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三章・いきなりですが冒険編

トキめいちゃいましたわ

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 兄貴たちが円形闘技場で戦っている頃、わたしはピッキングツールで扉の鍵を解錠した。
 魔兵将軍はわたしを殺すつもりはないけど、魔王は殺す気 倍満々だし、わたしはホントにおとなしくしているわけがない。
 そして魔王城から出ようと廊下を歩いていると、前方に魔物の姿が二体。
 わたしはとっさに近くの扉を開けて隠れると、鍵をかけた。
 中は倉庫のようだが、もう使われていないような状態だった。
 扉の外で魔物の声がする。
「おい、今 誰かこの倉庫に入っていかなかったか?」
「気のせいじゃないか」
 その通り、気のせいよ。
「一応 確認しよう。聖女が逃げ出してたら大変だ」
 確認するな。
「心配性だな、おまえも。でも 鍵がかかってるみたいだぞ。やっぱり気のせいだったんだよ」
「いや、この倉庫は鍵はかけられていないはずだ。なぜなら、俺が鍵を紛失したが 叱られたくなくて届け出を出してないからだ!」
 なに名推理みたいに言ってんのよ!
「真実はいつも一つ!」
 決めゼリフの場面じゃねー!
 わたしは内心ツッコミつつも、倉庫の中に隠れる場所はないか探した。
 すると、奥の壁に隠し戸があった。
 ここなら発見されないかも。
 わたしは音を立てないよう、気をつけて隠し戸に入った。
 同時に、倉庫の扉が開いて、魔物が入ってきた。
 しばらく倉庫の中を探していたようだが、
「ほら、やっぱり誰もいないじゃないか」
「あっれー? 気のせいだったか」
 気のせいだったのよ。
「気のせい気のせい」
 そして魔物は倉庫から出て行った。
 わたしは外に出ようとしたが、不意に気付いた。
 この隠し戸、奥へと通路が続いている。
 ポケットから非常用の懐中電灯を取り出して奥へ光を向けると、けっこう続いている。
 これって お城とかによくある、緊急非常脱出通路とかってやつなんじゃ。
 外の廊下とかは魔物がいてすぐに見つかりそうだし、ここを進んだ方が脱出の確率は高そうだ。
 わたしは奥へ進み始めた。


 その頃、勇者の童貞オタク兄貴たちは、円形闘技場で戦っていた。
 魔兵将軍が繰り出す最新炉歩徒に苦戦する兄貴たち。
 なにせ一体で三人の勇者を同時に相手にできる魔法兵だ。
 それなのに、中隊長さんと姫騎士さんは、わたしがいないから秘められた力を覚醒できない。
 敗北は必至だった。
 そんな中、童貞オタク兄貴は魔兵将軍に話をしようとしていた。
「待ってくだされ! なにかの間違いでござる! 拙者は先代の魔兵将軍を殺しておらぬでござるよ!」
 魔兵将軍は瞳に怒りの炎を燃やす。
「貴様! この期に及んで言い逃れするつもりか! 父さんは貴様と戦った! そして貴様に殺された! 曲がりなりにも勇者なら潔く認めろ!」
「い、いや! ホントでござる! 確かに先代と戦ったでござるが、とどめは刺しておらぬのでござる!」
「貴様ぁあ! そんな嘘で命乞いするとは! それでも勇者か!」
 兄貴って、人を怒らせる癖があるのよね。
 本人は自覚ないけど、兄貴と喋ると なんかムカついてくると言うかなんというか。
 それはそれとして、中隊長さんが兄貴に、
「勇者! 話し合いなど不可能だ! 魔兵将軍は復讐のことしか頭にないんだ!」
 そして姫騎士さんも、
「それに余計なことを考えている余裕などない! 戦いに専念しろ! でなければ殺されるぞ!」
 そしてオッサンは観客席に避難して、
「みなさーん、頑張ってくださいですー」
 応援していた。
 いつでも逃げられる状態をキープして。


 そして、わたしが隠し通路を進むと、なにやら小部屋に出た。
 そこには、一体の石像。
 メガネをかけた中年ぐらいの年頃の男性の石像。
 なぜにこんな所に石像が?
 わたしが疑問に思いながら観察すると、石像の左腕がなかった。
「……まさか、魔兵将軍のお父さん?」
 わたしは自分に使える魔法の範囲でサーチしてみる。
 すると、やっぱり魔法で石像にされていた。
 そして石像はまだ生きていた。
 生きたまま石化されていた。
 ってことは、石化の魔法を解除すれば元に戻る。
 一応、石化魔法の解除魔法は使えるけど、ちゃんと成功するかな?
 不安に思いながら魔法をかけた。
 失敗した。
「やっぱダメよね、わたし程度の魔法じゃ。どうしよう?」
 わたしはしばらく考えて、
「ここは専門家の意見を聞くべきね」
 そしてわたしはポケットから携帯電話を取りだした。
 さて、薄々気付いていたかもしれないけど、っていうか ピッキングツールとか懐中電灯とか持ってる時点で気付くべきなんだけど、魔兵将軍はわたしの身体検査をしなかったのよね。
 だから身につけていた物はそのまんま。
 電波が繋がってるかどうか心配だったけど、それもオッケー。
 わたしはオッサンにコールした。


 円形闘技場にて。
「もしもし、聖女さま。無事ですか?」
 兄貴が、
雷光破裂ライトニングバースト!」
 チュドーン!
「え? 聖女さま、今なんて言いました?」
 中隊長さんが、
「竜円斬!」
 ズバン!
「ちょっと周りがうるさくてですね、聞こえないです。もっと大きな声でお願いしますです」
 姫騎士さんが、
「光羽剣!」
 シュバババ!
「やっぱり聞こえないです。ちょっと移動しますですから、待ってくださいです」
 で、オッサンは円形闘技場から離れて、
「あー、なるほどです。石化を解除したいんですね。
 でも 聖女さま、基本的な魔法なら使えませんでしたか? ああ、やってみたけどダメでしたか。わかりましたです。僕がそこに行きますです。
 はい。携帯電話のGPSで位置はわかりますですから。はい、そういうことで。はい、失礼しますです」
 こうしてオッサンが来てくれることになった。


 十分後、オッサンが来た。
「よく魔物に見つからずにたどり着けましたね」
 わたしが疑問を口にすると、
「五回も見つかりましたです。でも魔物さんたちですね、僕が魔法で人間に変化したんだろうと思ってですね、みんな通してくれたんです。こんなブザイクな人間がいるはずがないって言われたです。シクシク」
「メタボが役に立ちましたね。ブサイクなのも、たまには役に立つということなのですね。ビューティフルなわたしなら魔物を騙せませんでした。ホント醜いブサイクなメタボでよかったですね」
 わたしはフォローしたが、オッサンは、
「ウェエエエン! ですー」
 ますます泣いた。
 なぜ?


 で、オッサンは石化を解除した。
 魔兵将軍のお父さんは、メガネの似合う知的で素敵なおじさまだった。
 わたくし トキめいちゃいましたわ。
 そんなわたしにお父さんはシリアスな表情で、
「聖女さま、事情はわかっています。わたしを息子のところへ連れて行ってください。息子の誤解を解かなければ」
 そして わたしたちは円形闘技場へ向かった。


   続く……
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