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三章・いきなりですが冒険編

ほんとに頭良い

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 西の王国の一件が終わった後、冒険者組合からの悪友から電話が入った。
 魔王城跡に偵察に行った冒険者一行の報告で、魔王軍が魔法兵の製造機を再稼働させようとしている動きがあるとのことだった。
 魔法兵。
 妖術将軍が使った炉歩徒などの機械の魔物。
 あんなのがたくさん出てきたら大変だから、わたしたちは急いで魔王城跡に向かった。
 魔王城は、勇者の童貞オタク兄貴が 魔王を倒した後は、放棄されて廃墟になっているそう。
 大魔王軍の本拠地というわけではなくて、魔王城跡の魔法兵製造機だけを動かそうとしているということらしい。


 その魔王城の姿が見えるところまで来ると、突然アラームが周囲一帯に鳴り響いた。
 わたしは驚いて、
「なによ このアラーム!?」
 勇者の童貞オタク兄貴が、
「魔王城の警報装置でござる。どうやら 新しく この辺りにセンサーを設置したようでござるな」
「じゃ、早くここから離れないと」
 わたしたちがその場を離れようとすると、樹木の上に警備カメラが設置されているのを見つけた。
 それも一つじゃない。
 よく見れば、あちこちに仕掛けられている。
 これじゃ わたしたちの居場所がバレバレだ。
 そして 案の定、機械の魔物が飛翔してきた。
 三メートルくらいの大きさの炉歩徒が、地響きを立てて着陸すると、ハッチが開いた。
 そこに乗っているのは、魔物じゃなかった。
「に、人間?」
 十四歳くらいの、人間の少年が乗っていたのだ。
 ハッキリ言おう。
 美少年だった。
 もう一度 言おう。
 美少年だ!
 その美少年はなぜか童貞オタク兄貴に、憎しみの眼を向けていた。
「勇者、おまえに合う日を待ちわびていたぞ。父の敵」
 父の敵って、兄貴の奴 人間を殺したっていうの?!
「僕は大魔王軍の将軍の一人。魔法兵軍団の魔兵将軍だ!」
 人間の少年が大魔王軍の将軍?!
 どういうことなの?
「ここであったが百年目。父の敵を討たせて貰う!」
 童貞オタク兄貴は動揺している。
「な、なにか誤解があるのではござらんか? 拙者は人間をあやめたことなどござらぬ」
 魔兵将軍は、
「そうだ。僕の父は人間ではない。魔族だ」
 魔族が父親。
 でも、魔兵将軍は人間だ。
 もう、わけわかんない。
 魔兵将軍はわたしの疑問をよそに続ける。
「僕の父は魔王軍に所属していた。そして おまえと戦い、敗れ、そしておまえに殺された。確かにあれは戦争だ。殺し合うことなど仕方がないのかもしれない。
 それでも、僕はおまえが許せない。父を殺したおまえを許すことなどできない。
 これ以上の言葉は必要ない! おまえをここで殺す!」
 炉歩徒の身体の要所要所から、無数の武器が出現した。


 わたしは とにかく聖女の力を、中隊長さんと姫騎士さんに使った。
「破ぁあああ!」
「おぉおおお!」
 二人の秘められた力が解放された。
 よし、問題ない。
 過剰に使うとヤバいってロリ女神に警告されてたから、それが心配だったけど、とりあえず覚醒させるだけなら問題ないようだ。
 竜戦士の力を解放した中隊長さんと、戦乙女になった姫騎士さんが、炉歩徒に向かった。
 しかし勇者の童貞オタク兄貴が、戦わずにオロオロしている。
「ちょっと 兄貴、なにしてんのよ? なんで戦わないのよ?」
「い、いや、拙者、人間は不殺ずの誓いを立てているでござる。敵とは言え、人間を殺すわけにはまいらぬ」
「いやいや、あっちは殺す気 満々じゃん。戦わないと」
「し、しかしでござるな……」
「わかった わかった。とりあえず、気絶させる方向で戦闘不能にして。人間のあの子の父親が魔族とか、その辺の事情も聞きたいし」
「わかったでござる」
 童貞オタク兄貴は雷電白虎になった。


 魔兵将軍は、
「雷電白虎か。魔王を倒したという勇者の戦闘形態。
 だが、それには対抗策がある」
 炉歩徒の腹部から、霧が噴霧され始め、周囲に霧が立ちこめ始めた。
 濃霧だけど、みんなの姿も 炉歩徒の姿も 一応 見えるから、目くらましになっていない。
「いったい なんの意味があるの?」
 わたしが疑念を呟くと、舌にしょっぱい味をかすかに感じた。
 霧が口の中に入ったからだろうけれど、
「しょっぱいって事は、この霧、塩分が含まれてるの?」
 ん? ってことは……
「ヤバい! 兄貴! 電撃を使っちゃダメ!」
「な、なぜでござる?」
「この霧は塩分を混ぜてあるのよ! 塩分を含んだ水って電導効率が高いでしょ! 強力な雷を使うと 霧で通電して わたしたちまで感電するのよ!」
「あ! しまったでござる!」
 この霧の中では雷系統の攻撃を使うわけには行かない。
 そして兄貴の勇者の力は雷。
 これで兄貴の戦闘力は半減したも同然。
 魔兵将軍は、妖術将軍とは別方向での、頭脳派だ。


 中隊長さんが竜戦士の力を拳にためる。
「まだ俺たちがいる!」
 姫騎士さんの半透明の翼が輝き始める。
「そうだ! 私たち二人を一人で相手にできるか!?」
 まず中隊長さんが炉歩徒のを殴りつけた。
 しかし炉歩徒は微動だにせず、装甲にもダメージはなかった。
 わたしは思わず叫ぶ。
「なんでー!? 前はへこんだのに!」
 魔兵将軍は、
「妖術将軍が使った炉歩徒と一緒にするな。炉歩徒は本来、魔法兵軍団が開発 運用を担当している。妖術将軍は、以前 勇者と戦い 敗れたものを再利用しただけ。
 だが、この炉歩徒は最新式。勇者と同レベルの戦士を 三人同時に相手に戦っても 勝てるよう設計してある 特別製だ」
 じゃあ勝ち目なんてないじゃん。
「ならばわたしだ!」
 姫騎士さんが剣で炉歩徒を攻撃する。
 しかし それも全て外殻ではじかれる。
「装甲を耐刃仕様にしてある。刃物は通用しない!」
 炉歩徒から火炎が放射される。
 中隊長さんが前に出て、
「破ぁあああ!」
 竜戦士の力ではじくが、魔兵将軍は火炎をかまわずに放射し続け、中隊長さんの周囲が炎で満たされる。
 しかし それでも、中隊長さんに炎は届いてないが、それなのに しばらくして中隊長さんは、
「うぅぅ」
 苦しそうな声を出し始めた。
 竜戦士の力が衰えているわけじゃない。
 なのに、どうして?
 炎。
 火。
「……あ! 酸欠!」
 火とは酸化現象によって発生するもの。
 火炎を放射し続ければ、その周囲の酸素が急激に薄くなる。
 中隊長さんは酸欠を起こし始めてるんだ。
 この少年 ほんとに頭良い!
 って、敵を褒めてる場合じゃないわ。
「オッサン、魔法でバリアみたいなのを作ってください」
「わ、わかりましたです。水氷障壁アイスウォール
 オッサンが魔法で中隊長さんの前にバリアを張った。
 火炎が遮断され、中隊長さんの周囲の炎も消えた。
 しかし魔兵将軍は冷淡に、
「まだ これからだ」
 腕から小さななにかを射出した。
 それは中隊長さんたちの中心に落下すると、
 バチバチバチ!
 電撃を放ち始めた。
「きゃっ!」
 塩分を含んだ霧で、離れた位置のわたしまで感電する。
 わたしまでビリッときたって事は、もっと近い位置に居た中隊長さんたちは、もっとダメージを受けてるはず。
 じっさい みんな感電し続けて、身体の動きが鈍っている。
 この美少年、まともに戦っちゃダメなタイプだ。
 とにかく全力で撤退するしかない。
「みんな! 逃げましょう!
 オッサン! 精霊将軍の時のアレをやってください!」
 魔兵将軍を目くらましして、その間に逃げれば。
 だけど魔兵将軍は、
「そうは行かない」
 炉歩徒の腕がロケットパンチのようにわたしに飛んできた。
「うえぇえ!」
 変な声を上げてしまったわたしを、大きな手の平ががっちり捕らえる。
 そしてロープが付いている腕をいっきに引き寄せて、わたしは捕らえられてしまった。
 魔兵将軍は、
「勇者! 聖女は預かる! 助けたければ魔王城跡まで来い!」
 そして炉歩徒の身体の要所からブースターが噴射して、空を飛び、わたしを魔王城へと。


 残された童貞オタク兄貴たちは、
「マイシスターがさらわれてしまったでござる」
 中隊長さんは、
「とにかく魔王城へ向かおう。助けに行くぞ」
 オッサンが、
「僕はですね、ちょっと急用を思い出したのですね、帰らせていただきますです」
 姫騎士さんがオッサンの首根っこを捕まえて、
「では 行くぞ」
 こうして、人質となったわたしを救出するために、みんなは魔王城へと向かった。


 悪友は瞳がハートマークになっていた。
「あぁあん。魔兵将くん、すっごく可愛いわよねぇん。あの まっすぐな瞳が お姉さん たまんないのよぉん。ホント 仲間になってよかったぁん」
「ちょっと、ネタバレしないでよ」
「なんだか魔兵将くんに会いたくなってきちゃった。ねえねえ、電話して魔兵将くんに来て貰おうよ」
「ダメよ。魔兵将くん、今 仕事の時間のはずだから」
「いいじゃない。キレイなお姉さんが会いたいって言えば飛んできてくれるわよ」
「変なイタズラするつもりなんでしょ」
「変なイタズラじゃないわよぉん。エッチなイタズラよぉん」
「絶対ダメ! 魔兵将くんが悪い道に走っちゃうでしょ!」


 悪友はショタです。
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