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三章・いきなりですが冒険編

貰い泣き

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 ……続き。


 円形闘技場での、勇者の童貞オタク兄貴たちの戦いは、佳境に入っていた。
 三人ともボロボロ。
 しかし善戦しており、魔兵将軍の最新炉歩徒も、かなりのダメージを与えていた。
 魔兵将軍は、
「竜戦士と戦乙女が、力を覚醒させていない状態で、ここまでの強さを持っていたとは、計算外だった。
 だが、これで終わりだ。切り札を使う」
 炉歩徒の胸が開き、なんかSFチックな大きな砲台が飛び出した。
「レールガンユニット、起動」
 電磁砲レールガンとは電気の力で砲弾を射出する、SFによくある銃のこと。
 砲台が放電を始め、そしてそれが最大になったとき、
「チャンスでござる!」
 兄貴は動いた。
 自らその砲台へと突撃したのだ。
「なんだと?!」
 戸惑う魔兵将軍。
 そして兄貴は全身に雷をまとい、電磁砲へ体当たりした。
雷光突撃ライトニングランス!」
「しまった!」
 電磁砲が砕け、さらにそのままの勢いで、兄貴は炉歩徒の体を突き破った。
 魔兵将軍は慌てて、
「緊急脱出!」
 操縦席から脱出し、その直後 炉歩徒は爆発した。
 魔兵将軍に兄貴は、
「奥の手を使ったのは失敗でござったな。拙者が貴殿の炉歩徒に勝てないのは、絶縁体でコーティングされているが故に電撃が通用しないためでござる。
 しかし電磁砲は電気の力によって砲弾を射出する仕組み。
 つまり、電磁砲の部分は絶縁体によるコーティングがされておらず、電撃が通じると言うことでござるよ」
「クソォ!」
 魔兵将軍はナイフを抜いた構えた。
 それを兄貴はやんわりと、
「止めておくでござる。貴殿は魔法兵がなければ普通の人間と戦闘力は変わらぬはず。
 確かに今の拙者は戦いで疲労しているでござるが、それでもただの人間に負けるほどではござらぬ。
 どうかここは 負けを認め、拙者の話を聞いてもらえぬか」
「黙れ! 父を殺した貴様の話など聞くものか!」


「息子よ! 待つのだ!」
 円形闘技場に到着したお父さんが、魔兵将軍を止める。
 魔兵将軍は死んだはずの父の姿を見て、呆然とナイフを落とした。
「ど、どうして? 死んだはずじゃ?」
「いいや、見ての通り私は生きている。おまえは魔王に騙されていたのだ」
「僕が、魔王に騙されていた」


 五年前、勇者と魔王の戦いの時のことだった。
 城門を守っていた私は、勇者と戦った。
 勇者は魔法兵を次々と打ち破り、そして私の左腕を切り落とした。
「私の負けだ。勇者よ、とどめを刺すが良い」
 しかし、勇者はとどめを刺さなかった。
 私の首にかけていた首飾りを指差した。
 そう、おまえが私の誕生日に送ってくれた、お守りの首飾りだ。
 勇者は私に語った。
「貴殿にも子供がいる。全ての子らは世界の希望。その子供から父親を奪うことなど、拙者にはできぬ。どうか ここは 引いてくだされ」
 私は戦いだけではなく、勇者の その心にも負けたと認め、道を通した。
 その後、勇者と魔王の戦いの音が聞こえ、その音が途絶えた。
 私は勇者が帰還の道に行くのを見届けた後、玉座の間に行った。
 魔王への最後の忠義の証として、魔王を弔おうと。
 しかし、魔王の止まっていたはずの心臓が動き出した。
 魔王は復活したのだ。
「死の淵にある俺を、大魔王さまが蘇らせてくれたぞ。
 大魔王。魔王である俺をも遙かに超えた力を持つ、新たなる神となるお方。
 俺はその腹心として、大魔王軍元帥に迎え入れられることとなった。
 俺は大魔王さまの忠実なる配下となり、大魔王さまに世界を献上するのだ。
 だが、その前におまえだ!
 貴様! 勇者を通したな! 勇者に敗北し門を通らせたばかりか 命を見逃されるとは!
 人間を養子にする惰弱者を部下にしたのは間違いだった!
 大魔王軍には貴様のような者は入れぬ!
 だが、安心しろ。貴様を殺したりはせぬ。新たな魔兵将軍の活躍を見て貰わねばならないからな。
 新たな魔法兵軍団の将軍は、貴様の息子だ。
 勇者に貴様が殺されたと言えば、愚かな人間であるあのガキは簡単に信じ、勇者に、そして人間に復讐することしか考えなくなる。
 人間である息子が人間を殺す。
 そして、用済みになれば処分する。
 貴様はそれを指一本動かせぬ状態で見続けるのだ!」
 そして魔王は私に石化の魔法をかけ、そして遠視の魔法で、おまえの姿を見せていた。
 私はおまえのことをずっと見ていた。
 それなのに、おまえが利用されているというのに、私はなにもできなかった。
 ただ、見ていることしかできなかった。
 息子よ、すまない。
 私が不甲斐ないばかりに、おまえにずっと辛い思いをさせてしまった。
 情けない父を許してくれ。
 そして、勇者を責めないで欲しい。
 勇者はまさに武人の鏡。
 勇者を手本として欲しい。


 魔兵将軍はお父さんの話を黙って聞いていた。
 ただ、その眼には大粒の涙が溢れていた。
 嬉し泣きだった。
 わたしまで貰い泣きしてしまった。
 なんか普通にいい話なんだもの。
 童貞オタク兄貴のこと、ちょっと見直しちゃったわよ。
 この小説、くだらない話ばっかりだから、なんかすごく新鮮な感動が。
 ただし、魔兵将軍の次の行動までは だった。
 魔兵将軍は、涙しながらお父さんのに小走りで抱きついた。
「パパァン」
 なんかハートマークでも付いてそうな甘えた声だった。
 そして魔兵将くんはお父さんにほっぺたすりすりしながら、
「パパァ、ボクね、ボクね、すっごく寂しかったのぉ」
 お父さんも慈しみの眼で魔兵将くんの頭をなでなでしながら、
「ハッハッハッ、すまなかったね。もう、寂しい思いはさせないよ。私たちはずっと一緒だ」
「ご飯の時もぉ、お風呂の時もぉ、ベッドでおねむする時も一緒だよぉ」
「もちろんだとも。まったく、いくつになっても甘えん坊だな、おまえは」
「もう甘えちゃダメなのぉ?」
「いいや、いくつになっても甘えてくれ。可愛い息子よ」
「わーい。パパ だーい好き」
 ファザコン&親バカ!
 感動の涙が台無しだよ。
 そしてわたしは二人に、
「あの、念のために聞きますけど、あなたたち恋人関係だとかそういうことは?」
 お父さんはわたしの質問が理解できないようで、
「なにを言っているんだね君は? 親子でそんなことあるはずないだろう。そもそも私たちは男同士ではないか」
「ああ、うん。それを聞いて安心しました。そして安心してしまう自分が嫌になりました。なんか最近そういうネタが多かったもので」


 悪友はガタッと椅子を倒すほどの勢いで立ち上がり、
「いけないわ! 親子がイチャイチャするなんて不健全よ! 魔兵将くん待ってて! お姉さんが正しいイケない道に導いてあげるわ! というわけで行ってくる!」
「おまえはどこへ行こうとしている。
 というか魔兵将くんをイかせに行こうとしているだろ」


 感動を台無しにして この小説は成り立っています。
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