくないでござるが、戦うでござる」
 童貞オタク兄貴も雷電白虎に変身する。
 しかし獣士将軍は、
「おっと、聖なる戦士を三人同時に真っ向からやり合うなんざ、馬鹿のすることだぜ。さっさと奥の手を使うとするか」
 獣士将軍はなにかする気だ。
「みんな! 早く倒してください!」
「遅い!」
 獣士将軍が懐から銃のようなものを取り出し、窓に向かって撃つと、窓の外の空で花火が上がった。
 なにかの合図をしたんだ。
「いったいなんの合図をしたのです!?」
「すぐにわかるぜ」
 不敵な笑みの獣士将軍の言葉通り、それは起きた。
 城の外の四方にそれぞれ光の柱が立った。
 それは巨大な魔方陣を描き、その中心はわたしたちのいる宮殿。
 そして、中隊長さんの竜戦士の力と、姫騎士さんの戦乙女の力が 収まってしまい、兄貴の変身も解ける。
「なんだこれは!?」
「力が発揮できない!?」
「どういうことでござるか!?」
 獣士将軍は下品に笑う。
「ゲラゲラゲラゲラゲラ!
 これは聖封魔方陣! この中じゃ聖なる力は使えなくなるんだよ!
 つまり勇者や竜戦士の力はおまえたちはもう使えねえ! この魔方陣の中にいる限りな!」
 じゃあ、みんな普通の状態で戦わないといけないわけ。
 獣士将軍は、
「てめぇらは聖なる力がなきゃ大して強くねえ。簡単に勝てるぜ。
 ゲラゲラゲラゲラゲラ!」
 これはいったん逃げないと。
「みなさん! 城から退避しましょう! いったん逃げて体勢を立て直すのです!」
「逃がすか!」
 獣士将軍は掌を賢姫さまに向け、何かの波動を放った。
 賢姫さまはそれをまともに受けてしまい、
「ううぅ……」
 苦しみ始める。
「貴様!」
 姫騎士さんが獣士将軍に剣を振るって中断させたが、賢姫さまは苦しみ続けている。
 獣士将軍は下品な笑い声。
「ゲラゲラゲラゲラゲラ!
 まともに受けちまったな! もうお終いだぜ!
 今のは俺が得意とする呪いだ。この呪いを受けた者は少しずつ体が変化していき、最後には猫へと姿が変わっちまう。
 おまえは無力な猫になっちまうんだよ!」
 わたしは叫ぶ。
「呪いを解く方法を教えなさい!」
「もちろん教えてやるぜ。俺は親切だからな。
 呪いを解く方法は簡単。呪いをかけた者を倒して魔力を途絶えさせること。つまり 俺を倒せば良いんだよ。
 逃げれば俺を倒せなくなる! 逃げるわけには行かねえなぁ!
 ゲラゲラゲラゲラゲラ!」
 わたしたちを逃げないようにするのが目的で、賢姫さまに呪いをかけたのね。
 となれば、獣士将軍の思惑通りに攻めるのは愚の骨頂。
 ここはあえて逃げる。
 死にたくないし。
「みなさん 逃げましょう!」
 童貞オタク兄貴は、
「さ、さすがに賢姫殿を見捨てるのは。なんとかして獣士将軍を倒さねば」
 賢姫さまは苦しみながらも嬉しそうに、
「勇者さまの愛を感じますわ。やはりわたくしの豚奴隷になってくださるのですね」
「逃げるでござるよ」
 兄貴は賢姫さまを抱えて外へ走りだす
 それに続いてわたしたちも走り出した。


 獣士将軍は慌てなかった。
「へっ、あの呪いがある限り、遠くへは行かねえ。奴らは俺を倒すために戻ってくる。
 まあ、追撃くらいは放っておくか」
 そして部下に命じて、私たちの追撃部隊を送らせた。


 わたしたちは走り続けた。
 とにかく聖なる力を封じる魔方陣の外に出なくては。
 しかし半分も行かないうちに、魔物の一部隊が現れた。
「あわわわ」
 と、うろたえるオッサン。
 兄貴たち三人は勇者などの力を使えない。
 賢姫さまは相変わらず苦しそうで、つまり足手まとい。
 そんな状態のわたしたちではこんなザコにも勝てるかどうか。
 緊張が高まる中、


 チュドドドドドドドドドドッ!!


 突然 無数のエネルギーボルトがどこからか放たれ、魔物たちに命中した。
 援軍?!
 エネルギーボルトは初歩の攻撃魔法で威力はハッキリ言ってたいしたことはないけど、とにかく 数が多い。
 魔物たちが雨のようなエネルギーボルトの攻撃で気絶した。
 いったい何人の魔法使いが応援に駆けつけてきてくれたの?
「おーい、こっちじゃ」
 おじいちゃんの声がして、そこにはボロボロのローブ姿の老人の姿。
 わたしはおじいちゃんに聞く。
「援軍は何人いるのですか?」
「わし一人じゃ」
 一人?
 たった一人であれだけの数のエネルギーボルトを撃ったっていうの?
 賢姫さまは苦しみながらも嬉しそうに、
「来てくださったのですね。大魔道士様」
 そして兄貴も嬉しそうに、
「おお、大魔道士殿。久し振りでござるな」
 さらにオッサンも、
「し、師匠」
 みんな知り合いなの?


 悪友は、
「大魔道士なら 私 聞いたことある。
 お兄さんが魔王討伐の旅をしていたときに、一時的に仲間になった人で、魔法使いの最高峰とも呼ばれてる人だとか。
 だけど引退して、今は隠居生活してるんだって。
 でも、時々 見込みのありそうな人にちょっとだけ教育とかやってるとかって」
「そうなのよ。で、そのすごい人の生徒の一人が、オッサンだったってわけ」
「そんなすごい人の弟子なのに、オッサンってあんななの?」
「ダメ人間はどんなにすごい人の弟子になってもダメなままって事ね」


 ダメ人間でもいつか報われるんだ!
 と、思っていたい今日この頃。
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