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三章・いきなりですが冒険編
目覚めた人は
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魔兵将軍に魔王城に連行された わたしは、客室へ連れてこられた。
魔兵将軍は、兄貴の時とは変わって、わたしに温和な表情で説明する。
「しばらく客室に入っていて貰う。鍵はかけるが、勇者を倒した後、解放するから心配するな」
狙いはあくまで勇者で、わたしは見逃すとのこと。
わたしはホッとした。
しかし、そこに魔王が現れた。
「甘いぞ、魔兵将軍。聖女をすぐに始末するのだ」
冷酷な魔王を、魔兵将軍は睨み返す。
「黙っていて貰おうか、魔王殿。現在 聖女一行の対処を担当しているのは僕だ。魔王殿ではないはず。生殺与奪の権限は僕にある」
「くっ」
魔王は苦々しい表情。
なんか この二人、仲間同士のはずなのに険悪な雰囲気が。
あとで聞いたのだけど、魔王はわたしたちの抹殺に失敗し、精霊将軍が裏切ったことで、大魔王に不信の念をもたれ始めていた。
それで、わたしたち聖女一行の担当を外され、魔兵将軍が担当になったとか。
ようするに魔王は魔兵将軍にライバル意識を持っていると言うこと。
そして魔兵将軍は、魔王の時代に父親が殺されたのは、魔王にも原因があるのだと思っていて、ようするに二人はいがみ合っていた。
それはそれとして、わたしは魔王に、
「あの、ところで 例の件はどうなりました?」
大魔王が男だったかどうかの質問。
魔王は清々しい顔で、
「今の俺に迷いはない。愛する者の性別など些細なことなのだ」
わたしは遠い目で、
「ああ、そうですか。まあ、目覚めた人はそう言うっていいますしねー」
さらに魔王はうっとりとした顔で、
「実は昨晩、大魔王様にぬぷっと入れて貰ったのだ」
「入れて貰った?! 入れるんじゃなくて入れて貰ったんですか!? その厳ついマッチョな見た目でぬぷっと入れて貰ったんですか!?」
魔王はボディビルダーみたいな身体をしているのだ。
魔王はその時を思い出すかのような恍惚とした表情で、
「大魔王様は実に気持ちよさそうにするのでな。俺も入れて欲しいと以前から思っていたのだ」
「たくましいほうが受けって高度すぎんだろうがよ! ついていけねーんだよコンチクショー!!」
魔兵将軍はわたしたちの話を、幸い理解できないようだった。
「なんの話をしているのかはわからないが、ともかく魔王殿、聖女一行に関して口出し無用。お引き取り願おうか」
「ふん。無様な醜態をさらさないことだな」
そして魔王は帰った。
魔兵将軍がわたしを気遣って、
「ずいぶん興奮していたが、大丈夫か?」
「ええ、落ち着きました。無理矢理 落ち着かせました」
「ところで魔王と君は一体何の話をしていたのだ? 僕にはわからなかったのだが」
「この世にはわからない方が良いと言うこともあります。そして わかってはいけないということもあります。
わからないといえば、結局 勇者があなたのお父さんの敵とは一体どういうことですか?」
魔兵将軍のお父さんは、魔王の時代に魔法兵開発部門責任者だった。
ようするに前の魔兵将軍ということになる。
魔族だったが、捨て子だった人間の子供を拾い、養子にして大切に育てた。
しかし、勇者である童貞オタク兄貴が魔王城に乗り込んできて、魔王軍を次々撃破。
お父さんは子供だった魔兵将軍を避難させ、勇者との戦いに赴いた。
その後、魔王が倒された知らせを受け、魔兵将軍は急いでお父さんの元へ駆けつけたが、お父さん専用魔法兵は大破されていて、お父さんの姿はなかった。
残っていたのは、お父さんの左腕一本だけ。
「父の死の原因となった無能な魔王も許せないが、それ以上に父を直接 手をかけた勇者を許せない。勇者は僕の父を殺した。僕の大切な父を。
君に恨みはないが、勇者だけは許せない。
僕は勇者を殺す!」
その真っ直ぐなまでの勇者への怒り瞳に、わたしは……
「思わず キュンってなっちゃったのよね。ショタのあんたの気持ちがちょっとわかっちゃった」
「そうでしょぉん。可愛い男の子、最高ぉん。お姉さんが体で癒やしてあげるぅん」
「そこまでやったら変態だけどね」
さて、わたしを救出するために魔王城に潜入した、童貞オタク兄貴たち。
基本的に戦いを避けて、敵に見つからずに進む、スニーキングミッション方式で魔王城を進んでいた。
童貞オタク兄貴は魔王を倒すときに魔王城に入ったことがあるので、先導していた。
「牢屋があるのは この奥でござるよ」
通路の奥に わたしの姿が見えた。
「マイシスター!」
みんなが声をかけて駆け寄ろうとすると、わたしの姿は逆に奥へと向かい、曲がり角を曲がるなど、むしろ兄貴たちから離れるように。
こういう行動を取った時点で想像は付いただろうけど、このわたしは幻だ。
本物のわたしは客間に閉じ込められていたのだから。
そして幻に誘導されて、兄貴たちは円形闘技場へ。
中隊長さんが、
「こ、ここは!?」
「しまったでござる! ここは魔王城の円形闘技場!」
姫騎士さんが、
「さっきの聖女の姿は幻か!」
オッサンが震えながら、
「これって、罠にはまったパターンです」
魔兵将軍が魔法兵に搭乗して現れた。
「そうだ、勇者ども。誰にも邪魔されないよう、ここをおまえの処刑場とした」
円形闘技場の出入り口の扉が全て塞がれた。
「逃げ場はない。決着をつけるぞ、勇者!」
悪友は、
「はぁあああん! 魔兵将くん かっこいぃいん! すてきぃいん! 可愛いぃいん!」
「うっさい!」
悪友は話を聞いてない。
魔兵将軍は、兄貴の時とは変わって、わたしに温和な表情で説明する。
「しばらく客室に入っていて貰う。鍵はかけるが、勇者を倒した後、解放するから心配するな」
狙いはあくまで勇者で、わたしは見逃すとのこと。
わたしはホッとした。
しかし、そこに魔王が現れた。
「甘いぞ、魔兵将軍。聖女をすぐに始末するのだ」
冷酷な魔王を、魔兵将軍は睨み返す。
「黙っていて貰おうか、魔王殿。現在 聖女一行の対処を担当しているのは僕だ。魔王殿ではないはず。生殺与奪の権限は僕にある」
「くっ」
魔王は苦々しい表情。
なんか この二人、仲間同士のはずなのに険悪な雰囲気が。
あとで聞いたのだけど、魔王はわたしたちの抹殺に失敗し、精霊将軍が裏切ったことで、大魔王に不信の念をもたれ始めていた。
それで、わたしたち聖女一行の担当を外され、魔兵将軍が担当になったとか。
ようするに魔王は魔兵将軍にライバル意識を持っていると言うこと。
そして魔兵将軍は、魔王の時代に父親が殺されたのは、魔王にも原因があるのだと思っていて、ようするに二人はいがみ合っていた。
それはそれとして、わたしは魔王に、
「あの、ところで 例の件はどうなりました?」
大魔王が男だったかどうかの質問。
魔王は清々しい顔で、
「今の俺に迷いはない。愛する者の性別など些細なことなのだ」
わたしは遠い目で、
「ああ、そうですか。まあ、目覚めた人はそう言うっていいますしねー」
さらに魔王はうっとりとした顔で、
「実は昨晩、大魔王様にぬぷっと入れて貰ったのだ」
「入れて貰った?! 入れるんじゃなくて入れて貰ったんですか!? その厳ついマッチョな見た目でぬぷっと入れて貰ったんですか!?」
魔王はボディビルダーみたいな身体をしているのだ。
魔王はその時を思い出すかのような恍惚とした表情で、
「大魔王様は実に気持ちよさそうにするのでな。俺も入れて欲しいと以前から思っていたのだ」
「たくましいほうが受けって高度すぎんだろうがよ! ついていけねーんだよコンチクショー!!」
魔兵将軍はわたしたちの話を、幸い理解できないようだった。
「なんの話をしているのかはわからないが、ともかく魔王殿、聖女一行に関して口出し無用。お引き取り願おうか」
「ふん。無様な醜態をさらさないことだな」
そして魔王は帰った。
魔兵将軍がわたしを気遣って、
「ずいぶん興奮していたが、大丈夫か?」
「ええ、落ち着きました。無理矢理 落ち着かせました」
「ところで魔王と君は一体何の話をしていたのだ? 僕にはわからなかったのだが」
「この世にはわからない方が良いと言うこともあります。そして わかってはいけないということもあります。
わからないといえば、結局 勇者があなたのお父さんの敵とは一体どういうことですか?」
魔兵将軍のお父さんは、魔王の時代に魔法兵開発部門責任者だった。
ようするに前の魔兵将軍ということになる。
魔族だったが、捨て子だった人間の子供を拾い、養子にして大切に育てた。
しかし、勇者である童貞オタク兄貴が魔王城に乗り込んできて、魔王軍を次々撃破。
お父さんは子供だった魔兵将軍を避難させ、勇者との戦いに赴いた。
その後、魔王が倒された知らせを受け、魔兵将軍は急いでお父さんの元へ駆けつけたが、お父さん専用魔法兵は大破されていて、お父さんの姿はなかった。
残っていたのは、お父さんの左腕一本だけ。
「父の死の原因となった無能な魔王も許せないが、それ以上に父を直接 手をかけた勇者を許せない。勇者は僕の父を殺した。僕の大切な父を。
君に恨みはないが、勇者だけは許せない。
僕は勇者を殺す!」
その真っ直ぐなまでの勇者への怒り瞳に、わたしは……
「思わず キュンってなっちゃったのよね。ショタのあんたの気持ちがちょっとわかっちゃった」
「そうでしょぉん。可愛い男の子、最高ぉん。お姉さんが体で癒やしてあげるぅん」
「そこまでやったら変態だけどね」
さて、わたしを救出するために魔王城に潜入した、童貞オタク兄貴たち。
基本的に戦いを避けて、敵に見つからずに進む、スニーキングミッション方式で魔王城を進んでいた。
童貞オタク兄貴は魔王を倒すときに魔王城に入ったことがあるので、先導していた。
「牢屋があるのは この奥でござるよ」
通路の奥に わたしの姿が見えた。
「マイシスター!」
みんなが声をかけて駆け寄ろうとすると、わたしの姿は逆に奥へと向かい、曲がり角を曲がるなど、むしろ兄貴たちから離れるように。
こういう行動を取った時点で想像は付いただろうけど、このわたしは幻だ。
本物のわたしは客間に閉じ込められていたのだから。
そして幻に誘導されて、兄貴たちは円形闘技場へ。
中隊長さんが、
「こ、ここは!?」
「しまったでござる! ここは魔王城の円形闘技場!」
姫騎士さんが、
「さっきの聖女の姿は幻か!」
オッサンが震えながら、
「これって、罠にはまったパターンです」
魔兵将軍が魔法兵に搭乗して現れた。
「そうだ、勇者ども。誰にも邪魔されないよう、ここをおまえの処刑場とした」
円形闘技場の出入り口の扉が全て塞がれた。
「逃げ場はない。決着をつけるぞ、勇者!」
悪友は、
「はぁあああん! 魔兵将くん かっこいぃいん! すてきぃいん! 可愛いぃいん!」
「うっさい!」
悪友は話を聞いてない。
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