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三章・いきなりですが冒険編

果てしなく謎

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 わたしたちが森の道を進んでいると、精霊将軍は炎の馬に乗って現れた。
「貴様らが聖女一行だな! 私は大魔王軍の精霊将軍! 魔王殿の命により貴様らを討ち取りに来た!」
 精霊将軍は、わかりやすい名乗りを上げて馬から下りると、早速 抜剣した。
「女の命を奪うのは気が進まんが、しかし大魔王さまの世界制服のため、聖女には死んでもらう」
 中隊長さんが立ちはだかる。
「彼女に手は出させない」
 そして童貞オタク兄貴も、
「将軍の一人と言うことは、ここで倒せば大魔王軍の一角を崩すことができるでござるな」
「うむ。それに将軍と名乗った。と言うことは、魔王よりも格下だ。卑怯かもしれんが、二人がかりでやれば問題ない」
 確かにレベル的に言えば、魔王より弱いだろうし、それに単騎だ。
 だけど、わたしは精霊将軍から、魔王とは違うタイプのなにかを感じていた。
「待ってください。この人 なにか勝算があるんです。わたしたちに絶対に勝つなにかが」
 オッサンが、
「この人は女の人です。童貞とかは関係ないと思いますが。というか 雰囲気的に処女っぽいですよね」
 わたしは速攻でオッサンにボディブロー。
「テメェはこんな時まで なに抜かしてやがんだ! 真面目にやれ!」
「シクシク、すいませんです」
 精霊将軍が不敵な笑みで、
「ふっ、鋭いな」
 私は驚く。
「え!? オッサン的中なんですか!? あなた 処女なんですか!?」
 精霊将軍は首を振って、
「いや、聖女のおまえの方が鋭いと言ったのだ。
 というか、どうして そのメタボを連れているのか 果てしなく謎に思っているぞ」
「それはわたしも謎ですけど」


 とりあえず気を取り直して、精霊将軍は、
「おまえの考え通り、私はおまえたちに絶対に勝つ方法がある。勇者と竜戦士、同時に相手にして勝つ方法がな」
「なにか罠を仕掛けたのですね!?」
「ふっ、私はそういう姑息な手段がきらいだ。戦いは正々堂々、真っ向からするに限る。そうでなくては面白くない」
「では、なにがあるというのです?」
「そうだな。もったいぶるのは止めよう。今すぐに見せてやる。私の力をな!」
 精霊将軍の周囲に魔方陣が形成された。
 そして魔方陣から、エネルギーの塊が召喚された。
 それを見てオッサンが、
「ヒィイイイ!」
 情けない悲鳴を上げた。
「なんです!? あれは一体何なのですか?!」
「上位精霊です! 炎の上位精霊を召喚したんです!
 普通ですね、何人もの魔術師が長い時間をかけてですね、儀式を行わないと召喚できないのにですね、この人 儀式もなしに一人で上位精霊を召喚したんです!」
 精霊将軍はさらに、
「これだけではない。私の奥義はここからだ!」
 上位精霊が精霊将軍の身体に吸収された。
 精霊将軍が上位精霊と同化した。
「フフフ。そこのメタボ。魔術師である貴様には理解できているはずだ。今の私の力を」
「あぁあぁぁぁ……」
 オッサンは意味のないうめき声を上げるだけ。
「ちょっと! 解説してください!」
「精霊の力を取り込むとですね、足し算ではなくてですね、かけ算的に力が増幅するんです! 今のこの人 魔王より強いです!」
 精霊将軍が肯定する。
「そうだ! この状態の私は魔王殿よりも強いのだ!
 弱点は、あくまで一時的なもので、時間制限があることか。
 だが、貴様らを始末するには十分な時間だ!」
 精霊将軍から上位精霊の力がほとばしった。


「ひぃいいい!」
 オッサンは悲鳴を上げて逃げ出した。
 期待してなかったけど、こんなあっさりと逃げるとは。
 精霊将軍もあきれたようで、
「あのメタボ、まさか仲間を見捨てて逃げるとはな。あきれたものだ。
 殺す価値もないが、魔王さまの指示もある。見逃すわけにもいかん。
 炎馬、あのメタボを始末しろ。あの身体では足は遅い。おまえならすぐに追いつけるだろう」
 精霊将軍の指示を受けると、炎の馬は一声いななき、オッサンを追いかけていった。


 勇者の兄貴は雷電白虎に変身する。
「フォオオオ!」
 そして精霊将軍との戦いを開始した。
 続いて中隊長さんも竜戦士の力を解放しようとしたが、
「くそっ! やはりダメだ!」
 そうなのだ。
 魔王と遭遇してから竜戦士の力を使えるように特訓してきたが、なぜか竜戦士の力が使えないのだ。
 中隊長さんはわたしに、
「しかたがない。君が俺に聖女の力を使って、もう一度 強引に竜戦士の力を覚醒させてくれ」
「え? でも、聖女の力は使いすぎると危険だと、女神から忠告されているんです。中隊長さんに聖女の力を一度 使ったのに、また使ったらどんなことになるか」
「それでもやるしかない。見るんだ、勇者と精霊将軍の戦いを」
 確かに戦いは、勇者の童貞オタク兄貴が押されていた。
 精霊将軍が高笑いをあげる。
「ハハハ! どうした!? 勇者の力とはこの程度か!?」
 童貞オタク兄貴は、
「この力! 本当に魔王を上回っているでござる!」
 このままでは兄貴が負けてしまう。
 聖女の力を使うしか方法はないのかもしれない。
 でも、力加減をミスったら、中隊長さんがどんなことになってしまうのか。
 どうすればいいの?!


 悪友は質問してきた。
「で、オチは?」
「今回もないの」


 なんか またシリアスな展開になってしまった。
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